アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

磐嶋と鬼の三兄弟

2016-12-29 11:20:50 | 伝奇小説
 天平勝宝元年(749)五月二十日、時の聖武天皇は詔して東大寺初め十の大寺に大層な財宝を喜捨なさった。
 十寺は大いに潤い、その恩恵は庶民にまで及んだと云う。

 左京六条五坊の住人楢磐嶋(ならのいわしま)は大安寺から銭三十貫を借りて、越前敦賀で商いをした。
 磐嶋が商品を馬の背中に乗せて奈良へと急いだ。
 滋賀辛前の手前で日が沈んだが、磐嶋は構わず馬をいそがせた。一町ほど後ろから足音が聞こえて来たからだ。
 いつの間にか一人の鬼が並んで走っていた。背は鬼のように高く無いが、手足が長く見事に発達した筋肉を持っていて、誰よりも早く走れるのだ。
「俺は焔魔堂に使える南血麻呂という鬼だ。腹が減った、何か食わせろ」
 磐嶋は観念して、馬を止めて干飯を鬼に食わせた。
 そうしている内に、後の二人も追いついてきた。
「ナカチ、お前一人で食っちまったのか」と、おそろしく背の高い鬼が唾を飲み込んで言った。
 もう一人の鬼は巨体を揺すってゼイゼイと息を切らしていた。
「俺たちだって腹を空かしているんだ。そうだこいつを食ってしまおう」
「おい弟、俺たちは此奴を連れて来るように命令されているだけだ。鎚麻呂」
「そうだ兄貴、此奴を逃がしたら、俺たちが代わりに罰を受ける」
 磐嶋が恐る恐る口を挟んだ。
「あのう、明日の夜明けまでには大分時間が有ります。これから家に来ませんか? 美味しい物をたらふくご馳走しますから」
 鬼の三兄弟は互いに顔を見あわせて満足げに頷いています。

 磐嶋は鬼の三兄弟を歓待しました。
 酌は美しい妻がし、夫の磐嶋は次々とご馳走責め。
 次の間で、娘が恐ろしさの余り、しくしくと鳴いていました。
 長兄の高佐麻呂が気付いたようです。
「誰か泣いているようだ」
「どうかお許し下さい。娘だけは見逃して下さいませ」
「年は?」
「まだ八つになったばかりです」と、磐嶋が斧を抱えて身構えました。
「俺も昔妻と娘がいた。妻は恋しいものだ。娘はいとおしいものだ」
「そんなに怒るな磐嶋、お前が鬼の三兄弟に勝てる分けが無い。・・・お前は何年の生まれだ?」
 磐嶋は南血麻呂にこう答えた。
「戊寅です」
「兄者たち、いざかや神社の易者が同じ生まれです。あの悪たれを代わりに連れて行こう」「お前からは随分ご馳走になった。このナカチも承知」
「決めた。そのインチキ易者を代わりに連れて行こう。その代わり、生駒仙房の竹林の奥に俺たちの墓が有る。時々でいいからお経の一つもあげてくれ」

 鬼の三兄弟は夜明け前に磐嶋の家を出て行きました。

 磐嶋は、そんな約束は忘れてせっせと商売に励んでいましたが、妻と娘は三兄弟の墓を見つけ出して手厚く弔いました。
 
 一方、鬼の三兄弟。嘘が露見して閻魔大王の前に引き据えられました。
「お前たちに罰を与える。一番恐ろしい無限地獄で永遠に彷徨うが良い」
 未だに彷徨い続ける三兄弟は時々この世に出現するそうです。
 そんな時、どうすれば良いか? あなたに分かっていますよね。
 そうです。賄賂と気付かれずに歓待するのです。
2016年12月29日    Gorou