3.本件のような整理解雇については、労働者に特段の責められるべき理由がないのに使用者の都合により一方的になされるものなので、業績悪化などの場合にその必要性を認めるなど、これまでの判例では慎重な判断が求められていました。
しかし、本判決は、財団の財政状況について「負債はなく安定している」、「事業面では規模が小さく収益力は高くはない」とし、「賞与も支払うことができないほど財政が逼迫しているとは考えられない」として賞与の支払いを命じながらも、被告の事業方針の転換(事業の縮小特化)について、被告の経営者は「被告の運営に関する裁量権を有している」から「その判断が常識を逸脱するようなものでない限り、これに容喙(横から差し出ぐちをすること)すべきものではない」とし、「事業特化を行うとすれば解雇以外に途はない」などとして、解雇を有効としたものであり、労働者の立場を全く無視したものです。
また、本判決は、「たとえ原告らの請求に全面的な理由があっても、事業者に既に廃止した事業を再開することを求めることはできない」から「労働契約上の地位を確認することはできない」としています。このような解雇無効でも労働契約上の地位を確認する判決は出せないという判断は,これまでの判例にもない異常なものです。 実際には、記念会は、今年1月29日の口頭弁論終結後に、マスコミ上でも寄付金を募り、これから耐震補強工事と改修工事を行い、創立記念日の11月15日にリニューアルオープンすることを公表しています。その事業計画の中で、担当者をクビにして一旦は閉じた市川房枝政治参画センターを復活させるとしています。
4.原告らは1998年から女性ユニオン東京の組合員として、被告と団体交渉を積み重ね、働きやすい職場を実現させてきました。2006年の3月以降も賃金交渉を4回重ねていました。ところが被告は7月になって突然の事業方針の転換を発表し,そのわずか1ヵ月後に解雇を強行したのです。経済的に逼迫していたわけではなかったのに、被告は敢えて講座を中止し、職員をクビにしました。数多くの受講生の生きがいである講座を中止し、職員の生計の手段を突然絶つことに躊躇しなかった理由は、組合嫌悪、組合つぶしのほかには考えられませんが、本判決は、「(退職勧奨は)退職を前提とするものではあるが、解雇の回避に向けて一応の努力をした」,「退職勧奨を行っているから手続的に不相当とはいえない」としており,解雇回避努力や手続きの相当性についても,労働者の雇用の継続・確保について使用者は何ら責任を負わなくてよいとする誤った判決です。
5.本件は、女性の社会的・政治的地位向上を目指す市川房枝記念会でおきた整理解雇について「整理解雇の4要件」に欠け無効のものであることから地位の確認を求めました。市川房枝記念会の事業の縮小・特化は創設者市川房枝の意思にそむくものであり、数多くの女性たちの募金で建てられた婦選会館が本来の姿で再建されることを目指した訴訟でした。市川房枝記念会の財政状況は人員削減を必要とするものではなく、耐震診断結果についても、婦選会館の一時使用禁止は必要ありませんでした。そのことは、日本婦人有権者同盟が、この2年にわたって変わらず建物を使用していたことからも明らかです。講座は大きく儲かる事業でないとしても、健全に運営されており事業の特化の方針は誤りでした。しかし、原告の主張や原告の提出した証拠書類は厳正に検討されず、判決は「経営者の裁量権」のみ大きく認めました。このような手法がまかり通る社会になったら、労働者に人権は無いに等しいと言えるのではないでしょうか。
6.なぜ、現存の労働法やこれまでの判例法理でも守られているはずの原告の労働者としての権利を無視した被告の行為が裁かれなかったのでしょうか。それは、裁判官が証人尋問の最後に原告に発した次の質問、「結婚はされているのですね。」「ご主人の収入もあるということですか。」に現れています。女性の賃金は、「一家の生活を支える」とされる男性の賃金並には重視されず、その権利を侵害されても、夫の収入で生活できるだろうという扱いです。女性労働者の組合活動にたいする雇用者側の不当な行為についても男性労働者並には扱われないのではないかという疑問を持たざるを得ません。働く女性の人権より、「経営者の裁量権」を優先した本判決は、労働者の人権と並び女性の人権を軽視したものと言えます。
社会的な貧困、格差社会が問題になっている中で、経営者の裁量権を拡大する本判決に対し厳重に抗議します。
以上
2008年5月1日
市川房枝記念会の不当解雇を撤回し、
婦選会館を再生させる会(市川房枝ルネッサンス)
弁護団 志村 新、井上幸夫、大竹寿幸
連絡先:〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-19-7 横山ビル2階 女性ユニオン東京気付FAX:03-3320-8093
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