竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

再生可能エネルギー拡大を邪魔する非化石価値取引市場

2020年12月31日 | 電力自由化
2020年がいよいよ終わりに近づいています。2020年中に読む人には「1年間ありがとう!」、2021年に入って読む方には「今年もよろしく!」と、ごあいさつしたいと思います。
(タイトル写真は、枯れ木の中、グリーンを残す寒椿。)

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2020年は新型コロナウィルスに話題が独占された1年だったが、実はいろいろなことが起こっていた。その重大な一つは、今年が電力自由化「完成の年」のはずだったということだ。「はず」ということは、そうなっていないということ。多くの人にとって、それは大した関心事ではないかもしれない。しかし、その影響は、地球温暖化の行く末にも、日本の経済成長にも、そして人々の暮らしにも実は重大な関わりがある。地球温暖化も経済成長も生活の豊かさにも「興味ない!」という人以外には、よく読んでいただきたい!

1、再生可能エネルギーの現状

日本の再生可能エネルギーは、ほとんど「電気」を生産している。少し「熱」を生産しているものもあるが圧倒的に電気が多い。日本の発電量に占める再生可能エネルギー比率は、2019年度で18.5%、このうち7.4%超は大型ダム水力、バイオマスと地熱が2.9%で、太陽光と風力は8.2%に過ぎない。(ISEP「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合(速報)」2020年4月)太陽光と風力だけで30%超え50%超えもある欧米に比べると、実はとても少ない。
菅総理は首相就任演説で2050年には温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)をうたいあげたが、同じ目標を掲げる諸外国とはスタートラインの位置が後ろすぎる。相当のスピードを出さないと、世界の目標に追いつかないだろう。そう考えたのか、2020年12月に発表された「グリーン成長戦略」では、2050年には電化により電力需要は現在の1.3〜1.5倍といいながら、再生可能エネルギー比率は50〜60%と低い。100%再生可能エネルギーとすることは非現実的と根拠なく決めつけている。
残る40〜50%は、10%が水素発電、30〜40%はなんと化石燃料と原子力だという。原子力は小型炉で2021年から新たに開発する。化石燃料発電はCCUSなどの炭素貯留で対応する。コンクリートにCO2をつめたり、珪藻に食べさせたりするらしいが、どれもまだ未開発技術で、同じく未開発の水素発電も含めて、いくらお金がかかるかわからない。
太陽光発電、風力発電などは既に完成された技術で、世界中で拡大している。発電コストも図1のように「日本以外では」kWhあたり10円を切り5円に近づいている。安い発電方法があるのに、「多様な選択肢」が大事だと、原発や水素や石炭に貴重な国家予算をばらまく。そのぶん、再生可能エネルギーのための投資は削られ、円滑な拡大は邪魔される。言っていることの辻褄があってないことに気がつかない不思議な国だ。

図1 再生可能エネルギー発電のコスト低下の状況

出典:IRENA 再生可能エネルギー発電コストin2019

2、電力自由化と非化石価値取引証書

日本の電力自由化は1995年から少しずつはじまった。2016年からの「完全自由化」は電力会社の発電、送配電、小売の分離を含む改革の総仕上げと位置付けられていた。その最終年が2020年で、本当は電力会社の小売部門も一つの小売会社になり、他の新電力と平等対等の存在になっているはずだった。
しかし発電・送配電・小売の分離会社は親会社が束ね、実質的には骨抜きになった。発電所の85%は旧電力会社(以下「旧電力」)が独占し、小売りでも80%以上を独占している。送配電はもともと旧電力所有のまま、電力広域的運営機関(OCCTO)が広域管理という決まりのため、電気事業の8割以上は旧電力が独占したままである。
本来であれば、旧電力の発電部門は全電気を電力卸市場(JEPX)に供出し、小売部門は販売する電気を電力卸市場から買い取り消費者に供給すべきだ。他の新電力と対等であるはずである。生産者>市場>小売>消費者という図式だ。しかし実態は、旧電力の生産者と小売りがほぼ一体となり、市場は総需要の2割程度しか機能していない。
実は市場にも問題がある。野菜の市場なら、白菜、ネギ、椎茸・・とか種類があり、産地も明示され、ものによって有機栽培とか無農薬のプレミアムもつく。しかし電気の市場は、そこに入ると、再生可能エネルギ−100%電気も「電気」でしかない。CO2ゼロの価値は消され、CO2出しまくりや、放射能汚染などの負の価値も消されてしまう。
本当は名前も品質もつけて市場に並べるべきだが、日本の電力市場管理者は頑としてそれを拒んでいる。負の価値を消したいからだろう。負の価値が見えると、買う人がいなくなり、原子力や石炭の電気は余ってしまう。結果、これらの発電所は自動的に市場から退場することになる。つまりこれらが退場にならないよう、市場管理者が暗にサポートしているのだ。
結果的に、CO2ゼロという価値も消され、日本ではCO2ゼロの電気が買えない。そこで、この価値を別の商品にしたものが「非化石価値取引証書」である。このお札を貼り付けると、石炭だろうが天然ガスだろうが「再エネ」になるという、ありがたいお札だ。

3、非化石価値取引証書の複雑な分類

非化石価値取引証書という「お札」は3種類ある。図2のように、1)FIT(フィット)非化石証書、2)非FIT非化石証書(再エネ指定)、3)非FIT非化石証書(再エネ指定なし)である。FITとは再エネ特措法により定額で一定期間、発電した電気を買い取る制度だ。電気を売るのは再エネ発電所だが、買い取るのは2017年度までは電力会社、2018年度からは送配電会社に変わった。この制度の認定を受けた発電所は、電気の市場価格より「高い価格」で電気を買ってもらえるが、その市場価格より高い部分の金額補填をしているのは、全消費者が負担する「再生可能エネルギー賦課金」という制度だ。
2020年度の「再生可能エネルギー賦課金」額は、kWhあたり2.98円だ。平均的な家庭の1ヶ月の電気使用量が300kWhとすると、900円近い金額を消費者が毎月負担している。年間なら1万円を超える。年間総額は3兆円を超え、大きな消費者負担だが、それによって2011年から2020年にかけ、太陽光発電が4倍の規模になったのも事実だ。
このFIT認定を受けた発電所は、確実に日本のCO2を減らしているのだが、上乗せ金額の負担をしているのは全消費者なので、この電気を購入して使っても、買った消費者が排出するCO2は減らせない。2050年CO2ゼロを目指すRE100などに参加する企業が購入しても何の意味もないということだ。

図2 非化石価値証書の分類

eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)のパンフレットより

そのFIT電気に「FIT非化石証書」をつけると、購入した消費者がCO2を削減したことになる。同じ発電所の電気と「CO2ゼロ」の価値(これを「環境価値」と呼ぶ。)が別のルートでやってきたと考えれば良いだろう。これを、晴れて「再エネになった」と表現しよう。
問題は「FIT非化石証書」を石炭火力や天然ガス火力の電気に貼り付けても「再エネになってしまう」ことだ。金さえ払えば、石炭を燃やしてCO2を出しながら、我が社は再エネ100%、CO2ゼロだよ!と言えるということ。それはないだろうということで、この場合は「実質再エネ」と表現することになった。それでも「CO2ゼロ」にはなる。この制度をよく知らない消費者は、石炭100%の会社の商品を、再エネ100%で作った商品と間違えてしまうかもしれない。これが問題その1だ。

4、なんでこんなに複雑になったのか

「非FIT非化石証書(再エネ指定)」はFIT制度の恩恵を受けていない再エネ発電所の電気だ。非FITの再エネ発電所は「再エネ賦課金」をもらっていないのだから「CO2ゼロ」の「再エネ」そのものである。証書などつける必要はないとも思えるが、それにも「非化石証書」をつけないと再エネとは言わせないことになった。
非FIT発電所の大部分は実は巨大なダム式水力だが、これまでは再エネに分類されていなかった。建設から40年も50年も経っていて、建設コストはとっくの昔に回収し終わっている。小さな市民発電所は、コスト回収はこれからで、少しでもサポートがあればコスト回収が早まり、そのぶん次の発電所への投資ができる。それを専門用語では「追加性」と呼ぶ。大型ダム水力のような追加生のない発電所の証書を大量発生させて良いのだろうか。これが問題その2だ。
「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」はほとんどが原子力の電気だ。「原子力証書」と呼べば良いだろうに、証書システムの中にそっと忍び込ませている。さすがに「再エネ」とは呼べないので「ゼロエミ」と呼ぶのだそうだ。石炭発電100%に「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」を貼り付けると、ゼロエミ電源になる。言っておくが、その場合、証書を発行した原発は石炭並みのCO2を出す、放射能とCO2のダブル汚染発電になる。もちろん追加生とは関係がない。原子力証書を大量に発生させること。これが問題その3だ。
実は「FIT非化石証書」と「非FIT非化石証書(再エネ指定)」には、トラッキング付きとトラッキングなしの区別がある。トラッキングとは、どこのどの発電所が発電した電気か遡れるということだ。トラッキングなしは、太陽光も風力も水力も区別なし、どこで発電されたものかも、極端なことを言うと「本物」かどうかも証拠がないと言うことだ。
国際的にCO2ゼロであることを証明しなければならないRE100企業などでは、これでは使えない。そこで「トラッキング」という仕組みが後から付け加えられた。逆にいうと、国際的にはトラッキングされていない「環境価値」証書が出回ることの方がおかしいことだ。トラッキングもできない大量の証書を市場にばらまくこと。これが問題その4だ。
なぜこんなに複雑で問題だらけかと言うと、この制度がもともとCO2ゼロを証明するものではなかったからだ。制度の出発点は「エネルギー供給高度化法」にあり、この法律が電気小売会社に対し2030年までに「非化石比率44%」とすることを義務付けている。この非化石比率は再エネ比率でもなければ、CO2ゼロ比率でもない。原子力と再エネをひっくるめた日本だけの独特の考え方で、海外のルールとつながらないのだ。
政府の説明でも、図3のように「ゼロエミ価値」や「環境表示価値」も含まれているが、重要視されていない。「環境価値」ではなく「環境表示価値」とされているところもポイントだ。環境価値は非化石価値という国際的に通用しない価値の中に閉じ込められた。これが問題その5だ。

図3 エネルギー供給高度化法と非化石価値取引証書

2020年1月31日経産省資料「環境価値の整理」より

非化石証書をもう少しましなものにするには、今の枠組みを一度廃止し、地球温暖化防止という枠組みで、国際ルールに基づいて、2050年の再エネ比率目標を達成するためのロードマップを作り、それに沿って作り直すことが必要だ。原子力の非化石証書など不要だし、消費者が負担した環境価値を「また売り」するような「FIT非化石証書」も必要ではない。何によって発電されたかという「発電源証明」を制度化し、それを証書とする方が確かだろう。

5、この制度で再生可能エネルギーは増えるのか

現在の非化石証書制度では、実は化石燃料まで「非化石」になっている。自治体などで行っているゴミ発電で燃やされる廃棄プラスチック等で図4のZ燃料だ。ゴミ発電はバイオマス成分のFITとそれ以外の非FITに分けられるが、非FITの方も「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」=ゼロエミ証書が発行できる。こちらの燃料にはペットボトルはじめ、容器包装などの雑多なプラスチック類が含まれる。もちろんCO2を出している。

図4 運用におけるバイオマス燃料の区分
非化石証書認定を行っている日本ユニシスにおける分類ルール

日本ユニシス2020年5月29日「バイオマス設備 電力量認定申請方法について」より

プラスチックは何でできているだろう。化石燃料だ。日本では化石燃料を燃やしても「ゼロエミ」になるらしい。この証書を購入して、当社はCO2ゼロだと宣伝する会社も出てくるだろう。実は地球温暖化防止には一切貢献していないのだが。
そもそも、この制度は何のために作られたのだろうか。2017年の12月、この制度創設にあたり政府はこう書いている。

1)非化石価値を顕在化し、取引を可能とすることで、小売電気事業者の高度化法上の非化石電源調達目標の達成を後押しするとともに、2)需要家にとっての選択肢を拡大しつつ、固定価格買取り(FIT)制度による国民負担の軽減に資する、非化石価値取引市場が創設されることとされた。(2017年12月 経産省「非化石価値取引市場について」)

つまり高度化法の目標達成と再エネ賦課金という国民負担の軽減だ。「再エネを増やす」という目的は書かれていない。すでにコスト回収を終えた(追加コストを必要としない)、非化石の大型ダム水力の電気を証書化し、原子力、ゴミ発電の化石燃料部分まで証書化し、まがいものの「ゼロエミ」を大量に作り出す制度なのだ。
一方で再エネに対しては、FIT再エネに対して、証書化しなければ「再エネ」とは言わせないとか、市民の小さな非FIT再エネにも「証書化」を強制し、追加コストをかけさせる。この制度ができても、総配電網への再エネの接続制限が緩和されるわけでもなく、全く再エネは増やすことにはつながらない。
巨大ダム水力や原子力の証書を発行できるようにしても、新たな再エネ発電所は1kWたりとも増えないどころか、おそらく再エネの拡大は阻害される。それがこの制度の最大の欠陥であるし、存在意味が問われる根拠でもある。これが問題その7だ。再エネの拡大を阻害する効果の方が大きいならば、速やかに廃止しなければならない。

6、私たちは消費者として何をすべきなのか

消費者の感覚とは無縁のところで、こんな無用な制度が議論され、作られ、現実に電力自由化の中で入札が行われている。最初は買い手がつかなかった証書も、図5のように4年目に入って約定量が大きくなってきた。約定価格も、直近の2020年度第2回では、FIT非化石証書が1.3円、非FIT非化石証書(再エネ指定なし)で1.1円になった。価値のない事実上の原子力証書に、FIT再エネ価値と遜色のない価格がつけられたのだ。

図5 非化石価値取引市場の入札結果(約定量)

自然エネルギー財団 2020年11月18日 石田雅也「非化石証書の販売量が急増、電源不明の再エネ電力とCO2フリー電力に注意」より。

この価格を最終的に負担するのは消費者になる。まともに正しく非化石証書を使おうとする企業もあるだろうが、そうでない企業もある。地球温暖化防止に貢献する「CO2ゼロの電気で作った◯◯〇〇!」みたいな宣伝は疑ってかかる必要がある。どこの電力会社の電気か、どんな発電所の電気か、消費者はじっくり見極めないといけないということだ。
間違った使い方を許す制度は、正しく使おうとする企業の意欲も失わせる。日本の産業界における健全なCO2削減への意欲に応えるためにも、このまがいもの制度はできるだけ速やかに廃止されるべきである。
日本の政治はいま、かつてなかったほどにおかしくなっている。既得権を守ろうとするあまり、コロナ感染症対策は後手後手で感染を拡大し、経済を標榜して失業と貧困を大量に生み出している。エネルギーの世界でも、原子力と石炭に固執し、矛盾だらけの地球温暖化対策を掲げて恥もない。グリーン成長戦略で2050年に再エネ50〜60%の意味は、ほっとくともっと大きくなるものを、ここまでに押し留めるというキャップをかけたということだ。電力自由化においても、再エネ主力電源化と言いながら、それを邪魔する「ベースロード市場」「容量市場」そしてこの「非化石価値取引市場」などを、さも再エネのためのように打ち出している。
2021年には、改めてこの電力システムの問題について、このブログで深く掘り下げていきたい。
なお電力システムについてより詳しく知りたい方は、私が経営する発電会社イージーパワー(株)のホームページ「追跡・日本のエネルギー政策(2020年改訂版)」をお読みいただきたい。
http://www.egpower.co.jp/japans-energy-policy/
また、政府が守ろうとしている「既得権」旧電力の電気を拒否したければ、私が経営する新電力グリーンピープルズパワー(株)の電気に、地球温暖化防止への実践その1として切り替えていただきたい。
https://www.greenpeople.co.jp

以上、解決策を提供することをモットーに、2021年も頑張る!竹村英明でした。


夏は青々としていた大ケヤキ


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