アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

白い伯爵夫人

2017-01-18 22:28:13 | 文化
 THE WHITE COUNTENESS(白い伯爵夫人)は、邦題を【上海の伯爵夫人】とし
て日本で上映されました。
 カズオ・イシグロのオリジナル脚本、ジェームズ・アイヴォリー監督で制作
された傑作です。
 上海侵攻前夜を舞台にしていますが、戦争映画では有りません。
 カズオ・イシグロ作品ではこれが一番好きです。日本生まれの英国国籍とい
う彼の微妙な立場が生かされていました。

1936年、激動の上海を舞台に、盲目のアメリカ人元外交官とロシアから亡命
してきた美ぼうの伯爵夫人の運命を描くラブストーリー。監督は『ハワーズ・
エンド』の名匠ジェームズ・アイヴォリー。主人公2人を『ナイロビの蜂』の
レイフ・ファインズと『チェルシーホテル』のナターシャ・リチャードソンが
演じる。ミステリアスな日本人役で登場し、英語のせりふもこなす真田広之の
熱演と、30年代の上海を再現したゴージャスな映像美に注目。
(シネマトゥディ ヤフー)より参照。

 上記粗筋を参照したことで困惑しています。書くことが無くなったからでは
有りません。少しネタバレになってしまったからです。
 バレたので、真田広之が演じたマツダという謎の日本人について最初に話し
ましょう。
 マツダは明らかに甘粕正彦がモデルです。憲兵隊から満州映画総裁になった
甘粕は、満州国皇帝溥儀を操り、私設の特務機関を操っていました。東洋のマ
タ・ハリとたとえられた川島芳子(愛新覚羅顕于)とも関係していたとされて
います。
 甘粕の現れる所には必ず日本軍が侵攻してくると、怖れられ、嫌われた男で
す。テレビドラマ【流転の王妃・最後の皇弟】、【男装の麗人~川島芳子の生
涯】や映画【ラストエンペラー】にも登場していました。思い出しましたか?
 元外交官とマツダは場末のバーで知り合って意気投合します。外交官はマツ
ダに夢を話します。この上海で理想のバー(日本で言うナイトクラブ)を開き
たいと。

 革命のロシアからの亡命伯爵夫人と外交官が出会った事等で、1年後には
【白い伯爵夫人】を開店出来ました。綺麗で悲しさとあきらめを秘めた本物の
伯爵夫人、そして歌手やバーテン、美しく着飾ったウエイトレス、腕利きの用
心棒までも厳選された素晴らしいクラブができあがりましたが、彼は満足しま
せんでした。それを適えてくれたのがマツダでした。日本の政治家や軍人は
勿論、在留外交官、中国国民党軍人、共産党軍人までが出入りする、まさ
にその時の上海そのものの緊張感の溢れるクラブに仕上がったのです。
 しかし・・・後は歴史が語って呉れます。

 私がこの映画で絶賛するのは、音楽とキャスティングの妙です、伯爵夫人の
叔母役、妹(義理、つまり死んだ夫の妹?)役、娘のカーティア役。どれも素
晴らしい演技を魅せて呉れます。
 一番印象的だったのは別れの三角関係です。男の女の別れでは有りません。
妹は、バーで働くヒロインに替わってカーティアを教育しています。本物の伯
爵夫人になれるようにと。夫と子供がいるとは思えない彼女はカーティアが全
てでした。
 上海に日本軍が侵攻して来たので、家族はヒロインを捨てて香港に逃れよう
とします。カーティアも、母親は後で来る船でと嘘をつかれて連れて来られま
した。騒然とする港の小舟に向け無理矢理乗せられるカーティア。彼女も不安で
しきりに母を捜して辺りを見回します。
 小舟が沖のジャンクへ向けて艀を離れたその時、間一髪で母と外交官が駆け
つけ、カーティアを小舟から助け出します。
 カーティアとの別れで、妹は泣き叫びます。
「カーティア! カーテイア! カーティア・ベリンスカヤ! わたしのカー
ティア!」
 この瞬間から妹の生きてきた時間が無意味に成り果てたのです。
 このシーンだけに限らず、この映画には丁寧で適切な伏線が張り巡らされて
います。本当に良く出来た脚本です。カズオ・イシグロに脱帽!
 
 前回【私を離さないで】を書きましたが、綾瀬はるかを検索して覗きに来た
方が何人かおられます。きっと怒っているでしょうね。わたしは彼女が下手だ
とか大根とは表していません。はるかさんは随分頑張ったようです。原作者と
も直に会ってアドバイスを受けたそうです。彼女にとって不幸だったのは、舞
台が日本で、しかもテレビドラマだった事でした。
2017年1月18日   Gorou

日の名残

2017-01-18 15:07:07 | 映画
 カズオ・イシグロの代表作は何と言っても、三作目の【日の名残】でしょ
う。
 カズオ・イシグロの英語の文章力が一番発揮された作品と言えます。
 1989年間に発表され、同年のブッカー賞を受賞しまた。この作品は一人称視
点による偏見を巧妙に利用した例としてしばしば取り上げられる。語り手の執
事スティーブンスの元主人は第二次世界大戦前における対独融和主義者である
が、スティーブンスはその点を意図的にぼかしている。また女中頭のミス・ケ
ントンとの淡いロマンスについても回想の中で理想化されている。
 1993年にジェームズ・アイヴォリー監督で映画化されたましたので、この映
画化作品を中心に話を進めて参ります。

ジェームズ・スティーヴンス - アンソニー・ホプキンス
ミス・ケントン - エマ・トンプソン
ダーリントン卿 - ジェームズ・フォックス
ルイス - クリストファー・リーヴ
カーディナル(ダーリントン卿が名付け親になった青年) - ヒュー・グラン


スタッフ[編集]
製作総指揮 - ポール・ブラッドリー
製作 - ジョン・キャリー、イスマイル・マーチャント、マイク・ニコルズ
製作補 - ドナルド・ローゼンフェルド
原作 - カズオ・イシグロ

 以上が主要キャストとスタッフです。
 特筆為べきは、監督のジェームズ・アイヴォリーと主演のアンソニーホプキ
ンスとエマ・トンプソンです。アンソニーホプキンスはレクター博士み特に
【羊たちの沈黙で】で快演しており、その他にも沢山の映画で名演を見せてく
れているので、皆さんは良くご存じだろうと思います。キャスティングの妙は
女中頭を演じたエマ・トニプソンに有ります。
 彼女は後にケネス・ブラナーと結婚します。この二人は名うてのシェークス
ピア役者で、映画でも殆ど共演しています。私のお勧めは、【ヘンリー五世】
【愛としの狭間】です。前者は重厚な歴史劇に仕上げられており、必見です。
後者はヒッチコック張りの推理ミステリーの傑作です。
 この時、二人の映画監督は興味深い常連女優のトレードをしました。
 どちらの作品も大正解でした。エマ・トンプソンはアンソニー・ホデキンス
と組んで、美しく、慄然とした英語で小津的な抑制の利いた繊細な演技をして
いましたし、ヘレナ・ボナム=カーターは【フランケンシュタイン】で花嫁役
を快演し、以後、アイヴォリー作品の良家子女的な役から脱皮して大活躍して
いるのは、皆さんの方が良くご存じでしょう。

【日の名残】原語に挑戦するか、映画でしたら是非日本語字幕をオフにしてご
覧になるのを強くお勧めします。

 じつは、私が一番好きなカズオ・イシグロ作品は別に有ります。小説では無
く、映画のシナリオをオリジナルで書き上げております。その作品こそが、イ
ギリス国籍の日本人。カズオ・イシグロの真価が発揮されています。
    2017年1月18日   Gorou