方向音痴はつらいよ

　「お父さんお母さんは何も言ってはくれないのですか？」

「ハハハ　弟のお嫁さんが、それを言うのです。

弟に　父母が何かガツンと言ってくれて、

弟が優しい紳士になってくれたら…

どんなに良い事でしょう……

　実際　弟は隣近所では人格者で通っているよです。

家庭内でも優しくて、思いやりがあって、いたわってくれる

そうなってくれたらと、弟のお嫁さんも思うのでしょう、

ハハ誰だって、そう思いますよ。

　義妹が父母を呼び出しているのは知っていましたが、

私達にも呼び出しの電話がありまして…」

「電話で今すぐに来てくれと、言ってくるのですか？」

「そうなんですよ、電話で　今すぐに家を出ても

二時間半掛かるよ。って言ったのですが、

それでも良い。すぐに来て！と言われまして、

夫と二人、出掛けたのです。

　電車とバスを乗り継いで行きましたよ。

2時間半かけて……

　もう、父母が来ていました。

キット呼び出されたんだと思います。

　それから　義妹の弟がこんな事を言った、あんな事をした、

延々と泣きながら言う事を聞きまして、

みんなで頭を下げて、聞いているだけです。

それしか出来ないじゃありませんか…

　弟が『ゴメンよ』と言いまして。

私達は帰宅。

キット義妹は何か弟にガツンと言ってほしいのでしょう

　何か言ったら　効くとか、効かないとか　

そういう次元では無いと思うのです…

それが義妹には理解出来ないんです。

理解したくも無いのかも知れません。

気持ちは分かります。

…だけど、怒り狂う弟に

何を言ったら良いのでしょねぇ…

…掛ける言葉なんて、有るんでしょうか？

　弟は頭の良い人です。

学生時代成績は良い方でしたし

漢字でも英語のスペルでも

3回も書けば覚えてしまいます。

暴言・暴力はいけないと、分からないはずは無いんです。

……どうして？って、どうしって？って

私も　分からないです……とまどうばかりです。」

　　　　　　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

方向音痴はつらいよ

　「他のご兄弟の卒業写真も

捨てられてしまったのでしょうか？

御兄弟はいらっしゃいますか？」

「私も、それが気になって、

弟が居るのですが、

弟にも何の相談も無かったのか、

電話して聞いたのです。

…これが、弟に電話するのは、

本当に怖いのです。」

「姉が弟に電話するのが、怖い？

どうして？」

「申し上げ辛いのですが…

弟の暴言・暴力が怖いのです。

弟は平気で女子供を殴るのです。

平気、と言うより　

殴れるチャンスを探してる…

イヤ、殴ろう！と　スキを探してる感じです。」

「あなたが、なにか殴られるような事を

言ったり、したりしていませんか？」

「母も、そう言う考え方です。

イジメられるのは　イジメられるだけの　

事をしてるからだ。と…

　子供の頃、母が『世の中は自分の写し鏡』と

教えてくれました。

　ニュースを見ていて、殺人事件とかがあると

母は『殺される人は、殺されるような事を

したから、殺される』と言いました。

　私が学校ではイジメられた、と言うと、

『イジメられるような事を

しているんじゃないか？』と

言われたものです。

　だけど、弟は黙ってテレビの方を向いて

座っている私を　後ろから殴ります。

　何で殴られるのか、私には　わかりません。

何も言ったり、したりしていないのですから…」

「いきなりですか？」

「いきなりですが、なんとなく弟のご機嫌が

悪いのは分かります。

　怖いですよ〜ハハハ

腹ペコ狼と同じ部屋に　縛られている子羊の気持ちです。

　怖くて、結局　弟にも父母は相談しなかったのか、

弟の卒業証書や卒業写真も捨てられてしまったのか、

父母が引っ越して行った後、

弟一家が実家に住んでいるのですが、

少しでも子供の頃の写真を取って置いてくれていないか、

聞く事が出来ませんでした。…情けないです…」

　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

方向音痴はつらいよ

　「父母がサ高住に引っ越して行ってしまった事は

何の話もなく。おどろきました。

　以前から　サ高住を検討してるとは言ってましたが

どこに決めたとか、いつ引っ越すとか、

全く知らせてくれなかったのです。

　こっちに私が引越して来てからも、一月に一回は

お邪魔して父母の顔は見るようにしていましたから

残念と言うか、悔しいと言うか……

私に知らせる機会はあったはずなのに……

　引っ越す前にお邪魔したときは、

(私は引っ越す前とは知らなかったのですよ？)

　父母は書道の先生で家に表装した書が沢山ありまして、

どれでもあげるよ　と母に言われたものですから

沢山は悪いと思いまして、これとこれを頂戴ね。

なんて会話をしたのですが。

　それが、どれもこれも全て捨ててしまったのです。

一つ残らず捨てたのです。

私が下さいと頼んだ物も、捨てたのです。

　ヒドイなぁ…と思うのは、私の

卒業証書も卒業写真も通信簿も

捨ててしまったことです。

父の趣味が写真だったので、私達の写真は

沢山あったのですが、産まれた時の写真から

子供の頃の写真も　全て捨てられてしまいました。

　捨てる前に、チョット一言

『捨てるよ』と声を掛けてくれたら……と

もう…残念で　残念でなりません。」

「それは、気の毒ですねぇ。

もう　拾いに行くわけにも　いきませんものねぇ…

そうだわ、紙に『捨てる前に声を掛けて下さい』って

書いて、壁に貼ればいいのよ。」

「はぁ……」

　　　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

方向音痴はつらいよ

　「今日はどの様な相談ですか。」

「ハイ、実家の父母はサ高住に入っちゃうわ、

義父は入院しちゃうわ、もう頭の中ゴチャゴチャで…」

「それは大変です。一つづつ伺いますよ。」

「ありがとうございます。

　義父の入院ですが、夜寝ていて　トイレに

起きようとして　ふらつき　床の間の柱に

オデコをぶつけたらしいのです。

それを　2回も繰り返すものですから　検査したら、

脳に水が貯まる病気だそうです。

　入院して　頭に貯まった水を取る手術をしまして、

　義母と義妹とお見舞いに行ったのですが、

　なんですか…義母が私に謝れ謝れって言うんですよ。

何をしてしまったのだろう…と思っていますと

よく　そういう事があるものですからハハハ

　看護師さんが入って来まして、これが患者さんの昼食。

お口から取れないので、胃ろうで　と説明してくれました。

気が付けば義母も義妹もいません。

　購買でオニギリを買って　義父の枕元で頂きました。

　そのうちに義母と義妹と戻って来まして

『ケメコさん、私達　病院内レストランに行って

お昼を頂いてきました。アンタもどうぞ。』

『私もお昼は済ませました。』

『ねぇねぇ、お昼何食べたの？』

『ん？オニギリ』

『ねぇねぇ、なんのオニギリ？』

『え～とねぇ、鮭とお赤飯。』

『ねぇねぇ、入院して　めでたいからお赤飯にしたの？』

って　言われまして…

　私　返事に困ってしまって……

　だけどヒドイと思いませんか？

自分の夫のお見舞いに来てくれている人を

置き去りにして、自分達だけレストランに

行くなんて……」

「チョット配慮が足らないと言うか、思いやりも無いと言うか…

そうだわ。紙に『自分達だけでレストランに行かないで下さい』って

書いて、壁に貼っておけばいいわよ。」

「……そうですか……」

　　　　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

方向音痴はつらいよ

　「オレ転勤になった。」

「オレだけ？」

「君も一緒だよ。ハハ」

「定年までここにいるんだから、

ここに家を買えって、役員さんが

言ってたじゃない。」

「あの役員辞めたんだよ。

辞めた途端に　会社の方針が変わって…

もう　朝令暮改でイヤになるよ。」

「そうかぁ、今度は京都が良いなぁ。」

「旅行に行くのと違うから、」

「一度　京都に住みたいんだけどなぁ…」

「本社。本社に戻るの。」

「本社？実家に同居したら、また　出て行けって

言われちゃうよ?」

「会社が借り上げ社宅制度で

アパートを借りてくれるから、

心配はいらないよ。」

「そうかぁ、たった3年だったね。

ここにいられたの。」

「うん。」

「良い所だったね。

食べ物美味しいし、山が近くて、

毎週アッチの温泉、コッチの温泉、楽しめたし。」

Happiness depends upon ourselves! Aristoteles

幸せかどうかは、自分次第だ。　　アリストテレス　

食べ物は「おいしい」と喜んで食べる。

する事は「楽しい」と喜んでする。

やる事は「うれしい」と喜んでするやる。　　　ケメコ

　　　　　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ