地形学とGIS / Geomorphology & GIS

ある研究者の活動と思考の記録

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ウィリー・ウィリー

2009-08-30 | 論文や雑誌
雑誌「地理」の9月号に「ウィリー・ウィリーは熱帯低気圧ではない-用語法の変化に乗り遅れた日本」という記事をzaikoさんと書きました.高校の地理で「オーストラリアの熱帯低気圧はウィリー・ウィリー」と教わった人が多いと思います.文部科学省検定済の高校用地図帳にも記載があります.ところが国際学会の際に,オーストラリア人がウィリー・ウィリーと呼ぶのは熱帯低気圧ではなく,小規模なつむじ風や竜巻であることを知りました.

その後,オーストラリアの古い新聞などの資料を調べ,上の誤りが生じた背景を検討しました.おもな結果は以下の通りです.

1)19世紀末~1930年代前半には,オーストラリアの気象局や新聞が,国の北~西部に来る熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと呼んでいた.この呼び方は北西部の方言に由来するらしい.

2)その後,この用語法は急速に廃れ,1940年代以降にはウィリー・ウィリーはつむじ風や竜巻のみを指すようになった.

3)日本やアメリカでは,現地での用語法の変化が認識されず,古い情報が繰り返し引用されたため,ウィリー・ウィリーは熱帯低気圧だと信じられ続けた.

4)日本の高校用地図帳がオーストラリアの熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと記載し始めたのは,現地ではこの用語法が既に消滅していた1970~80年代である.また,オーストラリアの古い用語法とは異なり,国の東部に来る熱帯低気圧にも使うという二重の誤りが生じた場合がある.

5)最近,ウィリー・ウィリーの用語法に関する誤りが日本でも認識されはじめ,一部の地図帳の内容やウィキペディアの記事などが改善された.

6)1930年代にオーストラリアでウィリー・ウィリーの用語法が急変した理由として,国の北部~西部で行われていた帆船による真珠採りが衰退し,ゴールドラッシュも終わったために,これらの地域で生じる気象災害への関心が減ったことが考えられる.

ウィリー・ウィリーの用語法について,ここまで詳しく調べた例は過去にないと思いますので,興味のある方には記事を読んでもらえると嬉しいです.なお,雑誌「地理」に掲載をお願いした理由は,高校の先生に広く読まれているためです.

There's no sun up in the sky.
Stormy weather.
(Stormy Weather / Willie Nelson)

追記:雑誌の記事に次の訂正があります.p109の中段 誤「帝国書院と東京書籍の地図帳で記載が始まった1987年」 正「帝国書院と東京書籍の地図帳で記載が始まった時期に相当する1987年」
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ウィリー・ウィリーについて (田代 博)
2009-08-30 10:36:33
小口先生、拝見しました。こういう誤った用語の訂正は教育現場にいる者として大変ありがたいですね。「ウィキペディアの記事などが改善された」というのも良いことです。高校生にレポートを書かせると、随分沢山の生徒がウィキペディアから引用します。大学生も同様でしょうか。メルカトル図法について調べさせたことがあったのですが、ウィキペディアの誤った記述をそのままひっぱってくるので、がまんできず(^_^;)、私自身が訂正の書き込みをしました(「山尾望」の「ペンネーム」で書いています)。
 今やウィキペディアを否定できないと思います(使ってはいけないなどとは言えない時代だと思います)。大学の先生方をはじめ、専門家に積極的に関わって欲しいと考えています。
 地理に限らないのかもしれませんが、あいまいなor間違ったまま使われていることが随分ありますね。
 私が関心を持っている地図の分野では、先に書いたメルカトルの出身地以外にも沢山あります。ちょっと例をあげてみます。
 ガル図法→ゴール図法とすべき(ドイツ人にガルという人がいるので混同したらしい)。
 モルワイデ図法の経線が楕円曲線→楕円 です。楕円曲線と楕円は別物です。サンソンの正弦曲線と併記することが多いので、ついつられて「曲線」をいれたのでしょう。
 正角図法=正形図法→微小な範囲でしか形が正しいとは言えません。形が正しい図法という表現自体ナンセンスでしょう。
 いずれ、雑誌「地理」で、誤ったor誤解されている地理用語特集でもしてくれると嬉しいですね(^_^)。
(長くなって申し訳ありません)
ウィリーとウィキ (OGU)
2009-08-31 20:52:41
田代先生,再びどうもです.

ウィキペディアのウィリー・ウィリーの記事は改善されたとはいえ,「熱帯低気圧の名称として浸透してしまった理由は不明である」と書いてある状況です.今回「地理」に出した記事では理由を書いていますので,それを踏まえた更新があると良いと思っています.

学生のウィキの利用について,このブログで私見を書いたことがあります.

http://blog.goo.ne.jp/geomorgis/e/9c46707eeafc934f808d28c8db02a5f1

僕もウィキは「使って良いが要注意」という立場です.レポートに使う際には,複数の記事を組み合わせるなど,学生自身が工夫すべきと考えています.

地理用語に関する誤解の類は,先生のホームページにも例が多数出ていますが,確かに印刷物でも知らせた方が良いですね.状況の改善には時間を要しますので.たとえば数年後の大学入試で,熱帯低気圧をウィリー・ウィリーと書いた学生がいても,減点は酷でしょう.授業や参考書の内容が古いことは,学生の責任ではないので.
ウィキ (OGU)
2009-09-12 06:15:32
田代先生に倣い,問題を感じていた僕自身がウィキにあるウィリーの記事を改良いたしました.「参考文献」として,この記事にもリンクを張りました.

ウィキの更新に広く関わるような時間はとれませんが,田代先生のご指摘のように,教育上必要なときには,我々も躊躇せずに関わった方が良いと思いました.
Willy Willy (GAO@Beijing)
2009-09-19 20:39:38
Still I don't understand willy willy very much. Sorry.
Will tell you (OGU)
2009-09-19 22:44:36
Hi Gao-san,

Thank you for your comment. In China, do you also use the term "Willy Willy" for tropical cyclones in Australia? If not, the story I wrote may be too complex for you. Anyway I will explain details next time I see you!

OGU@Taipei

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