竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

たちかぜ事件判決と日本の防衛

2011年01月30日 | 政治
先週1月26日に「たちかぜ事件」の判決が横浜地裁でくだされた。「たちかぜ事件」とは海上自衛隊の護衛官「たちかぜ」の一等海士(20歳)が上官(先輩隊員)からのいじめに耐えきれず、電車に飛び込み自殺をした事件。2004年10月27日のことである。
自分をいじめた上官を告発するノート書き綴っていて、そのノートを抱いて電車に飛び込んだ。ことの経緯は下記の弁護士ブログに要約されている。
http://www.news-pj.net/npj/2007/tachikaze-20071115.html

この中にもあるように、上官によるいじめが「特別なこと」ではなく日常茶飯事で、しかも下級の隊員全体に及んでいたことがわかっている。私が自衛隊内のいじめ事件にはじめて出会ったのは、護衛官「さわぎり」の中での隊員自殺事件である。この隊員は船の機関室で自ら命を絶ったことになっているが、その真相すら隔離された空間の中ではわからない。

このほかにも、同じ「さわぎり」での行方不明事件(海に落ちたと見られるが、事故で落ちたのか落とされたのかわからない。)など、毎年数十件の死亡、自殺事件が起こっていることを知った。自殺の多さは、一般社会の同世代の若者と比較すれば数倍になった。

普通の会社であれば、これは尋常でないということになるだろう。一人の不審死事件があっても徹底的に警察の調査が入るだろう。ところが自衛隊は治外法権、警察も民間の人権擁護機関も調査に入ることができない。警務隊と呼ばれる自衛隊内の組織が捜査、判断を下す。したがって自衛隊に不都合な、風紀の乱れや無法違法状態は表に出さないように隠してしまう。事件が次々繰り返され、全く改善が見られない原因の多くはこの点にあるだろう。

事件の真相はなかなかわからないのだから、自衛隊という閉鎖空間で何が起こっているのか私たちにはわからない。以前は戦争という緊張感もなく、平和国家のお荷物かという意識から風紀が乱れ、暴力団の拳銃や大麻の密輸ルートや遊興費を下部隊員からばくちで巻き上げる的なものが多かったように思う。最近は、平和憲法による防護壁も薄くなり、いつ実践の中に放り出されるかわからないという緊張感の中にあるのではとも思うが、それだけストレスは大きくなっているとも思える。

平和派の人々はこの問題がめっぽう苦手である。そもそも自衛隊がいけないのであって、その中に入って行っていじめを受けて死んだからといって、それがどうした。自業自得じゃないかくらいの間隔ではなかろうか。軍隊に入ったら人権はないんだ・・と。それじゃあ軍隊の論理と同じではなかろうか?
平和派の人の多くは人権派でもある。如何なる人でも人権が無いなんてことはあり得ない。であるなら、軍隊内の人権のルールも確率すべきだと思う。

自衛隊側は、相次ぐ事件の発覚(おそらく氷山の一角だと思う)に、メンタルヘルスケアというものをはじめた。外部の人材を入れて、隊員からのヒアリングやカウンセリングをするらしい。これまた実態は壁の中に入ってしまうので何をやっているかは見えない。少しでも改善が図れるとすれば、壁の外に壁の中を監視できる仕組みをつくることだ。隊員はいつでも「秘密裏に」そこにアクセスすることができ、そこで話されたことは自衛隊側に知らされてはならない。隊員の話しをもとに、外部から調査に入り、問題解決を図る手段が見つかれば、その時点で自衛隊へのフィードバックが行なわれる。それはフィードバックというよりは、むしろ勧告であるだろう。

さて、「たちかぜ」事件の判決は自殺をした隊員の遺族である原告側の勝訴ではあったが、罰金440万円で自殺に追い込まれた隊員の損害の大きさは認められなかった。中途半端、不十分という声が相次ぐ判決となった。
原告が求めていたのは1億3000万円。金額で済む問題ではないが、両親は自衛隊という「日本の防衛」の場に、断腸の思いで我が子を送り出したはずである。その子が戦場ですらなく、自衛隊内の執拗かつ陰湿ないじめですり減らされ押しつぶされ命を絶ったのである。自衛隊に殺されたと言ってもおかしくはない。440万円という金額は、断固としてそれを認めないという表明であろう。

自衛隊内のいじめは問題だが、自殺は隊員が勝手にやったことだ・・。ここには一人一人を大切にするという思想は無い。人間を大切にするという軍隊があるのか・・と問う人もあるだろうが、あり得ないと吐き捨ててしまっては、この密室の阿修羅は続くのである。

一人一人の命を大切にする軍隊・・そんな二律背反のようなテーマに答えを出すとき、軍隊そのものの意味がどこかに消し飛んでしまうのかもしれない。
一人一人を大切にしない軍隊が「国土防衛」を行なうときに、「一人一人の国民」の命を大事にすることができるだろうか?防衛が大事という人は、そのことに答えを出さなければいけないと思う。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿