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地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

24の書評

2009-10-24 | 論文や雑誌
昨年と今年,雑誌「地理」の書評委員を担当しています.書評を毎月1回書くのがノルマで,なかなか大変でしたが,このたび最後の原稿を提出しました.毎回は書かなくても良いという条件でしたが,結局24回すべて書きました.

悩ましかったのは,本の問題点を指摘する場合です.委員の中には問題点をほとんど書かない方もおり,「これぞ日本人の美徳!」と思いましたが,僕はときどき書きました.この経緯は1/31の記事に書いています.

紹介させていただいた本を下に列記します.古今書院の関さんによると,最初と最後が意外な選択とのことです.書評のお陰で交流が始まった方もおり(このブログにコメントを下さる田代先生など),委員を担当して良かったと思っています.
  1. ステファノ・マニャーニ「古代地中海を巡るゲオグラフィア」
  2. 昭文社編「地図から生まれたパノラマ塗り絵-日本の絶景」
  3. 昭文社編「地図から生まれたパノラマ塗り絵-日本の百名山」
  4. 産業技術総合研究所「きちんとわかる巨大地震」
  5. 五百澤智也「山と氷河の図譜」
  6. 小泉武栄「自然を読み解く山歩き」
  7. 田中真吾「兵庫の地理-地形でよむ大地の歴史」
  8. 福嶌義宏「黄河断流-中国巨大河川をめぐる水と環境問題」
  9. 斎藤 隆「アフリカ・西アジアの風俗文化」
  10. 茜  丸・内部高志・森田アンナ「Google Earth コンテンツ&アプリ作成ガイドブック」
  11. 佐々木 晶監訳・米澤千夏訳「地球と惑星探査 図説 科学の百科事典7」
  12. 太田次郎監訳・藪 忠綱訳「環境と生態 図説 科学の百科事典2」
  13. 松田磐余「江戸・東京地形学散歩-災害史と防災の視点から」
  14. 田代 博「知って楽しい山岳展望」
  15. 三澤勝衛「三澤勝衛著作集 風土の発見と創造 3 風土産業」
  16. 松倉公憲「山崩れ・地すべりの力学-地形プロセス学入門」
  17. 松倉公憲「地形変化の科学-風化と侵食」
  18. 青木正博・目代邦康「地層の見方がわかるフィールド図鑑」
  19. 村山祐司・柴崎亮介編「シリーズGIS 1 GISの理論」
  20. 牛山素行「豪雨の災害情報学」
  21. 桑原啓三「地盤災害から身を守る-安全のための知識-」
  22. 阪口 秀・草野完也・末次大輔「階層構造の科学-宇宙・地球・生命をつなぐ新しい視点」
  23. 日下 哉「図解 日本地形用語辞典 増補版」
  24. 青木栄一「鉄道の地理学」
Read books, repeat quotations.
Draw conclusions on the wall.
(Love Minus Zero over No Limit / Bob Dylan)

Linほか論文

2009-09-07 | 論文や雑誌
Linさんらと書いた台湾の扇状地と上流域の地形計測に関する論文が,Geologyに出ました.アメリカ地質学会が発行しているこの雑誌は,地質学の重要な発見を伝えるメディアとして知られており,コアな地質学の分野では最も高いインパクト・ファクター(約3.9)を持っています.ここにラボの成果が出たことを嬉しく思います.共著者には国立台湾大・地球科学教室のスターであるYue-Gau Chenと,「日本の扇状地博士」こと斉藤先生も入っています.

通常,扇状地や流域といった地形の傾斜は,地形の面積が大きくなるほど小さくなる傾向があり,その関係は負の指数を持つべき関数で表されてきました.しかし,台湾中央山脈に発する流域とその下方の扇状地では,このような関係が成立せず,地形の規模によらず傾斜が一定になる傾向が認められました.この原因として,激しい隆起と侵食のために,臨界角に達した斜面が山地全体で卓越することと,大流域においても斜面から生産された土砂が効率的に運ばれるために,土砂と水の流出の特徴が流域の規模によらず類似していることを指摘しました.

この仕事は,Linさんが博士課程を修了後,学振の外国人PDとして引き続きラボにいた際に行ったものです.僕がこれまで修士論文と博士論文の両方を指導した元学生は,LinさんとHaya君の2名ですが,共に国際的な研究者になってくれて,嬉しく思います.

なお,日本では地形学は主に地理学関係の学科で研究されていますが,アメリカなどでは地質学の学科でも研究されています.したがって国外では,今回のように地形学の論文が地質学の雑誌に載ることがしばしばあります.

I'm a little gem in geology.
(I Don't Know Enough About You / Diana Krall)

ウィリー・ウィリー

2009-08-30 | 論文や雑誌
雑誌「地理」の9月号に「ウィリー・ウィリーは熱帯低気圧ではない-用語法の変化に乗り遅れた日本」という記事をzaikoさんと書きました.高校の地理で「オーストラリアの熱帯低気圧はウィリー・ウィリー」と教わった人が多いと思います.文部科学省検定済の高校用地図帳にも記載があります.ところが国際学会の際に,オーストラリア人がウィリー・ウィリーと呼ぶのは熱帯低気圧ではなく,小規模なつむじ風や竜巻であることを知りました.

その後,オーストラリアの古い新聞などの資料を調べ,上の誤りが生じた背景を検討しました.おもな結果は以下の通りです.

1)19世紀末~1930年代前半には,オーストラリアの気象局や新聞が,国の北~西部に来る熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと呼んでいた.この呼び方は北西部の方言に由来するらしい.

2)その後,この用語法は急速に廃れ,1940年代以降にはウィリー・ウィリーはつむじ風や竜巻のみを指すようになった.

3)日本やアメリカでは,現地での用語法の変化が認識されず,古い情報が繰り返し引用されたため,ウィリー・ウィリーは熱帯低気圧だと信じられ続けた.

4)日本の高校用地図帳がオーストラリアの熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと記載し始めたのは,現地ではこの用語法が既に消滅していた1970~80年代である.また,オーストラリアの古い用語法とは異なり,国の東部に来る熱帯低気圧にも使うという二重の誤りが生じた場合がある.

5)最近,ウィリー・ウィリーの用語法に関する誤りが日本でも認識されはじめ,一部の地図帳の内容やウィキペディアの記事などが改善された.

6)1930年代にオーストラリアでウィリー・ウィリーの用語法が急変した理由として,国の北部~西部で行われていた帆船による真珠採りが衰退し,ゴールドラッシュも終わったために,これらの地域で生じる気象災害への関心が減ったことが考えられる.

ウィリー・ウィリーの用語法について,ここまで詳しく調べた例は過去にないと思いますので,興味のある方には記事を読んでもらえると嬉しいです.なお,雑誌「地理」に掲載をお願いした理由は,高校の先生に広く読まれているためです.

There's no sun up in the sky.
Stormy weather.
(Stormy Weather / Willie Nelson)

追記:雑誌の記事に次の訂正があります.p109の中段 誤「帝国書院と東京書籍の地図帳で記載が始まった1987年」 正「帝国書院と東京書籍の地図帳で記載が始まった時期に相当する1987年」

Haya君との共著

2009-08-24 | 論文や雑誌
過去2回の記事で取り上げたGeomorphologyの特集号には,haya君との共著も出ています.Linさんとの共著と位置づけが似ていて,数年前の論文で紹介した手法を広域に適用したというものです.対象地域は日本全国で,河川の中の相対的な急な部分であるknickzoneの分布を調べています.

急勾配の河川における流水の「揺らぎ」が,knickzoneの主な形成要因になっているというのが本論文の一つの結論です.これについて,知り合いのオーストラリア人の研究者であるアーサー・コネーカー(Arthur Conacher)氏から,さっそく問い合わせのメールが来ました.論文を読んだが,自分は急流域のknickzoneは地質かテクトニクスの影響で出来ると思っていた.それは間違いだったのかと.haya君が返事を書いたところ,日本では上流域でも洪水流量が大きいという事実を忘れていた,オーストラリアとは常識が違う,という返信がありました.

ところでhaya君は現在29歳ですが,今回出た論文は,彼がインパクト・ファクターのある雑誌に筆頭著者として書いた10本目の論文です.20代で真っ当な国際誌に筆頭10本は,偉大な記録です.僕はこれを「オリンピック」と呼んでいます.常人にはレベルが高すぎるという意味です.日本の地球科学者で他に実現した人がいるでしょうか? もしいたとしても,ほんの一握りのはずです.

haya君の修士・博士論文を指導したのは僕ですが,上記の10本のうち僕が著者に入っているのは4本のみです.つまり,haya君が多様なコネクションを活用し,自力で研究を広く展開していったわけで,実に素晴らしいです.

なお,上記の記録の実現には,haya君が酒を飲まないことが寄与していると思います.飲むと一日が終わってしまいます.僕も飲まなければ,オリンピックは無理でも国体には出られたかもしれません.

いずれにせよ,偉大な若手と仕事を出来ることは幸せです.

I'll do things you've never seen.
(Passion for Publication / Anarbor)

Linさんとの共著

2009-08-21 | 論文や雑誌
前回の記事に書いたGeomorphologyの特集号に,Linさんとの共著が出ました.起伏や地質が異なる多数の河川流域の縦断面形と横断面形の特徴を,統計的に分析したものです.Linさんの博論の一部です.

2006年に,同じテーマに関する論文を,やはりLinさんと共著で発表しました.その際は手法の紹介が中心で,適用は1地域のみでした.今回は手法を6地域に適用し,デジタル標高モデル(DEM)も解像度が異なる2種類を用いています.

流域もしくは河川の縦断面形に関する研究は多数ありますが,横断面形の研究はデータの取得対象が一気に増えることもあり,あまり行われていません.一方で横断面形は古典的な課題で,たとえばV字谷やU字谷といった谷の横断面形に関する用語は,一般人にも広く知られています.

最終的に得られた主な結果は,起伏の大きな流域では地形の均整がとれていることと,小~中起伏の流域では地質の影響も重要というものです.ある意味では予測可能な内容ですが,そこに至る研究の経緯は複雑で,新しい手法や指標をいろいろ導入する必要がありました.この論文が今後の研究に一つの指針を与えてくれればと願っています.

先週,つくばの産総研に勤務しているLinさんが研究室に来てくれました.久しぶりにお会いしましたが,とても元気でした.一方,僕には「疲れていますね」というコメントが来ました.確かにそうで,パソコンや査読の連続で眼精疲労がひどく,さらに軽い夏風邪もひいていて,さえない状況でした.

今は少し復活しましたが,原稿の締め切り等いろいろ義務があり,長く休んで完全復活という状況は望めません.でも,論文が出ると,少し元気も出ます.

なお,今回は自分がゲスト・エディタになっている特集号に,自分が著者に含まれる論文が出ています.このような論文のハンドリングは別のエディタが担当し,その内容はエディタ間であっても秘密となります.これは通常号でも同様で,僕が著者に含まれる論文の原稿は,テーマ的には僕の担当であっても,必ず他のエディタが扱います.

She cast the compass round.
(Tam Lin / Steeleye Span)

5年インパクトファクター・アイゲンファクター

2009-07-04 | 論文や雑誌
間もなくメルボルンで国際地形学会議が開かれます.その際に,雑誌Geomorphologyの編集委員会も開かれます.そのための資料として,インパクトファクター(IF)などの情報をまとめています.

最近トムソンロイターは,雑誌の質を示す指標として「5年IF」と「アイゲンファクター(EF)」を追加しました.前者は,過去5年間に発表された論文の平均的な引用状況を示し,従来のIFが過去2年間の論文を対象とするのとは異なります.論文が引用されるまでの時間が長めの地球科学では,5年IFが従来のIFよりも上がる傾向があります.Geomorphologyの場合も,IFは2.339,5年IFは2.675です.

Geomorphologyと最も似た雑誌は,WileyのEarth Surface Processes and Landforms (ESPL)で,一種のライバルです.ESPLのIFは1.716,5年IFは2.196なので,我々が少し上にいます.

一方EFは,自誌を除く重要な雑誌での引用と,掲載論文の数を反映する指標です.僕は以前から,ある雑誌が学問に与える総インパクトの指標として,雑誌の規模を考慮した積分値が必要と思っていました.IFは論文一本あたりの値なので,雑誌の規模は反映されません.GeomorphologyはESPLよりも多数の論文を掲載しています.これを反映し,GeomorphologyLのEFはESPLよりもかなり高くなっています(0.01768と0.00930).

さらに,EFを論文数で割ったArticle Influence Scoreという指標も提案されています.これも,Geomorphologyの方がESPLよりも少し上です.

結局,各指標でGeomorphologyがESPLよりも上という資料を示せることになり,ちょっと嬉しいです.ただし値は毎年変動し,たとえば昨年はESPLの方がIFが少し高かったので,来年どうなるかはわかりません.また,今回の学会ではWileyがブースでプロモーションを行うのに対し,Elsevierは諸事情により行わないので,宣伝では完全に負けます.

実際には,複数の雑誌が学問を盛り上げるべきなので,勝ち負けで考える必要はありません.でも,「良きライバル」がいた方が,全体が向上しやすいのも事実です.

No one wants to be defeated.
(Beat It / Michael Jackson)

新インパクトファクター

2009-06-23 | 論文や雑誌
学術雑誌の最新のインパクトファクター(2008年版)が発表されました.我らがGeomorphologyの値は2.339!

実は最近の状況からみて,2を超える可能性があると予想していましたが,ここまで上がるとは(涙).最近6年間の経緯は画像の通りで,僕がエディタに加わった2003年には約1.3でしたが,徐々に値を上げ,昨年は1.854.そこから更にアップしました.地球科学では2を超える雑誌は少ないので,違う世界に来たような印象です.地形学の雑誌では初めてのはずです.

2007年の3月に,アムステルダムのエルゼビア本社に3人のエディタと数名の社員が集まり,雑誌の今後について議論したことがあります.その際に,もしインパクトファクターが2を超えたら素晴らしいと語っていましたが,単なる夢という感じでした.それが現実になるとは...

身近な人は見ていますが,僕はいつもGemorphologyの投稿原稿を抱えて,ふうふう言っています.よって,今回のように努力が報われる機会があると,とてもうれしいです.もちろん,僕が扱う論文は全体の一部なので,多くの人が協力して頑張った結果なのですが.

トムソンロイターに勤めているhさんが知らせてくれたお陰で,僕はリリースの直後に新しいインパクトファクターを知ることができました.そこで,他のエディターと編集委員に情報をメールで流しました.徐々に返信が届きつつあり,彼らも喜んでくれています.最近は,インパクトファクターを個人の評価に乱用するなという意見が強いですが,雑誌の評価に使えるのは事実です.したがって,雑誌の編集に関与している人には,値が重要です.

「2超」を祝して,編集委員かつ研究室OBのKH君(=Holyさま)と一杯飲みたいところですが,彼は名古屋にいるので,また改めて.とりあえず彼に感謝の一言を.「サポートどうもです.『美貌録』たまに見てます.30代中期に特有の症状が出ているようですが,体に気をつけて」.

Cause we've gone much further than I thought.
(If I Never See Your Face Again / Maroon 5)

人口と地形

2009-06-08 | 論文や雑誌
国勢調査のデータなどを配布しているシンフォニカ(Sinfonica, 財団法人統計情報研究開発センター)は,毎年1冊,「Sinfonica研究叢書」と呼ばれる本を出版しています.先日出版された今年の叢書は,研究室の何人かのメンバーが,筑波大の村山先生や専修大の江崎先生らと行った2つのプロジェクトの成果をまとめたものです.

本のタイトルは「人口・居住と自然-GISによる分析-」.主に人口の分布と,標高・傾斜などの地形特性との関係を扱っていて,過去に遡った分析も行っています.たとえば,都道府県ごとに地形と人口分布との関係がどのように異なり,それが何に起因するかや,高所の急傾斜地から低所の緩傾斜地への人口移動が活発になった時期を検討しています.シンフォニカから提供された貴重なデータも活用しています.

この仕事は,別個のものと思われがちな自然地理学と人文地理学を,意識して結びつけようとしたものです.かつて鈴木秀夫先生から,「自然と人間の関係を研究することが,形容詞のつかない真の地理学」と教わったことが強く印象に残っていて,それを少しでも具現したいと考えました.本の著者は総勢15名で,多数の方が趣旨に賛同してくれました.

この種の仕事は,普通の固い研究ネタとは違い,査読論文にするのは難しい面があります.よって,書籍を通じて結果を広く公表できたことは,とてもありがたいです.

So come in, we're all inside of nothing.
The place where we live our lives.
(Sesame Shmesame / Early November)

岩田君

2009-06-03 | 論文や雑誌
OBの岩田君との共著がGeographical Researchに出ました.内容は鎌倉の土地利用変化で,GISを活用して主成分分析などを行い,法的規制や都市化との関係を論じています.地形の効果も少し検討していますが,基本的には人文地理学の論文です.

岩田君は卒論を僕の研究室で書き,研究員としてさらに半年滞在した後,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に進学して修士号を取得しました.その後帰国し,今は日本政策投資銀行に勤めています.今回の論文は岩田君の卒論を骨子としています.研究の中身が立派だったとはいえ,卒論がインパクト・ファクターを持つ国際誌に出るのは珍しいです.身近なところではhaya君が実現していますが,希少な例といえます.

実はこの論文,投稿から受理まで丸2年かかっています.査読のコメントが厳しかったためではありません.最初の査読結果が戻ってきた際には,その好意的な内容からみて,直した原稿を提出すれば受理されると思いました.ところが,その後に予期せぬ事態が発生し,受理が大幅に遅れました.事態は実に奇妙で,当初は頭を抱えましたが,岩田君と相談し,「解放の神学」と称する作戦を展開しました.複数の友人の支援も得て,最終的には解決しましたが,それなりの努力が必要でした.

岩田君は先日結婚しました.結果論になりますが,ほぼ同時に出版された論文は良い記念になるでしょう.僕にとっても思い出に強く残る論文になりそうです.

To everything, turn, turn, turn.
There is a season, turn, turn, turn.
And a time for every purpose under heaven.
(Turn! Turn! Turn! / Byrds)

Wang et al.

2009-05-09 | 論文や雑誌
中国海洋大学の王永紅(Yonghong Wang)さんらとの共著論文が,Marine Geologyに出ました.揚子江と黄河の河口堆積物の磁気的性質を分析し,両河川からの土砂供給が東シナ海の大陸棚の堆積物に与える影響を論じたものです.海に関する論文は,僕にとって初めてです.

僕は,本論文で使われた堆積物の採取や分析には全く関与していませんが,ちょっと変わった経緯で共著者になりました.一昨年の10月に,青島にある中国海洋大学を訪問した際に,王さんが「読んでほしい」と言って論文の草稿を僕に渡しました.研究の内容は僕が一方的に勉強すべきものでしたが,論文の構成,データの処理,論旨展開等について改善案を示しました.その結果,著者として名前を連ねることになりました.

王さんとは5年前に上海で開かれた学会で知り合いました.彼女が浅海の地形をGISで分析した研究を発表し,それに僕がコメントしたのが交流の始まりです.もし,発表の内容が堆積物の磁気的性質の類であれば,僕がコメントすることはなく,知人にもならなかったでしょう.王さんは,オーストラリアの珊瑚礁の水質をリモセンで調べた論文も公表しています.対象は一貫して海ですが,いろいろなことに挑戦しています.研究者は引き出しが多い方が,人との交流の機会が増えます.

There are many things that I would like to know.
And there are many places that I wish to go.
(Acquiesce / Oasis)

Sasaki et al.

2008-12-03 | 論文や雑誌
元空間センターのPDで,今は広島の大学にいる佐々木さんと書いたGIS教育に関する論文が,International Research in Geographical and Environmental Education に出ました.岡部先生,貞広さんも共著者です.

この論文の経緯はちょと複雑です.岡部先生のプロジェクトのために,2006年末に佐々木さんとシンガポールに行き,大学におけるGIS教育の調査をしました.事前にシンガポール国立大学の知人に連絡したところ,同じ頃に開かれる東南アジア地理学会への参加を勧められました.そこで,佐々木さんの日本のGIS教育に関する発表と,僕の水質関係の発表を申し込みました.学会の後,佐々木さんが発表したセッションでは,雑誌の特集号が企画されました.

特集号への投稿案内が来たときには,国際誌と書いてはありましたが雑誌名は不明で,ちょっと変な感じでした.原稿のフォーマットをどうすべきかもわからないし... それでも原稿を送ってみたところ,ちゃんとした出版社(Taylor & Francis)の雑誌に掲載となり,結果オーライでした.

シンガポールでは,初日の夜に露店で買ったビールを大通りの脇に座って飲んだことが,とても印象に残っています.冬の日本から暖かい南に行ったため,独特の安堵感がありました.もちろん調査も有意義でしたが...

If we escape annihilation.
Not only hope but education.
(Another Day / Sting)

48万

2008-11-13 | 論文や雑誌
雑誌Geomorphologyの編集に関連して,ときどきElsevierから資料が送られてきますが,最近届いたもので驚いたのが,論文のダウンロードの件数.過去1年間で約48万件! これはアブストラクトだけの閲覧は含まず,論文本体のpdfに関する数です.地形学はそれほどメジャーな学問分野ではないし,たった一つの雑誌に関する数字なので,本当にびっくり.

これだけ世界中で読まれているので,いい加減な編集はできないと,気持ちを新たにしました.でも,日本人的な完璧主義でやろうとしても,僕が英語を完全にチェックするのは無理なので,あまり気負ってもダメ.

ちなみに,ダウンロードの上位5ヶ国は,合衆国,英国,中国,イラン,フランスの順で,上位3つは妥当ですが,4位は実に意外.

実際,イランからはそれなりに投稿が来ますが,残念ながら受理されるものは少数です.原稿の書き方からみて,まだ科学が全体として未成熟という印象を持っていますが,たくさんダウンロードして勉強しているので,いずれ状況が変わるでしょう.頑張れ!

For the loser now will be later to win.
For the times they are a-changin'.
(The Times They Are A-Changin' / Bob Dylan)

嬉しかったこと

2008-10-02 | 論文や雑誌
9月は記事が一つだけでした.Ronさん,Kota君とのイタリア出張とか,Mori君の修論審査とかあって忙しかったのも事実だけれど,結局三日坊主なのでしょう.もっとも,このブログ,実はまだ非公開状態だから,モーチベーションが低いってのもある.

でも今日はどうしても書きたいことが! 某教科書会社(TK書院)が,中学・高校の地理教員の資料として出している「地形学習シート」に,昨年から地形写真の解説を書いていたのですが,このシートが会社が実施した年間のアンケートで,ダントツ1位の人気だったとのこと! アンケートの細かい内容はわからないのですが,ともあれ,嬉しかった.

学部の頃は高校教員になることも視野に入れていて,教育実習を含めて教員免許の取得に必要な単位を一通り揃えました.その後,専門的な研究者になっていき,高校教育に接する機会はほとんどなくなったのですが,今回,間接的ですが高校教育に参加できていると実感できたのが,実に嬉しい.

もう一つ,中高の社会科における地理の中では,地形や気候といった自然の要素の扱いが,以前に比べて軽くなったと思っていたのですが,今でも地形がちゃんと必要とされていることがわかり,これもまた嬉しい.

この地形学習シートですが,次は甲府盆地の扇状地の解説を書くことになっています.やる気も出るけど,ここまで評判が良かったと聞くと,ちょっと意識しちゃうかも.文章は気張らずに自然体で書くのが,一番良いのだけれど.

Haya君 et al.

2008-09-20 | 論文や雑誌
Haya君,Linさんと書いた論文がGeophysical Research Lettersに出ました.このアメリカ地球物理学会の雑誌に出したのは初めてなので,ちょっと感動.地理系の人はあまり書かないのですが,昔Zaikoさんから別刷りをもらって,おやかっこいい,と思ったこともあったし.

この雑誌,以前に論文の査読を頼まれ,「2週間でやれ」と言われ,びっくり.最短でも1ヶ月でしょ! しかも1週間くらいたったら,「締め切り近し」とかってリマインダが来る.恐ろし!

しかし,この高速システムのお陰で,今回は投稿から受理まで信じられないスピードでした.仮にリジェクトされたとしても,早く結果が出れば,次の手が早く打てるようになるので,これは良いかも.また何か出してみようかな.

What a beautiful world this will be.
What a glorious time to be free.
(I.G.Y = International Geophysical Year / Donald Fagen)

第100巻

2008-08-26 | 論文や雑誌
帰省等でしばらく書けませんでした.前の記事にあるAkikoさんの論文ですが,記念すべきGeomorphologyの第100巻に掲載されたものです.というのも,これはGeomorphologyの前のEditorだったリバプール大学のHarvey氏の退官記念特集号に掲載されたもので,その特集号を第100巻に合わせたという経緯があります.

第100巻というと,100年も続いている雑誌か! と思うかもしれませんが,1987年創刊です.Elsevierのポリシーなんでしょうが,1巻は4号で構成されるとみなすので,今は一ヶ月に2号出るGeomorphologyは,2ヶ月ごとに次の巻に進みます.ちょっとインチキかな.

なお,リバプールで開かれた,Harvey氏の退官記念の学会では,Akikoさんは既に就職していたので,同じ論文の内容を僕が口頭発表しました.その際にお土産で,さいたま市のジョン・レノン・ミュージアムのマグカップを持って行ったら,大ウケでした.いくら小野洋子がいても,彼らにとってレノンはリバプールの人なので,ironicalだったようです.

Cause these one hundred proof memories are stronger than wine.
It don't take but one taste to send you out of mind.
(Hundred Proof Memories / George Jones)