弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

何が事実か?

2010年12月24日 | 政治、経済、社会問題

弁護士の仕事は、法律論が問題となることよりも
その前提の「事実がなにか」を見極めることにあるといっても過言
ではありません。

昼食のレストランは、全面ガラス張りの窓際の席でした。
ガラス越しに、オレンジと黄色に輝く大きな一本の木が見えます。
12月も終わりになっていますが、紅葉した葉っぱがまだまだ残っている
のです。
そういえば、今のところ、穏やかな冬です。
大雪に見舞われているヨーロッパの人達には申し訳ないかも?
などと、どうでもいいことを考えていました。

ふとガラス越しに前方に見える風景に何か見覚えがあるような気がしました。
でも、見覚えのある風景なら逆の方、すなわち後方にあるはずです。
今度は目を凝らしてじっくりと観察します。
アーチのようなものが見える、だとするとやっぱりおかしい。
確かめるために振り返ってみました。

前方と後方、全く同じ風景が2つあるのです。左右対称ですが。

一つは本物の風景です。
外に出て後方に見えた方向を見れば、窓越しに見えたのと同じ木が
太陽の日を受けて輝いています。
もうひとつはガラスに映った幻です。
ですから、外に出てみると全く違った景色が見えるだけです。

たまたま、私はそのレストラン近辺のことを知っていたので、
おかしいなと思い、後ろを振り返って確かめて、
ガラスのミラー効果に気付いたのですが、
もし、初めてのところだったとしたら、気がつかなかったでしょう。

誰かがだまそうと意図的にしたのではありません。

もし、後日、ガラスのマジックに気がつかなかった人が、
そのことを聞かれたとします。
経験した事実をありのままに話したとすると、
その人は決して嘘をついているわけではありませんが、
客観的には完全に嘘(間違った事実)を言っていることになるわけです。
しかし、本人は嘘をいっているわけではないので、極めて説得的で、
事実としては間違いだとはなかなか第三者にはわかりません。

もし、このことが白か黒かを決める決定的な事実だったとすると
いったい、どのようにして、この嘘ではない嘘を暴くか、暴くことが
できるかです。

弁護士というのは、ここまで極端ではないとしても
多かれ少なかれ、いつも、このような事態と真正面から向き合っているのです。

このように何が事実かを見極めることは、本当は不可能に近いほど
難しいのです。
このような緊張感を持っている弁護士は残念ながらあまり見受けられませんが・・

では、どうすればいいのか?

現場に足を運ぶこと、調査をし、証拠を見、各証拠間の矛盾点を調べ、納得いくまで
これを繰り返すことしかありません。

言葉で言うと簡単ですが、とても根気のいる作業です。
優秀といわれる弁護士は労苦を厭わずにこれをやっているはずです。

いずれにしても何が事実かを見つけるのは本当に難しいことです。