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炭素の絡み目「オールベンゼンカテナン」と炭素の結び目「オールベンゼンノット」の合成に成功

2019-09-20 | 科学・技術
 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業において、ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクトの伊丹健一郎研究総括(名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)拠点長/教授)、瀬川泰知化学合成グループリーダー/研究総括補佐(名古屋大学大学院理学研究科特任准教授)、桑山元伸技術員らの研究グループは、炭素の絡み目「オールベンゼンカテナン」と、炭素の結び目「オールベンゼンノット」の世界初の合成に成功した(発表日:2019年7月19日)。本研究成果は、7月18日(米国東部時間)に米国科学誌「Science」のオンライン版で公開。
 グラフェンやカーボンナノチューブなどナノメートルサイズの周期性をもつ炭素物質「ナノカーボン」を精密に設計して合成する方法は材料科学分野で強く求められている。これを達成するために、有機合成化学の手法を用いてナノカーボンの部分構造となる分子を合成する「分子ナノカーボン科学」が近年盛んに研究されている。しかし、これまでに合成された分子ナノカーボンは、ベンゼンが連なったオールベンゼンリングなど、幾何学的に単純な構造であった。理論化学的に予測されている複雑な幾何学構造(トポロジー)をもつ未踏のナノカーボンを合成するには、分子ナノカーボンにトポロジーを付与する新しい合成法が必須となる。
 本研究グループは、ケイ素原子を用いる新たな方法によって、結び目(ノット)や絡み目(カテナン)をもつ分子ナノカーボンを合成することに成功した。合成した「オールベンゼンカテナン」と「オールベンゼンノット」はX線結晶構造解析によって構造が確認され、それぞれの幾何学構造に由来する特異な光物性や動的挙動をもつことが明らかになった。
 本研究成果は、複雑な幾何学構造をもつ新たなナノカーボン材料の開発に道をひらく画期的な成果となる。
 研究の背景と経緯
 グラフェンやカーボンナノチューブなどのナノメートルサイズの周期性をもつ炭素物質は「ナノカーボン」と呼ばれ、軽量で高機能な次世代材料として期待されている物質である。構造によって電子的・機械的性質に大きな違いがあるため、望みの性質をもつナノカーボン構造のみを狙って精密に合成する方法が求められている。その中で、有機合成によってナノカーボンの部分構造をもつ分子を精密に合成する「分子ナノカーボン科学」が近年注目され、世界中で研究されている。
 これまでに、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブの部分構造となる分子(分子ナノカーボン)が多く合成されてきた。しかし、これらはトポロジーの観点から分類すると比較的単純な構造である。一方で、ドーナツ状(トーラス)やコイル状など、複雑なトポロジーをもつナノカーボンは理論化学的に多数予測されており、これらナノカーボンが示す未知の物性に興味がもたれている。このようなナノカーボンの精密合成の第一歩として、本研究グループは複雑なトポロジーをもつ分子ナノカーボンである「トポロジカル分子ナノカーボン」を提唱した。
 研究の内容
 本研究グループは、トポロジーの基本である結び目や絡み目をもつ分子ナノカーボンを合成することに成功した。ノット(結び目)やカテナン(絡み目)と呼ばれる分子の合成は1960年代から行われている。近年では分子マシン(ナノメートルサイズの機械)への応用が期待され、2016年のノーベル化学賞の受賞理由となったことでも広く知られている。しかし、従来の一般的な合成法では炭素骨格のみで結び目や絡み目構造を作ることはできず、窒素原子や酸素原子などを導入し、それを足がかりとしてトポロジカルな構造へと誘導する必要があった。そのため、結び目や絡み目をもつ分子ナノカーボンを合成するには、新しい合成法を開発する必要があった。
 カーボンナノチューブの部分構造である分子ナノカーボン「シクロパラフェニレン」は、ベンゼンだけでできた、直径1ナノメートル程度の大きさをもつリング状分子である。このシクロパラフェニレンの合成の途中にケイ素原子を「仮留め部位」として用いることによって、結び目や絡み目を導入することができると考えた。このケイ素は後にフッ素処理によって除去できるため、最終的に炭素骨格のみからなる結び目や絡み目を得ることができる。
 まずC字型の分子を用意し、2つのC字型分子の中央をケイ素原子でつなぐ。ニッケルを用いた反応によってそれぞれのC字の末端をつないで2つの輪を作り、フッ素(フッ化テトラブチルアンモニウム)によってケイ素原子を除去した後にナトリウムを用いた反応を行うことで、2つのシクロパラフェニレンが幾何学的に連結した分子「オールベンゼンカテナン」に変換する。この合成法によって、ベンゼン12個からなるリング同士のカテナンを9ミリグラム(収率16パーセント)合成することに成功した。16パーセントはシクロパラフェニレンの合成収率と近い水準であり、絡み目の形成効率が十分に高いことを示している。同様の方法を用いて、ベンゼン12個と9個の異なるサイズのリングが連結したカテナンを2ミリグラム合成した。
 この合成法を応用し、さらに難易度が高く「不可能分子」ともいうべき、結び目をもつトポロジカル分子ナノカーボン「オールベンゼンノット」を合成した。仮留め部位を適切な位置に2つ配置することで分子ノットのトポロジーを作れることが他の先行研究で知られているため、仮留め部位としてケイ素原子を2つもつ前駆体を設計しました。図4に示すように、U字型分子をケイ素でつないだ分子を合成し、このユニットに対してオールベンゼンカテナンと同様の反応(ホモカップリング反応、フッ素処理、ナトリウム還元反応)を行うことで、0.3パーセントという低収率(0.8ミリグラム)ながら、目的とする「炭素の結び目」であるオールベンゼンノットの合成に世界で初めて成功しました。X線結晶構造解析によって、この分子が結び目をもつことを確認した。加えて、本研究グループが合成したオールベンゼンノットを部分構造とするカーボンナノトーラス(ドーナツ状のナノカーボン)が存在することを計算科学的に明らかにし、オールベンゼンノットがトポロジカルナノカーボン合成に向けた重要なステップであることを示した。
 次に、これらの新たに合成した分子が、結び目や絡み目に由来する特異な性質をもつことを明らかにした。サイズの異なる2つのリングからなるカテナンは、光による励起の後、大きなリングから小さなリングへと非常に速い励起エネルギーの移動が起きることを観測した。カテナン構造は、それぞれのリングがもつ対称性を完全に維持したままリング同士の相互作用の効果を確認する唯一の方法であり、今回の実験によってリング同士がカテナン構造を介して電子的に相互作用することを明らかにした。
 また、オールベンゼンノットを有機溶媒に溶かし、水素原子核のNMR測定を行うと、マイナス95度の低温においても1種類のシグナルだけが観測された。これは非常に速い運動によってシグナルが平均化していることを表している。スーパーコンピューターを用いたシミュレーションの結果、ドーナツ状の渦のような動きによってこのような速い平均化が起きていることが強く示唆された。これらの性質を事前に予測することは極めて困難であり、合成・単離したことによって初めて発見することができた。
 結び目には左結びと右結びがあり、キラリティと呼ばれる性質をもつ。今回合成したオールベンゼンノットの左結びと右結びを分離することに成功し、オールベンゼンノットが結び目のキラリティに由来する円二色性を示すことを明らかにした。
 今後の展開
 本研究成果は、複雑な幾何学構造をもつナノカーボンの合成に向けた大きな一歩となる。結び目や絡み目といった複雑な幾何学構造を炭素骨格のみで作ることが可能になったことで、これまでにない複雑なナノカーボンの設計と合成につながる。また、非常に美しい分子を革新的な方法で合成した例として、有機化学の教科書に載る金字塔といえる。幾何学的な連結構造を基本とする分子マシンの設計を一新する可能性を秘めていることから、新たな化学の発展のスタート地点となる画期的な成果である。
 ◆用語解説
 〇ベンゼン
 ベンゼン炭素6原子、水素6原子からなる有機分子をベンゼンと呼び、その正六角形の炭素骨格をベンゼン環と呼ぶ。平面構造が最も安定であり、湾曲するとひずみエネルギーをもつ。
 〇トポロジー
 リング(穴)、結び目、絡み目など、連続的に変形しても変わらない要素の種類や数に注目して形を分類する幾何学。
 〇X線結晶構造解析
 結晶にX線を照射した際に生じる回折現象を利用して、結晶中の原子配置を測定する方法。分子の形を(結晶中の平均の姿として)観測できる。
 〇NMR
 核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)。分子の中の対象の原子(今回は水素)の原子核の状態や近傍からの磁気的影響を測定する方法。
 〇キラリティ
 左手と右手のように、そのままでは一致しないが鏡に映すと一致する性質。
 〇円二色性
 右回りの光(右円偏光)と左回りの光(左円偏光)の吸収強度に差が生じる現象。キラリティをもつ分子に見られる。

 天気は曇り~晴れ。雨が降りそうではない、明日は降るかな。
 散歩道沿いの小さなお庭。白い小さな花が咲いている、”ゲンノショウコ”の花だ。実も幾つか付いている。
 花色は白色で、日本の西では紅色の花、東では白花が多いと言う。なるほど、ここは東北だ。紅色の花は見ることがない。
 ”ゲンノショウコ”は、昔から下痢止めの薬草として使われ、センブリ・ドクダミとともに日本三大民間薬としてよく知られている。根・茎・葉・花などを干し煎じて下痢止め・胃薬とし、茶としても飲用する。
 名(ゲンノショウコ:現の証拠)の由来は、飲めばすぐに薬効が現れるから、と言う。優秀な整腸生薬なので、イシャイラズ(医者いらず)・タチマチグサ(たちまち草)などの異名がある。別名に神輿草(みこしぐさ)があるが、これは「実」の形がお神輿の屋根に付く飾りの形に似ているから。
 ゲンノショウコ(現の証拠)
 別名:神輿草(みこしぐさ)、玄草(げんそう)
 学名: Geranium thunbergii
 フウロソウ科フウロソウ属
 多年草
 開花時期:7月~10月
 葉は掌状、3~5の中~深裂する
 花色は白色~赤紫色、花径は1.5cm位の5弁花
 雄しべは10本、雌しべの花柱の先は5つに裂けてる
 実は蒴果(さくか)、長さ約1.5cmで短毛と腺毛が多い。熟すと5裂し、裂片は種子を1個ずつ巻き上げる。


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