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万城目学 とっぴんぱらりの風太郎

2016-11-20 19:50:24 | BOOK/COMICS
とっぴんぱらりの風太郎を読んだ。
傑作である。
鴨川モルホー、鹿男あおによしの万城目学が描く、忍者が主人公の長編小説だ。
新刊の時、本屋で見つけたが「重たそうだなぁ」って躊躇したんだが、電子書籍って便利よね。850ページのダウンロードは約5秒。かさばらないし重たくない。でも悪い癖で一緒に他にも色々ダウンロードしちゃったから、なかなか読む機会がなくiPadに入れたままになってた。で、ようやく腕が不自由で仕事にも行けなくゴロゴロしてるこの機会に読む。

主人公は忍者。
暇を持て余しブラブラしてるプータローの忍者・風太郎。
関ヶ原の合戦後、戦国武将であり江戸城の設計などで城造りの名手と言われた藤堂高虎。今は徳川に取り入り伊勢の大名となった藤堂家だが、情報が何よりも価値があった戦国時代も終わり、諜報、間諜、暗躍する忍者もお役御免。主人公・風太郎は武士なら浪人、今風に言えばフリーターの忍者。
その風太郎は、太平の世を嘆き、自分の出立や立場に不満を抱いてる。まるで現代の就職難民、フリーターのよう。自分の才能をなぜ世間は認めないのか、かといってブラック企業のようにこき使われるのも御免だ。そんな風刺の効いた葛藤の中、瓢箪に出会い、そして豊臣家VS徳川家の最後の戦い、大阪冬の陣、夏の陣に巻き込まれていく。

これだけ読んでもいったい何の話かよくわからんだろうし、どう面白いのか俺の拙い文才ではとても伝えられないのだが、このとっぴんぱらりの風太郎は傑作である。
読み始めると一気読みで読めてしまうくらい面白い。
俺は約850ページを二日で読破した。(どんだけ暇やねん)
特に後半は物語に引き込まれて、これこそ息つく暇もないくらいって感じで読んでしまう。
鹿男あおによしで奈良、鴨川モルホーで京都、偉大なるしゅららぼんで滋賀、プリンセストヨトミで大坂。近畿を舞台にした小説の傑作が多い作者だけあって、今回も三重、京、大坂を舞台に縦横無尽に駆け巡る。後半の大坂夏の陣の描写は、NHKの真田丸よりよっぽどワクワクドキドキハラハラすること間違いなし。(だいたい真田丸は真田十勇士はサスケしか出てこないし、徳川方の服部半蔵もコミカルだから不満)

忍者に憧れたことが、男なら誰でも一度はあるんじゃないか。
体操選手より軽い身のこなしのバク転やバク宙、高飛び選手より颯爽と塀の上に飛び乗り、幅跳び選手よりエアウォークし屋根から屋根へ。水の上も野原も、音を立てずに短距離選手より速く走り、密命を持ってマラソンランナーより長距離を一気に駆け抜ける。オリンピックの各競技で金メダルを取れそうな身体能力に、男の子なら誰でも憧れたことあるだろう?

女の子が魔法を使う魔女に憧れるように、男の子なら術を使う忍者に憧れる。
闇に動き、屋根裏に隠れ、時には水に潜んで情報収集。黒ずくめの衣装をかっこよくキメ、手裏剣やクナイは百発百中、敵とすれ違いざまに背中の刀で切りつける。しつこい追っ手にはマキビシを撒いたり火薬を使ったり、やばい時は煙幕を張って逃げることもある。

仮面の忍者赤影
変身忍者嵐
カムイ伝
忍者ハットリくん
伊賀の影丸

子供心にワクワクした忍者の術が、この本でも惜しみなく全編に描かれてる。

忍者は今でいうならスパイ。
命をかけて手柄を立てても禄をもらえるわけでなく、名もなく、ただ主人のために働く。
闇に生き、死んでも闇に葬られる。
だからか、忍者ものはちょっと物悲しいものが多い。

柳生一族の陰謀
あずみ

このとっぴんぱらりの風太郎も、これら名作と同じく物悲しい部分もある。
生きる意味とは何か。人に期待される喜びとは。宿命とは。
難しいことを並べ連なれてもしょうがないな。ぜひ読んでくれ。

とっぴんぱらりのって、モルホーとかしゅららぽんだとか、万城目お得意の造語かとかと思ったら、昔からある、これでおしまいって言葉だった。
その言葉に偽りなく、読み終わったら「あぁこれで終わってしまったんだぁ」って満足感に溢れてるはずだ。