俳優や芸能人の中には、モノマネされたそのイメージが定着してしまう人がいる。
田中邦衛さんはその典型的な例ではないか。
ほとんどの人が知ってる田中邦衛さんは「北の国から」の黒板五郎だろう。正確には五郎さんの喋り方や仕草を芸人さんによってモノマネされた田中邦衛。
純と蛍と富良野で暮らしてて、丸太小屋が燃えたり、材木を慰謝料に当てて石で家作っり、屋根から落ちて死にかけたり、無農薬農法したり、柴犬を飼ったり、牧場が破綻したり・・・ってのは全く知らなくても、あのカタリベ口調は知ってる。
「子供がまだ食ってる途中でしょうが(怒)」かもしれない。
どちらにしてもモノマネで広まった田中邦衛さんのイメージ。「北の国から」シリーズを一話も見ていない人でも、五郎さんの田中邦衛を知っている。これはすごいことだ。
関根勤が言っていた。「みんなが知ってるジャイアント馬場さんは、僕のモノマネの馬場さんです」と。
「頭突きをされ、アポー!と言いいながら片膝をつく馬場さんを、実際にプロレスの試合で見たことある人はほぼいないはず。あれは僕が考えた馬場さんのモノマネだもの。実際にそんなシーンがあったわけではない」と関根勤が言っていた。
俺もTVで全日本プロレスの試合をよく観てたが、馬場さんがヘッドバッドかまされたりして「アポー」とうずくまるシーンなんて見たことがない。
俳優や芸能人は、芸人のモノマネによって一気に全国区になったりする。
太陽にほえろ!での松田優作の殉職シーン。腹を撃たれて「なんじゃこりゃぁ〜」と叫ぶあの有名なシーンをリアルタイムで観た人は少ないはずだが、ほとんどの人は知っているくらい有名だ。
これは今やモノマネというよりはリスペクトのように使われてる。
「バイプレイヤーズ〜名脇役の森の100日間〜」でも、[刑事7]の主役争いで6人のキャストが歴代刑事ドラマ主人公をパクってキャラ立てに必死になってた中、勝村政信が白のGジャンGパンの刑事キャラになっていた。
ちなみにその際、柄本時生はニヒルでふふんと鼻声の警部、志田未来はヨーヨー持ったセーラー服、近藤芳正はスーツにメガネで紅茶、杉野遥亮はレインボーブリッジを封鎖できないヨレヨレコート、渡辺いっけいは「うちのかみさんがね」が口癖の刑事キャラを演じてた。
これくらいイメージが衆知されてるとモノマネもしやすいね。いやモノマネされるからキャラ立ちしてるのか。どっちだ。どっちでもいいか。
山口百恵が引退コンサートで最後にマイクをステージにそっと置く。今では誰でも知っている有名なシーンだが、あれもモノマネで広まった。
実は当時、ほとんどの人が勘違いしてたのだが、ラストコンサートを生で見た人(約1万人)以外はそのシーンを見れていない。
「え〜?でも私マイクを置くシーンを見たよ」っていう人は、実は山口百恵が「夜のヒットスタジオ」に最後の出演をした時のシーンなのだ。あの時に初めてマイクをステージに置いたのだよ。(本当)
さらにほとんどの人が認知してるのは、夜ヒットや後楽園コンサートでの百恵ちゃん本人の歌唱シーンではなく、芸人さんによるものマネでのマイク起きパフォーマンスだ。
今ではYouTubeや懐かしの映像として、ラストコンサートのマイクを置くシーンが流れたり再放送されたりしてるからどっちでもいいのだが、あれ以降、引退コンサートでマイクをステージに置くという行為自体が山口百恵のモノマネでしかない。従ってアイドルもアーティストも引退ライブで誰もやらなかった。
しかしつい最近、某アイドルが引退コンサートでやったそうだ。多分そのアイドルのファン層は山口百恵をリアルで知らないのだろう。だからあまり気にならないのだろうか。
モノマネが広まりすぎて本家が困ってしまう場合もある。
岩崎宏美はコンサートで「シンデレラ・ハネムーン」を封印してたそうだ。この曲を歌ってると観客が笑いこらえてるのがわかるそうだ。コロッケのモノマネを思い出すのか。困ったもんだ。それこそ営業妨害である。
逆に美川憲一みたいに、コロッケがモノマネしてくれたおかげで復活できた人もいる。美川憲一は以前起こした大麻事件からTVから遠のいていたが、「コロッケがモノマネしてくれたせいでまた呼んでもらえた」と本人が感謝してた。
アントニオ猪木の「なんだコノヤロー」とか、長州力の「キレてないですよ」とかみたいに、モノマネが広まったから逆に本人が自分のモノマネをするという、逆輸入(リサイクル?)な場合もあるけどさ。
別に本人は自分のモノマネをしてるつもりはないと思うが・・・。
田中邦衛も「自分で自分のモノマネをしてるんじゃないか?」って葛藤してたのではないかな。
あくまでも勝手な想像だけど。
みんなは「北の国から」の五郎さんをイメージしてるから、裏切らないようにしようって。
田中邦衛さんはインタビュー番組やトーク番組にはほとんど出なかったそうだが、あの口調で話すのが求められてるのが原因ではないかな。あくまでも俺の勝手な想像だが。
俺にとっての田中邦衛さんイメージは「北の国から」の五郎さんではなく、「仁義なき戦い」の槙原政吉だ。
高倉健さん主演の「網走番外地」シリーズでは毎回役名が違ったが、「仁義なき戦い」シリーズで田中邦衛さんは、一貫して菅原文太と対立する組幹部・槙原を演じていた。
だから余計そのイメージが強いのだ。
菅原文太さんのイメージも「仁義なき戦い」の広能昌三。目を細めて「こんながのぉ」とか「しとりゃぁせんのじゃ」って広島弁使うヤクザのイメージがかなり強い。
高倉健さんにしても菅原文太さんにしても、このヤクザ・博徒イメージからの打破にはかなり苦労された気がする。ある時を境に任侠路線の映画やドラマは避け、後年は人情物に出演するようになってるもの。田中邦衛さんもそうなんだろう。
TVコマーシャルでは弾けた田中邦衛がみれるぞ。
「大正漢方胃腸薬」のCMで魅せる、身体に無駄な力をみなぎらせた田中邦衛。「食べる前に飲むぅ!」は名言だ。
「KSD」のCMの田中邦衛も元気だった。CMを知らない人には全く分からないネタで悪い。
人気漫画「ONE PIECE」で主人公のルフィら海賊と対立する世界政府の海軍。
その海軍の最高幹部・大将は三人いるのだけど、そのひとり黄猿(ボルサリーノ)はどう見ても田中邦衛だ。ボルサリーノといえば「トラック野郎 爆走一番星」で田中邦衛が演じた役名がボルサリーノ2だからたぶんそこからだろう。
海軍大将の残りの二人のモチーフは、青雉(クザン/現在行方不明)は間違いなく松田優作。赤犬(サカズキ/現在本部元帥)は菅原文太だ。
この度、田中邦衛さんがお亡くなりになられたので、これで海軍大将三人のモデル全員が亡くなられた。
安らかにお眠りください。