GOKIGENRADIO

バーボングラス片手のロックな毎日

アガサ・クリスティのファンは怒るんじゃないか

2018-03-25 14:06:52 | MUSIC/TV/MOVIE
終わり良ければすべて良しという格言がある。
本や漫画、ドラマ、映画が特にそうだな。エンディングが良ければ、満足感に浸れる。

もちろん最初の導入部が惹きつけられるものである方がいい。欲を言えばその最初の部分が結末につながってたりすると「あぁ、あれはここに繋がるのね」「やるなぁ!」ッレ関心や感動してしまったりする。でも、最初の部分が面白くないと後でいくら繋がってるかもしれなくてもDVDなら早送り、TVならチャンネル変えてしまったりする。
もちろん途中も大事だ。息もつかせぬスピード感があってももいいし、静かに心情や背景をじっくり描いてくのもいい。一体どうなるんだこの物語は?と先の読めない展開も楽しい。所々にオマージュやパロディなど、知ってる人だけがわかるって小ネタが入ってたりするとなお良い。何気ない一言や行動が結末で「そう持ってくるための言葉ね」なんていうのも大事だ。

でも何と言ってもエンディングが良くなければダメだ。
予想通りの結末でも良ければ「うーん、なかなか見応えがあったなぁ」と思えるし、予想を覆す結末なら「やるなぁ、うん、面白かった」ってなる。
「えっ?これで終わり?」ってのは「見て損した」と思うし、後味悪い結末だと「なんじゃそりゃ」と怒ってしまうし、とんでもない結末だと「フザケンナ!」とリモコンを投げつけそうになってしまう。

アガサ・クリスティの原作を使い、舞台設定や登場人物を日本に置き換えたテレビ朝日のドラマ。
二夜連続で、第一夜が天海祐希主演の「パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜」そして第二夜が沢村一樹主演で「大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜」だ。
名作「そして誰もいなくなった」を大胆にアレンジして昨年放送されたドラマが、なかなか面白かったので今回も楽しみにしてたのだが・・・。

ここから先はネタバレかなりあるので、まだ昨夜のドラマを見てない人、録画して二話(第一夜&第二夜)連続で一気に見ようと思ってる人は読まないでくれ。

昨夜放送の第一夜「パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜」はミス・マープルが活躍する長編シリーズ全12作のうちの一つ。名探偵ポワロと同じくアガサ・クリスティ小説の中でも人気を二分するミス・マープルシリーズは短編も入れるとかなりの数になる。それくらい愛されたキャラクター。
主人公のミス・マープルは、日本テレビで2006年に放映された日本版ドラマでは推理マニアの女性・馬淵淳子に置き換えられて岸恵子が演じた。今回テレビ朝日のドラマでは天海祐希が演じてた。原作のミス・マープルは老婦人なのにえらい若いことだな。
しかも設定が元警視庁の敏腕刑事で旦那の病気の看病ために退職。旦那がなくなった後は危機管理のプロとして今は大手企業と数社契約して活躍してる女性って設定。これらはドラマの中で徐々にわかるようにすりゃいいのに、刑事の説明だけで全て行う強引さ。

事件は天海祐希の義母・草笛光子が『特急オリオン』に乗っていたところ、並走していた『寝台特急朝霧』内で男が女性の首を絞めているのを目撃したところから始まる。すぐさま通報したものの、寝ぼけていたとして車掌も警察も取り合ってくれなかった。そんな草笛光子の汚名を返上するため真相究明に立ちあがった天海祐希。

この時点で「あれ?このドラマくそおもんないかも」って思ってしまった。
なぜその列車に草笛光子が載っていたのかは説明なし(やっぱり最後まで不明)。
列車の座席でおにぎりを食べながら(朝五時だぞ)推理小説を読んでた(朝五時頃だぞ)草笛光子が並行する列車の窓をなぜ見た?しかも列車は蒸気機関車が牽引。C51系?鉄道オタクや鉄男ではないからよくわからない。あぁ、ドラマの時代設定を昭和30年−40年くらいにしてるのかなって思ったのが、天海祐希の元で働く前田敦子が乗っている車はフォルクスワーゲンの赤色ニュービートル。もう何が何やら。

しかも事件のあったと天海祐希が推測した付近の屋敷(西田敏行が隠居してる)に家政婦として潜り込んで調査する前田敦子。設定は東京大学数学科卒業のハウスキーパー(今回はちゃんと説明はされてなかったが以前のドラマではしのえみが演じた同キャラクターはそんな設定だった)が、これまた全然凄腕に見えないのがすごい。褒めているのではないよ。
前田敦子の演技がどうのこうのではない、逆に前田敦子の演技は上手くなったと思うくらいだ。草笛光子や西田敏行などを相手に堂々と演技し、主演は天海祐希ではなく前田敦子でも良かったのではと思えるくらいだ。
しかし脚本や演出がだめなのだ。言葉使いや仕草など今の時代っぽい軽い(馴れ馴れしい)受け答えをさせて狙ってるつもりなんだろうが空回りもいいとこ。

脚本は旭日小綬章を受章したベテラン・竹山洋氏らしいが、この後はもう最悪のシナリオ。

屋敷には引退した西田敏行が長女と住んでる。そこへ次男の会社を引き継いだ(なぜか常務だが)次男、投資に失敗して借金まみれ。八丈島で絵かきをしてる三男、亡くなった次女の旦那、そしてその子どもと子どもの友人が集まる。なぜ集まってきたのかは不明。遺産はお前らに渡さないぞってしつこい西田敏行。なぜ渡したくないのかもよくわからん。

屋敷から近くの森を突き抜けた線路沿いで、殺されたと思われる被害者の遺留品の手袋を拾う前田敦子。付近に屍体はない。手袋には何かの毛が。前田敦子はその手袋をビニール袋にも入れずポケットに無造作に入れ、もどり道で不気味な存在感の屋敷の使用人に合う。役者名は知らないが、この人は案の定事件に全然関係なかった。いかにも思わせぶりで「今時こんな古臭い脚本よく書いたなぁ」って笑ってしまった。

近辺のホテルに滞在してる天海祐希に早速手袋を届ける。天海祐希は髪の毛ではなく毛皮の毛だと判断。
その後屋敷に戻った前田敦子は子供達が蔵の前で座ってるのに出くわす。蔵の扉が閉じてて中に入れない。引っ張るが開かない。諦めた途端中から開いて4男が出てきてびっくり。この四男は現在わいせつ行為で警察に事情聴取されてるって設定。

蔵に入ってあちこち探検する子供二人。前田敦子も一緒に中に入るとそこには石棺が。不審に思った前田敦子がその石棺の蓋を無理やり押してずらすと中には毛皮を着た女性の死体が。ご丁寧に手袋は片手だけでその色や形状は昨日前田敦子が拾ったものと似ている。
はい、この蔵はいつも鍵が開いてるのでしょうか。子供二人の「この中には面白いものがいっぱいあるんだよ」という言葉から結構自由に出入りできるみたいなのだが、前田敦子の「どこもかしこも埃がいっぱい」とか蜘蛛の巣を払う仕草はどうなんだ?もう無茶苦茶。そしてその状況なら間違いなく四男が真っ先に調査されるはずだがなぜか次男から。ナンデヤネン。

まぁこっから先は一気にすっ飛ばすが、息子たちは警察の事情聴取や合間にどんどん殺されていく。スマホで(だから時代設定はいつなんだよ)で前田敦子と連絡を取りながら事件を考察する天海祐希。そして事件は結末を迎える。

最後のエンディングなんてもう最悪。刑事も何もいないところで天海祐希がこんこんと種明し。事件の真相を知って今まで悪態をついていた西田敏行は懺悔して号泣。懺悔する意味がよくわからん。事件には関係ないのに長女に謝罪。そして雪を振る仲屋敷を後にした3人。
車なしでどうやって帰るのだろうか。そして屋敷には警察車両がすでに一台もいないし警官もいない。どんな設定だ。

もう最悪と言っていいほどつまらん推理ドラマ。いや、推理ドラマでさえない。現場に一度も来ずに事件の真相を解明する天海祐希。エスパーでもない限り無理。これなら一層の事事件を列車で目撃した草笛光子がそのまま事件を解決するドラマにした方が良かったんじゃないか?それなら原作の設定の老婆ってのも違和感ないし、家政婦を雇ってても問題ないだろう。

アガサ・クリスティの原作をどう料理したらこんな駄作が作れるのか、制作のテレビ朝日に聞いてみたいな。
そりゃ最近はスポンサーに遠慮して殺される手段も偏ってしまってる。
車メーカーがスポンサーならひき逃げや事故死は入れれない。薬メーカーがスポンサーなら薬物での殺人は嫌がられる。ガス会社ならガス中毒、電気会社なら感電死、保険会社なら保険金詐欺などはタブー。だから最近はもっぱら撲殺か突き落とされて死ぬドラマばっかり。
今回も今人気の寝台特急を使えなかったのはJRが嫌がったからかな?まぁ窓も開かないからこれらじゃぁ死体捨てれないしね。でも今時蒸気機関車ってのは・・・。

今夜放送の第二夜「大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜」も2007年に日本テレビで一度ドラマ化されてる。今回は黒木瞳と沢村一樹主演。
この沢村一樹が演じる警部は以前の「そして誰もいなくなった」でも登場した。けっこういいキャラクターの警部なのだ。

「誰もいなくなった」は2017年の3月、ちょうど1年前に放映された。



それぞれ複雑な過去を持つ仲間由紀恵、向井理、大地真央、柳葉敏郎、渡瀬恒彦、津川雅彦、余貴和子、國村隼が謎の大金持ちが所有する八丈島付近の無人島にある別荘に招待される。互いに面識はない。招待主もよくわからない。別荘管理人の橋爪功と藤真利子夫妻もオーナーのことはよく知らないと言う。それぞれの部屋に貼られた不気味な数え歌と広間にある重いガラスケースの中に置かれた10体の人形。そして数え歌の通りの死に方で一人、また一人と次々招待客が殺されていく。その度に減っていく兵隊の人形。管理人夫妻も殺される。そして誰もいなくなった・・・。

数日後通報を受けて管轄警察署と共に警視庁捜査一課警部・沢村一樹が島に上陸。所轄の警部補・荒川良々は沢村一樹の独特の推理、観察眼、考察や行動に翻弄される。そして事件は沢村一輝によって解明される。これが二夜にわたって描かれてた。
これでおしまい?って思ってるところに最後のエンディング。真犯人である渡瀬恒彦の告白映像だ。これでようやく視聴者は事件の全てがわかる。それまでに沢村一樹が解明したのは殺した手口や犯人であって、なぜこんな事件が起きたのか、起こしたのかは解明されていなかった。だからこのエンディングはかなり良かった。
っていうよりこんだけ豪華なメンツを揃えていて、ダメなドラマにできるのは余程の愚弄な監督・演出家だろうけどさ。脚本は長坂秀佳さんだ。

今夜の「大女優殺人事件〜鏡は横にひび割れて〜」はどうなんだろう。
一夜目の「パディントン発4時50分〜寝台特急殺人事件〜」が大コケだったので、すでに見る気がしないのだが、沢村一樹の警部キャラは見たい気がする。



アガサ・クリスティといえば、シャーロック・ホームズシリーズのコナン・ドイル、江戸川乱歩が影響を受けたエドガー・アラン・ポーと並ぶミステリーの傑作を多数送り出してる。名探偵コナンの江戸川コナンは上記の名前のもじりだし、コナン君の良き理解者であり色々秘密兵器を作ってくれる阿笠博士は当然アガサ・クリスティのもじりだ。(ちなみに工藤新一の工藤は松田優作のドラマ探偵物語の工藤俊作、新一は作家の星新一から)

そんなアガサ・クリスティの原作ファンはこのドラマを見てどう思うのだろうか。
やっぱりアガサは本で読む方がいいよねって感じかな。
推理小説こそ、エンディングが肝心なのだがね。これが駄目だと「いったい今までの伏線はなんだったんだ?」ってなってしまうもの。アガサ原作にはそれが無い。常に「うーん、なるほど、そうだったのね」って結末だ。読後の至福感は半端じゃ無い。

今後フジテレビでは三谷幸喜脚本で、アガサクリスティの『アクロイド殺し』(1926年/この作品発表後アガサは失踪事件を起こした)をやるらしい。
野村萬斎が主演、大泉洋、向井理、吉田羊、松岡茉優など豪華メンツ。豪華キャストとふんだんな予算を使える三谷幸喜ならではだな。いつもの三谷ドラマのようにキャストは豪華だがなぜここまでつまらなくできるってならないように祈るばかり。だってタイトルからしてもう駄目だもの。「黒井戸殺し」って。『アクロイド殺し』のシャレかダジャレか?このセンスはほんまよくわからん。
アガサファンでなくても楽しめるドラマに調理してくれたらそれでいいがね。

せめてエンディングは決めてくれよ。