方向音痴はつらいよ

　「ただいま～。

結構、ガラス割れてるねぇ。

ごめんね。」

「あれ？ガラスが片付けてある。」

「殿が片付けてくれたんじゃないの？」

「いや、連絡を受けて、会社からそのまま

病院に行ったから…誰だろう？」

「ガラス大きく割れてるねぇ…

あれ？電話だよ？」

「はい。うん。オレ。

そうか、どうもありがとう。

もう大丈夫。

うん。今帰って来たところ。

………

割れたガラスを片付けてくれたのは

お袋と妹だって。」

「そうかぁ…悪い事しちゃったね。

……どうしちゃったんだろうねぇ？」

「うん…」

「私がガラスを割ったんだよねぇ？」

「…わからないの？」

「……どうして割ったんだろう？

頭にケガしてるから、頭で割ったんだろうねぇ…」

「……」

　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

The greatest glory in living lies not in

never falling, but in rising every time

we fall. 　 　Nelson Mandela

人生最高の誉れは、断じて転ばない事では無く

転んでも又起き上がり続ける事だ。

　　　　　　　ネルソン　マンデラ

方向音痴はつらいよ

　「遠くから、ガシャン　ガシャンと

ガラスの割れる音が聞こえてきたんです。

　窓ガラスが割れる音だ。

　段々近づいて来る。

　誰かが野良猫を捕まえて　窓ガラスに投げ付けて

窓ガラスを割って　回っているんだ。

そう思っている内に

ウチのアパートの　窓ガラスも割れて。

　きっとベランダに　投げ付けられた猫が

居るに違いない、

そう思ってべらンダをのぞくと　猫は居ません。

　でも　ウチの窓ガラスは割れています。

大きく割れたガラスには　血まで付いています。

気が付くと足元の畳に血が付いています。

　オデコがヒヤットしたので触ったら、血です。

ビックリして救急車を呼んで病院に来たんです。」

「ハイ、わかりました。黙って良いですよ。」

「義母が野良猫に餌をやるんですよ。」

「しーー。黙りましょ。」

「義母が私に謝れ、謝れって言うんです。

今度また同居するのに、イヤなもので、

電話を掛けて、私は何を謝ったら良いですか？と

聞いたら、電話に義妹が出て『もういい加減に

して頂戴！』って言って、電話切られちゃって、

　私は同居はイヤだ。

義兄が住んでいるんですよ？

義妹が週に２回も来るんですよ？

私は…」

「しーーー。黙りましょ。

ア。ご主人ですか？今　点滴をしています。

まだ錯乱していますが、直に落ち着きます。」

「お世話になります。

　入院ですか？」

「大丈夫ですよ。

点滴が済んだら、帰れます。」

「それは良かった。ありがとうございます。」

　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

方向音痴はつらいよ

　「オレ、メマイが辛くて…

会社を早期退職したいと思う。」

「メマイ、そんなにヒドイの？

どんなに遠くの病院でもいいから。

メマイの権威に診てもらおう。

病院を探そう。

私も一緒に病院に行くから。」

「耳鼻科にも行った。

脳神経外科にも行った。

精神科にも心療内科にも、

その度に検査して…

この間も、総合病院で診てもらったじゃないか。

先生に『ここまで検査を尽くして、どこにも異常が

見付からない、こうなると、もはや病気と

言えないのでは無いですか？つまり

西洋医学ではどうしようもないと言えると思います』って

言われたじゃない。

　どんなに病院を探し回って

メマイの権威に観てもらっても、治るとか

治らないとか、もう、そう言う事では無いんだよ。」

「そうかぁ…

　無理して今まで勤めてくれて　ありがとう。

　早期退職して下さい。」

「退職金だけど　オレの好きな様に使っていいか？」

「ハハハハ　勿論だよ。殿が働いて、殿がもらって、

殿が使うのに、私に　断る事なんか無いよ。」

「実家の土地を買ってくれって、おふくろに

言われてるんだ。」

「前から地主さんが買ってくれって

言ってきていたんだよね。」

「最初は兄貴に買ってくれって言ってたんだけど、

兄貴がダメなもんだから、オレに話が回ってきた。」

「お義兄さんは自分の息子達の入学金も払えなくて

お義母さんが払ったって　言ってたもの。

　だけど、実家の土地を買うって事は、

マサカの同居？

　同居すれば、又　出て行けと言われるよ？」

「ハハハ　それは　大丈夫。

オレの土地だから。出て行けなんて言われないよ。」

「そうかなぁ…それなら良いんだけど…」

　　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

Living well is the best revenge.

『優雅に生きることが最良の復習である』スペインのことわざ

方向音痴はつらいよ

　「お義母さん、長女華子の結婚が決まりました。

お義兄さん一家4人の招待状を出しましたが

4人で出席して頂けますか？」

「イエネ、結婚祝いを出せないって、相談されたのよ。

だから、夫婦二人分の3万円なら私が出して上げるから

二人だけ出席にしなさいって、言っておきました。」

「そうですか…お義兄さん、まだ　お仕事が？」

「鷹乃羽荘近くの総合病院にコンビニが出来て

そこの店長を募集していたのに、応募して

コンビニ店長になったものですから、

ああ良かった、これでやっと安心できると思ったら、

私に何の相談もなく　辞めたらしいのよ。

…本当にいくつになっても　子供は心配…」

「お義母さんに相談もしなかったのですか？

　華子の結婚式ですが、お義父さんの招待状も出してって

華子に頼んだのですが｡」

「イエネ、退院から　そのまま老人ホームに

入れましたからね。とても連れてはいけませんよ。」

「無理ですか…」

「もう、何も分からないし、車椅子生活ですからねぇ。」

「残念ですね。」

「そうですよ。

　ケメコさん。」

「ハイ。」

「イエネ、アンタ、謝ってないですよ。」

「？？？」

「ちゃんと謝ってほしいですよ。」

　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

　何を謝るのか聞くことが出来たら良いんだけど…

　聞いて、とんでも無い事を言われるのが怖くって…

　　　　　　　　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

方向音痴はつらいよ

　「弟さんはそういう人!　そういう人なんだ。」

「……はあ……」

「毎日、おウチでは、何をしてますか？」

「ハイ、転勤から帰って来て　仕事には復帰出来ず、

気持ちを穏やかにしよう、と『写仏』やったり

『写経』したりしています。」

「いかがですか？『写仏』や『写経』は。」

「『写経』やって驚いたのは、『般若心経』に有名な

『色即是空　空即是色』があったのはもちろんですが、

『不生不滅　不垢不浄　不増不減』に驚きました。

　　生じる事も　滅する事もない。

　　けがれもなく　きよらかもない。

　　増えもせず　減りもしない。　って言うんですよ？」

「チョットわかりません。」

「ハハハ　私、相当わかりません。

　ニュースで東日本大震災の被災者の方が

『延命十句観音経』を唱えていらっしゃると

聞いたので、『延命十句観音経』を調べたら、これも驚きました、

『与仏有因　与仏有縁』

　　仏様と同じ因をいただき、

　　仏様と同じ縁をいただいています。って意味なんですって、

スゴイですよね。

　『歎異抄』を読んだら、

『御恩うれしや　南無阿弥陀仏』と唱えるんですって。

　だけど、どうしたらお坊さんのお話を

聞けるのでしょうね？

教会なら、入って行くと『どうされました？』とか

声を掛けてくださるんですが、

お寺にも入って行っても、『どうされました？』とか

声を掛けては頂けないですものね。」

「お墓参りだと思われるんじゃない？」

「ハハ、お墓参りか。そうですねぇ。」

「心が少しでも落ち着くといいですね。」

「ハイ、少しで良いから穏やかに　落ち着いて欲しいです。

　お経も『読書百遍意自ずから通ず』と言いますから

100ぺん読んでみます。ありがとうございました。」

　　　　　┐(´д｀)┌ﾔﾚﾔﾚ

「有ろじより無ろじへ帰る一休み

雨ふらばふれ　風ふかば吹け」　　一休宗純