Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

英国政府のEUのGDPR等の国内法化に向けた新情報保護法案の公表およびICOの契約ガイダンス(案)の意見公募等保護法制強化の動向(その1)

2017-10-10 15:36:52 | 消費者保護法制・法執行

 筆者は、2016年8月13日のブログで、「EU議会が『一般データ保護規則(正式には「EU General Data Protection Regulation (EU)2016/679」』(以下、”GDPR”という)」および「法執行・司法部門の情報保護指令(Directive(EU)2016/680」(以下「法執行指令(Law Enforcement Directive:(以下、”LED”という)」を採択した旨ならびにその内容について関係するローファームの解説サイト等を引用し、詳しく論じた。 (筆者注1) 

 一方、2017年9月14日、英国政府は「新しいデータ保護法案(Data Protection Bill)(以下、「法案」(Bill)という)」を議会に提出した。この法案は、英国の既存の「データ保護法(Data Protection Act 1998)(以下、「1998年法」という)」に代わるものであり、英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)に併せ、英国の国内法律にEUの”GDPR”を適用させることになる。”GDPR”により、EU加盟国は、法案が実施しようとしている”GDPR”の様々な条項を加盟国の法律により制定することができる。 

 この法案は、英国法に”GDPR”を具体的に取り込むことに加えて、同時に欧州議会で採択された「犯罪の予防(prevention)、捜査(investigation)、取り調べ(detection)および訴追(prosecution)の目的での政府当局による個人情報の処理に関するEUの「法執行指令(Law Enforcement Directive)」 (筆者注2)を取り込んだ規定を含む。 

 また、英国の情報保護機関である情報保護コミッショナー事務局(以下、「ICO」という)は、9月13日に「”GDPR”に基づいて情報管理者と処理者の間の契約に関するGDPR契約および責任に関するガイダンス草案(全28頁)」を公表した(以下、「ガイダンス」という)。ICOは10月10日まで同ガイダンスの意見公募を行っている。 

 今回のブログは、(1)英国政府の法案担当省であるデジタル・文化・メディア&スポーツ省の法案概要の解説内容、(2)議会上院(HL)の公式注釈の内容(EU離脱宣言の一方でEUの”GDPR”や法執行指令との整合性をかなり意識した内容である)を仮訳し、また(3)EU指令EU2016 / 680(法執行指令)に関する英国ICOの解説を述べ、最後に(4)ICOの”GDPR”に基づいて情報管理者と処理者の間の契約に関するGDPR契約および法的責任(liabilities)に関するガイダンス草案の概要を整理するものである。 

 なお、筆者が前記ブログでもとりあげた欧州委員会が実施した立法にあたっての「法案影響度評価(Impact Assessments)」は、英国ほかEUで法案策定にあたり当然行われるものであり、今回も厳格に行われているため、極力その内容についても具体的解説を試みた。また、後述の総務省報告書で言及されている通り、わが国でも平成27年度から政策評価審議会が発足し、その下部組織として、有識者による規制評価ワーキング・グループ(以下「規制評価WG」という。)が設置されたことから、規制評価WGと綿密に連携の上、調査を実施している。その検討結果は広く国民、企業活動等に大きな影響を持つ問題でありながら、その内容が広く国民、企業等には浸透していないことも事実である。今回はあえて詳しく言及しないが、機会を改めて論じたい。 

 今回は、4回に分けて掲載する。

1.Data Protection Bill法案の概要

 政府の法案の正式な注釈解説「 Data Protection Bill [HL] EXPLANATORY NOTESExplanatory notes to the Bill, prepared by the Department for Digital, Culture, Media and Sport and the Home Office, are published separately as HL Bill 66EN. は全218頁にわたる大部なものである。 

 このため、政府「デジタル・文化・メディア&スポーツ省」のサイトでは法案概要の説明用に「Data Protection Bill:Overview Factsheet」および「法案影響度調査(Impact Assessments)結果」を用意している。今回のブログでは、その仮訳を行うが、はっきり言って法案解説としては概案すぎて法案解説としてはあまり有益なものは思えないというのが本音である。 

(1) 情報保護法(Data Protection Bill)の改正案の概要(Factsheet – Overview) 

(ⅰ)政府は法案により何を行おうとしているのか?

① 現代はますます多くの個人データが処理されており、英国のデータ保護に関する法律をこのデジタル時代に適合させる。

② 個人が自身の個人データを主体的に管理できるようにする。

③ 法改正を通じて国際化を通じ、英国の企業や団体を支援する。

④ EU離脱後の英国が将来のために準備していることを確認する。 

(ⅱ) 政府は法改正により何をどうしたいのか?

① 1998年情報保護法を、英国における情報保護のための包括的で現代的な枠組みを提供する新しい法律で置き換え、違法行為に対する制裁を強化する。

② ”GDPR”に基づいて一般データを保護するための新しい基準を設定し、情報の使用をより詳細に管理し、個人データの移動または削除に関する新しい主体の権利を提供する。 

③ 英国の企業や組織が世界をリードする研究、金融サービス、ジャーナリズムや法律サービス分野を継続的にサポートできるように、情報保護法でうまく機能している既存の適合した例外は保持し、新しい法律に引き継ぐ。 

④ 英国が直面している世界的な脅威の変化する性質に対応できるようにしつつ、犠牲者、証人、容疑者の権利を守るため、刑事司法機関や諜報機関を含む国家安全保障機関のニーズに合わせた個別の枠組みを提供する。 

(ⅲ) 法改正の背景

 データ保護法案は2017年6月21日の女王の演説(Qeen’s Speech:イギリスをはじめとする王国(君主国)において、国王が議会の開会式で全議員を集め、今後の政府の方針を演説する儀式である。この場合、朗読するのは国王であるが、その原稿は時の政府がその方針のもとに作成したもので、国王は代読する形になる。 国王演説後には、議会は国王が演説した政府の施政方針の内容について審議し、採決する)で発表された。 

 情報保護法の改正に関する政府の約束を実行するものである。

 1998年法はわれわれを満足させ、英国を世界的なデータ保護基準の前に置いた。この法案は、ますますデジタル化された経済と社会の目的に適合させるため、英国の情報保護法を近代化している。この法案の一環として、”Brexit”のために英国を準備するEUのGDPR基準を適用する予定である。 強力なデータ保護法と適切な保護措置を導入することで、企業は国際的な国境を越えて事業を展開することができる。これは最終的に世界貿易を支え、意欲的な貿易相手国としての独自の道を築くためには、妨げられないデータ・フローを持つことは英国にとって不可欠である。我々は、現代的で革新的な個人情報の使用を継続しながら、個人情報に対する管理と保護を強化することを保証する。 

 法案の主な要素- 一般的なデータ処理は次のとおりである。

① 一般的なデータ処理全体にわたってGDPR標準を実装する。

② 英国の現在の状況下にあった”GDPR”の定義を明確にする。

③ 機微性の高い健康、社会福祉、教育のデータを継続的に処理して、健康の継続的な機密性を確保し、安全な保護の状況を維持できるようにする。

③ 国家安全保障上の目的を含む、強力な公共政策立案が行う場合には現在進行中の特定の処理を可能にするため個人情報のアクセスおよび削除の権利に適切な制限を設ける。

④ オンラインで個人情報を処理するために、親権者の同意が不要な年齢を13歳に設定する。 

(ⅳ) 法執行手続き

① 法執行の目的で、警察、検察、その他の刑事司法機関による個人情報の処理のための特別なオーダーメイドな制度(bespoke regime)を提供する。

② 個人情報を保護するための保護手段を提供する一方で、国際的な個人情報の移動、流れを妨げないようにする。 

(ⅴ) 英国の国家安全保障機関の個人情報の適切な処理

 国家情報機関による個人情報の処理を規制する法律が、現存する最新の国家安全保障上の脅威に諜報機関が引き続き取り組むことができる適切な保障措置を含め、最新の国際基準に沿った最新のものであることを保証する。 

(ⅵ) 法規制と法施行

① 情報保護法の規制と施行を継続的に行う情報保護コミッショナー(ICO)の追加権限を立法で規定する。

② ”ICO”に最も重大な個人データ漏えいの場合、データ管理者および処理者に対するより高額の行政罰金を課すことができることとするとともに、最も重大な法違反者に対しては最高17百万ポンド(2,000万ユーロ:約26億6,000万円)または対象者の全世界での総売上高の4%の罰金額を課すことができる。

③ ”ICO”に、データ管理者または処理者が、情報主体のアクセス要求に続く開示を阻止する目的で記録を改ざんしようとする犯罪に対して刑事訴訟を提起する権限を付与する。 

(2) Assessment(影響度評価)

 2017年9月7日、デジタル・文化・メディア&スポーツ省(関係省庁は内務省)の法案最終インパクト・アセスメント(Data Protection Bill: Summary assessment)の要旨部分のみを仮訳する。

 なお、英国の法案のインパクト・アセスメントの事前の理解が必須である。これに関し、わが国で参考になるものとしてあげられるものは「英国における規制の政策評価に関する調査研究報告書(平成28年3月)(総務省委託研究)」国土交通省国土技術政策総合研究所「規制インパクト評価 と わが国の規制評価の動き」筆者ブログ「欧州司法裁判所AGがGoogleを巡るEUデータ保護指令(95/46/EC)等の解釈をスペイン裁判所に意見書(その3完)」などである。 

A.法案Data Protection Bill: 影響評価書の要旨(仮訳)

 

 B.英国における影響評価書のフォーマットと記載内容

 前述の「英国における規制の政策評価に関する調査研究報告書(平成28年3月)(総務省委託研究)」8頁で.確認されたい。

   

 「英国における規制の政策評価に関する調査研究報告書」8「図表4:英国における影響評価書のフォーマットと記載内容」から引用 

(3) Hunton & Williams LLPのブログ「UK Government Introduces Draft Data Protection Bill to Parliament」が法案の重要点をまとめているので、以下、仮訳する。

 A.Billは以下の編のとおり構成され、”GDPR”や法執行指令に即して主要な条項を含んでいる。 

• 法案第2編では、”GDPR”を英国の法律に適合させた。 

• 法案第3編では、英国の法執行機関による個人情報の処理に関連する限り、法執行指令を英国の法律に適合させた。  

• 法案第4編では、英国の諜報機関や関係機関による個人情報の処理に関連する限りにおいて、法執行指令を英国の法律に適合させた。 

• 法案第5編では、本法案に規定された英国の新しいデータ保護制度に基づく英国”ICO”の役割に関する規定が含まれている。特に、この編では、”GDPR”に規定された調査、認可および勧告権限をICOに付与する旨明記した。 

• 法案第6編は、”ICO”による執行措置に関する規定を含む。この編では、”ICO”に、年間2,000万ユーロ(約26億円)または年間売上高の4%、あるいは1,000万ユーロまたは年間売上高の2%を超える法律違反に対する罰金を課す権限を”ICO”に付与した。  

B.【 附則1】では、”GDPR”に規定されているように、科学的または歴史的研究目的や統計的目的など、データ管理者に機密個人情報を処理できる追加の法的根拠を記載した。 

• 【附則2】と【附則3】は、”GDPR”で認められた情報主体に対するプライバシー通知を提供すること、ならびに、”GDPR”で認められた犯罪の取り調べや防止目的で個人情報が処理される際の情報主体の権利を維持するための要件に関して、追加的適用除外を定める。 

C. 国王の裁可により法案が正式に法律になる前に、法案は、英国議会の下院と下院の両方で承認されなければならない。国王の裁可(Royal Assent)の確定日はまだ規定化されてていないが、この法案は”GDPR”の2018年5月25日の効力発生日より前に施行する予定である。 

2.英国議会上院の2017年「情報保護法案(Data Protection Bill)」の公式注釈

 海外のローファームなども第1節で説明した英国政府の法案担当省であるデジタル・文化・メディア&スポーツ省の法案概要の解説のみでは法案解説としてきわめて不十分と考え、あえて英国議会上院事務局がまとめた公式注釈(Explanatory Notes)全文を仮訳する。なお、法案の解説なのでパラグラフ番号もあえて併記した。 

(1) 法案政策の背景 (Policy background)

 3 その情報から特定できる生存する個人に関連するデータからなる「個人情報」を保護するためには、情報保護法規制が必要である。個人情報保護に関する現在の英国の法律は、個人情報の処理を規制する「1998年情報保護法(Data Protection Act(以下、「1998年法」という)」である。1998年法は、情報が対象とする個人の権利を保護している。2017年保護法案は、これらの権利を更新するとともに、その権利行使をより簡単にし、かつ今日の技術のより高度なデータ処理の出現に関連して継続適用できることを確実にする。

  4 「2017年情報保護法案(Data Protection Bill: 以下、「法案」(Bill)という)」(筆者注5)は、1998年法に代わって英国における情報保護の包括的な法的枠組みを提供し、英国が正式にEUを離脱するまで「一般データ保護規制(EU General Data Protection Regulation)2016/679 (以下、「GDPR」という)」で補完される。  

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(筆者注1) 本ブログの原稿を執筆中に10月4日付けの法解説ブログInside Privacy「UK Government Publishes New Data Protection Bill 」を読んだ。筆者が調べた範囲外の解説内容もあり、改めて確認したい点もあったが、筆者のブログへのアップのタイミングがさらに遅れるので今回は省略する。 

(筆者注2) 英国議会の「国家情報保安委員会(Intelligence and Security Committee of Parliament:ISC)」は、1994 年制定のインテリジェンス・サービス法により設立された英国議会の機関で、政府合同情報委員会(JIC)を含む首相府のインテリジェンス関連業務を調査するほか、国防省の国防インテリジェンス部門と内務省の安全保障・カウンターテロリズム部門を監督する。委員会はこれら活動内容を議会に報告することになっているが、機微な国家安全保障案件について首相に直接報告することができる。委員は、2015年から2017年の委員数は9名である。(出所)同委員会HP〈http://isc.independent.gov.uk〉 (衆議院調査局調査員: 二見 輝 「英国議会におけるシリア軍事介入決議案否決の要因」) 注17を抜粋。

  なお、「2013年司法および安全保障法(Justice and Security Act 2013)」は、議会情報安全保障委員会に対し、下院議員と上院議員の両方から召集された9人のメンバーを所属させることを規定している。これら委員は、議会下院によって指名され、野党指導者と協議のうえ、首相の指名を最初に確保される。(筆者が追加仮訳) 

(筆者注3) One-In,Three-Out(OITO) :ある規制を導入する場合に、その企業への費用増分の3倍の費用削減を伴う規制緩和を行う考え方の範囲内又は範囲外かを判断する。範囲内であれば企業活動へ影響を及ぼすことになる。 

(筆者注4) EUの要求条件の最小基準とは具体的に何を指すのかが不明である。GDPBであるとすれば、注釈文で述べたとおり、法案はクリア(Yes)してなければならない。エビデンスを確認の上、改めて担当省に確認したい。 

(筆者注5) 2017年10月4日現在のData Protection Billの議会での審議経緯は以下のとおり。同一覧は議会専門サイトを参照。 

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カナダのオフショアー油田・ガス開発事業者および原発事業者にかかる損害賠償法の改正法が成立

2015-03-08 16:19:16 | 消費者保護法制・法執行



 Last Updated : April 30,2024

2月26日、カナダのハーパー政府のグレッグ・リックフォード相(Greg Rickford:天然資源担当大臣兼北部オンタリオにおける経済発展イニチアチブ担当大臣)は昨年、両院を通過していた標記法案(C-22)が国王の裁可により成立した旨発表した。 (筆者注1)

 

Greg Rickford 氏

 同法案は2014年1月30日に議会に上程されたもので、同日、カナダの天然資源省ジョー・オリバー相(Joe Oliver:現財務大臣)「エネルギー・安全性および保障法案( Energy Safety and Security Act)」を連邦議会に上程した旨発表した。この法律はカナダにおけるオフショアー油田・ガス開発事業者および原発事業者の損害発生に対する補償に関し、世界的レベルから見て通用する規制・監督システムを確実化するとともに、安全性や環境保護の強化を目指すものである。

Joe Oliver

 この連邦立法は、カナダ政府におけるノヴァ・スコテイア州(Province of Nova Scotia)、ニューファンドランド州(Provance of Newfoundland)およびラボラドール州(Provance of Laborador)の3州と共同して連邦法と各州法の調和の観点からオフショア事業者の賠償責任法の改正を目的とするもので、これら3州はこの数か月以内に連邦法のほぼ同一内容の立法(mirror legislation) (筆者注2)を行う予定である。

 今回の新法案の主旨は、(1)カナダのオフショアー油田・ガス開発事業者が負う賠償額、(2)カナダの原子力発電事業者の賠償額の引き上げ等を目的とするものである。

 わが国の原発依存度は約30%であるが、東日本大震災から誘発された原発の暴走、廃炉、放射能対策
(筆者注3)等がいまだに進んでいない一方で、全国17原子力発電所48基はまったく稼動していない。また、東電の事業者責任の範囲については「原子力損害賠償補償契約に関する法律(補償契約法)」の免責事由のあり方も含め適用範囲も明確ではないし、またわが国における公的補償のありかたも十分に論じられていないまま再稼動問題が話題となっている。 (筆者注4)(筆者注5)
 さらに、補償額の単純な比較も問題がある。つまり、わが国の原子力賠償法の上限は1,200億円(第7条)であり、一方、カナダの新賠償額は10億カナダドル(約950億円)というような比較である。カナダ法における免責自由の範囲、絶対責任規定ならびに監督機関の機能等も含めた包括的比較が必要であることは言うまでもない。

 カナダの原発依存度は約15%であるが、福島原発の大事故を真摯に受け止めつつ、その重大性から安全対策の強化、賠償額の見直しなどの積極的に取り組んでいる。

 本ブログはこれらの実情を明らかにするためまとめた。なお、筆者はこの分野はまったくの専門外である。誤解、補足も含め専門家による意見等を期待する。


1.法案上提時の政府の法案の説明要旨
 (1)カナダのオフショア油田・ガス田部門に関し、新法は太平洋オフショアの場合は、3,000万カナダドル(約28億5,000万円)から10億カナダドル(約950億円)に「絶対責任額」を引き上げ、また北極圏のオフショア油田・ガスについては4,000万カナダドル(約38億円)から10億カナダドル(約950億円)に引き上げる。
 なお、ここで記載された「絶対責任(absolute liability)」の法的意義につき「厳格(無過失)責任(strict liability)」と同義と説明している米国の法律用語サイトもあるので、ここで”USlegal””Uni study Guides””Duhaime legal Dictionary”の解説をもとに簡単に補足する。
「英米の不法行為法、刑法において、「厳格責任」とは法的有責性の有無に関わらず特定の人の作為・不作為により生じた損害または損失につき責任を負わせる法理である。一方、「絶対責任」には犯罪的行為または”actus reus”(”actus reus”とは、特定の法律によって犯罪または不法行為の構成要件として規定されている作為あるいは不作為があったという客観的な要件)が必要である。」 (筆者注6)

 また、事業者の「過失責任」については従来と同様、無限責任を負う。

 新法案は、 「1988年カナダ・ノヴァスコシア・オフショア石油資源の合意適用法(Canada-Nova Scotia Offshore Resources Petroleum Accord Implementation Act)」「1987年カナダ-ニューファンドランド太平洋資源の合意適用法(Canada-Newfoundland Atlantic Accrd Implementation Act)」「1985年カナダ原油およびガスの探検・開発事業法(Canada Oil and Gas Operation Act)」および「カナダ石油資源法(Canada Petroleum Resourses Act)」を改正するものである。

(2)原子力部門につき、新法案は事業者の絶対的賠償額の上限を75,000カナダドル(約712億円)から10億ドル(約950億円)に引き上げ、原発事故の損害にかかる「1997年原子力損害の補完的補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage:国際原子力機関で採択されたもの)」の国内法適用となる。

2.各分野別の改正目的とその背景
オフショア石油・ガス分野
(1)オフショア油田・ガス田部門の安全・賠償強化
 大西洋部分エリアの環境記録はすでに強固なものではある。世界的なレベルとの整合性を確保すべく、連邦政府、ノヴァスコシア、ニューファンドランドおよびラボラドール州政府は世界基準をクリアーできるオフショアにおける石油およびガスの探査と開発のため更新拡大のための法改正に合意した。今回提案する法案は①事故の阻止、②事故時の対処、③説明責任、④対処内容の透明性 (筆者注7)の4つのエリアに焦点をあてている。その具体的な法改正措置の内容は、2012年秋に公表された「2012年環境維持および持続可能性開発に関する委員会報告(2012 Fall Report of the Commissioner of the Environment and Sustainable Development)」の勧告内容を受けたものである。

 カナダの現行のオフショア事故の責任体制(Current Offshore Liability Regime)は次のとおりである。
・カナダの事故責任体制は「汚染者支払原則(pollutter pays principle)」 (筆者注8)に基づく。現在、汚染物質の流出につき不注意(fault)または過失(negligent) (筆者注9)に基づく場合は無限責任(absolute liability)が課される。さらに大西洋オフショアの場合、3,000万カナダドル(約28億5,000万円)、北極オフショアの場合は4,000万ドル(約38億円)の無過失責任が課される。この結果、不注意または過失の有無に関わらず、事業者は清浄化費用および決定された額までの損害額につき責任を負う。
 すべてのオフショア油田等掘削または生産活動を行おうとする提案者は、事故等による原油等の流失から生じる事業資金負担能力や損害賠償がカバーできるという証拠を提出しなければならない。すなわち、この資金力とは一般的にいうと資産、保険および潜在的保証(北極圏オフショアの場合は3,000万カナダドル(約28億5,000万円)、大西洋圏の場合は4,000万ドル(約38億円)の預託)からなる財政能力要件は2億5,000万カナダドル(約237億5,000万円)から5億カナダドル(約475億円)の幅で構成される。この預託金は、オフショア監督機関により、信用状(letter of credit L/C) (筆者注10)、保証または債券(bond)のかたちで保有される。

(2)オフショア事業の事業者賠償責任の強化
 前述のとおり。

(3)法案のハイライト
○事故の予防に関する措置の強化
①掘削、生産および開発を行う事業者に対する財政能力を10億カナダドルまで引き上げる。この改定はカナダのオフショア領域での活動に関する事故の予防や対処能力を持つ会社のみに対し大きな保証を与える。
②3つのオフショア石油施設委員会(Offshore Boards) (筆者注11)に対し、「2012年カナダ環境アセスメント法(Canadian Environmental Assessment Act 2012)」に基づき責任を有する監督機関となるに必要なツールを提供する。この改正は関係するすべてのオフショア石油開発プロジェクトは最もふさわしい立場にある監督機関により厳しい「2012年カナダ環境アセスメント法(AEAA 2012)」に基づく検査に直面することが確実になる。
③各委員会に法令違反に対する行政処分および罰金刑を科す権限を付与する。このことは、事故が大規模なものなる前の小規模な違反段階で対処できる完全な手段を提供することを保証する。

○事故時の対処監督内容の改善
①流出油処理剤(spill treating agent)の安全な使用によりネットでの環境面での援助を実現させる。このことは、規制監督機関がオフショアにおける石油流出時の対処策の一部として化学分散剤(chemical dispersats)または流出油処理剤の使用の認可を認める新たなツールを作り出すことである。
②規制監督機関に、1プロジェクト当り1億カナダドル(約95億円)または共同出資した基金2億5,000カナダドル(約237億5,000万円)につき直接かつ自由なアクセス権を認める。このことにより、規制監督機関は事故対応または被害者に対する補償が得られない場合に直ちに金融支援を行うことを保証する。

○より強固な責任
①汚染事業者の支払責任原則(polluter pays principle)を法律上明記する。これは、汚染者が明らかにかつ正式に責任を負うという原則を確立する。
②不注意(fault)または過失(negligent)が立証された場合、無限責任を負う原則を維持、補強する。
③大西洋オフショアの場合は3,000万カナダドル、北極圏の場合は4,000万カナダドルから10億カナダドルに絶対責任額を引き上げる。
④政府の環境破壊事業者への責任追求の根拠を与える。これは、生物種(species)、海岸線や公的資源保護を意図するいかなる損害賠償請求の実行をも確実とする。
⑤認可事業者(authorization holders)の契約者の活動に関して責任を負うという原則を確立する。これは、責任はより小さな企業においても自己責任を負うという点を確実化する。

○事業者や監督機関の透明性の強化
①一般国民が監督機関が管理する「緊急時計画」、「環境保護計画」およびその化の関係文書につきアクセス可能とする。これは、事故の阻止や仮に事故が起きた時に事業者が取るべき手順を見直し、理解することを確実にする。
②2以上の監督機関の管轄権が分かれる行政の境界線をまたぐ分野につき、一体化した管理ができるメカニズムを確立する。これは、明らかに分割される2以上行政エリアにまたがる石油資源から生じる利益を保証することになろう。これらの制度改正につき、当初は大西洋オフショアの外部から始め、大西洋オフショアに影響を及ぼすものについては後から引き続き実施する予定である。
③監督機関にかかる費用に関し、被監督事業者から受け取る制定法上の根拠を確立する。このことは、石油やガス活動にかかるコスト請求の名宛人としての事業者の貢献責任を法律上明記することになる。

〔原子力分野〕
(1)原子力事業部門の安全・賠償強化
 カナダ原子力事業者は、カナダの電力需要の約15%を供給してきたが、50年以上にわたり安全なかたちで運用を実行してきた。カナダには強力かつ独立性を持った原子力安全委員会(Canada Nuclear Safety Commission)があるが、重要な委任を受けて適切な電力資源の管理を行う。

 本法案は、原子力にかかる民事責任体制を現代化するとともに国際的に整合性の取れたレベルの補償をもたらすものである。同法によるイニシアティブは世界的に通用する原子量エネルギー規制監督の枠組みを完成するものであり、また2012年秋に公表された「環境維持・持続可能性を持つ開発に関する委員会報告書(2012 Fall Report of the Commissioner of the Environment and Sustainable Development)」の勧告内容を受けたものである。

 2014年1月30日に上程された本法案(Bill C-22)は、1976年施行の「原子力責任法(Nuclear Liability Act:原子力損害の民事責任に関する法律:1970年に制定 1985年に改正)」に替わるものである。この法律は、カナダ国内の原子力発電所、原子炉研究炉、燃料処理工場や使用済核燃料管理工場等の核施設に適用するものである。


(2)法案のハイライト
○より強固な説明義務・責任
①カナダ政府は市民の怪我や損害に対する核施設事業者の絶対責任を維持する。このことは、怪我や損害賠償の責任を求める者は事業者の過失につき証明責任を負わないことを意味する。
②法案は、民事損害賠償額の上限を7,500万カナダドルから10億カナダドルに上限額を増額した。この新賠償額は現在の国際的な賠償額に相応する。
③法案は事業者のみが責任を負うと定める。この「絶対責任」かつ「排他的責任(exclusive liability)」原則 (筆者注12)は国民および該当産業界に対し明確かつ説明責任を確立する重要な原則である。
④新法案は、事業者に対し、従来の伝統的な保険付保という手段に加え、潜在的な財政責務能力を示すこと、またその他の形式で最高50%の金融安定化能力を示す方式を認める。
⑤政府は、損害賠償責任を負わない範囲で一定のリスクをカバーする責めを負う。すなわち、小型研究用原子炉などリスクの低い核施設等につい保障する。

○対応処置に対する改善
①新法案は、補償対象となる損害の範囲の定義を明確化する。すなわち、死亡を含む身体的損傷、身体的損傷に伴う心理的トラウマ、身体的損傷または財産的損失に伴う経済的損失、賃金等財産の運用にかかるコスト、権限を持つ監督機関により命ぜられた矯正手段に関する合理的な範囲のコストにおける環境面の損害、監督機関により命じられた予防・回避措置にかかる費用、などを明記する。
②新法案は、潜在的な病気等身体的な損傷にかかる補償請求時効期間に関し、現行10年間を30年間に延長する。なお、10年間の請求期間はすべての損害賠償請求期間として存続する。

○透明性の強化
①新法案は、賠償金支払請求の迅速化のため、一般司法裁判システムにかわる準司法請求審判所手続(quasi-judicial claims tribunal)の概要を明記する。
②新法案は、IAEAの原子力損害の補完的補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage:CSC) (筆者注13)のカナダの批准を実装することになる。これを受け、カナダは同条約に調印し、2013年12月に議会に提出した。
③同条約は、条約批准国間で民事損害賠償を導き出す越境かつ輸送中の事故における原子力民事責任と補償に関する定めをおく。
④米国との原子力民事責任条約を結ぶうえで重要なものであり、両国はすでに条約関係国である。
⑤一度、条約は有効となると国内体制を財政面で補うことによりカナダの原子力民事責任体制を強化される。カナダは同条約はまだ有効ではない。40万メガワットの原発能力が取り付けられた国が少なくとも5カ国になった段階で有効となる予定である。条約の批准を検討中である日本や韓国が有効とすべく批准したときはカナダは批准することになる。

3.2015年.「原子力賠償責任法(Nuclear Liability and Compensation Act)(SC 2015、c 4、s 120)」の成立

Nuclear Liability Act (R.S.C., 1985, c. N-28)に代わる原子力施設にかかる賠償責任の法律で,2015年2月26日可決された。原子力事故の場合の民事責任と損害賠償に関する法律で、1985年原子力賠償法を廃止し、他の法律を結果的に改正するもの。2015 年カナダ法第 4 章第 120 条により制定され、2017 年 1 月 1 日に発効した。

 

【要旨】

 この法律は、原子力事故の場合の民事責任と損害賠償に関する規定を定める。 特に、この法律は、原子力事故に起因する損害に対する補償および民事責任制度を強化し、「原子力施設」を指定する原子力事業者の損害賠償責任を 7,500 万カナダドル(約85億900万円)から 10 億カナダドル(約113億4500万円)に増額し、それぞれの賠償責任額は、原子力施設以外の者が負うことのできないものとしている。 事業者は、損害を引き起こし、本法に基づいて責任を負う原子力事故についてカナダ国民に対して責任を負うものとした。 なお、本法は原子力施設として指定された原子力施設にも適用される。 これらには、原子力発電所、核研究用原子炉、核燃料廃棄物やその他の放射性廃棄物の管理に使用される核物質処理工場施設が含まれる。 ただし、この法律は、ウラン鉱山、天然ウランを使用する製油所、病院の原子力研究所などの施設には適用されない。法文は 80 のセクションで構成されている。

********************************************************************************************
(筆者注1) 法案C-22の審議経緯の詳細は、公式法案トラッキングサイト”LEGISinfo”で確認されたい。

(筆者注2)mirror legislation”とは、連邦法とほぼ同一内容の州法を制定する手続きをいう。

(筆者注3) 3月4日、英国会計検査院(NAO)は、英国議会・決算委員会に対し、英国の最大かつで最も危険・有害な核廃止施設であるセラフィールド・サイト(Shellafield site)の管理問題につき核物質の廃棄および清浄化の進捗の範囲等について最新状況を報告した。」
 なお、英国の核物質廃棄企業6社の統括団体であるNDA(Nuclear Decommissioning Authority)の概要を補足する。NDAの解説サイトの内容から一部抜粋する。
「英国原子力廃止措置機関(NDA)は、英国の19カ所の指定民間公共セクターの原子力発電所に対して安全かつ効果的に廃止措置(デコミッショニング)及びクリーンアップを行うことを保証するため、2004年英国エネルギー法の下に設立された英国政府の外郭団体(NDPB)です。19カ所の発電所は、NDAとの契約に基づき、それぞれが6つのサイトライセンス会社(SLCs)のうちの1社によって運営されています。SLCsは日々の業務及びサイトプログラムの提供に責任を負っています。」SLCsのうち1社がセラフィールド株式会社である。
「セラフィールドのサイトは1940年代から運転されており、世界初の商業原子力発電所、コールダーホールの故郷です。現在、このサイトは不要になった建物の廃止措置、使用済み燃料の管理(マグノックス炉及び酸化物燃料再処理施設と協力)、及び安全管理と核廃棄物の貯蔵を含む幅広い原子力関連業務を行っています」

(筆者注4) わが国の「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」と「原子力損害賠償補償契約に関する法律(補償契約法)」の内容を概観する。なお、詳細については文部科学省の図解解説サイト「我が国の原子力損害賠償制度の概要」が分かりやすい。
○原子力事故による被害者の保護等を目的に策定された。原賠法では、原子力事故における原子力事業者の「無過失責任」、「責任の集中」及び「無限責任」の原則により、原子力事業者が全面的にその賠償責任を負うこととしている。しかし、異常に大きな天災地変や戦争などの社会的動乱による原子力事故は、賠償責任の対象から除かれる。また、原子力事業ごとの事故の賠償措置額を定め、原子力事業者が民間の「日本原子力保険プール」と賠償措置額を保証する保険契約を結ぶことを定めている。保険では埋められない損害を補償するため、補償契約法は事業者と政府が賠償措置額を上限とする補償契約を結ぶことを定めている。損害賠償の紛争は、原賠法によって設置される原子力損害賠償紛争審査会を通じて和解が図られる。福島第一原子力発電所事故の発生を契機に、原子力事業者が損害賠償するために必要な資金等に関する業務を速やかに処理し、損害賠償を迅速かつ適切に実施するため、平成23年9月に原子力損害賠償支援機構が設立され、賠償支援に係る業務を実施している。

(筆者注5) わが国の原子力事業者は原子力損害に対する無過失責任を負っているが、原子力賠償法第3条第1項但書きは、以下の事由による原子力損害については原子力事業者を免責としている。政府の基本的な説明文を引用する。
(1)賠償責任の厳格化
被害者保護の立場から、原子力事業者の責任を無過失賠償責任とするとともに、原子力事業者の責任の免除事由を通常の「不可抗力」よりも大幅に限定し、極めて異例な事由に限るという意図で、上記二つ(異常に巨大な天災地変、社会的動乱)のみを免責とした。
(2)自然災害の取扱い
 「異常に巨大な天災地変」にあたらないものは、原子力事業者の責任となるが、事由により以下のとおり区分される。
① 地震・噴火・津波→政府補償契約でカバー
② ①以外の事由(洪水、高潮、台風、暴風雨等)→民間損害保険会社の賠償責任保険でカバー
海外立法と比較するとこの第1号の免責事由については、大いに議論がある点である。政府の説明では、事業者の責任範囲が極めて限定されているが、政府の補償、保険会社の補償で海外の国際的水準には見合っていると述べている。
しかし、わが国内閣府原子力委員会の厳格なチェック機能を前提とした賠償制度が果たして十全な制度といえるか、ここでは詳しく論じないが、例えば次の論文などが参考になろう。
・立命館大学 経済学部教授 久保壽彦「原子力損害賠償制度の課題」
・2014年3月日本エネルギー法研究所「原子力損害賠償制度に関する今後の課題 東京電力(株)福島第一原発電所事故を中心として-平成23~24年度 原子力損害賠償に関する国内外の法制検討班報告書-」(全235頁)

(筆者注6)「絶対責任(absolute liability)」と「厳格(無過失)責任(strict liability)」の法的意義の相違については中央大学・総合政策部の平野晋教授が 法と経済 ロー&エコノミックス「厳格(無過失)責任」で説明されているが、専門家外には明らかに説明不足である。

(筆者注7) エネルギー事業者における対処内容の透明性(transparency)は極めて重要であることはいうまでもない。一方、最近時改めて問題となった東京電力福島第1原発で、放射性物質を含む雨水が排水路を通じて外洋に流出していたことが明らかになった。排水路を通じた流出は2011年3月の事故発生直後から続いていたとみられるが、東電の対応は後手に回っている等の記事を読むたびにこの問題の重要性が再認識される。

(筆者注8) 汚染者支払原則(pollutter pays principle)とは次をいう。
PPP(Polluter-Pays Principle:汚染者負担原則)とは、汚染者が汚染防止費用を負担すべきであるという考え方です。1972年5月のOECD理事会が採択した勧告「環境政策の国際経済面に関するガイディング・プリンシプル」の中で提唱されました。例えば、工場での生産により有害物質を排出する場合、その有害物質は当該工場の責任において処理されるべきだというものです。(Sustinable Japanサイトから引用)

(筆者注9)英米法にいう”negligent”や”fault”の概念につきあえて補足する。”negligent”は過失((人/物に損害を及ぼす状況下で然るべき「注意(care)」を欠くことをいう。「注意の欠如」には不注意にことをなした場合もなすべきことをなさなかった場合も含まれる。この説明では分かりにくい点があろう。
Find Lawの過失に関する解説をもって補足する。
・過失訴訟で原告が勝つために主張すべき要素は次の5つである。
①被告が原告に負う注意義務
②当該義務の不履行
③被告の行為と結果として起こる実際の被害の原因の関係
④その被害が予測できた同化に関係する近因
⑤被告の行為から結果的に導き出される損害

(筆者注10)信用状決済とは、国際貿易において、輸入業者が相手国の輸出業者に対して発行するもので、信用状に書かれた条件を満たせば、銀行がその輸出業者に対して代金支払いを保障するもの。つまり、輸入業者と輸出業者がお互いに決済について不安をもっているとき(もしくは信頼しきれないとき)にこのL/C決済がよく使われる。

(筆者注11)カナダにおけるオフショア石油施設委員会はノヴァスコシアを例に補足する。
「カナダ-ノヴァスコシアオフショア石油施設委員会(CNSOPB)は、ノヴァスコシアオフショアにおける石油削削活動の規制・監督に関して責任を有するカナダの連邦政府とノヴァスコシア州の独立した共同運営の機関である。1988年カナダ-ノヴァスコシア・オフショア石油資源合同適用法に基づき、1990年に設立された。」

(筆者注12)「排他的責任」の法的定義についてここでは詳しく立ち入らないが、原子力発電事業者等いわゆるoperatorの厳格な責任を定めるもので国際的に基準となることは間違いない。世界原子力協会(World Nuclear Association)の解説サイト”Liability for Nuclear Damage”を参照されたい。

(筆者注13) CSCは、IAEAの統一的な国際原子力損害補償制度で、ウィーン条約もしくはパリ条約に加盟している国、またCSCの付属書と整合性の取れた国内法を有する国であれば加盟できるものである。このような行動は、発電所の運転中、および越境輸送中の世界的な補償及び責任制限を確実にするために極めて重要な国際条約関係を可能とする。(2013年1月16日わが国の原子力委員会「原子力発電所輸出者のための行動原則」から一部抜粋)。

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ドイツ政府は個人情報保護権の侵害に基づく消費者団体訴訟の権利保護強化にかかる一部改正法案を承認

2015-02-26 17:00:39 | 消費者保護法制・法執行



 Last Updated: April 30,2024

 2月4日、ドイツ連邦内閣(法務・消費者保護省( Bundesministerium der Justiz und für Verbraucherschutz:BMJV))は、個人情報保護法の消費者保護規定に関する民事法の一部改正に関する法案を承認した。法案の核心は、個人情報保護法の消費者団体訴訟権の強化・執行に関する規定である。 (筆者注1)
 
 筆者はこのニュースを米国ローファーム・サイト”Norton Rose Fulbright”やドイツのメデイア”Badische Zeitung”等で知ったのである。この問題は一般の読者からはその意味が理解しがたい専門的なテーマかも知れないが、ドイツ等の消費者保護に関する制度研究 (筆者注2)を踏まえ消費者団体訴訟制度を平成19年6月7日に施行したものの、果たしての効果という点で、なお疑問が残る。

 すなわち、平成26年3月の消費者庁「消費者団体訴訟制度:差止請求事例集」を見ると、この6年余に提起された差止請求訴訟は30件、そのうち、17件については訴訟が終了し、原告勝訴5件、和解9件、原告敗訴3件となっている。また、訴訟外で改善された事案も多く、訴訟・訴訟外あわせて、111件(113事業者)の事案で改善が図られている(件数は、いずれも平成25年7月5日現在)と説明されている (筆者注3) しかし、同制度自体、国民に広く定着した制度といえるか、また、特にドイツが今回、世界的な企業であるGoogle等によるプライバシー侵害問題を個人的な被害救済のためには、この団体差止訴訟機能の強化を図った目的につき改めて検証すべきとかと考え、本ブログをまとめた。

 本ブログでは、先進国の制度の見直しがいかなる観点から行われているかを考える意味で、ドイツ連邦法務・消費者保護省のリリース文等の仮訳を行うとともに、補足解説を行う。

1.2018年以前のドイツの法的枠組みで認められていた集団訴訟手続

 以下の4つの法分野においてのみ、厳格な要件のもと、効果を限定した形でのみ認められていた。しかしながら、ドイツは、EU 委員会が加盟国に対し、2013 年、一定の条件のもと集団訴訟に類する制度を創設すべきであるとする勧告(Recommendation)を発表し、このような流れを受け、分野の制限を設けないモデル集団訴訟(Musterfeststellungsklage)制度を導入すべく、民事訴訟法(Zivilprozessordnung)を改正し、改正法が2018年 11 月 1 日より施行された。

(1) 差止訴訟法(Gesetz über Unterlassungsklagen bei Verbraucherrechts- und anderen Verstößen  :UKlaG)

 (2)不正競争防止法(Gesetz gegen den unlauteren Wettbewerb:UWG)

(3) 投資家モデル手続法(Gesetz über Musterverfahren in kapitalmarktrechtlichen Streitigkeiten:KapMuG)

(4)会社法上の裁判手続に関する法律(Gesetz über das gesellschaftsrechtliche Spruchverfahren)

 この問題ならびに2018年に、被害回復訴訟に類似した訴訟手続として、ムスタ確認訴訟(Musterfeststellungsklage)制度(注3-2)、さらに2023 年 7 月、ドイツ連邦議会は、消費者団体訴訟に関する 2020 年の EU 指令を国内法化し、被害回復訴訟の制度を導入する法律を可決した点などにつき、別途解説したいと考える。

  今回の改正により、民事訴訟法典のムスタ確認訴訟に関する規定が消費者権実現法に組み込まれると同時に、消費者団体が勝訴した場合に、直接消費者個人に給付を行う仕組みが規定された(消費者権実現法第 14 条~第 40 条)

2.個人情報保護の観点から見た消費者団体訴訟権の強化・執行に関する民法および差止訴訟法の一部改正
 消費者団体(Verbraucherverbände)等は、企業が消費者に関する情報保護法の分野で違反した場合、企業に対して差止命令を介した保護手続きを継続すべきである。これは、特に広告、個人の情報プロファイルならびにアドレス及びデータ取引のためのデータ処理に該当する。

 連邦法務・消費者保護大臣ハイコ・ヨ―ゼフ・マース(Heiko Josef Maas)(注4)のコメントは以下のとおり。

Heiko Josef Maas

「企業は、より多くの個人情報を収集し、そのプロセスを進める。 個人情報は、オンラインの新しい利用可能通貨といえる。 私たちはネット・サーフィンをしたりアプリをダウンロードしたり、ほとんどすべてのクリックで写真を投稿し、これらすべての行為は消費者からの個人情報を収集する。 これらの個人情報は、契約のために必要であるだけでなく、ますます商品化されている。 企業の情報の誤用は、個人の権利に重大な傷害をもたらすことになる。 したがって、情報保護ルールが適用されることが重要である。

 消費者にとって、それはすべての情報保護法に対する会社の違反行為を特定することは困難である。多くの人は、 データ保護法違反を訴える手続きのための多くのコストと労力をおそれる。 多くの人は自分の法務部門と大企業に対してだけでは訴訟を起こすことを敢えて行わない。 消費者団体は、そのような状況下では、消費者は自分たちの利益の強力な支持者を必要としている。これは警告や差止命令を発行する権利を保持する。 特にインターネット上で商業的にみた強力な企業に対し、我々はこのように、消費者の権利の執行権を強化するものである。

 さらに消費者の保護に関する法案の下では、正式な利用要件にかかる契約締結が困難であることを前提としている。消費者による契約の取消や類似の通知の場合、 「書面」とは対照的に - 将来的に書面でのみ合意することができるようになろう。 それは、将来のすべての人にとって電子メールを介して彼の携帯電話契約について取消することができ、それ以上の書面の交付が必要なくなることは明らかである。」

3. 法改正の背景
 法案は、以下のとおり、主に「差止訴訟法(Unterlassungsklagengesetzes :UKlaG)」と「民法(Bürgerlichen Gesetzbuches:BGB)」の一部改正が含まれる。法文については筆者の責任でリンクを貼った。
差止訴訟法(UKlaG)第3条第1項につき、同条が定める消費者団体(注5)による適法な請求権とは、差止めによる救済が持つ特定の目的のため、事業者による不正な情報収集、処理および消費者情報の使用に対し消費者保護利益のために行動することを可能とする。

UKlaG第3条第1項手続き要件     (仮訳)

第1項
一般規定
非公式の目次
§ 5 民事訴訟法およびその他の規定の適用
本法に別段の記載がない限り、民事訴訟法、第 12 条第 1 条、第 3 条、第 4 条、第 13 条第 13 条第 1 条から第 3 条および第 5 条、ならびに不正競争防止法第 13a 条の規定がこの手続きに適用されるものとする。

非公式の目次
§ 5a 国内の法的手続きに関する適格消費者協会および適格機関の情報提供義務
(1) 国内裁判所において第 1 条、第 2 条、または第 2a 条に従って差止めによる救済を主張する第 3 条第 1 項第 1 号に基づく権利を有する機関は、遅くとも仮差止申請が提出されるか、または裁判所に訴訟を起こす前に、訴訟の現在の状況を報告すること。 少なくとも、訴訟手続きに関連する以下の既知の事実は、訴訟手続き中に直ちに公表されなければならない。
1.仮差止命令または訴訟の申請の対象となる起業家の名前または会社名および住所
2.起業家による侵害の疑いで、その防止または終了を目的として仮差止命令が申請されたか訴訟が提起された場合は
裁判所に仮差止命令または訴訟を申請した日付、
4.仮差止命令または被告に対する仮差止命令の申請書の送達、または訴訟の提起日付
5.法的手続きのファイル番号
6.仮差止命令または訴訟が代表原告の登録簿に掲載されたことの表示
7手続きの終了日および手続きの終了の種類

(2) 第 1 項に規定する手続きが上訴できない決定または判決によって終了した場合、その決定または判決は請求権のある団体のウェブサイトに少なくとも 6 か月間掲載されなければならない。

(3) 第 1 項および第 2 項に従ってウェブサイトに掲載する費用は、法的紛争の費用となる。

② この目的のために、事業者に適用されるすべての情報保護保護法令につき、広告、市場調査や世論の調査目的のための消費者からの情報、個人情報やユーザープロファイル、アドレスの移送、その他のデータ取引の収集、その他同等の商業目的の比較のための収集し、手続きや使用に関し、差止命令を発しうるものとし、同法第2条第1項に第11号を新たに追加する。

③ 消費者団体は、消費者の権利侵害に適用される他の消費者保護法に対する同じ条件で、情報保護法令に対する事業者の違反の場合には、 差止命令法第2条第1項のもとで、第3第1項1号に基づき適法な請求権を主張できるものとする。

④ 請求権を持つ適格な団体には、差止法第3条第1項第1号に定める資格を持つ団体を含む。これらは、連邦法務省が定める名簿に記載された消費者団体実施されるすべての団体をさす。 しかし、請求権をもつサイトは、差止法第3条第1項2号の要件を満たす専門機関でもあり、また同項第3号にいう商工会議所や手工芸組合等を含む。

⑤ 新しい法改正ルールは、情報保護当局や消費者団体による相互に法的な仕事を補完するように設計した。 情報保護当局の知識や専門知識を有効に使用するため保護当局による聴聞権を裁判所の差止命令手続後に提供することとした。
 法律が定める要求要件に加え、事業会社は特に消費者契約において利用規約またはその他の定型契約条件の規定により契約合意することができる。 消費者への事前の契約条件では、消費者が使用者または第三者に関する合意は書面によらねばならない。

⑥ 従来、有効な契約は民法第309条第13項により、書面で合意されるものである。 しかしながら、 民法第127条第2項及び第3 項により、BGBにおけるルールの解釈ではこの要件によると、その合意書面の成立条件は、単純な電子メールによる書面等で行わなわれても十分であるとされている。 消費者は通常、このことを知っていないことが一般的であり、従って、手書きで署名された合意書面によりかつ受信者に郵送されるでのみ有効な契約と信じているが、このような消費者の利益のため、将来的にはこの曖昧な手続き規定は簡素化される予定である。

法案全文のURLは以下のとおり。
https://www.bundestag.de/resource/blob/371456/30e60f5f09a696b737bf65fece23afa4/vzbv-data.pdf   (pdf:全28頁)

*********************************************************************************
(筆者注1)ドイツの消費者保護に関連する法分野では、集団的な消費者被害の救済や集団的な権利保護や違反行為の抑止を目的とする制度として、次の3つの制度が存在する
第一に、消費者団体が、法的サービス法(Rechtsdienstleisutungsgesetz〔RDG〕)2及び民事訴訟法(Ziviprozessordnung〔ZPO〕)に基づき、被害を被った個々の消費者の金銭支払請求権を、彼らから請求権譲渡を受け、または訴訟担当の方法により、訴求する制度である。
第二に、違反行為者が故意ある違反行為により獲得した利益を違反行為者から剥奪することを消費者団体等の団体が請求することができる制度であり、不正競争防止法(Gesetz gegen den unlauteren Wettbewerb〔UWG〕)及び競争制限禁止法(Gesetz gegen Wettbewerbsbeschränkungen〔GWB〕)に導入されている制度である。
第三に、投資者ムスタ手続法(Gesetz zur Einführung von Kapitalanleger-Musterverfahren〔KapMuG〕)による資本市場での情報の非公開や誤った情報提供により被害を被った多数投資者による個別の訴訟の共通争点についてムスタ手続を行う制度である。
宗田貴行 (獨協大学大学院法学研究科准教授)「ドイツにおける集団的消費者被害救済制度に関する調査報告」から一部抜粋。

(筆者注2)例えば、ドイツに関する研究成果としては、前述の獨協大学法学部准教授宗田貴行氏の報告、 内閣府国民生活局 消費者団体訴訟制度説明会資料」、2013年内閣委員会調査室 久保田 正志「集団的消費者被害の回復制度の創設」等があげられる。
また、わが国の消費者団体訴訟制度に関しては、 「平成19年度版消費者団体訴訟制度パンフレット 「知っていますか?消費者団体訴訟制度」、さらに施行後の差止請求件数等については、平成26年3月消費者庁「消費者団体訴訟制度「差止請求事例集」等を参照されたい。
 いずれにしても、これからのわが国が取り組むべき重要課題ではあろう。

(筆者注3)わが国における適格消費者団体による事業者に対する差止請求の対象となる行為については各種のガイダンスがあるが、国民生活センターの解説が比較的分かりやすい。ここで関係法との関係で項目のみあげる。内容を比較して分かると思うが、個人情報保護侵害に対する消費者保護団体の請求権はわが国の現行法制の規定や解釈からは困難であり、立法論としての検討が必要であろう。

○適格消費者団体は、事業者のどんな行為に対して差止め請求できるが、具体的には強引な勧誘、不当な契約、誤った内容の表示など、「消費者契約法」「特定商取引法」「景品表示法」を守らない事業者の不当な行為をさす。

1.消費者契約法が規定する「不当な勧誘」や「不当な契約条項」
(1)「不当な勧誘行為」
①不実告知(事実ではないことを言って契約させる)
②断定的判断の提供(将来の確証のない事柄について断定的に言う)
③不利益事実の不告知(重要な事柄について、消費者にとって利益になることを言い、不利益なことは教えない)
④不退去(退去しない、帰らない)
⑤退去妨害(退去させない、帰らせない)

(2)「不当契約条項の使用」
①事業者の損害賠償責任を免除する条項
②消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等
③消費者の利益を一方的に害する条項

2..特定商取引法が規定する「特定の取引における不当な勧誘行為等、不当請求・不当特約」
(1)訪問販売における不当な行為
(2)通信販売における不当な行為
(3)電話勧誘販売における不当な行為
(4)連鎖販売取引における不当な行為
(5)特定継続的役務提供における不当な行為
(6)業務提供誘引販売取引における不当な行為

3.景品表示法が規定する「不当な表示」
(1)優良誤認(商品やサービスの品質・規格などの内容についてのウソや大げさな表示)
(2)有利誤認(商品やサービスの価格などの取引条件についてのウソや大げさな表示)

(注3-2)ドイツでは、被害回復訴訟に類似した訴訟手続として、ムスタ確認訴訟(Musterfeststellungsklage)の制度が、民事訴訟法典の改正により 2018 年に導入されていた。この従来の制度でも消費者団体が個々の消費者を代表して損害賠償等を請求する訴訟は可能となっていたが、裁判所が当該請求を正当であると認めた場合であっても、判決の拘束力は、請求権行使の要件の確定にしか及ばず、損害賠償等の支払を確保するためには、個々の消費者が改めて訴訟を起こす必要があった。(金子 佳代氏「 ドイツモデル集団訴訟制度(Musterfeststellungsklage)の導入 」から一部抜粋 )

(注4)ハイコ・ヨーゼフ・マース( 1966年9月19日ザールルイ生まれ)氏は、ドイツの弁護士であり、社会民主党(SPD)の元政治家であり、連邦外務大臣を務めた(2018年- 2021 年)、アンゲラ・メルケル首相内閣の連邦法務・消費者保護大臣(2013 年から 2018 年)を務めた。 2022年から弁護士として活動している。

(注5)連邦司法省(BfJ)の差止訴訟法に基づく国境を越えた訴訟のための資格のある消費者団体のリストと資格のある機関のリストを維持ならびに不公正な競争に対する法律に基づく資格のある企業団体のリスト(UWG)が確認できる。
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米国FTCが”Fandango” ”Credit Karma”に対しモバイルApp等の第三者機関セキュリテイ評価等の和解命令

2014-08-28 16:05:45 | 消費者保護法制・法執行

Last Updated:April 30,2024 

 連邦取引委員会によるモバイル・ビジネス事業者が開発するモバイルAppに対するセキュリテイ・チェックはわが国に比べきわめて厳しい内容である。これら事業者のカテゴリーも映画のチケット販売業者であるFandangoや個人信用情報提供ニュービジネスであるCredit Karma等が対象になってきている。 

 去る8月19日、 FTCは被申立人たるFandango とCredit Karmaに対する責任を明示した最終和解命令(final orders settling:Decision and Order) (筆者注1)につき承認した旨リリースした。

 これらのニュービジネスの中身もさることながら、筆者が見て共通的な問題点は(1)セキュリテイ対策の不十分性と(2)消費者向けの説明文言の不適格性である。

 これらの問題点は実はわが国の類似の事業者でもきわめて共通的に見られる内容であり、わが国の監督機関の不十分性を補完するとともに、個別企業に対する警告という意味で本ブログをまとめた。 

 FTCの両社との間の最終和解命令にかかるリリース文は、きわめて簡潔に2社の問題と最終和解命令の内容を説明している。そこで本ブログは実務面からFandangoに対する告訴状の内容を詳しく紹介すべく仮訳するとともに、今後20年間にわたる具体的法令遵守、職員・子会社等への徹底、FTCへの報告義務等を概観するものである。 

 なお、Credit Karmaのニュー・ビジネス自体についても、個人情報保護やプライバシー保護の観点から念入りに検証すべき問題と考えるが、それ自体が大きなテーマなので概要のみ取り上げる。 

1.被申立人Fandangoに対する告訴状

(1)FTC最終合意命令にいたる経緯

 FTCサイトFandango, LLC」が次のとおりまとめている。

○2014年3月28日:FTCとFandangoの同意命令を含む合意文書(Agreement Containing Consent Order)

○〃 :FTCの申立書(Complaint) 

○〃 :パブリックコメントを補助する同意命令(案)の分析文(Analysis of Proposed Consent Order to Aid Public Comment In the Matter of Fandango, LLC) 

(2)FTC最終合意命令に関する文書

○2014年8月19日: FTCの最終申立書

 FTCが告発する事実関係・Fandango自体が擁するセキュリテイ上の問題を正確に理解するため、申立書の主要部を仮訳しておく。 

1,2は略す。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

Fandangoのビジネス実践内容からみた問題点 

3.Fandangoは、消費者が映画の切符、ショータイムを見たり、トレーラ- (筆者注2) 、およびレビュー(映画批評)を購入できるウェブサイトとモバイルアプリケーションを提供している。 

4. Fandangoは、2009年3月にアップルInc.のための同社が開発するオぺレーション・システムであるiOSに対応した「Fandango Moviesアプリケーション」を開発・起動した。

 2010年12月に、FandangoはアプリケーションのiPadバージョンを起動した。Fandangoは、iTunes Appストア (筆者注3) を通してアプリケーションを配布した。そこでは、アップル・コマーシャル(itunes)で同アプリケーションを特集する「 #1:映画のチケット発売業者」として記載されている。iTunes Appストアでは、娯楽カテゴリーにおけるトップ10の無料のアプリケーションの中にFandango Moviesをリストアップしている。同アプリケーションは1,850万回以上ダウンロードされている。 

5. Fandango Moviesアプリケーションのインストールは無料であるが、fandangoは消費者が映画の切符を購入する時にサービス料金を課す。2013年8月の時点で、Fandangoの総チケット売上高の20パーセントはiOSのモバイルアプリケーションの利用顧客から得ている。 

6.Fandango Moviesは、消費者にすでにFandangoアカウントがあるかどうかにかかわらず消費者に映画の切符を購入させる。消費者がチケットを購入するとき、Moviesアプリケーションは、クレジットカードで支払うためにオプションを含む支払い方法の選択を提供する。消費者は、今後の使用のための携帯デバイスの彼らのクレジットカード情報を保存するのを選ぶことができる。

 ユーザがチケットを購入する都度、クレジットカード番号を入れるかまたは以前にデバイスに保存されたカード内情報を選択することで、Fandango MoviesアプリはFandangoのサーバーに「カード番号」、「セキュリティ・コード」、「有効期限」および「請求書送付郵便番号」等消費者のクレジットカード情報を伝える。 消費者が、Fandango Moviesアプリケーションで、Fandangoアカウンを作成するか、またはログインするのを選ぶ時は、同アプリケーションはFandangoのサーバに、Eメールアドレスとパスワードを含む消費者の認証資格証明書(authentication credentials)を送信する。

 セキュリティソケットレイヤー(SSL)証明済認証(Secure Sockets Layer Certificate Validation) 

7.消費者は頻繁に公衆無線LAN(public Wi-Fi )ネットワークを利用すべく、喫茶店、ショッピングセンター、空港などでモバイル・アプリケーションを使用する。 消費者はそのような公共の環境下でFandango Moviesアプリケーションを使用できる。 実際に、同アプリを起動させた時、Fandangoは消費者向けの広報文言として「外出時でも米国中の約1万6000個以上のスクリーン映画と劇場情報に絶えずアクセスでき、そのチケットの購入ができる」と謳い、Fandango MoviesアプリケーションをPRした。 

8.オンライン・サービスでは、消費者との正統かつ暗号化された接続を証明するのにしばしばセキュリティ・ソケット・レイヤー("SSL")プロトコルを使用する。 正当なオンライン接続を認証し、暗号化するために、SSLは「SSL証明書」と呼ばれる電子文書に依存する。 

9.モバイルアプリケーションの文脈では、オンライン・サービス(例えば、Fandango)は、サービサーの本物性(identity)を保証するために消費者のデバイス(例えば、Fandango Movies)におけるアプリケーションにSSL証明書付きである旨を表示する。 次に、事実上、オンラインサービスの本物性について確認するため、アプリケーションはアプリケーションが真性のオンラインサービスに接続することであるのを保証するためにSSL証明書を有効にしなければならない。 この過程を完了した後に、オンラインサービスと消費者のデバイスにインストールされたアプリケーションは、認証されて、暗号化された安全な接続を確立できるのである。 

10.もしアプリケーションがこのプロセスを完全に実行できないとするなら、攻撃者は、無効の証明書をアプリケーションに提示することによって、消費者のデバイスにおけるアプリケーションとオンラインサービスの間に自分を置くかもしれない。 このアプリケーションは、攻撃者がアプリケーションとオンラインサービスとのすべてのコミュニケーションを解読するか、モニターするかまたは変更するのを許容してアプリケーションと攻撃者の間に無効の証明書を受け入れるという取引関係を築くことになる。 このタイプのサイバー攻撃は「中間者攻撃(man-in-the-middle attack)」 (筆者注4) と して知られている。 アプリケーションを使用している消費者もオンラインサービス業者も攻撃者の存在をうまく検出できなかった。 

11. 多くの公衆無線ネットワークでは、攻撃者は中間者攻撃を容易にするのによく知られる「なりすまし技術(spoof techniques)」を使用する。 

12. これらの攻撃から守るために、SSLを使用することで安全な接続を創造するようにアプリケーションを許容するインタフェース(「API」) (筆者注5) に準拠しながら、iOSオペレーティングシステムはアプリケーションを開発者に提供する。 初期設定で、アプリケーションに提示されたSSL証明書が無効であるなら、これらのAPIは、SSL証明書を有効にして、接続を拒絶する。 

13.iOS開発者ドキュメンテーションは、開発者が初期化時の有効設定を無効にするか、またはそうでなければ、SSL証明書を有効にすることができないのを避けるように警告する。その目的は、「有効としないと、あなたが安全な接続を使用することから得られるいかなる利益も除去する」と説明している。

 結果として無効設定による接続では、にせのサーバ接続によりだますことからの保護を全く提供しないため、非暗号化されたHTTPで要求通信を送る場合に比べ安全面で劣る。

14.アプリケーションの開発者は、この点につき無料または低価格で公的な形で利用可能なSSL証明書の有効化につき簡単なテストおよび脆弱性の特定が可能である。 

Fandangoの十分なセキュリテイ検査の不履行 

15. 2009年3月から2013年3月の間、iOS用Fandango Moviesアプリケーションは、iOS APIによって提供された初期設定を無効とし、SSL証明書を有効としなかった。 

16. 2013年3月以前においては、Fandangoは自社の開発アプリケーションがSSL証明書を有効化し、安全な形で消費者の機密個人情報を通信しているのを確たるものとするため必要といえるFandango Moviesアプリケーションを検査しなかった。 Fandangoは、2011年から提供開始したアプリケーションの限られた範囲のセキュリティ監査を行ったが、iOSアプリケーションの公開の2年以上後において、応答者Fandangoはこれらのセキュリティ監査の範囲をデバイスに対し「コードが逆コンパイル (筆者注6) されるか、または非アセンブルされる」、すなわち、脅威が単にそうした攻撃者から起こって物理的アクセスであるときに提示された問題に限定した。その結果、これらの監査ではクレジットカード情報を含むiOSアプリケーションの情報伝送が、安全であるかどうかを査定・評価しなかった。

 17.そのうえ、Fandangoはセキュリテイに関する明確な脆弱性報告を受け取る有効なチャンネルを明確に公表せず、かつ従業員に徐々に脆弱性意識を拡大する代わりに一般的な顧客サービスシステムによる対処をあてにした。

 2012年12月に、セキュリティー研究者は、顧客サービスのウェブフォームを通してSSL証明書を有効にしていないので、iOSアプリケーションが中間者攻撃に被害を受け易いことをFandangoに知らせた。このセキュリティー研究者のメッセージが「パスワード」という用語を含んでいたので、パスワードリセットが自動メッセージで要求して、返答したとき、Fandangoの顧客サービスシステムは、どうパスワードをリセットするかに関する指示を研究者に提供しながら、メッセージに旗を揚げさせた。 次に、Fandangoの顧客サービスシステムは、「解決済」として、セキュリティー研究者の警告メッセージをマークして、更なる調査のためにその情報の検討を深化させなかった。 

18. FTCの専門スタッフがFandangoにこの経緯等を連絡した後、FandangoはiOSのFandango Moviesアプリケーションを検査して、同アプリケーションがSSL証明書を有効にしてないことを確認した。また、ファンダンゴは、脆弱性がFandangoが第三者のために開発して、かつ主催した別々のiOS映画チケット発行アプリケーションに影響したことを見出した。 FTCのスタッフによって連絡された後3週間以内にFandangoは、iOS APIの既定の設定を修復することによって、SSL証明書の有効化を可能にした両方のiOSアプリケーションのアップデート版を発行した。その結果、セキュリティの脆弱性は修正された。 

19.本告訴の被申立人(Respondent:Fandango)は、共に、モバイルアプリケーションの開発およびメインテナンスにおける以下の内容を含む合理的、適切なセキュリティを提供しないという多くの問題ある慣習に取り組んでいた。

a。 iOS APIによってSSL証明書有効化の欠陥を補うため安全化のための他のセキュリティ策を実装せずに提供された初期化時SSL証明書有効化設定を無効化した。

b。 機密の個人情報の伝達が確実に安全となることに失敗するのを含んだ適切なテスト、アプリケーションを監査するか、評価するか、または批評することの保証に失敗した。 

c。 セキュリティの脆弱性の関する第三者からのレポートを受け取ったり取り組むといった適切なプロセスを維持するのを怠った。 

20.これらのFandangoのセキュリテイ検査の失策の結果、攻撃者は、ネットワーク・トラフィックの出力先の変更(redirect)、傍受・妨害、非暗号化、監視・モニタリング、アプリケーションまたはアプリケーションに通信される「クレジットカード番号」、「セキュリテイコード」、「有効期限」および「請求書送付郵便番号」情報の変更ができ得た。

この、クレジットカード情報や認証資格証明書(autentication credentials)の悪用は成りすまし、金銭的被害、保有する個人情報の漏洩やその他のオンラインサービスや関連する消費者の損害を引き起こすものである。 

21.Fandangoは、単にデフォルトSSL証明書合法有効化設定を実装することによって実際の費用をかけずにこれらの脆弱性を防ぎ、またクレジットカード情報を含む消費者の機密個人情報の安全な伝達を確実にしえたたかもしれない。 

Fandangoのプライバシーとセキュリティに関する説明表示問題(Fandango's Privacy and Security  Representations) 

22. ひろめられかつ迷惑がかけられたFandangoは、広めるか、または保存されまたアプリケーションを介して伝送されたクレジットカードやアカウント情報のセキュリテイに関し以下のアプリ内の表現が消費者に広めさせられた。

「あなたのFandango iPhone Applicationは、あなたのデバイス内に関するクレジットカードとFandangoアカウント情報を保存させるため、あなたは便利に映画の切符を購入できるようになる。あなたの情報は、あなたの使用端末に確実に保存され、各取引の間、あなたの承認を持って送信される。」 

23.今後、消費者がFandango Moviesアプリケーションを利用して、チケットを購入する旨「買う」というオプションを選んだ時は、希望するなら消費者のクレジットカード情報につき装置内を格納されるため、利用者は今後安全なチケットを購入するにのあたりアカウント作成は不要である。

Fandangoが行った欺瞞的な表示(Fandango's Deceptive Reperesentations) 

24. Paragraphs22と23で説明したとおりFandangoは明示または暗黙のうちにiOSとしてのFandango Moviesアプリケーションでチケット購買に妥当で適切なセキュリティを提供すると表示していた。 

25.実際のところ事実、Paragraphs7から21の間で述べた多くの例で詳しく説明したとおり、FandangoはiOS用のFandango Moviesアプリケーションでされたチケット購買に関し合理的でかつ適切なセキュリティ措置を提供していなかった。 したがって、Paragraph24に詳しく説明したFandangoの表現は、誤っているか、または誤った情報を与えているといえる。 

申し立てられるとしてのこの苦情に関し、被申立人Fandangoの行為と商慣行は、連邦取引委員会法(15 U.S.C. §45(a))のセクション5(a)違反「不公正または欺瞞的な行為または慣行(unfair or deceptive acts or practices)または影響を受ける商取引」に該当するものである。 

○2014年8月19日:FTCの最終合意決定(Consent Order) 

○ 〃 :コメント者(デラウェア州 Mirta Collazo )に対する礼状 (筆者注7) (筆者注8) 

2.被申立人Credit Karmaの告訴内容、経緯FTC最終合意命令にいたる経緯

(1)FTCサイトCredit Karma,LLCが次のとおりまとめている。仮訳は略す。 

○2014年3月28日:FTCとCredit Karmaの同意命令を含む合意文書(Agreement Containing Consent Order)

○〃 :FTCの申立書(Complaint) 

○〃 :パブリックコメントを補助する同意命令(案)の分析文(Analysis of Proposed Consent Order to Aid Public Comment In the Matter of Credit Karma, LLC) 

○2014年8月19日:最終申立書 

○ 〃 :FTCの最終合意決定(Consent Order;Decision and Order) 

○ 〃 コメント者8名に対する礼状、なお当然であるが文面は描くコメント内容に応じて異なる点は言うまでもない。 

(2)Credit Karmaのビジネス・スキーム

 わが国で詳しく論じているサイトは少ない。その最大の理由はわが国でも与信にあたりスコアリング・システムはあるが、米国のスコアリング・システムと比較するとその機能は大きく異なる。すなわち「クレジットカードを新規に作成する際、日本では勤務先や年収、家族構成、持ち家の有無等から個人の信用力が評価されるのに対して、米国では公共料金や医療費、金融機関からの支払い請求に対して、これまでいかに健全な返済を行ってきたかの実績(クレジットヒストリ)が信用評価の主な対象である。・・・個人のクレジットスコアは、旧来はクレジットカードン作成や融資の申請時に参照されるだけのものであったが、近年では融資以外の与信に関わる様々な場面でクレジットスコアが利用されるようになってきた。各種ローンの金利、保険の料率計算を始め、住宅の賃貸や売買における不動産仲介、携帯電話の新規購入、果ては就職面接に至るまでクレジットスコアが参照されている。・・・個人の信用プライバシー尊重と信用情報開示を求める世論の高まりを受け、1996年の法改正(FCR法)により本人に限り有料で開示請求が行えるようになった。そして、2003年12月には、自分の信用情報を年1回は無料で参照できる権利などを定めた法律(FACT法)が成立し、2004年12月の西部を皮切りに、2005年9月からは全米規模で、より簡易にクレジットレポートが取得できる社会基盤が整えられたのである。」(筆者注9)

 しかし、データ主体がこれら信用情報機関から自身のスコアリング情報を得ようとするとき、手続きは決して容易ではない。その隙間を狙ったニュービジネスがCredit Karmaなのである。 

 ここで、Credit Karmaサイトから事業内容に関する部分を抜粋して、仮訳しておく。一読して理解しがたい内容といえる。 (筆者注10)

Credit Karmaは、あなたのクレジットスコアーを追跡する新しい方法とそこから得られる利益を得るユニークな方法を提供する。初めてあなたは隠れた費用や義務を伴わずに真に無料によるクレジットスコアを得ることができる。あなたのスコアに基づき、あなたはあなたの信用力を評価する会社に排他的な申込のアクセス権を得る。・・・・当社のサービスは無料のクレジットスコアを得ることで始まる。クレジットカードや文字列(strings)の添付は不要である。当社は、もしあなたが当社の別のサービスを利用する場合に関わらず、あなたのプライバシーを保護する最善の措置をもってこれらの無料のスコア提供を続けるでしょう。

・・・あなたが無料のスコアーにアクセスするとき、当社はあなたのクレジットプロファイルに基づき個人的な申込内容を示すことになる。この申込は顧客を力ずけることに付きビジョンを共有する広告主からなされる。あなたがCredit Karma利用の優位性を望むなら、それはあなた次第です。当社はあなたの同意なしに共有はしません。・・・当社が送信するメッセージはパートナー会社からの一方向通信で送るものです。広告パートナーは個人化された申込を提供し、当社は適切な人のみが扱うかたちで照合させます。この申込に消費者が回答しない限りユーザー情報の開示は行いません。消費者の理解がないまま個人情報の売買を行って、その後で情報を追いかけてきた伝統的なクレジットマーケテイングと異なり、当社は消費者に権利と選択権を与えるのです。 

3.FTCのIT事業者に対する同意命令についての関連情報

 2013年12月5日、FTCは「スマートフォンのアンドロイド・フラッシュ・アプリ(Brightest Flashlight)の開発事業者(Goldenshores Technologies,LLC)が消費者の同意なしに位置情報を第三者に提供し消費者を欺いたとされた事件で連邦取引委員会と同意命令(Android Flashlight App Developer Settles FTC Charges It Deceived Consumers:‘Brightest Flashlight’ App Shared Users’ Location, Device ID Without Consumers’ Knowledge」で合意したと報じている。

超光懐中電灯無料アプリ(GoldenShores Technologies, LLC )URLhttps://play.google.com/store/apps/details?id=goldenshorestechnologies.brightestflashlight.free&hl=ja 

*******************************************************************************

(筆者注1) FTCの法執行手順については、例えば、「消費者庁 アメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、ブラジルにおける集団的消費者被害の回復制度に関する調査報告書 第1章 各国の制度および状況 1.アメリカ調査報告」が詳しく解説している。その中で、次の解説が参考になるため一部引用する。

「FTCがとりうるエンフォースメント手段は、手続的に分類すると、大きく行政手続である審判(同意命令(consent order)がある。・・・同意命令の手続を利用することによっても、審判手続を経て排除措置命令が発せられた場合と同様の効果が得られる。もっとも、同意命令手続においては、相手方に責任があることを認めなくてよい点が異なる。・・・同意命令は、一種の和解(consent agreement settlements)であるとされている」 

(筆者注2) ”trailer”とは映画、テレビ等の予告編を見せる前宣伝のこと。 

(筆者注3) iTunes Store(アイチューンズ・ストア)は、アップルが運営している音楽配信、動画配信、映画配信、映画レンタル、アプリケーション提供などを行うコンテンツ配信サービスである。(Wikipedia から引用)

 (筆者注4)「中間者攻撃」問題につき、筆者は2006年7月23日ブログで取り上げている。より専門的な解説としては情報セキュリテイソリューション専門会社カスペルスキーの解説e-Wordsの解説が基本となろう。 

(筆者注5) APIとは、あるコンピュータプログラム(ソフトウェア)の機能や管理するデータなどを、外部の他のプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のこと。

個々のソフトウェアの開発者が毎回すべての機能をゼロから開発するのは困難で無駄が多いため、多くのソフトウェアが共通して利用する機能は、OSやミドルウェアな どの形でまとめて提供されている。そのような汎用的な機能を呼び出して利用するための手続きを定めたものがAPIで、個々の開発者はAPIに従って機能を 呼び出す短いプログラムを記述するだけで、自分でプログラミングすることなくその機能を利用したソフトウェアを作成することができる。(e-Wordsより引用)

 (筆者注6) 逆コンパイル( decompile )とは、機械語で書かれたオブジェクトコードを、コンパイラ型言語によるソースコードに変換すること。そのためのソフトウェアは逆コンパイラと呼ばれる。(e-Wordsより引用) 

(筆者注7) パブリック・コメントに対するFTCの回答文書(仮訳しておく)

親愛なるCollazo様(デラウェア州):

標記に関し、現在進めている本委員会で提案された合意命令に関するコメントをありがとうございます。あなたのコメントは、Fandango、LLCが自社のセキュリティ面の不十分性に気づかず、同時にあなたの自身個人情報のセキュリティに関する懸念を表します。

本委員会は、あなたにとってセキュリティが非常に重要であることを理解しています。今回委員会に提案された同意審決内容は、Fandango、LLCが包括的安全保障プログラムを実行すること、特に今後20年間の本命令の有効期間の間、独立した第三者機関による2年に一度の検査・査定を得るのを必要とした。 これらの要件は、あなたの個人情報が将来保護されるのを確実にするのを助けことになるでしょう。

本委員会はFTCの提案された同意審決のご支援に感謝します。 委員会のRules of Practice 4.9(b)(6)(ii)(16C.F.R.§4.9(b)(6)(ii))(筆者注3)に応じて、本委員会は公的記録に関するあなたのコメントを置きました。本委員会は、現在、最終形態としてまったく修正なしでComplaint、DecisionおよびOrderを発行することにより公益に役立つのが最も良いことを決定しました。最終的なDecision、Orderおよび他の関連材料は本委員会のウェブサイトから利用可能です。本委員会は、重ねてあなたのコメントにつきあなたに感謝いたします。  

(筆者注8) FTCの「Rules of Practice(施行規則)」は、FTCがどのように組織化され、その調査手続き、行政手続きおよび司法手続きに関する行動原則を記述する。 

(筆者注9) 野村総合研究所 角田充弘「消費者個人の信用力指標、米国のクレジットスコア」から一部引用。なお、同レポートは最後に「クレジットスコアに対するID窃盗の脅威」をFACT法との関連で述べている。今回のCredit Karmaのappのセキュリテイの脆弱性の指摘の背景が理解できよう。

(筆者注10) Credit Karmaのビジネススキームについてわが国での解説例を2つ引用する。

○Finance Startupsの2012.9.10 「カードの信用情報を簡単にチェックできる Credit Karma がす げー伸びてる」の解説

「普通の広告ではなく、保険やローンの切り替えや特典の利用といったものだ。 しかも、カードの信用情報というかなり重要な個人情報をベースにマッチングを行なっているので、金融商品の広告には とても相性が良い。2007年5月に創業し、2011年の9月時点で合計300万ドルを調達、既に年商570万ドルを達成している。」 

アーキタイプ社の説明文

「無料で自分のクレジットスコアが知りたいユーザーはCredit Karmaにソーシャルセキュリティーナンバーを登録します。ソーシャルセキュリティーナンバーとはアメリカ国民の個人識別番号で、この情報をもとに Credit Karmaは金融機関から集めた情報をかけ合わせてスコアを計算し、ユーザーにスコアを上げるアドバイスと共にクレジットスコアを通知します。

クレジットカード、ローン、保険商品などを扱う金融機関は通常の広告よりも精度の高い情報をCredit Karmaのユーザーに届ける対価として広告料を支払います。」 

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英国公正取引庁はクレジット会社が定める遅延損害金等の引き下げを強く要請

2013-07-13 14:20:08 | 消費者保護法制・法執行

(本ブログは2006年4月に第一版を掲載した。その後、英国の「1974年消費者信用法」の大改正法が2006年3月30日に成立したため、2011年12月に一部加筆したが、さらにカード詐欺対策組織強化等を踏まえ見直すべく点が多々出てきたので、今回注書きを中心に手を入れた) 

 英国の公正取引庁(OFT)(筆者注1)は、2006年4月5日に今後クレジットカード会社8社が課す①遅延損害金(late payment)、②与信限度超過金(exceeding a credit limit)という「default charges」について、5月31日までに12ポンド(約2,436円)以下とするよう強力な警告声明を発した。自ら「消費者のための番犬(Watchdog)」と呼ぶOFTであるが、2005年7月にクレジットカード会社8社に対し20ポンド(約4,060円)から25ポンド(約5,075円)とされる水準の引下げが主たる内容である。 

 実はこのような声明を出す背景には、議会で論議されている「1974年消費者信用法」 (筆者注2)の改正により、新たに免許権を持つというような点もあり、関係業界への早めの取組み姿勢があると思われる(ただし、OFT自体、銀行の当座貸越し(bank overdrafts)、ストア・カード(筆者注3) 、住宅ローン(mortgages)についても、今回のOFTの実費原則が適用されるとしており、APACS (筆者注4)や銀行協会等関係団体との意見調整にはなお時間がかかろう)。

 一方、わが国では、利息制限法の上限金利と出資法の上限金利間のいわゆるグレーゾーン問題に関して、2006年1月13日および同月19日の最高裁判決(筆者注5)を受けた政府の規制強化の動きに対し、消費者金融大手はその対応を迫られているが、この問題についてOFTはどのように受け止めるであろうか。 

1.OFTの警告声明文の要旨

(1) default chargesの金額はあくまで、カード発行者の管理コスト(certain limited administrative costs)相当であるべきであり、現行の各社の手数料は明らかに上回っている。適正なコストとは、郵便料金、文房具代、担当者の人件費、IT費用等である。このためOFTは適切なdefault chargesの金額の線引きとして12ポンドを用意した。

(2) OFTとしては、決して12ポンドに一律集約するつもりもないし、最終的な判断を行う裁判所がこの金額以下であるから「不公正」でないと判断するという保証はない。

 なお、例外的なdirect debit等ビジネス取引の要素がある場合はこの線引きの適用除外となる。 

(3)各カード発行業者が緊急に今回の線引きに則し手数料の引下げを行うことを期待するが、その狙いとするところは不公平な手数料金額を請求されている消費者を保護し、銀行が積極的に競争原理を市場に反映することにある。仮に、市場が対応しない場合は今後、司法の場で決着をつけることになる。 

2.OFTの一連の動きの背景と英国の「1974年消費者信用法」の改正の動き

 現英国議会に上程(筆者注6)されている「Consumer Credit Bill」は、1974法の改正法であるが、今回の改正の主な特徴は次の内容である。 (筆者注7) 

(1)消費者の権限強化策として効率的な紛争解決手段の提供

①現行法の違法要件である「著しく高い金利(extortionate credit)」を「不公平な(unfair)」に見直す。 

②通常の裁判手段のほかに裁判外紛争解決(ADR)を導入する。この手段はすでに「金融オンブズマン・サービス(FOS)」 (筆者注8)で運用されているが、裁判に比べ迅速、低廉、簡易である。この場合の違法性に判断基準となるのが「unfair credit relationship test」であるが、この基準は裁判において、契約の交渉再開や破棄といった救済手段を認めるもので、消費者にとって具体的権利強化につながる。 

(2)消費者信用の規制監督の強化

①OFTに免許権を与え、市場から違法業者を排除する。免許の付与に当りOFTが厳格なチェックを行うとともに、違反行為には行政上の制裁金(financial penalty)を課す。

②署名した契約内容について業者からの情報開示義務を保証・強化する。借り手は契約期間中債務状況に関する情報の入手が可能となり、また貸手は法律に定められた情報提供のほか、履行遅延(arrears)等問題が生じたときの情報提供が義務付けられる。 

(3)異なるタイプの消費者信用においても適正な規制対象化

①現行の25,000ポンド(約507万5,000円)以上と言うキャップを撤廃し、消費者保護の範囲を拡大する。

②不備のある契約内容に対する法的執行力についてバランスの取れた手段を導入する。 

(4)消費者信用法の唯一の適用除外

 金融サービス機構(FSA)が監督する「住宅ローン」である。このようなビジネス取引については小規模な貸手による少額のもの以外は消費者信用法の適用外となる。 

3.関係団体の反発

 英国のカード発行業者の共同機関であるAPACS(Association for Payment Clearing Services:現在は2009年7月6日に新設された”UK Payments Administration Ltd (UKPA)”に引き継がれている)、英国銀行協等は次のような反論を述べている。 

(1)APACSの最高経営責任者であるポール・スミー(Paul Smee)は、今回のOFTの生命はクレジットカード会社8社のみの情報に基づくものでの残りのカード会社やAPACSの参加は認められなかった。個々のカード会社が自社ごとに解散を5月31日までに行うことは負担となる。

(2)英国銀行協会の最高経営責任者であるイアン・マレン(Ian Mullen)はOFTの声明が当座座貸越しまで及んでいる点に驚いている。銀行業界としては消費者信用に適用されるdefault chargeを当座貸越しに適用することは認めない。

4.消費者団体の反応

 いずれも歓迎しているが、Citizen Advice等は裁判における借り手の立証責任(burden of proof)問題が法改正においてどのようになるか懸念材料としてあげている。 

 最後にOFTの声明文中で気になった点を述べておく。

 消費者保護団体が発達している英国ならではのことであろうが、手数料水準の最後の決定者は裁判所であり、そこに持ち込む覚悟を持つこと、消費保護団体との緊密な相談によるアドバイスを求めるよう勧告している点である。わが国の消費者はどのように行動するであろうか。 

  *******************************************************************************************************************

(筆者注1)OFTは、わが国で言うと内閣府の外局である公正取引委員会、内閣府、さらに現国会に上程されている「改正消費者信用法」が成立した場合はクレジット会社や消費者信用機関の免許権が付与される機関に相当するもので、金融サービス機構(FSA)のような金融監督機関の性格を兼ね備えた政府から独立した独立行政機関である。

 従来の基本的な機能は、①カルテルや市場占有力の濫用の禁止・処罰等の具体的行動・処罰、②前記①を実行ならしむため必要に応じ裁判手段を利用、③企業の実践的行動規範(codes of practice)等による自主規制を奨励するなどの行動、④企業活動において、企業や消費者の競争的な環境が法律等に準じたものとなっているかの調査、⑤消費者の利益が大規模に犯されているとする消費者団体の苦情への対応、⑥消費者への権利・義務等についての情報提供、等である。 

(筆者注2) 2011年5月18日の筆者ブログで英国の「1974年消費者信用法」の大改正法が2006年3月30日に成立した旨ならびに改正内容につき解説した。 

「2006年5月25日に貿易産業省(DTI)担当大臣イアン・マッカートニー(Ian McCartney)は、2006年3月30日に国王の裁可を得て成立した「The Consumer Credit Act 2006」(1974年消費者信用法の大幅な改正法で、主たる改正点は①貸手・借手の間の公平性、②与信取引の透明性の確保、③より競争的な信用市場の創造であるとされている)の今後2年間にわたる 具体的施行スケジュールを公表した。」 

(筆者注3) 英国における「ストア・カード」の意義と定義を述べておく。大きな社会的問題となっているのは次の点にある。ストア・カードは小売店やサービス店が発行する与信カードであるが、その金利は年利換算(APRs)で25%~30%と極めて高く、このため同国の「競争委員会(Competition Commission)1998年競争法(Competition Act)に基づき設置された独立行政機関(independent public body)で、1999年4月1日に独占合併委員会(Monopoly and Mergers Commission)に取って代わった。「2002年公正取引庁改組等競争法強化・破産法改正・消費者保護強化に関する法律(Enterprise Act 2002)」とともに英国の企業合併における独占問題について決定を下す役目を担っている。」では、この問題について以下のような専門サイトを作り、また、本年3月7日にはストア・カード問題についての最終報告を公表している。そのポイントは、①年利がクレジットカード等に比較して10%から20%高い、②消費者の被る損失は年間5,500万ポンド(約111億6,500万円)である。このための救済策は、①カード保有者にクレジットカードの利用を勧める、②より低廉な(APRsで2%~3%低い)ダイレクトでビットの利用を勧奨する等である。

〔専門サイトのURL〕http://www.competition-commission.org.uk/inquiries/current/storecard/index.htm 

(筆者注4) APACS(Association for Payment Clearing Services)は、1985年英国の銀行等によって組織された非営利団体で、決済業務に関する民間業界団体、銀行・クレジットカード会社間の活動調整などを行っている。英国におけるカード決済の共同機関。2009年7月6日に新設された”UK Payments Administration Ltd (UKPA)”に引き継がれた。

 “UKPA”は世界経済の約4倍以上の金額の決済処理を行う英国決済専門会社である。しかしながら、同社についてわが国で詳しく解説しているものは筆者のブログ(2010.10.28ブログ2010.10.27  )のみという心もとない状況にある。

 したがって、この機会にUKPAの利用金融機関名、新しい決済システムの開発等を手がけており、その概要をここで述べておく。なお、これら英国の主要決済サービス企業については、英国支払サービス評議会(Payments Council UK)が取りまとめ役となっており、詳細な説明でサポートされている。

 その利用企業名は、 “Bacs(Bacs Payment Schemes Limited)”“Belfast Bankers Clearing Company”“Bank Safe Online”“CHAPS Co”“Cheque and Credit Clearing Company”“Dedicated Cheque and Plastic Crime Unit”(小切手とカード専門捜査課(DCPCU)は、組織化されたカード犯罪や小切手詐欺の撲滅を支援すべく銀行業界により完全に保証された特殊警察部隊である。それは銀行業界の詐欺専門調査員と並行して働くロンドン市警察とロンドン警視庁の官吏から構成される。DCPCUの主な設置目的は、組織化された小切手や決済カード犯罪に関し、捜査 狙い撃ちし、逮捕しかつ責任を負うべき犯罪者を成功裡に起訴すべく手続きを取ることである。

DCPCUは2002年の業務開始以来、1週間あたり80万ポンド(約1億1,760万円)に相当する詐欺活動を減少させ、の4億4,000万ポンド(約691億円)を被害額の減少を達成した。 また、7万5000個の偽造カードを押収するとともに33万1,000枚のカード番号の漏えいを防いだ。 これに加えて、DCPCUは詐欺関連の269の有罪に導くことの成功しており、これは10年間の2週間あたり平均して1起訴を成功裡に進めていることを確実化した。)、 “Faster Payments”“Financial Fraud Action UK”“LINK”“Pay your Way” “SWIFT(UK)”、“The UK Card Association”である。 

(筆者注5)2006年1月の最高裁判所は、貸金業の規制等に関する法律43条(みなし弁済規定)について、利息制限法に定める制限利息を超過する利息を支払うことが事実上強制される場合は「任意に支払った」とは言えず、有効な利息の支払とみなすことはできないとし、「制限超過の約定金利を支払わないと期限の利益を失うとの特約による支払に任意性は認められない」とする判断を下した。

 日本における金利の規制は、「利息制限法」により貸付の金額によって年15~20%を制限利息とし、それを超える約定は超過部分を無効とし、他方、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)」は年29.2%を超える利息の約定に刑事罰を定めている。その間の利息は「グレーゾーン金利」とされ、登録貸金業者には「任意の支払」など、一定の厳格な条件を満たす場合は例外的にグレーゾーン金利の取得を認めている(みなし弁済規定)。

 今回の最高裁は本判決において、任意性の要件についても厳格に解釈する立場を明らかにしたが、それは、単に形式的な条文解釈を示したのではなく、みなし弁済規定自体の厳格解釈(平成16年2月20日判決)、貸金業者の取引履歴開示義務(平成17年7月19日)、リボルビング方式の場合での返済期間・返済金額等を契約書面に記載する義務(平成17年12月15日)を判示した一連の最高裁判決とともに、「利息制限法こそが高利禁止の大原則であり、これを超過する高利の受領は容易に認めるべきではない」とする司法府の立場を示したものと解される。(日弁連の声明サイトから抜粋、引用) 

(筆者注6) 現行法の不当( extortionate )な高金利の是正から「不公平(unfair)」への適用基準の変更、OFTへの免許権の付与や同国の金融オンブズマン・サービスが提供者となる裁判外紛争解決(ADR)についての改正案は、2004年12月に上程されたものであるが2005年春から施行予定であった。最新の法案内容参照。 

(筆者注7) 担当省であるDTI(貿易産業省)は、法案の内容に則して独自の解説資料を作成・公表している。専門的かつ平易な内容であり、わが国の担当省による味気ない「法案説明」に比べると極めて実務的である。 

(筆者注8) 英国の金融オンブズマン・サービス(Financial Ombudsman Service)の利用手続きの詳細サイト参照。 

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米国連邦FDAが違法なオンライン薬局に対し1,677の未承認ウェブサイトの閉鎖等国際的共同法執行措置を発動

2013-07-03 14:11:32 | 消費者保護法制・法執行



 去る6月27日、米国連邦保健福祉省・食料医薬品局(U.S.Food and Drug Administration:FDA)は6月18日から25日の間に実施した国際的な規制当局や捜査・法執行機関と共同して消費者に極めて重大な危険性をもたらす違法でありまた未承認の処方薬を販売する96,000以上のウェブサイトに対し、規制・監督機関の警告発布、提供物の押収および世界的規模で違法な医薬品約4,110万ドル(約39億9,900万円)相当に対する法執行活動(第Ⅵ次パンジア作戦:Operation Pangea Ⅵ)を行った旨リリースした。

 この情報はわが国では、唯一、ペンネーム(桜下街(おうかがい)ブログ「くすりなひと」
がFDAのリリースやCBSニュースに基づき概要を解説している。

 また、これまでの世界的にみたパンジア作戦の取組みについて、わが国の一部専門ブログのみが取り上げている。しかし、筆者が見るにこれだけ国際的な規制・法執行活動について、どういうわけかわが国の規制監督機関である厚生労働省や捜査取締機関である警察庁の公式リリースは皆無である。
(筆者注1)

 筆者が独自に調べた範囲では、鳴り物入りでスタートさせたわが国のインターネットによる医薬品販売の適正化ルールに関し、担当規制機関である厚生労働省医薬食品局総務課が主催する「一般用医薬品のインターネット販売等の新たなルールに関する検討会(1回~11回)」の第9回会合(2013年5月16日)でやっと「資料3:インターネット上の監視強化について:検討課題」という資料が提示されている。要するに日本は担当行政機関の特定も含めこの問題はこれからなのである。

 さらに本ブログの執筆にあたりわが国のオンライン薬局特に海外からの輸入医薬品を扱うサイトの内容をつぶさに読んでみた。本文で具体的に紹介するが米国の場合と危険性はまったく変わらない。(筆者注2)

 今回のブログではFDAのリリースだけでなく国際的な共同作戦である「パンジア作戦」についても国際関係機関のデータを織り込んでまとめてみた。この問題に関するわが国の消費者保護のあり方を改めて考えるきっかけとしたい。

 なお、筆者は医薬品問題の専門家ではない。消費者から見たICT世界の適性な発展を期待するが故の問題提起であり、わが国の関係者によるさらに具体的論議が高まることを祈る者である。


1.FDAのリリース要旨
 前述したブログ「くすりなひと」が、FDAのリリースに基づき主要な事項は整理しているので参照されたい。ここでは、この問題が国際的な犯罪組織がバックにあるがゆえ手口の専門性やその健康面に極めて重大な悪影響を与えているかについて、FDAのリリース等に基づき補足する。

(1)「第Ⅵ次パンジア作戦」の米国の取組み
 FDAの犯罪捜査局(Criminal Investigations)は、6月18日から6月25日の間にコロラド地区連邦検事局と共同し、1,677の違法な薬局ウェブサイトを押収(seized)、閉鎖(shut down)させた。
 これらのウェブサイトの多くは一見“Canadian Pharmacies”(筆者注3)に偽者でありながら類似するもので犯罪組織ネットワークの一部として活動しているように見えた。これらのウェブサイトは、「有名ブランド名」や「FDA認可」を名乗った広告手段を用いて米国の消費者に医薬品を購入させるべく、その納得させるため、にせの免許証や認可証を画面上に表示した。

 パンジア作戦で対象となる一部受け取った医薬品は、カナダからでなくまたブランド名でもなくFDAの認可も受けていなかった。また、これらのウェブサイトは、米国の消費者に対し米国の主要な小売業者と提携関係があるように信じさせるべく、その名前を詐称した。

 現在、消費者が違法な押収ウェブサイトを識別しうるよう、FDA犯罪捜査局サイバー犯罪ユニットは禁止リストを表示した。

ここにいくつかの詐称例を挙げる。
・http://www.canadianhealthandcaremall.com/
・http://www.walgreens-store.com
・http://www.c-v-s-pharmacy.com

 FDA犯罪捜査部長ジョン・ロス(John Roth)は、「違法なオンライン薬局は米国の消費者に潜在的に危険な製品を販売することでその健康を危機的状況に置く。これらは米国や海外の諸国による現下の戦いであり、FDAは刑事事件としての法執行や規制監督を続ける。また、FDAは消費者を保護するとともにこの戦いに参加する国際的なパートナー達と関係強化を図るためパンジア作戦に参画したことに満足している」と述べた。

 全部で99カ国の法執行機関、税関、規制機関からなる「第Ⅵ次パンジア作戦」の目標は、違法な医薬品や医療機器メーカーやその販売業者を特定し、サプライチェーンからこれらを排除することである。

 第Ⅵ次パンジア作戦において具体的な標的として違法なウェブサイトで販売された危険な医薬品例としては次のものがあげられる。

・AVANDARYL(Glimepiride およびRosiglitazone):FDAにより認可されている医薬品は「タイプ2」の糖尿病の治療用の用いられる一方で、体液貯留(fluid retention)による浮腫(edema)、心臓の悪化や心不全を引き起こすリスクが指摘されている。このため、AVANDARYLは認可された医療サービス機関で処方され、また薬物療法ガイドに即して潜在的危険性につき説明をもって認可を受けた薬局で配布されなければならない。(筆者注4)

・GENERIC CELEBREX:オンラインで販売される“GENERIC CELEBREX”はFDA認可医薬品ではない。FDAが認可する“GENERIC CELEBREX”(celecoxib:セレコキシブ)は骨関節炎(osteoarthritis)やリュウマチ様関節炎(rheumatoid arthritis)の兆候に対処するもので成人の激痛を緩和させるために使用される非ステロイド(non-steroidal)の抗炎症剤製品(anti-inflammatory product)である。

 一定の長期使用の場合、消化管出血(gastrointestinal bleeding)、心臓発作(heart attack)または脳卒中(stroke)のような関係する潜在的な危険性を最小化するため、GENERIC CELEBREXはこれらの潜在的リスクにつき薬物療法ガイドに基づいた説明の上で配布されねばならない。

・Levitra Super ForceおよびViagra Super Force:Levutra(vardenafil:バルデナフィル)およびバイアグラ(sildeafil:シルデナフィル)は勃起障害(ED)のために使用するFDAにより認可された医薬品であるが、Levitra Super ForceおよびViagra Super ForceはFDAにより認可されておらず、早漏治療薬であるdapoxetine(ダポクセティン)を含むといわれている。FDAはダポクセティンの安全性や効能につき何等の決定を行っていない。一定の心臓に疾患を持つ人はバルデナフィルまたはシルデナフィルを含有するED薬を飲むべきでない。これらの医薬品による危険な薬物相互作用または重大な悪影響の潜在可能性としては「聴覚障害(loss of hearing)」や「視覚障害(loss of vision)」がある。

・Clozapine(クロザピン)(筆者注5):FDAが承認しており、重度な統合失調症(severe schizophrenia)の治療に使用されるが、潜在的に致命的な無顆粒球症(agranulocytosis)(筆者注6)や、重症化したり、生命に危険を及ぼす白血球数の低下をもたらす。
 この危険性を最小化するためには、FDAが承認したクロザピンを処方された患者は彼らの白血球数を定期的にモニタリングするため登録しなくてはならない。

 FDAはその他の連邦機関と共同作業にしておいて第6次国際インターネット行動週間(6th annual International Internet Week of Action:IIWA)において国際郵便サービス機関を通じて受け取った医薬品のスクリーニングを行った。
予備調査段階で明らかとなったことは、海外からの送られてきた例えば「性機能障害(antidepressants)」、「ホルモン補充療法(hormone replacement therapies)」、「睡眠導入」、その他勃起機能障害(treat erectile dysfunction)、高コレステロール、発作薬(seizures)などが米国の消費者に近づきつつあることを示した。

 また、健康リスクに加えてこれらの薬局クレジットカード詐欺、成りすまし、コンピュータウィルスなどを含む非健康関連の危険性も消費者に引き起こす。
 
 FDAは専門サイト“BeSafeRx”を介した違法な薬局ウェブサイトの特定方法やどのようにして安全なオンライン薬局を見つけ出すかに関する情報を提供する。まずは“Know Your Online Pharmacy”を読むことである。

2.近年のパンジア作戦の概要と経緯
 2012年3月、国際刑事警察機構(INTERPOL)と世界各国の製薬会社の合意に基づいて、医薬品犯罪プログラムが開設される。これは、インターポールの医薬品偽造・医薬品犯罪 (MPCPC)ユニットに属し、医薬品犯罪の防止、及び違法行為に関与する組織の実態の解明と解体を目的とする。

 もう1つの重要な目的は、近年増加するインターネットを利用した医薬品の購入者に、偽造医薬品の危険性に対して注意を促すことである。

 2012年に、世界100カ国で繰り広げられた「オペレーション・パンジア5」では、違法な医薬品をオンライン販売する犯罪組織を摘発することを目的とし、結果として逮捕件数が約80、死に至る危険性がある偽造医薬品の押収が375万点、総額1050万ドル相当であった。(2013.3.15 QLife Pro記事「偽造医薬品の撲滅へ インターポールと製薬企業が手を組む」から一部抜粋。2012年3月の第5次パンジア作戦の成果に関するINTAPOLのリリース文)(筆者注7)

3.医薬品業界の偽造医薬品に関する国際的およびわが国の取組み
(1) わが国の医薬品業界の偽造医薬品取締りの取組み
 製薬業界は偽造医薬品の取締り強化を実効性を持たせる目的で米国に設置された「インターネット医薬品安全化センター(center for safe internet pharmacies: CSIP)」につき、国際製薬団体連合会(IFPMA)米国研究製薬工業協会(PhRMA)欧州製薬団体連合会(EFPIA)および日本製薬工業協会(JPMA)の4 つの製薬団体は、世界の研究開発型製薬業界を代表し、偽造医薬品取引の対応における重要なステップとして、CSIP をはじめとする幅広い各方面での取り組みを支援した。

(2)わが国のオンライン薬局のウェブサイトで見る危険度、警告
 最後に本ブログを執筆するに当り、改めてわが国のオンライン薬局の実態をよく読んでみた。ほんの一部の例ではあるが極めて危険さが浮かび上がってきた。

①わが国の「薬通販ベストケンコー」のバルデナフィルの販売画面
「バルデナフィルの副作用・注意事項に関して」部分を引用する。
「バルデナフィル(vardenafil)の一般に言われる副作用は下記の通りです。
バルデナフィルの一般的な副作用として、「顔のほてり」「目の充血」などがあります。その他に「軽い頭痛」などもございます。副作用の程度は軽く一時的なものです。」FDAが指摘するような視覚障害など危険性の指摘は皆無である。

②海外医薬品の通販サイト「くすりの宅配便」のレビトラ・ジェネリックの商品説明サイト
・副作用など危険性に関する説明文言は一切なし

③オンライン薬局 Japan RX comスーパーピーフォース(ダボキセチン/ダポクセティン)の説明サイト
・副作用など危険性に関する説明文言は一切なし

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(筆者注1) 厚生労働省が医薬品の輸入に係るリスクに関し何も警告を鳴らしていないとは言っていない。例えば厚生労働省・医薬食品局・監視指導・麻薬対策課「個人輸入において注意すべき医薬品等について」を見ておく。
「下記製品については、有害事象の発生や偽造医薬品の可能性がありますので、個人輸入による安易な使用はお控えください。」という説明の後に海外の保健機関の具体的な警告内容を列挙している。しかし、このような警告を都度確認している消費者はいかほどいるであろうか。また、その説明内容はいかにも専門家向きである。
 また、厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル」が参考になる。ただし、患者自身や家族が読むように丁寧に説明されている部分があるが、オンライン薬局で掲示されている医薬品名で検索するにはなお、工夫の余地が大である。FDAのくすりに関する総合専門サイト“Know Your Online Pharmacy”と比較されたい。

(筆者注2) 日本医師会総合政策研究機構(JMARI)調査レポート1999年11月8日号 伊原和人・天池麻由美「普及するインターネット・ビジネス①―インターネット薬局―」は約14年前とはいえ、今日の米国やわが国の現状を踏まえた問題点を先取りしたレポートといえる。

(筆者注3) 確かに筆者の 手元にも“Canadian Pharmacies”を名乗る胡散臭い下手な英語の売り込みメールが時々届く。完全に無視しているが、この手のものであろう。

(筆者注4) FDAは、 AVANDARYL(Glimepiride およびRosiglitazone)に関す専門家(内分泌科、医療専門家)や消費者向けの解説サイトを提供している。ただし、その内容は必ずしも平易とは思えない。

(筆者注5) Clozapine(クロザピン)についてWikipedia の解説を引用する。「クロザピン(Clozapine)は治療抵抗性統合失調症の治療薬であり、非定型抗精神病薬である。元来世界初の第二世代抗精神病薬といわれていて、長く使用されていた言語地域もあるようだ。現在では97ヶ国で承認・使用されている。日本ではクロザリルの名前でノバルティスファーマより発売されている。
しかし無顆粒球症などの副作用もあり、使用する際一週間に一回血中濃度を測定しなければ命が危険になる。」
これだけ危険性が伴う医薬品でありながら、オンライン薬局で販売されている。例えば、
「Japan RX.com」は「クロザピン (クロザリル ジェネリック) 錠」を販売しているが、「効能関連注意」を読んでも具体的な危険性指摘は皆無である。

(筆者注6) 無顆粒球症(agranulocytosis) とは、血液中の白血球のうち、体内に入った細菌を殺す重要な働きをする好中球(顆粒球)が著しく減ってしまい、細菌に対する抵抗力が弱くなった状態のことです。
無顆粒球症になると体内に入った細菌を殺すことができなくなるため、かぜのような症状として「突然の高熱」、「のどの痛み」などの感染に伴う症状がみられます。(2007年6月厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル:無顆粒球症(顆粒球減少症、好中球減少症)」6ページ以下から一部抜粋)

(筆者注7) 2012年INTAPOLの第Ⅴ次パンジア作戦の動画解説参照

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ニューヨーク州司法長官がIntel社を反トラスト法違反で起訴陪審へ(その2完)

2011-12-27 17:16:04 | 消費者保護法制・法執行

 

(3)ニューヨーク州 反トラスト法“General Business”(GBS)の内容
 反トラスト法である“General Business”(GBS)の内容について逐一解説は行わないが、経済司法部反トラスト局のサイトの同州反トラスト法の解説内容を概観する。


 ニューヨーク州の反トラスト法(340-347 of New York’ General Business law )は一般には「ドネリー法」といわれ1899年に制定された。一部重要な点で異なる部分もあるが、その後の法改正や解釈により緊密なかたちで連邦シャーマン法の内容との整合性が図られてきた。すなわち同法は、価格吊り上げ、地域や顧客配分(territorial and customer allocation)、ボイコット、談合入札(bid rigging)および抱き合せ販売(tying arrangements)を禁止する。
 同法は、司法長官に法人の場合は最高100万ドル、個人の場合は最高10万ドルの民事罰を求める訴訟提起の権限を定める。またプライベート・パーティ(被害者たる訴訟当事者)はこれらの違法行為を禁止させまた三倍賠償を得るため訴訟の提起が出来る。ドネリー法違反は重罪(felony)であり、法人の場合は最高100万ドル、個人の場合は最高10万ドルと4年の拘禁刑が科される。

3.今後の国際的非競争法強化に対応した研究課題についての私見
 わが国では日本企業の海外進出とともにわが国の企業のEUや米国における非競争法違反・制裁問題に危機感をもっており、最近ではあるが経済産業省は経済産業政策局長の私的研究会として、「競争法コンプライアンス体制に関する研究会」を設置し、 第1回会合を2009年8月4日に開催し、以降月1回ベースで開催されている。
 第1回会合配布の「資料4」に指摘されているとおり、同研究会は制裁金・課徴金という行政制裁の強化によるか罰金・禁固刑という刑事制裁の強化によるかという手法の違いは別として、現在、日米欧いずれの競争当局においても、カルテル等の競争法違反行為の抑止という観点から、執行強化がなされているという問題意識から検討が行われている。
 なお、同研究会は、2009年8月から11月にかけてのべ4回開催し、2010年1月29に報告書「『国際的な競争法執行強化を踏まえた企業・事業者団体のカルテルに係る対応策』について」を取りまとめている。

 一方、筆者自身、今回ブログの原稿作成を通じて次のような具体的課題を整理した。①世界的独占企業の非競争戦略の「法的きわどさ」、②中小企業も含むわが国企業の国際化が急速に進む一方で、海外の非競争法の正確な理解の不足や執行機関に関する研究の遅れ、③ニューヨーク司法長官府サイト等で見るとおり非競争行為はわが国でいう「ニューヨーク州内部通報者保護法(New York State False Claims Act)」の機能に期待する点が極めて大である問題であり、各州の運用実態調査の重要性、④連邦司法省サイトで見るとおり、被害者保護面からのオンブズマン制度の機能の実態調査の重要性、⑤わが国の司法関係者や法執行機関のデジタル・フォレンジックに対する意識の低さ。
 これらの課題については、順次最新情報を追いながら解説していくつもりである。いずれにしても、わが国の独占禁止法も含め非競争規制法は経済規制法という側面から消費者保護(消費者の権利保護)法の側面に焦点を当てたさらなる研究が求められよう。(筆者注14)

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(筆者注14) このような問題意識はすでに「第14次国民生活審議会(1992年12月12日~1994年12月11日)消費者行政問題検討委員会報告」において指摘されていた点である。しかし、その後の運用はいかがか。

〔参照URL〕
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/nov4a_09.html
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/NYAG_v_Intel_COMPLAINT_FINAL.pdf

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ニューヨーク州司法長官がIntel社を反トラスト法違反で起訴陪審へ(その1)

2011-12-27 16:59:20 | 消費者保護法制・法執行



(本ブログは2009年11月13日に掲載したものに最近時のデラウェア連邦地裁の裁判情報等を追加したものである)

 ニューヨーク州司法長官アンドリュー・M・クオモ(Andrew M.Cuomo)(2011年1月1日にエリック・D・シュナイダーマン(Eric D.Schneiderman)が後任長官として就任) (筆者注1)が11月4日に世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーである米国インテル社を反トラスト法(筆者注2)違反で起訴陪審に向けた手続に入ったニュースは、わが国のメディアでもすでに報じられている。

Eric D.Schneiderman


 一方、インテルの最大のライバル会社であるAMD(Advanced Micro Devices)は、11月11日、インテルへの米国デラウェア連邦地方裁判所や日本の裁判所で起こしていた米国反トラスト法や独占禁止法違反を理由とする全訴訟は取り下げるとともに特許技術の相互利用に関するクロスライセンス契約の延長について12億5千万ドル(約1,125億円)で和解合意(Settlement)を11日に行った旨発表した。今回の両者の和解合意が政府による訴訟や欧州委員会による調査等には影響しないとするメディアが多い。

 インテルへの反トラスト法違反訴訟は、欧州委員会(筆者注3)韓国公正取引委員会(Korea Fair Trade Commission:KFTC) (筆者注4)の課徴金処分、日本の公正取引委員会 (筆者注5)による排除勧告を受けた一連の行動であることは言うまでもないが、非競争に関する連邦法執行・監督機関である連邦取引委員会(FTC)の今後の出方も注目されている。
 
 今回のブログは、内外のメディアによるややセンセーショナルかつ限定的な情報だけでなく、反トラスト法を中心とする法律的に見た正確な情報の提供を目的としてまとめた。すなわち連邦反トラスト法だけでなくニューヨーク州の反トラスト法(Donnelly Act)の内容等にも言及するとともに同州の非競争行為に対する法執行体制についても解説する。

 また、今回の事例は米国の消費者保護における連邦政府(FTC)や州司法長官の役割(いわゆる父権訴訟(parens patriae )(筆者注5-2))の具体例である。その歴史的経緯や機能については2008年6月に日弁連消費者行政一元化推進本部研究会において日本女子大学の細川幸一准教授が「米国の消費者保護における政府の役割~父権訴訟を中心に~(メモ)」で詳細な報告を行っている。

 わが国では消費者庁が9月1日に稼動を始めたが、その基本機能は日常的な生活苦情窓口だけでよいのか、不正競争に基づく消費者の救済といった個人では手が出せないし、また集団訴訟提起もなおハードルが高い問題等にその公的機能が本格的に発揮されるためには公正取引委員会の自由競争阻害要件を中心とする方式から一歩踏む出すことの検討も必要となろう。(筆者注6)

 特にニューヨーク州とはいえ世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーにFTCより先んじて挑む姿勢の意義と今後の展開に強い関心をもって今回のブログをまとめた。
 
 なお、わが国では内閣府の「独占禁止法基本問題懇談会の最終報告(独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理)」等において非競争行為における課徴金、刑事罰の併科問題等が議論されているが、それ自身が大きな課題であり機会を改めて論じたい。
 
 今回は、2回に分けて掲載する。

1.同司法長官の起訴陪審に向けた起訴状(案)の要旨
 インテル社に対する87頁の起訴状(案)は、デラウェア連邦地方裁判所 (筆者注7)に提出された陪審審理(正式事実審理)請求(trial by jury demanded)である。事実関係については一般メディアでもかなり詳細に書かれているが、内容の重複を承知で「リリース」に基づき仮訳で解説する(リリースでは2008年1月から捜査が開始され、司法長官府(Attorney General’s Office)による数百万ページにわたる文書や電子メールさらの数十人の証言をもとに起訴が行われたと発表している)。なお、メディアではほとんど報じられていない点は、CEOや幹部間相互の電子メールが極めて立証上で重要な証拠となっていること(デジタル・フォレンジック (筆者注8)の重要性が極めて問題となる事件となろう。一方、インテル社は起訴状記載の電子メールの内容は言葉尻をとらえているのみでリベートや報復的強圧をかけるなど非競争行為を意図的に行ったことの証拠性は弱いと反論している)である。

 さらに、以下の電子メール等の証拠内容から見て、反トラスト法の解釈と絡んでくるであろうが、自由市場ルール違反や消費者保護と言う観点からみるとデルやHPは本当に被害者なのであろうか。共犯ではないかとも考えられよう。

 なお、筆者が従来から米国の法制度調査とりわけ法律の条文の原本を確認する上で最も気になっていた簡易かつ迅速な「検索性」は、次項で述べるとおり州法で見る限り期待はずれであった。今後、あり方について米国のロー・スクールや弁護士等と意見交換するつもりである。

(1)企業内電子メールがインテルのコンピュータ・メーカーへの違法な圧力を明らかにする:我々はインテルのこのような報復行為を受忍しるであろうか?
 2009年11月4日、ニューヨーク州司法長官アンドリュー・M・クオモは世界最大のマイクロプロセッサー・メーカーであるインテル社に対し、連邦反トラスト法違反に基づく訴訟を起こした。本訴訟は、電子メールの解析で明らかとなったインテル社がマイクロプロセッサー市場における独占力と価格を維持する目的で世界中にわたるかつ組織的かつ違法な活動キャンペーンを行ったことに対する責任を問うものである。

 この数年間、インテルは総額で数十億ドルにのぼる支払と引き換えに同社のマイクロプロセッサーの使用に同意した大手コンピュータ・メーカーから独占的契約を取り付けている。また、同社は事実上インテルの競合他社と極めて緊密の行動したことを察知したPCメーカーを脅迫するとともに実際に処罰的行為を行った。これらの報復的な脅迫の内容には、直接コンピュータ・メーカーの競争相手に資金を供給して共同開発事業を終了させ、またコンピュータ・メーカーがインテルから受け取っていた資金のカット措置が含まれていた。

 インテルは、公正な競争より市場での締め付けを維持するため賄賂や強制を使った。本日、連邦地方裁判所に起こした訴訟はインテルの更なる反競争的行為を禁じ、失われた競争を復元させニューヨーク州の政府機関や消費者が被った金銭的な損害を取り戻すために刑罰を科すことが目的である。

(2)インテルは米国の最大手のコンピュータ・メーカーに贈賄や強制を行った
 「インテルx86マイクロプロセッサー(ほとんどのPCの頭脳部分)」は一般的に直接企業や消費者に販売しないかわりにPCの部品としてコンピュータ・メーカーに販売する。インテルの違法行為は合衆国の3大コンピュータ・メーカー(デル(Dell)、ヒューレット・パッカード(HP)、IBM)を巻き込んでいた。

(デルに関する違法行為)
・2006年、インテルはデルに対し約20億ドルのリベートを支払ったが、そのリベート額はデルの2四半期分(9半年分)の純利益(net income)を超えていた。
・2001年から2006年の間、インテルはデルに対しインテルの主たる競争相手であるAMD社(Advanced Micro Devices)の製品を販売しない見返りとして他のコンピュータ・メーカーに比べ相対的に特権的な地位を与えた。
・インテルとデルは、AMDが戦略的に重要な競争力のある成功を収めることを阻止するため原価を下回る価格でのマイクロプロセッサーやサーバーの販売に協力した。
(HPに関する違法行為)
・インテルは、HPがAMDの製品販売を促進するなら今後のHPのサーバー技術の開発を頓挫させるであろうと脅かした。
・インテルは、HPのAMDのプロセッサーを使った業務用デスクトップ・パソコンに5%の販売割引価格の上限(Customer Authorized Price:CAP)(筆者注9)を設ける合意の見返りとして数億ドルを支払った。
・2006年にAMDの支出に係るHPの販売におけるインテルのシェアの増加を見合いに9億2,500万ドルを支払う旨のより幅広いかつ全社的な合意を取り交わした。
(IBMに関する違法行為)
・インテルはAMDベースの商品を購入しないようIBMに1億3,000万ドルを支払った。
・インテルは、IBMがAMDを組み込んだサーバーを販売した場合は、IBMにとって利益が得られた共同事業から資金を引上げると脅した。
・インテルはIBMに対しAMDプロセッサーを組み込んだサーバーを「ノーブランド商品」とするよう圧力をかけた。

(3)各社の社内文書や電子メールがインテルの違法行為を明らかにした
 本訴訟ではインテルの違法活動を示す電子メールの通信が含まれている。その具体例は次のとおりである。

①2005年1月、IBM役員の社内電子メール:「私はAMDが完全な商品ラインの面で欠けている理由・原因を理解した。質問ですが、我々はインテルの復讐を受け入れる余地があるか。」
②2004年6月、HP役員のHPがインテルを無視してAMDを組み込んだ製品を販売した後の社内電子メール:「インテルはHPがOpteron(AMDのサーバー・チップ(筆者注10)発表に数十億ドル($B)かけたことこのことに対し、HPを罰する計画があると我々に話した。」
③2004年9月、HPの役員のインテルの競争相手からの販売製品を得たことの必然的な結果に関する社内電子メール:「我々がそうするか(そうするつもりであるが)、インテルからの資金は停止してしまうであろう。そのリスクは極めて高い。その資金がなかったら、我々は財務的に耐えられないであろう。」
④2003年2月、インテルの競争相手からデルが積極的な購入を行った場合の想定される結果についての社内文書:「インテルによるリベート額の減少は厳しくその影響はデルのあらゆるLOB (筆者注11) に長引いて及ぶ。」
⑤2004年2月、デルがインテルとの排他的関係を終了させる可能性についての内部電子メール:「デルがAMDへの大移動に参加するなら、PSO/CRB(インテルのCEOであるPaul Otteliniと会長のCraig Barett)による聖戦(jihad)への用意が行われる。我々はインテルが詳細を調査する間、我々は少なくとも3ヶ月間リベートがゼロになる。これを避けるためにはいかなる法的・倫理的・脅威も問題となりえない。」
⑥2006年9月、インテルのHPとの交渉責任者(negotiator) (筆者注12)の社内電子
メールにはインテルの反トラスト法違反に抵触しないよう意図的に試みた記録が次のとおりある:「あなた方(メールの宛名人)は市場シェア(MSS:market share)に関する部分を交渉記録上除くことが出来た。ボリューム目標のみ残すよう工夫した。我々の顧問弁護士団は交渉スタッフに対し口うるさい。従って、私の会話内容はボリューム目標か関連するボリューム目標のみに限定した・・・(メールの相手から )有難う(thx)の返事があり。」
⑦2006年4月、インテル役員の社内電子メール:「反とラスト法の問題の懸念をなくすためは文書や電子メールは問題であり、電話でもう少し話すことにしましょう。」
⑧2005年11月、デルCEOのMichael DellからインテルCEOのPaul Otteliniに宛てて送られた社内電子メール:「我々は指導力を失い、その結果いくつかの分野で当社の事業上重大な影響を与えています。Otelliniの返事:この分野には新たなものは何もないのです。我々の製造計画(product roadmap)そのものです。

それは日々急速に向上しています。そのことが指導的製造を増加させるし、さらに競争努力に合致させるため、インテルはデルに対し1年当り10億ドル($1B)をデルに譲渡する予定です。このことは貴社のチームにおいても競争問題を補償するに十分以上であると判断された。」

(4)ニューヨーク州対インテル社裁判の起訴状の具体的内容およびその後の情報
 前述したニューヨーク州司法長官がインテル社を起訴した裁判で、その基礎を裏付ける具体的事実については前述したとおりである。ここでは、起訴状の結論部分である裁判所に対する4つの「救済請求(Claims for Relief)」をとりあげる。
①第一請求(シャーマン法(Sherman Anti-Trust Act)2条違反
②第二請求(ニューヨーク州Donnelly Act:ニューヨーク一般ビジネス法律集(N.Y.Gen.Bus.Law)第22編340条以下「独占行為」)
③第三請求(ニューヨーク州執行部法(New York Executive Law)63条(12)違反) (筆者注13)
④第四請求(同条)

 なお、裁判の途中段階の情報は省略するが、2011年12月24日にデラウェア連邦地裁判事レオナルド・スターク(Leonard Stark)は2012年2月14日に予定している公判予定の取消を命じた。その理由は、本裁判が破棄されるべきか否かにつきニューヨーク州が論議中であるということにある。いずれにせよインテル社はすでに反トラスト裁判の解決に関し、すでに27億ドル以上を費やしている。スターク判事は起訴事由のうち三倍損害賠償(triole damages)を破棄するなどいくつかの請求を退けている。また、同判事は事件の対象範囲につき原告であるニューヨーク州に対しここ3年間におけるコンピュータの購入に焦点を当てるとするなどの訴訟指揮をとってきた。これに対し、州当局は6年間の期間を求めていた。

2.ニューヨーク州の反トラスト法(Donnelly Act)および同州の非競争行為に対する法執行体制
(1)米国の連邦および州ベースの反トラスト法の関係
 わが国で広く一般的に読める海外情報としては公正取引委員会サイトで連邦司法省反トラスト局の公表ニュースを簡単に紹介しているのが唯一の情報であろう。
 ニューヨーク州経済司法部反トラスト局のサイトでは、連邦反トラスト法について簡潔にまとめている。連邦司法長官と州司法長官の権限との法的関係(いわゆる父権訴訟)にも言及しており参考までに紹介する。

「連邦反トラスト法(Federal Antitrust Laws)」
 1890年に制定された「シャーマン法」は、州際取引や商業における制限的性格をもつすべての契約や共謀行為を禁止する。具体的には、価格吊り上げ(price fixing)、市場配分(market allocation)、ボイコット、談合入札(bid rigging)および抱き合せ販売(tying arrangements)を含む。
 連邦裁判所は、これらの禁止行為の停止や回復、また違法に取得した利得の返還、実際被った損害額の3倍の損害賠償(三倍賠償(treble damages))を裁可する権限がある。また違反者には法人の場合は最高1億ドルの刑事罰、個人の場合は最高100万ドルおよび10年以下の拘禁刑が科される。

 「クレイトン法」は実質的に競争を抑制したり独占を生じさせる買収(mergers)や一定の排他的合意(certain exclusive dealing arrangements)を禁止する。
 「1976年ハート・スコット・ロディノ反トラスト法」は、連邦の反トラスト法訴訟における州の住民を代表して各州の司法長官に新たな広い起訴権限を与えた。このため司法長官は消費者の代理人としてシャーマン法違反に基づき失われた金額の三倍損害賠償を起こすことができる。この方式により司法長官は多くの市民が少額でかつ個々人が提訴する余裕がない場合に1つの訴訟に統合することができる。

 一方、「連邦取引委員会法」は「不公平な取引慣行」や「不公平または詐欺的またはその実践行為」を禁止する。本法は、①シャーマン法とクレイトン法の非競争条項の法執行を実現させる、②FTCの反トラスト法では対処し得ない違法活動の消費者保護代理機関として機能を果たす権限を定めている。

(2)各州の反トラスト法の調べ方
 そもそも州ベースの反トラスト法の執行体制や関連法を調べるにはどのようにすればよいのか。
 筆者なりに模索した結果は、以下のとおりである。
A.同州の経済司法部反トラスト局(Antitrust Bureau, part of the Division of
Economic Justice)サイトを閲覧した。
B.同サイトでDollenny法の解説を読む。ただし、同サイトや州の一般サイトから条文そのものは確認できない。
C.同州の法律検索専門サイトでDonnelly 法の条文内容を確認しようとした。なお、同サイトはアルファベットで検索するようになっているが、連邦法のように法律名(Dollenny)では検索できない。 “General Business”(GBS)まで知っていると条文内容にたどり着く。

 この検索方法はカリフォルニア州ではどうなるか。同州の反トラスト法の正式名は“CALIFORNIA BUSINESS AND PROFESSIONS CODE:Cal.Bus.&Prof.Code”である。一般的には通称の“Cartwright Act”で解説されているか、または両者が併記されている。
 ついでに、検索手順を解説しておく。
A.州の公式法案・制定法検索サイト“Official California legislative Information” を閲覧する。
B.画面下の選択肢から“California Law”を選択する。
C. “California Code” を閲覧する(29の法典の最新更新内容が確認できる)。
D.法律の内容を示す一覧から該当の法典(code)を選択する。法典名が分からない
と更なる検索である「キーワード検索」もできない。
筆者が一番困惑したのは一覧から該当法典名である“CALIFORNIA BUSINESS AND PROFESSIONS CODE”を調べる方法であった。同法は450頁の大法典であるが、連邦法の検索時の習慣で通称である“Cartwright Act”に基づく検索に固執しすぎた。

 

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(筆者注1)「司法長官」と言う名称から連邦と同様に執行機関の最高責任者である州知事が任命すると思われがちであるが、ニューヨーク州においては、連邦政府と異なり、他州と同様に、知事のみならず副知事・州監察長官(State comptroller) ・州司法長官(Attorney General)という主要な行政官が公選職員として住民の直接選挙で選出される。1846 年のニューヨーク州憲法(Constitution of the State of New York )改正(5条1項)により、州司法長官も州監察長官も共に公選職員(任期4年)となった。(自治体国際化協会のサイトから引用)

 前クオモ長官(民主党系勤労家族党(Working Families Party)ニューヨークのマイナーな党であるが自由主義的性格が強い政党である)の選挙は、2006年11月7日に行われ、58.31%の票を獲得している(Wikipedeiaの解説等から引用)。現長官シュナイダーマンは前ニューヨーク州議会上院議員(民主党)で2010年9月に党候補に指名され、総選挙の結果、当選し、2011年1月1日に第65代長官に就任した。

 なお、わが国では州の“Attorney General”の訳語を「検事総長」としているものが多い。しかし、これでは連邦の司法長官(法執行の最高責任者で大統領が指名、議会が承認)と機能が異なることになる。起訴状にあるとおり、連邦地方裁判所になぜ州の司法長官等のみが原告として関与しているのか(なぜ連邦地区首席検事(United States Attorney:米国連邦裁判所の裁判区 (judicial district) ごとに1名ずつ大統領が指名し、連邦の刑事事件で検察官の活動を統括する役職)が起訴しないのか)。詳しく書くとそれだけで博士論文になってしまうので「私見」ではあるが結論だけ記しておく。

 インテルの反トラスト法違反行為は前記のとおり連邦法や州法違反であり、本来連邦司法省長官が起訴すべきものと思われるが(例えば2001年10月11日連邦司法省が原告となり、“HSR Act”遵守違反を理由として米国最大のメデイア企業“Hearst Corporation”を被告とする民事制裁を求める訴訟を提起している。この違いはどこにあるのか等々)、実は米国「1976年ハート・スコット・ロデイーノ・反トラスト改良法(Hart-Scott-Rodino Antitrust Improvements Act)」によりクレイトン法4c条(U.S.C.ではSec. 15c. Actions by State attorneys general)は連邦司法省(反トラスト部)の代理訴訟権限の州司法長官への付与を定めている。本文2.(1)で見るとおり、今回の起訴は同条にもとづくと思われる。

(筆者注2)米国競争法の専門家でない読者のために補足しておく。本文(起訴状の内容)で説明するとおり米国の「反トラスト法」とは、単一の法律ではなく、いくつかの法律の「総称」であり、主に以下の3つの基本法およびこれらの修正法から構成されている。
①シャーマン法(1890 年6月2日制定)( Sherman Antitrust Act:15 U.S.C. §§ 1-7) カルテル・ボイコット等の取引制限、独占の禁止に関する規定。
②クレイトン法(1914 年10月15日制定)(Clayton Antitrust Act:15 U.S.C. §§ 12-27) 価格差別、排他取引、不当な条件付取引、企業結合に関する規定。
連邦取引委員会法(1914 年制定)(Federal trade Commission Act of 1914):不公正な取引および欺瞞的取引の禁止、連邦取引委員会の権限・手続等の規定。

 このほか、ほとんどの州がシャーマン法やクレイトン法に準拠しつつ独自の反トラスト州法を制定している。これらの法律や最近の判例に関する概括的な解説は、コーネル大学ロースクールのサイト「反トラスト法:概観」を読むのが最も近道であろう。

 また、連邦司法省反トラスト法担当部サイトでは内部ガイダンスである「反トラスト法マニュアル」を公文書として一般公開している(米国現行連邦法律集(U.S.C.)と法律名称検索とで条文番号が異なる場合があり、同マニュアルではその比較が出来る)。
(2008年1月現在公正取引委員会のサイト「世界の競争法:米国」、内閣府がまとめた「アメリカ反トラスト法の概要」等から一部引用のうえ筆者が独自に追加した)

 さらに留意すべき点は、米国反トラスト法は連邦司法省と連邦取引委員会という2つの執行機関を有し、各執行機関に執行権を付与したことから、2系統、2本建ての実体法規制となっている。一方、わが国の独占禁止法は単一の執行機関として構成されている反面、米国の反トラスト法を原型とするがゆえに2系統の実体法規定を受け継いでいる。このため、わが国の法解釈上で複雑な問題を多くかかえるという指摘がある(2000年4月1日号NBL 村上政博「独占禁止法違反行為についての私人による差止請求権(1)」から一部引用)

(筆者注3)「2009年5月13日、欧州委員会は、x86セントラル・プロセシング・ユニット(CPU)と呼ばれるコンピューターチップ市場から競合他社を排除するために、欧州共同体(EC)条約(第82条)に抵触する反競争的行為を行っているとして、Intel(インテル)社に10億6,000万ユーロの制裁金を科した。欧州委員会はまた、今も継続している違法な行為のすべてを直ちに中止することを命じた。(以下省略)」駐日欧州委員会代表部サイトから一部抜粋引用。その原文は” Antitrust: Commission imposes fine of €1.06 bn on Intel for abuse of dominant position; orders Intel to cease illegal practices”と題するものであるが、上記代表部の訳文もかなり事実関係も含め詳細に原文の内容を紹介している。

(筆者注4)2008年6月4日、韓国公正取引委員会が韓国インテル社に対して行った「矯正命令(corrective order)」および「課徴金(surcharge)」の詳細については同委員会サイトで確認できる。

(筆者注5) 2005年3月8日、公正取引委員会は,インテル株式会社に対し,独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の規定に基づいて審査を行い、同法3条(私的独占の禁止)の規定に違反するものとして,同法48条1項の規定に基づき,次の内容の排除勧告を行った。

「日本インテルは,インテル製CPUを国内パソコンメーカーに販売するに際して,国内パソコンメーカーに対し,その製造販売するパソコンに搭載するCPUについて,前記(1)MSS(各国内パソコンメーカーが製造販売するパソコンに搭載するCPUの数量のうちインテル製CPUの数量が占める割合をいう。)を100%とし,インテルコーポレーションが製造販売するCPU(以下「インテル製CPU」という。)以外のCPU(以下「競争事業者製CPU」という。)を採用しないこと。
(2)MSSを90%とし,競争事業者製CPUの割合を10%に抑えること。
のいずれかを条件として,インテル製CPUに係る割戻し又は資金提供を行うことを約束することにより,その製造販売するすべて又は大部分のパソコンに搭載するCPUについて,競争事業者製CPUを採用しないようにさせる行為を取りやめること。」
 この勧告に対する諾否の期限は2005年3月18日であったが、4月1日まで延期が認められ、インテルは4月1日付けで「同勧告を応諾しますが、同委員会が主張する事実やこれに基づく法令の適用を認めるものではありません。インテルは引き続き、同社の商行為は公正であり、かつ法律を順守していると確信しています。したがって、インテルは勧告に示された排除措置の枠組みによっても、同社が今後も顧客の要望に十分応えていくことができると考えています。」と言う内容のコメントを行っている。同コメントを法的にどのように解するかについては機会を改めて論じたいが、かりに今回のニューヨーク司法長官の起訴状が指摘するような事実があるとすれば、反トラスト法上かなりの問題があるコメントであろう。

 なお、現状の日本の法律では排除勧告を応諾したとしても制裁金が課されない(この問題を論じているのが今回のブログ前文で述べた「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等」(2006年7月21日内閣府大臣官房 独占禁止法基本問題検討室の資料)である)。
 
 このため日本AMDは2005年6月30日、インテルの日本法人が日本AMDの業務活動を妨害したとして、その損害賠償を求める訴訟を東京高裁と東京地裁に起こした。同社が東京高裁に対して提起した訴訟は、同年3月8日に公正取引委員会が排除勧告で認めたインテルの独占禁止法違反行為による損害賠償(請求額は約55億円)に、排除勧告で認定された違反行為以外の妨害行為で被った損害賠償を加えた、総額約60億円の損害賠償を求めたものである。
 その東京高裁への訴状の要旨によれば、インテルは、国内PCベンダー5社(NEC、富士通、東芝、ソニー、日立製作所)に対して、資金提供などを条件に、各社が製造するPCにAMD製CPUを採用しないようにしむけたという。また、東京地裁への訴状要旨では、インテルが「日本AMDの新製品発表会に参加を予定していた顧客に対し圧力をかけ、参加を辞退させた」「日本AMDと顧客の共同プロモーション・イベント用に製造されたAMD製CPUの新製品を搭載したPCを、イベント直前に全台買い取り、インテル製CPU搭載PCに入れ替えさせた。その際、インテルはPCを無償で提供したうえ、宣伝費用も支給した」などの営業妨害行為を行ったという。

 一方、米国AMDは同年6月27日にデラウェア連邦地方裁判所に対し、シャーマン法2条、クレイトン法4条・16条、カリフォルニア州企業・職業法(the California Business and Professions Code)に基づきインテルによる取引き妨害による損害賠償請求訴訟を提起した。

 これら訴訟については、11月12日のインテルとAMDの全面和解によりAMDはデラウェア連邦地方裁判所および日本の2件の係争中の独占禁止法違反訴訟は取り下げるとともに全世界の規制当局への訴えを撤回する旨発表した。

(筆者注5-2) ”Parens Patriae”は、米国のクラスアクション訴訟(連邦民事訴訟規則23条(b)(3))に類似している制度であるが、クラスアクションと異なり、原告が、クラス代表(class representative)ではなく、州司法長官(Attorney General)であって、司法長官が、州民を代表して訴訟を遂行する点に特徴がある。(弁護士 永島賢也氏の解説から一部引用)

(筆者注6) 日本女子大学の細川幸一准教授が、2008年1月に「消費者庁構想について」において従来の規制行政から支援行政の重要性を指摘されている。筆者も同感であり、消費者庁のHPを見るたびに残念に思うとともに、抜本的な機能の見直しが必要と考える。

(筆者注7) デラウェア連邦地方裁判所のサイトにアクセスすると、まず「モニタリング通知」が出る。引き続き「アクセス(Entrance)」しても良いし「退出(Excit)」も可である。

(筆者注8) フォレンジック(Forensics)とは法科学と訳され、司法における犯罪や不正の証拠として科学的知見をいかに生かすかという学問である。デジタル・フォレンジック(Digital Forensics)とは、この法科学の中でもコンピュータをはじめとするIT機器に残存する証拠(電磁的証跡と呼ぶ)から犯罪や不正の証拠をいかにして取り出し、生かしてゆくかという技術であると言える。情報通信技術が社会のインフラとして重要性を増すにつれ、その障害や不正アクセスなどのインシデントに際して、事件と事故の切り分けからインシデント原因の同定、犯罪や不正が疑われた場合の被疑者の同定(Identification)といった作業が「法廷の場で証拠として耐えうるように」行われることが求められてきており、今後研究を進める必要性の高い分野であると言える(京都大学情報メデイアセンターより抜粋)。なお、わが国のデジタル・フォレンジック研究については、 「NPOデジタル・フォレンジック研究会」が唯一アカデミックかつ実践面からの積極的な活動を行っており、関心のある人は是非会員になってみてはいかがか。


〔参照URL〕
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/nov4a_09.html
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/NYAG_v_Intel_COMPLAINT_FINAL.pdf

(筆者注9)“Customer Authorized Price”(CAP) に関する説明は起訴状原本16頁にも記載はない。筆者なりに調べた範囲で解説すると、OEM契約(OEM(Original Equipment Manufacturing/ Manufacturer)とは、納入先商標による製品の受託製造(者)をいう。すなわちメーカーが納入先である依頼主の注文により、依頼主のブランドの製品を製造すること、またはある企業がメーカーに対して自社ブランド製品の製造を委託することです。開発・製造元と販売元が異なり、製品自体は販売元のブランドとなります:JETRO貿易・投資相談Q&Aから引用)の場合に使用される用語である。ここからは筆者の推測であるが、インテルはデル等とOEM契約を締結する際の条件としてデルはインテルの標準価格5%を販売割引価格の上限に合意したのではないか。

(筆者注10)「サーバー・チップ」とはどのようなものをさすのか。技術系でない筆者としてはこだわって内外サイトを調べた。要するに「サーバー・コンピュータ用の高機能マイクロプロセッサー・チップ」のことのようである。次世代サーバー・チップの解説(インテルの“Nehalem”、AMDの“Magny Cours” IBMの“POWER’”等)は海外の記事の基づく素人には極めて分かりづらい記事は多いがほとんど理解できない。この世界ははやたら「次世代」が好きであるが、足が地に着いていない世界かも?。筆者の専門である「法律」の世界では正確な定義がない言葉は使えない。

(筆者注11)“LOB”とは、“line of business ”の略語で企業が業務処理に必要とする主要な機能を行うアプリケーションの総称である。LOBに該当する主なアプリケーションとしては、会計や在庫管理、受発注システム、サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)などがある。(IT用語辞典から引用)

(筆者注12) 起訴状で言う“negotiator”とは具体的にどのような人物を指すのか。起訴状本文62ページ以下を読んだが、個人名は記されていない。HPとの交渉責任者(the principal Intel negotiator of the deal to his HP counterpart)としか書かれていない。

(筆者注13)「ニューヨーク州執行部門法(New York Executive Law)」について概要のみ補足する。同法は全50編(Articles)からなる法律であり、知事、各州機関の機能や任務を定める。その第5編(60条~74条)が同州の法務局(Department of Law)の責務に関する規定を定め、63条は司法長官の一般的責務に関する事項を定める。

〔参照URL〕
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/nov4a_09.html
http://www.oag.state.ny.us/media_center/2009/nov/NYAG_v_Intel_COMPLAINT_FINAL.pdf

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オーストラリア連邦通信メデイア庁が携帯電話等のプレミアム・サービスに関する一層の規則強化に着手

2011-11-25 17:36:17 | 消費者保護法制・法執行



 最近時、本ブログでもしばしば取上げてきた連邦通信メデイア庁(ACMA)がベータ版“engage”サイトを立ち上げた。従来から説明しているとおり、ACMA自体の重要な機能の1つが消費者保護強化にあることは間違いない。
 ところで、今回ACMAが問題視した点は携帯電話やタブレット端末を介したSMSやMMSのプレミアム・サービスにかかる一層の事業者の規制強化である。

 この問題は従来から通信分野の監督機関であるACMA、ACCC等ならびに携帯通信事業者団体等による永年の具体的な取組みにもかかわらず、消費者保護面からなお多くの課題が残るこのサービスにつき根本的な規制強化を図ることとなったものである。

 その第一弾としてACMAは関係者から広く意見を公募を開始した(提出期限は2011年12月22日)。今回のブログは、これまでの経緯の概要と今回ACMAが投げかけた質問項目の内容を概観する。


1.現行のプレミアム・サービスの内容とその問題点
 サービス概要の理解のため、ACMAのプレミアム・サービスに関する日本語解説サイトからの一部関係部を抜粋のうえ、仮訳、引用する。
「 ・プレミアムSMSまたは(MMS)とも呼ばれるモバイル・プレミアム・サービスは、カスタマーが本サービス利用のために追加料金(プレミアム)を支払うことからプレミアムと呼ばれます。つまり標準的なSMS(テキストメッセージ)MMS (マルチメディアメッセージ)より料金がかかるということです。

・ モバイル・プレミアム・サービスへは、あなたの携帯電話からSMSを通じて'191'、'193’-’197'、および’199’で始まる番号からアクセスすることができ、呼び出し音、ウォールペーパー、ゲーム、ミュージック・トラックやビデオ、ホロスコープ、ニュースやチャットグループを含む情報やエンターテイメントのサービスを提供します。
 
・ゲームやビデオなど、インターネットからコンテンツをダウンロードする必要のあるサービスにアクセスする場合は、ご利用の電話会社がプレミアムSMS料金の他にさらにデータ・ダウンロード費として料金を請求する可能性があります。データ・ダウンロード料金についてはご利用の電話会社の約款をご確認ください。

・プレミアム・サービスの中には、継続的または一定期間のサービス提供を受けることに合意しSMSやダウンロードを定期的に受けるための料金を支払う、契約(サブスクリプション)式のサービスのものがあります。自分が購入するサービスが契約(サブスクリプション)式のものか否か、必ずチェックしましょう。
コンテンツの供給者は、オーストラリアン・コミュニケーションズ・アンド・メディア・オーソリティ(ACMA)により監督および施行される「モバイル・プレミアム・サービス規約: C637(2009年制定)(C637:2009 Mobile Premium Services Code)」に従わなくてはなりません。

・モバイル・プレミアム・サービスを停止するには:
モバイル・プレミアム・サービスは、サービスを配信する番号もしくは確認メッセージの番号に『STOP』をテキストで送るか返信することにより、いつでも停止することができます。

・SMS とMMSを停止する
 2010年7月から、携帯電話のユーザーは、電話会社に連絡を取り、すべてのSMSまたは MMSのプレミアム・サービスを停止するよう要求することができます。これは、皆さんが、もはや現在加入しているプレミアムSMSまたはMMSサービスを受けない、または課金されないということ、また自分の携帯電話からもはやプレミアムSMSまたは MMSに送ることはできないということを意味します。」

2.より正確な解説に基づく理解
 前記1.を読んで概括的なイメージは把握できるであろう。しかし、今回ACMA等が取組んだ本質的な問題点を正確に理解するには十分とは言えない。
 そこで、まず“C637:2009”を策定した“Communications Alliance Ltd” の解説サイトから補足説明部分が詳しく経緯などを説明している。
・モバイル・プレミアム・サービス(MPS)に関する業界専門サイト:19 SMS Website は包括的な消費者向けガイドである。

(1)2009年5月に制定した「プレミアム・サービス規約:C637」の改正等モバイル・プレミアム・サービス規制に関するこれまでの改定経緯
・モバイル・プレミアム・サービス規約は「1997年電気通信法(Telecommunication Act 1997)」の下でACMAにより2009年5月14日登録され、同年7月1日施行した。ACMAはその遵守状況を監視している。
 C637は「2005年電気通信を利用したサービス・プロバイダー(モバイル・プレミアム・サービス)に関する行政決定(Telecommunications Service Provider (Mobile Premium services )Determination )」とともに、従来の業界規約であったMPSI Scheme(Mobile Premium Services Industry Scheme )を置き換えたものである。
 このC637は、キャレッジ・プロバイダー、アグリゲーターおよびコンテンツ・プロバイダーに適用され、またその制定目的は利用者やベンダーにとっての適切な安全装置と顧客サービス要件を確立することにある。

(2)MPS業者の登録
 C637の下では、全てのMSPの提供事業者はオーストラリア内でサービスの準備に取組む前に“Communications Alliance”が管理するMPSI登録に際し、会社としての詳細情報の提出が求められる。

 また、C637は供給事業者間のいかなる契約合意条件についても「所定の様式」に基づき登録をなすべきことを定める。

(3) プレミアム・サービス規約:C637の全文を参照されたい。また、C637の解説も参照されたい。

(4) ACMAによる規約等遵守状況の監視
 2009年、ACMAはこれまでの監視結果において規約(C637)の遵守違反の事例が14件あったと報じた。違反が明らかとなった供給事業者には遵守命令が下され、その命令に従わなかった業者に対しては、最高25万豪ドル(約1,825万円)の刑事罰と原状回復命令に関する連邦裁判所での手続が行われる。

3.ACMAによるモバイル・プレミアム・サービスに関する規則の強化見直しに関する公開意見聴取開始のリリース
 2011年11月10日、ACMAは、なお自主規制規則等の不遵守が続く業界の現状に鑑みて行政決定等の見直しを行うべく、広く関係者に対し意見を求める手続に入った。なお、ACMAのリリース文自体は説明がほとんどないため、前述した“engage”サイトの説明から基本部分を抜粋、仮訳する。

(1)2010年に施行されたサービス・プロバイダーに関する次の2つの行政決定( Determinations)がある。
「顧客によるSMSおよびMMSプレミアムの停止オプションの提供および不当に高額な費用請求禁止に関する行政決定(Barring Determination)」
②「請求拒否/契約拒否に関する行政決定(Do Not Bill/Do Not Contract Determination)」はキャレッジ・プロバイダーの業界登録していないコンテンツ・プロバイダーとの契約禁止、およびACMAにモバイルサービス・プロバイダーに対し、顧客に重大な金銭的な危害を加える要因となりうる請求を禁止する命令権を与える。
 この見直し質問・意見公募に関する詳しい情報は“Premium messaging services”
すなわち「2010年電気通信・サービス・プロバイダー(モバイル・プレミアム・サービス)に関する行政決定の見直しNo.1およびNo.2(Review of the Telecommunications Service Provider(mobile Premium services Determinations 2010(No.1)and( No.2))」を参照されたい。
 筆者によるACMAの質問内容の仮訳は(2)および(3)のとおりである。

(2)禁止行政命令(Barring Determination)に関する質問項目
①プレミアム・メッセージング・サービスを顧客の要求に基づき禁止することは、顧客がこれらのサービスにかかる費用をコントロールするうえで有効な手段といえるか?
②顧客が現在利用可能なプレミアム・メッセージング・サービスを禁止する方法は適切かつ利便性があるか?
③プレミアム・メッセージング・サービスに対する課金の発生に時間的な枠組みを設けることは適切な方法か?
④準備の頻度を含む現行の情報要求要件は適切か?
⑤顧客がいつプレミアム・メッセージング・サービスを停止すべきかにつき理解するため追加的な情報はあるか?
⑥顧客とコミュニケーションを図る現行の手段は効果的か?
⑦この情報を顧客に伝えるためこの他にどのような方法が可能となるか?

(3) 「請求拒否/契約拒否に関する行政決定」に関する質問項目
①契約拒否に関する規定は、MPS規約による登録要求要件を遵守させるうえで機能向上が見られたか?
②これらの規定が、事業者に意図しないインパクトを与えたという証拠があるか?
③契約拒否規定の適用に関し金銭的なコストが発生したか?
④MPS規約のもとで登録要求要件の遵守を強化するため、ほかに良い手段はあるか?
⑤請求拒否規定は、重大な金銭的損失を顧客に引き起こすプレミアム・メッセージング・サービスの運営者に抑止力が働いたと思うか?
⑥これらの請求拒否規定が、事業者に金銭的またはその他の意図せざるインパクトを与えたという証拠があるか?
⑦請求拒否規定の適用に関し金銭的なコストが発生したか?
⑧顧客に重大な損失を引き起こすプレミアム・メッセージング・サービスを思いとどまらせる、またはその損失を緩和させるためより効果的なその他の方法があるか?

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オーストラリア連邦裁判所がACMAによる初めてのSMSスパム裁判の有罪判決を確定

2011-09-11 10:12:18 | 消費者保護法制・法執行



 わが国では、本ブログも含めオーストラリアの裁判所判決を詳しく引用する例は少ない。今回の紹介する連邦裁判決は、スパム犯罪に対する特徴のある判決である。

 すなわち、“Safe Divert”と呼ばれる詐欺手口を使い、香港を拠点とする出会い系サイト会社3社およびその幹部やオペレーター計5人が被告、携帯電話の活用、SMSチャット・ゲートウェイを利用、被告8人中7人に対する罰金刑合計額が2,225万豪ドル(約17億8千万円)と極めて高額であること等である。

 今回のブログは、これら犯罪の手口を解説するとともにスパム問題の規制・監督機関である「オーストラリア連邦通信メディア庁(Australian Communication & media Authority:ACMA)」「連邦競争・消費者委員会(Australian Competition and Consumer Commission :ACCC)」のスパムに対する近年の法執行や起訴の状況について紹介することが目的である。

 米国であれば、この種の犯罪の起訴や法執行は「連邦司法省」や「FBI」の独壇場になると思うが、オーストラリアではまず通信メディア庁(ACMA)
(筆者注1)による法執行・規制が優先している点がわが国の姿勢と共通性があるとも考え、紹介するものである(法執行の詳細な説明もACMA自身が行っていることも欧米各国とも異なる対応であり、興味深い)。
 また、法執行時のプレスリリースには必ずその根拠法令や最近時の関連法執行に関する解説を注記するのは英国と同じスタイルである。わが国も参考とすべき点であろう。

 取りまとめにあたり、以前にも本ブログ
(筆者注2)で取り上げたACCCが運営する詐欺阻止専門サイト“SCAM watch”等も参照した。(筆者注3)

 なお、この情報と併せ「オーストラリア連邦裁判所(Federal Court of Australia)」判例等検索サイトの先進性・機能性についても紹介する予定であったが、機会を改める。


1.ACMAの最近時の詐欺犯罪規制の実態
(1)オーストラリアにおけるスパム規制法や規則ならびに関係法令
A. 「2003年スパム法(Spam Act 2003)」は2004年4月10日に施行した。国際的なスパムの傾向の分析機関である“Sophos”のデータによると、それまではスパムメールの発信・中継頻度でみたオーストラリアは第10位であったが、同法施行後、第32位に下がった。(筆者注4)

 同法は、商業目的の電子メッセージの送信については次の要件を定める。
a.受取人の同意に基づき送信すること、その同意は明らかな意思表示もあるし、あるいは一定の行動や既存のビジネス関係に基づくものもある(consent 原則)。
b.発信者の特定できる情報を同時に発信しなければならない(identity原則)。
c.受取人が将来発信者から受取りを「オプト・アウト」できる容易な手段を提供していること(unsubscribe原則)。

 同法の適用範囲は、商業目的の「E-mail」、「インスタント・メッセージ」(筆者注5)、「SMS(ショート(テキスト)・メッセージ・サービス)」(筆者注6)、「MMS(マルティメディア・メッセージング・サービス:イメージベースの携帯電話間のメッセージ交換)」(筆者注7)が対象となる。ただし、ファクシミリ、インターネット・ポップアップ広告 (筆者注8)および音声によるマーケティング行為は除かれる。なお、マーケティング活動における電話呼出しとファクシミリは“Do Not Call Registry”の登録により受信拒否が可能である。
 同法25条に基づき反復した法人の違反者に対しては、1日あたり最高110万豪ドル(約8,800万円)、個人の場合は最高22万豪ドル(約1,760万円)の罰金刑(民事罰)が科される。(第4章 民事罰) (筆者注9)
 また、オーストラリアのスパム法第4章24条では連邦裁判所による民事罰たる科料(pecuniary penalty)、同章25条が民事罰の最高刑、同章26条はACMAが連邦政府に代り違反行為の6か月以内に連邦裁判所に民事裁判を提訴できる(民事罰裁判中に刑事訴追は出来ない(27条)。
 28条は裁判所による「付随的被害者救済命令(ancillary order)」規定である。同条にいう民事訴追を受けて裁判所が支払いを命じるもので当局は各種要因を考慮して算定(行為の態様、損害の程度、背景事情、違反歴等を考慮する旨法律に規定あり。具体的な算定ガイドラインは存在しない)のうえ制裁金の勧告額を提示)する。(筆者注10)

B.スパム法第6章は「当局との強制的約束(enforceable undertaking)」に関する規定である。(筆者注11)

(スパム法により、次の機関はその公的機能や言論の自由等から適用除外されている。政府関係省庁、登録された政党、慈善団体、宗教団体、教育機関(現在および元学生への通知))

C. 「2004年スパム規制に関する規則(Spam Regulations 2004)」
 2003年スパム法に基づき制定され、2004年4月8日に公布された。

D. 「1997年電気通信法(Telecommunication Act 1997」

E.業界の自主規制綱領の制定と監督機関による登録
 スパム法規制とは別にオーストラリアでは、電子マーケティングやインターネットサービス関連業界は3つの自主規制綱領(Code of Practice)やガイダンスを策定している。その一部は2006年5月3日付けの本ブログで詳しく説明しているが、さらに今回はまとめて補足する。
a. 「電子マーケテイング実践綱領(e-Marketing Code of Practice)」
 オーストラリア・ダイレクト・マーケティング協会(ADMA)等多くの業界団体が2003年3月策定、2005年3月16日に監督機関であるACA(オーストリア通信庁、ACMAの前身)に登録された。(全67頁)

b.「ベストDM実践ガイドライン(Best Practice Guideline) 」
 ADMAが2001年1月に他の産業界や消費者を中心に「ベスト・マーケティング実践ガイドライン(Best Practice Marketing Guideline) 」をまとめ、その後ADMAはDMの形態の変化に応じ次のようなガイドラインを策定、公表している。
Best Practice for Direct Mail 
Environmental Guidelines
Chance Draws and Competitions
Online Marketing Guidelines
Best Practice for Use of Data in Direct Marketing
Mobile Marketing Code of Practice
Best Practice for List Management

c. 「インターネット業界スパム実践綱領(Internet Industry Spam code of Practice)」 (全29頁)
オーストラリアのインターネット産業協会(IIA)が2005年12月(第1版)に策定、2006年3月16日にACMA登録された。

(2)オーストラリアにおけるスパム犯罪の急増とACMAの積極的な法執行の取組み
 ACMAの法執行は他の監督機関と同様な法執行を行っている。すなわち、「当局との強制的約束(enforceable undertaking)」(18件)、「法律に基づく正式警告(formal warnings)」(23件)、「法律にもとづく正式の違法通知(formal notice)」、「反則通知(infringement notice)」(筆者注12) (26件)、「スパム行為の停止にかかる裁判所差止命令(injunction)」(1件)、「連邦裁判所への告訴(prosecute a person in the Federal Court)」(2件)である。(括弧内はこれまでAMCAが行ってきた取扱件数)。
 ACMAのこれまでの主要な法執行活動の詳細は法執行専門サイトで一覧になっている。

2.差止命令から起訴、さみだれ式に下された連邦裁判所判決の概要
 AMCAサイトでは今回取上げた事件(QUD 426 of 2008)についてまとまった解説はない。前記法執行記録の中にまぎれており、分かりにくい。
 筆者の判断であらためて本訴訟の経緯のみ抜粋して時系列で解説する。なお、本裁判以降にもスパム裁判が行われており、その判決結果についても最後に追加する。

(1)2009年1月13日、AMCAは違法なSMSスパム行為を行ったことを理由にスパム法に基づき法人3社(Mobilegate Limited,Winning Bid Pty Ltd,Jobspy Pty Ltd )および個人5人(Simon Anthony Owen,Tarek Andreas Salcedo,Scott Mark Moles, Glenn Christopher Maughan,Scott Gregory Philips)を被告とするブリスベンの連邦裁判所への手続を開始した旨リリースした。

 起訴事由の内容は次のとおりである。
a.被告は、“Safe Divert”または“Maybemeet”と呼ばれるSMSのテキストデータをリレーするマーケティング・サービスを供給、広告、または販促した。
b.被告は、同時に捏造で作った出会い系サイトや偽の加入者プロファイルを利用してオーストラリアの携帯電話のアカウントを持つ利用者を金銭的な利益を不正に得る目的で騙した(1SMSメッセージあたり最高5豪ドルが費用として課金されるように設計した)。
その結果、犯人グループは200万豪ドル以上を違法に稼いだとACMAは見ている。

 また、ACMAは被告のデートサイトを利用するための誤解を招く見掛け倒しの表現の使用は「1974年競争取引および消費者保護法(Trade Practices Act 1974)」(筆者注23:参照)に違反すると告訴した。

 ACMAは、起訴状において宣言(declarations)、差止命令(injunctions)および刑罰その他の命令を求めた。また被害拡大を回避すべく「暫定差止命令(interim injunction)」もあわせて求めた。

(2)2009年8月14日、連邦裁判所(ローガン判事(John Alexander Logan))は被告5人(Mobilegate Limited,Winning Bid Pty Ltd,jobspy Pty Ltd, Simon Anthony Owen,Tarek Andreas Salcedo)に対する「差止命令」および「宣言」を下した。5人の刑罰に関する審問(hearing)は未定であるが、残りの3人の被告に対する審問は11月30日に行われる旨発表された。

(3)2009年10月23日、ブリスベンの連邦裁判所は被告5人に対し、「2003年スパム法」違反に基づく合計1,575万豪ドル(約12億6千万円)の罰金刑判決を下した。被告各人別の刑罰内容は次のとおりである。
a.Mobilegate Limited・・・・・・・・・・500万豪ドル(約4億円)
b.Winning Bid Pty Ltd・・・・・・・・・・350万豪ドル(約2.8億円)
c.Simon Anthony Owen・・・・・・・・・・300万豪ドル(約2.4億円)
d.Tarek Andreas Salcedo・・・・・・・・・300万豪ドル
e.Glenn Christopher Maughan・・・・・・・125万豪ドル(約1億円)

(4) 2009年12月16日、ブリスベンの連邦裁判所は次の被告2人に対し、計650万豪ドルの罰金刑を科した。10月23日の罰金刑と合計すると2,225万豪ドル(約17億8千万円)となる。
f.Jobspy Pty Ltd・・・・・・・・・・・・400万豪ドル(約3.2億円)
g.Scott Mark Moles・・・・・・・・・・・250万豪ドル(約2億円)

 ACMAは起訴状で、被告f、gは他の被告とともに本物の出会い系サイトのユーザーの携帯電話番号を入手する目的でにせのウェブサイト・プロファイルや許可なしに写真を掲載するなど複雑な手口を用いた。ACMAは被告は2005年後半以来この手口にかかったオーストラリア人の被害総額は400万豪ドル以上であると主張している。

(5)2010年11月5日、最後の被告h.Scott Gregory Philips(35歳)に対する連邦裁の判決が12月1日に下される予定である旨ACMAは公表した。
 フィリップ被告は元pinkbits.comおよびInternet Billing Servicesのオペレーターであり、またユーザーから本物の携帯電話番号の提示を勧誘する係りであった。

3.連邦裁判所における初めてのスパム有罪裁判例
 オーストラリア連邦裁判所は2003年スパム法16条、22条に違反したとするACMAの告訴に対し、2006年10月27日、 Clarity1 Pty Ltd社に対して450万豪米ドル(約3億6千万円)、 同社専務取締役Wayne Mansfield氏に対して100万豪米ドル(約8千万円)の科料を命じた(Australian Communications and Media Authority v Clarity1 Pty Ltd [2006] FCA 410)。
 同裁判の事実関係、双方の主張内容や判決の結論部分ならびにマーケッターの留意事項については“Australia FindLaw”が詳しく解析しているので参照されたい。その電子メール・マーケッターにとってのポイントが最後にまとめられているので引用する。
①オプト・アウトの道具を包含させることのみで、受信者に同意の推定を避ける義務を課すことにはならない。
②発信者と受信者の間のコミュニケーションが一方的であるときは「取引関係」があるとは推定されない。
③関連する電子メールアドレスを公開したからという事実のみでは「同意」があったとは推定されない。
④商業電子メールの送信はスパム法16条の適用を受ける。

(2)「当局との強制的約束(enforceable undertaking)」例
 ACMAのサイトで過去18件の合意内容の詳細が確認できる。

(3) 「反則通知(infringement notice)」例
・2007年6月21日、ACMAは「ピッチ・エンターテインメント・グループ(Pitch Entertainment Group)」および「インターナショナル・マシーナリー・パーツ株式会社(International Machinery Parts Pty Ltd)」に対し、スパム法違反を理由にそれまでの最高額の罰金(前者は1日あたり11,000豪ドル(約88万円)、後者は1日あたり4,400豪ドル(約352,000円))である。

4.恋愛詐欺サイトへの警告
 前述した“ACCC”が運営する詐欺阻止専門サイト“SCAM watch”では「デートと恋愛詐欺(Dating and Romance scams)」警告専門サイト
がある。ここでの詳細は省略するが、わが国でもすでに始まっているのかもしれない。

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(筆者注1) “ACMA”の組織の歴史的経緯について補足しておく。2005年7月1日、オーストラリア通信庁(ACA)とオーストラリア放送庁(ABA)が統合し、通信、放送分野の規制監督機関として“ACMA”が設立された。“ACMA”電気通信事業および放送事業の規制・監視、インターネット・コンテンツの規制、競争政策の施行、消費者保護、電子メディア環境の監視、周波数管理等を所掌する。

(筆者注2) 連邦競争・消費者委員会や1974年取引慣行法(The Trade Practices Act)について概要について参考とすべきわが国のサイトのURLをあげておく。
公正取引委員会
オーストラリアの弁護士

なお、筆者のブログ(筆者注23)では “The Trade Practices Act”を「 取引慣行法」というのは正確でないとし、意訳となるが「競争取引および消費者保護法」という訳語を用いた。日本語解説は内容的には唯一参考といえるものであり、そのまま引用する。

(筆者注3) ACCC は排除命令を出す権限がないため、被害者への救済は訴訟をもって実現しなければならない。具体的にACCC は、差止命令、一定の被害者のための損害賠償や付随的な命令を求める訴訟(第87 条1B 項、同条1C 項)、情報の開示や訂正広告を求める訴訟(第80条、第86C 条2 項、第86D 条)、事実認定(第83 条)、違法行為についての宣言(declaration)などを求める訴訟などの権限を持っている。

「反則通知(infringement notice):ACCCは、合理的な根拠があれば、反則通知(一種の行政罰)を発することができ、反則通知を受けたものは、過料を支払うことで後述する2010年競争・消費者法(Competition and Consumer Act)第224条に規定する措置(民事制裁金:pecuniary penalties)を免れるとしている(同第2編第6章第134条、第134A条)。一方、反則通知に規定された期間内に過料を支払わない場合には、ACCCは訴訟を含む措置を採ることができるとしている(同第2編第6章第134E条)(一般財団法人比較法研究センター主幹研究員 木下孝彦「オーストラリアにおける消費者の財産被害事案に係る経済的不利益賦課制度を含む行政措置について」から一部抜粋。なお、法律の英字表示、URLリンクは筆者が行った。

(筆者注4) “Sophos”は、毎年「ソフォス・スパム送信国ワースト12」を発表している。2010年7月~9月調査結果では、中国が圏外になり、上位12カ国の順位と割合は次のとおりである。
1.米国:18.6%、2.インド7.6%、3.ブラジル:5.7%、4.フランス:5.4%、5.英国:5.0%、6.ドイツ:3.4%、7.ロシア:3.0%、7.韓国:3.0%、9.ベトナム:2.95、10.イタリア:2.8%、11.ルーマニア:2.3%、12.スペイン:1.8%
 以上見るようにいわゆるIT先進国が軒並み並んでいる。なお、2004年8月時点では日本は第6位(2.87%)であった。
地域別で見ると、1.欧州:33.1%、2.アジア:30.0%、3.北アメリア:22.3%、4.南アメリカ:11.5%、5.アフリカ:2.3%、である。

(筆者注5) 「インスタント・メッセージ(Instant Message/Instant Messaging)」は,略して「IM(アイエム)」と呼ばれる。エンドユーザーが使うクライアント・ソフトのことを「インスタント・メッセンジャー」や「メッセンジャー」などという。これも「IM」と呼ばれる。現在、よく使われているメッセンジャーはマイクロソフトの「Windows Messenger」(Windows XPに標準)やWindows Live Messenger(Windows Vistaに標準)。Yahoo! JAPANが提供する「Yahoo!メッセンジャー」やGoogleの「Google Talk」も人気がある。(ITpro「インスタント・メッセージとはなにか」より引用)

(筆者注6) 「ショート・メッセージ・サービス(Short Message Service:SMS)」とは、携帯電話やPHS同士で短文を送受信するサービスである。Text Message(テキストメッセージ)とも呼ばれる。

(筆者注7)「 MMS(Multimedia Messaging Service)」とは、携帯電話を使ったメールシステムの1つで、テキストのほか、静止画/動画/音楽といったデータを送受信することができる。欧州の携帯電話で一般的に使われているSMSが発展したもので次世代SMSといわれている。

(筆者注8) 「インターネット・ポップアップ広告」とは、ある特定のウェブページを開いた時に自動的に一番手前に表示される広告用の小さなウィンドウをいう。

(筆者注9) オーストラリア刑法(Crime Act of 1914)4AA条における「罰則点数 (penalty unit) は、110豪ドルを意味する」と規定する。従って、例えば法律に”1,000 penalty units”と規定されていれば具体的な罰金金額は「11万豪ドル」となる。

(筆者注10) 同命令は、「差止命令」とともに連邦裁判所に頻繁に申し立てられている。その例として、「利益吐出し(disgorgement)」が挙げられるが、これは違法行為により得た利益を強制的に取り上げる行為である。なお、発生した損害に対する填補賠償(restitution)は認容されても、被害者の金銭を利用して利益を得たという証拠がない以上は、利益吐出し(disgorgement)は認められない。

(筆者注11)スパム法 第6章に定める「当局との間の強制力を持つ合意(enforceable undertakings)」とは、「規制当局(ACMA)は、スパム・メールまたはアドレス収集目的とする違法ソフトに関し、大臣の命令に基づき、規制対象者による規制の自発的執行の提案を受け入れることができるものである(38条)。規制の自発的執行を強制することはできないし、ACMAの同意が前提となるが対象者はその撤回や変更ができる。提案を受け入れた場合、当該の規制対象者は、自発的執行の不履行が確認されるまで、訴追を受けたり、定額罰金または裁量的要件を科されることはない。合意に基づく法執行違反に対し裁判所の命令を求めうる。(39条)」

(筆者注12) ACMAの法執行行為である「違反通知(infringement notice)」は同法30条および別表3(schedule 3)に定めるものである。すなわち、違反行為の通知だけでなく法律に定める罰金額を適用するものである。わが国で言うと独禁法の違反行為に対する「課徴金」(課徴金とは,カルテル・入札談合等の違反行為防止という行政目的を達成するため,行政庁が違反事業者等に対して課す金銭的不利益のことをいう)に相当するといえる。

[参照URL]
・ACMAの「2003年スパム法」に基づく法執行行為の一覧
http://www.acma.gov.au/scripts/nc.dll?WEB/STANDARD/1001/pc=PC_310314

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本ブログは、2010年11月9日掲載文の改訂版である。
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米国連邦取引委員会がオンライン・プライバシー保護強化の“Do not Track Mechanism”の第2次提案(その2完)

2010-12-31 14:38:32 | 消費者保護法制・法執行

2.“Do Not Track Mechanism”とは
 2010年9月20日付けの“Entropy” は“Do Not Track”(DNT)について決して簡単ではないが、次のような比較的分かりやすい説明を行っている。

(1)DNTは“Do Not Call registry”と類似しかつその考えは似ている。しかし、その実現方法は異なる。
 当初、DNTの提案は、「ユーザー登録(registry of users approach )」や「追跡のためのドメイン登録(domain-registry approach)」という内容であったが、両者ともその仕組みが次のとおり不必要に複雑であった。

A.「ユーザー登録」方式は各種の欠点があり、その1つは致命的である。すなわち、ウェブ上で使用される普遍的に認識されるユーザー識別子(user identifiers)はないということである。
 あるユーザーの追跡は、広告ネットワークが配備するクッキーを含む「その都度作成する識別メカニズム(ad-hoc identification mechanisms)」にもとづき行われる。また、世界的に共通かつ強固な識別子を強制することは、ある意味で問題解決をさらに困難にさせる。
 また、この方式はユーザーがサイトごとにDNTを設定する上での柔軟性が考慮されない。

B.「追跡のためのドメイン登録」方式は、権限中心機関(central authority)が追跡するために使用するドメインの登録を広告ネットワーク会社に強制するものである。ユーザーはこのドメイン・リストをダウンロードして、使用するブラウザ上でそのリスト先をブロックする設定する能力が与えられることとなる。

 しかし、この戦略には次のような複数の問題がある。
(ⅰ)要求される中央集権化はこの方式を移り気にさせる、(ⅱ)広告がホスト・サーバーとのコンタクトを要求した以降、広告全体をブロックせずに追跡ドメインのみをどのようにブロックするかについての方法が明確でない、また(ⅲ)この方法は消費者に一定のレベルの用心深さ-例えば、ウェブ上で入手可能なソフトウェアにもとづきドメイン・リストの更新を確実に行うことーが求められる。

(2)ヘッダー・アプローチ(header approach)
 今日、大方に意見は次のようなはるかに単純なDNTメカニズムの周辺で内容のイメージが持たれている。
 すなわち、“X-Do-Not-Track”というような特にHTTPヘッダー (筆者注6)情報でブラウザがユーザー側において、追跡につき“opt out”を欲している旨の信号をウェブサイトに送るというものである。
 ヘッダーはあらゆるウェブに対する要求内容を送るものであり、このことは広告や追跡者を含む当該ぺージに埋め込まれた目的や台本のそれぞれと同様、ユーザーが見たいと欲するページを含むのである。

 それは、ウェブブラウザにおける実行において極めて些細なことではあるが、事実、すでに“Firefox add-on” (筆者注7)等においてそのようなヘッダー・アプローチで対応した例はある。

 また、ヘッダー・ベースの取組みは中央集権化や固定が不要であるという利点がある。しかし、それが意味あるものであるためには、広告主は追跡されたくないという消費者の好みを尊重しなければならない。
 では、それをどのように強制すべきか。選択肢は、米国ネットワーク事業者自主規制団体「ネットワーク広告イニシアティブ(Network Advertising Initiative:NAI)」(筆者注8)による自主規制から「監督機関下での自主規制(supervised self-regulation)」、「官民共同規制(co-regulation)」(筆者注9)さらには「公的機関による直接規制」まで多様な分布がある。

 現行の一般的なクッキー・メカニズムに比べ“opt out”メカニズムおよびその意味の標準化によりユーザーにとってDNTヘッダー方式は大いに手続の簡素化が約束される。DNTヘッダー方式は、緊急性を要する場合でもユーザーの新たな行動を必要としない。

 最後の部分で“Entropy”は、DNTヘッダー方式についてDNTの実施時の事業者による「ひも付きウェブ化の危険性(danger of tiered web)」、「追跡の定義をどのように行うか」、「その違反行為の調査方法」および「ユーザーに権限を持たせるためのツール」の4点について技術的な問題を論じている。ただし、筆者のレベルを超える内容なので今回は省略する。

3.強化されるオンライン行動追跡広告ビジネス活動への懸念やプライバシー侵害問題
 EFFはウェブ でアドビ社の“Local Shared Objects” (筆者注10)やマイクロソフトの“User Data Persistence”等多くのウェブ技術企業が次々にオンライン行動追跡技術を導入し、インターネット接続サービス企業や「データウェアハウス」(筆者注11)との情報共有契約などの拡大、さらには広告主に膨大なユーザーの行動や個人情報へのアクセスを認めるソーシャルネットワークへの拡大などの動きを懸念している。

4.連邦議会の関係委員会での具体的な立法化論議の動向
 2009年6月18日、下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)は関係者の証言に基づく公聴会を開催して「消費者の行動に基づく広告活動:産業界の実務内容と消費者の期待Behavioral Advertising: Industry Practices and Consumers' Expectations)」を論議した。

 また、2010年7月27日には上院商務委員会(Senate Commerce Committee)はConsumer Online Privacyで聴聞会を開いてApple、 Google、 AT&T および Facebookの役員から証言を求めた。そこでは、企業側の意見の多くは立法による規制は創造的なビジネスの足かせになり、あくまで業界の自主規制によるべきとするものが多かった。このような動きの中で上院委員会の考えは慎重ではあったが、民主党幹部のジョン・ケリー(John Kerry)議員等は2011年早期には法案提出の予定を明言した。また下院はさらに迅速な法案成立を求める意見が多かったとされている。

 12月2日に下院「エネルギー・商務委員会(Energy and Commerce Committee)」の下部にあたる「商業、貿易および消費者保護小委員会(Subcommittee on Commerce, Trade, and Consumer Protection)が予定されており、“Do Not Track”の法制化問題がその公聴会(“Do-Not-Track Legislation: Is Now the Right Time?”)で証人の意見に基づき徹底的に論議され、その結果がオバマ政権が力をいれているインターネットのプライバシー問題への対応として、今後予定の商務省報告にも反映されることを期待しているとEFFはコメントしている。

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(筆者注6) HTTP(HyperText Transfer Protocol)は、Webのサーバと、クライアント(ブラウザ)の間で、ウェブページを送受信するためのプロトコルであり、基本的にはテキストメッセージを交換することにより、実現される。HTTPは「HTTPリクエスト」と「HTTPレスポンス」に分けられ、ブラウザがサーバーに「このページを見たい」と頼む通信が「HTTPリクエスト」で、そのリクエストに応えてサーバーがブラウザに返す通信が「HTTPレスポンス」である。
 HTTPヘッダー情報(HTTPリクエスト)とは、具体的には次の内容である。
①ユーザーエージェント名(User-Agent)、②リファラ(Referer)、③更新されていたら(If-Modified-Since)/同じでなければ(If-None-Match)、④クッキー(Cookie)、⑤受け取り希望(Accept、Accept-Language、Accept-Encoding、Accept-Charset)

(筆者注7) “Entropy”の説明は“Firefox add-on”でその例があるとしか書かれていない。筆者なりに補足する。
 Mozilla の“Firefox アドオン”(日本語版)の画面上で拡張機能“Adblock Plus”をクリックすると広告のブロック方法が「バナーを右クリックして「Adblock」を選択すると、次回から読み込まれなくなります。配信されるフィルタセットを利用すれば、多くの広告を自動的にブロックできます。」のように説明されている。
 事前にブラウザ“Firefox”用に開発されたフリーウェア“Adblock Plus”をインストールすると、検索バーの右側に「ABPアイコン(ブロック機能を有効にしたときにのみ赤地色になる)」が表示される。例えば画面上の特定の広告動画を非表示にしたいときは、該当画像上で右クリック→ボックスの下にAdblock Plusが表示→クリック→フィルター追加画面となる→フィルター追加をクリック→該当画像が消えて空欄になる。
 さらに細かなフィルタリング・ルールの設定が可能である。「ABPアイコン」を右クリック→設定画面で、例えば「http://www.yahoo.co.jp/*」と登録する(最後に追加する“*”に意味がある)。次にGoogleで「yahoo.jp」の検索結果を表示してみよう。何も画面には表示されなくなる。

(筆者注8)「ネットワーク広告イニシアティブ」は、1999年にFTCが支援してオンライン広告のネットワーク業者とサービス業者で作る団体,ダブルクリック,24/7リアルメディアなどのウェブ広告技術企業8社で設立。プライバシー・サービスを提供する『トラストe』や,データ分析の米ウェブサイドストーリーなど,ほかにも25の企業が参加している。2000年夏,消費者の個人データの収集と共有に関して政府の介入を未然に防ぐため,業界自らが規制を定めるための団体として設立。NAI は自己規制のための業界団体を作る取り組みの先頭に立ち,米連邦取引委員会(FTC)は2000年7月,業界が自己規制を推進するという NAI の提案を受け入れた。 NAIは,オンラインにおける個人データ収集の基準となるルールを定め,消費者が NAI の会員企業による個人データ収集をやめてもらうよう選択できるウェブサイトを開設。
2002年11月26日,WebバグまたはWeb ビーコンを使用する際のガイドラインを発表。使用時期と目的を訪問者に通知することを義務付ける業界標準を定めた。また,消費者を特定できるデータの収集および共有技術を使用する場合は,あらかじめ消費者から許可を得なければならない。情報を得る側の業界が好むオプトアウトについて規定している。」(オンライン・コンピュー用語辞典から該当部分を引用。ただし内容が古いなど問題があり、筆者の責任で一部追加した。)
 なお、NAIの会員企業に対し消費者がopt out権を行使するための専門サイト(Opt Out of Behavioral Advertising)は業界自主規制の例として参考になる。

(筆者注9) 官民共同規制とは「公権力の実行目的―公権力と市民社会によって実行される共同活動―を達成するように設計された共同運用による規制の形式」をいう。FTCなど医療情報とプライバシー権問題を巡る論文(ウィンスコン大学)1177頁(注50)参照。

(筆者注10) “Local Shared Objects:LSO” とは、Adobe社のFlash Player がユーザーPCの内部に保存するデータ形式である。データは「Flashクッキー」とも呼ばれ、ブラウザのcookieのようにサイト毎の情報を保持する。LSOはcookieと違い有効期限がないため、情報が消えることが無いこともプライバシー上問題である。(Wikipediaから引用)

(筆者注11) 「データウェアハウス」とは、基幹系業務システム(オペレーショナル・システム)からトランザクション(取引)データなどを抽出・再構成して蓄積し、情報分析と意思決定を行うための大規模データベースのこと。(情報マネジメント用語辞典より引用)

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今回のブログが2010年の最終回となる。この1年間筆者の執筆意欲を支えてくださった読者の皆さんに感謝申し上げるとともに、来る2011年の皆さんのご活躍とご健康を祈念して筆をおく。

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米国連邦取引委員会がオンライン・プライバシー保護強化の“Do not Track Mechanism”の第2次提案(その1)

2010-12-31 13:52:43 | 消費者保護法制・法執行



 米国の連邦消費者保護機関である連邦取引委員会(FTC)は、12月1日付けで消費者のオンライン・プライバシー保護すなわち「インターネットなどオンライン行動の詳細追跡情報をプロファイルし対象者を絞る新広告ビジネス(行動追跡分析型ターゲット広告事業:Behavioral Advertising)」が急速に拡大していることから、プライバシー保護面から規制をかけるべく、従来の「プライバシー・ポリシー」の問題も含め、それら実務慣行に警告を鳴らすとともに、消費者の「opt out権」を確保するための技術的な標準化に関する第2次報告書を5-0で承認、その提案内容を公開した(コメント期限は2011年1月31日である)。

 筆者はこの問題につき、初めはFTCのプレス・リリースを読んだ。しかし、その内容はやや抽象的であり、何をどのように変えるのかといった意図が不明であり、その扱いに苦慮していた。しかし、本ブログでもしばしば紹介する人権擁護NPO団体EFF(Electronic Frontier Foundation)等のウェブサイトで読んで今までの経緯や具体的な提言内容、関係業界が取り組むべき課題等がやっと理解できた。

 一方、冒頭で述べたこの問題につき、わが国で公開されている情報にあたってみたが、FTCのこれまでの取組み内容も含め、はっきり言ってまともなものは皆無であった。唯一、2010年5月15日付け高木浩光氏がブログ「『ライフログ活用サービス』という欺瞞」で3月の総務省主催の「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」において指摘した有識者としての意見(ネットワーク事業者のプライバシー・ポリシーの内容や“opt out”の不徹底な仕組みなど具体的な問題点)の内容を紹介されている。
(筆者注1)

 執筆時間の関係や技術的な説明といった
側面で十分な内容とはいえないが、今回のブログは、EFFや最近知ったブログ“33 Bits of Entropy” (筆者注2)の解説等を中心に据えて、FTC報告の意義や今後の課題を紹介する。

 この問題についてさらに法的、技術的な点等につき最新情報を得たいと考えるならば、スタンフォード大学ロースクールの「インターネットおよび社会問題センター(Center for Internet and Society)」および同大学コンピュータ科学部の「セキュリティ研究所(Security Laboratory)」専門ウェブサイト“Do Not Track”(副題:普遍的なウェブ追跡からのopt out対応を探る)が網羅されており、特に本文中に取上げた「HTTP header approach」をopt out 手段として推奨しており、各ブラウザの対応状況調査もあり、この点でも最も参考になるサイトである。その詳細は機会を見て取上げたい。

 なお、本ブログの読者の中には、今話題となっている“Wall Street Journal”の特集“Your Apps Are Watching You”を読まれた人もいると思う。オンライン行動追跡広告やマーケティングにおける消費者保護問題がこの数年関係者による議論が高まる一方で、オンライン行動追跡広告自体について最近米国メディアが大きく取り上げたり、連邦議会や関係委員会でも具体的論議が始まっている。

 このような中で、12月23日に米国ではApple Inc.に対する2件の集団訴訟が同一裁判所に起こされた。
 1件目( Jonathan Lalo v.Apple:事件番号10-5878)は、12月23日、カリフォルニア北部地区(サンノゼ)連邦地方裁判所に携帯電話端末“iPhone”や携帯情報端末“iPad”の製造メーカーである“Apple Inc.”に対し、これらのデバイスのアプリケーション・ソフトがUnique Device ID(UDID)をもとに個人情報(ユーザーの位置情報、年齢、性別、収入、民族、性的性向、政治的意見等)を顧客の同意なしに集め、広告ネット会社に伝達・販売するのは「連邦コンピュータ詐欺および不正使用防止法(Computer Fraud and Abuse Act (CFAA:18 U.S.C. § 1030)」 
(筆者注3)やプライバシー法違反であるとして告訴したものである。(原告弁護事務所はキャンバー法律事務所(KamberLaw LLC) (筆者注4)
 2件目(Freeman v.Apple:事件番号 不明)については、告訴状による告訴内容が確認できた。1件目もほぼ同様の起訴事由であると思われるが、被告にはその他に追跡ソフトの提供メーカー(わが国でも一般的なDirectory.com ,Pandora Media ,Pimple Popper Lite ,Talking Tom Cat ,TextPlus,Toss It およびThe Weather Channel 等の制作会社)があげられている。(本訴訟では原告は損害賠償のほかにマーケッターに対するユーザーの個人情報の継続しての配布の禁止命令を求めている)

 現時点ではその他の被告の範囲等も含め起訴状の内容が厳密には確認できていない。
また、これら裁判は集団訴訟であり、その手続等をめぐり同州の消費者保護法 (筆者注5)との関係、また連邦法と州法とが交差した裁判であり論ずべき点が多い。別途まとめることとしたい。

 今回は、2回に分けて掲載する。

1.“Do not Track Mechanism”の検討経緯の概観
 EFFがまとめた内容を経緯も含め概観しておく。
(1)今回のFTC報告は2007年12月にFTCが行動追跡分析型ターゲット広告事業の更なる透明性と消費者によるコントロール権確保を目指し、業界の自主規制策定を推奨すべく事務局がまとめた「オンライン行動追跡に基づく広告のプライバシー保護にかかる取扱い自主規制のための原則(Online Behavioral Advertising privacy Principles)」を5-0で承認、公表した。

 主な項目を挙げると、次の内容であった。
A.行動追跡広告の目的で個人情報が収集するすべてのウェブサイトは、データが狙いを定めた広告対象目的で集められること、消費者に当該目的に沿った収集の是非に関する選択権を与えるべく、明確な文言で、消費者に分かりやすくかつ目立つ形の情報を提供すること。

B.行動追跡広告の目的で個人情報を収集・保存する広告会社は取扱いデータにつき合理的といえるセキュリティを提供し、また合法的なビジネスや法執行上の十分な必要性に応じる限りにおいて保有すべきである。

C.広告会社は、当初データを収集した際の約束内容と著しく異なる方法でデータを使用するときは影響を受ける消費者から明示的な合意を得るべきである。

D.機微情報(医療、子供のオンライン活動等)の収集にあたり消費者が広告を受けるにつき明示的な同意を得た場合のみ収集を行うべきである。
 この原則に対し関係者から多くのコメントが寄せられ、FTCは2009年2月に自主規制原則の改定版を策定、公表した。

 このような自主規制による保護強化策については有効性が弱いという批判が多く寄せられた。このことが今回の第2次対応の主たる背景である。

(2)今回のFTCのリリース内容によると、提案の主旨と内容は次のとおりある。
 今回、FTC事務局は高速な手段による個人情報収集や消費者にとって見えないかたちでの情報の共有を許す技術の進歩があるという理解の枠組みの下で策定した。多くの広告会社は個人情報の取扱いの説明を行ううえで「プライバシー・ポリシー」を使用するが、その内容は通常消費者が正確に読むには長すぎ、また読んだとしても理解できないような法的なロジックに終始している。現行の「プライバシー・ポリシー」は多くの負担を消費者に負わせている。

A.第一の点は前述したような消費者の負担を軽減し、基本的なプライバシー保護を確実なものとするため、広告会社は日常的な商慣行の中でプライバシー保護のため意図したプライバシーを取り入れるべきとした。すなわち、会社はプライバシー問題の監視役の要員を指名し、従業員を教育し、新商品や新サービスに関するプライバシー面の見直しを実施するなど組織全体を通じて健全なプライバシーの実務を手続面で実行すべきである。

B.第二に、この点が今回の報告書の中心テーマとなる点であるが、消費者のインターネットの効果的に活動するための情報収集としてターゲット広告を提供する場合と、その他の目的をもつものを区別する具体的方法として“Do Not Track”メカニズム(Do Not Track Mechanism)を提案した。
 FTCのリリースはこれにより、企業と消費者双方の負担軽減につながると述べている。しかし、これだけでは良く理解できない説明であり、ここまで読んでその内容や意義が理解できる人はまれであろう。そこで登場するのが前文で紹介した“33 Bits of Entropy”(以下、“Entropy”という)である。
 次項2.で“Entropy”の説明に基づき具体的に解説する。

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(筆者注1) 高木氏は、自身のブログで米国NAIの取組みにつき次のような補足を行っている(資料元とのリンクは筆者の責任で行った)。
「2010年3月以降、調べて知ったのだが、米国では、インターネット広告事業者の業界団体「Network Advertising Initiative」が自主的に、完全なオプトアウトの仕組みを提供する試みを実施しているようだ。
・NAI Consumer Opt Out Protector Add-On for Firefox (Beta Version),Network Advertising Initiative
・New NAI Opt-Out Tool Protects Against Cookie Deletion, ClickZ,(2009年11月5日)
・クッキーを削除してもオプトアウトを維持, インターネット広告のひみつ, 2009年11月7日」
 なお、上記の表現のとおり、高木氏はこのブログ作成時点では、スタンフォード大学の“Do Not Track”やNAIの“Opt out of Behavioral Advertising”等新しいサイト情報は完全には読んでいないと思われ、FTCの取組みも含め今回の本ブログで引用した内容が最新情報といえよう。

(筆者注2) ブログ“33Bits of Entropy”の筆者であるアービンド・ナラヤナン氏(Arvid Narayanan)について紹介しておく。テキサス大学オースティン校で博士課程を取り、現在はスタンフォード大学で主に博士課程修了後、研究者としての能力を更に向上させるため研究機関などで引き続き研究事業に従事しているとのことである。主たる研究テーマは、このブログで取り上げているとおりデータベースにおけるプライバシーと匿名性(anonymity)問題についてである。本文で紹介したスタンフォード大学ロースクールのトラッキング問題専門サイト“Do Not Track”の主担当者でもある。
 なお、この「ブログ・タイトルの意味」について筆者がうまく説明しているのであわせて紹介しておく。
「世界の人口はわずか約66億人しかいない。1人の人間が自分が誰であるかにつき識別しようとすると33ビット(より正確にいうと32.6ビット)の情報量が必要となる。この事実は2つの結果を導く。
まず最初に、あなたが世界中隅々まで捜すことができないくらい大きい群衆に隠れることができるという匿名のデータについての多くの伝統的な考えが当てはまらないということである。今日のコンピュータの演算能力から見て、その概念に完全に失敗する。すなわち、悪者をもった人間が目標人物について十分な情報がある限り、悪人は単にあらゆる可能なデータベースの登録内容を検索し、最も良いマッチング結果を選択できるのである。
2番目の結果は、33ビットが本当にいろいろな事ができるという数字ではないということである。すなわち、あなたの故郷の人口が10万人であるとすると、私があなたの故郷を知っているかぎりあなたに関するエントロピー(ある出来事の起こりにくさの関数として表される情報量)の16ビットは私が持つことになる。そして、あなた自身の匿名性情報エリアとして17ビットだけが残る。しかし、本当に危険なことは、伝統的に個人の特定に関係していないとされる1個人の「行動」情報が異なる文脈においては重大なプライバシーの不履行を引き起こすということである。」
 なお、“33Bits of Entropy”ブログを読んで読者は気がつかれると思うが、本ブログ
“Civilian Watchdog in Japan”と共通性がある。広告は一切リンクさせないことである。「中立性」の証左である。

(筆者注3)  “Bloomberg”の記事自体には告訴の根拠法は明確に書いていない。“federal computer Fraud and privacy laws”としか書かれていない。文脈からいって通常、「コンピュータ詐欺および不正使用防止法(Computer Fraud and Abuse Act ("CFAA", 18 U.S.C. § 1030))が根拠法であることは間違いないが、“privacy laws”とは何か。膨大な量に上る連邦プライバシー法(解説例参照)の中から特定するのは難問である。米国の法律関係サイトを調べたがいずれも告訴状のURLは確認できなかった。しかし、筆者としては該当法の1つとして、盗聴行為等の規制に関する「1986年電子コミュニケーション・プライバシー法(Electronic Communications Privacy Act of 1986 (ECPA): 18 U.S.C.§ 2510-22.)」であると考えたが、2件目の告訴状で見る限りそうではなさそうである。1件目に関し、IT分野に詳しい弁護士のblogでは次の法律違反が列記されていた。(米国法典や法律の要旨等との関係は筆者が確認のうえ補記)。このblogが正しいとすると、2件ともほぼ同一の根拠法による訴訟であるといえる。
①Federal Computer Fraud and Abuse Act
California State Computer Crime Law
California's Unfair Competition Law(UCL)(Business & Professions Code Sections 17200et. seq.)
④California Common Law for Trespass to Chattels/Personal Property(動産または個人資産に対する不法侵害にかかるカリフォルニア州のコモンローの意味)
⑤California Common Law for Conversion(横領に関するカリフォルニア州のコモンローの意味)
「(trespass to chattels」(動産への不法侵害)は、動産への侵害であるけれども、同じ動産侵害でも「侵害の程度」(the degree of the invasion)が酷(ひど)い場合は「conversion」(横領)に分類される。軽い侵害が「trespass to chattels」となるのである)」(中央大学総合政策学部 平野 晋教授のサイト「アメリカ不法行為法の研究」から引用)
⑥California Common Law for Unjust Enrichment(不当利得に関するカリフォルニア州のコモンローの意味)
 いずれにしても確認できた時点で本ブログも更新する。

(筆者注4) キャンバー法律事務所は、多くの集団訴訟を手がけている。特に、出版社やマーケッターのために消費者情報の追跡支援サービス(オンライントラッキング・サービス)をうたい文句としている” Quantcast”の“zombie cookie”に対する集団訴訟で約240万ドル(約3億2,800万円)の和解金を勝ち得たことで有名である。また、本年9月2日にもフォックス・エンターテインメント・グループおよびクリアスプリング・テクノロジーズ社を被告とし、「コンピュータ詐欺および不正使用防止法(Computer Fraud and Abuse Act)、「カリフォルニア州刑法典のコンピュータ犯罪(Computer Crime Law,Cal.Penal Code §502)」、「カリフォルニア州刑法典のプライバシー侵害(Invasion of Privacy Act,Cal.Penal Code §630 )」等違法行為に基づく集団訴訟(CV10-6586)の原告側弁護を担当している。

(筆者注5) 本裁判は集団訴訟が故の問題も多い。例えば「カリフォルニア州消費者保護法違反の主張に基づく全米的なクラス・アクションを提起する際には、準拠法の選択によって、「クラス」として認められるための要件である連邦民訴訟規則23条(b)(3)の"predominance"要件(クラスの構成員に共通する法律又は事実に関わる問題が各構成員個人にのみ関わる問題に「優越」すること)を満たすか、という問題の結論が左右されることがあります。複数の州にまたがるクラス・アクションでは、各州法に差異があることにより、共通の争点が形成されなくなることがあるからです。(中略) しかしながら、2008年12月、カリフォルニア州中央地区の2つの裁判所は、上記法律違反の主張に基づく全米的クラスを承認する決定を下しました。」(クイン・エマニュエル法律事務所の2009年4月のニュースレター「カリフォルニア州消費者保護法違反を主張する全米的なクラスを連邦裁判所が承認」から抜粋。

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今回のブログが2010年の最終回となる。この1年間筆者の執筆意欲を支えてくださった読者の皆さんに感謝申し上げるとともに、来る2011年の皆さんのご活躍とご健康を祈念して筆をおく。

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米国やカナダの高齢者を対象とする振込め詐欺「おばあちゃん・・助けて」の警告と防止対策

2010-10-06 03:24:49 | 消費者保護法制・法執行


 Last Updated:February 21.2021
 

 本ブログでは、しばしばハイテク・詐欺の手口やその対策・起訴等の最新情報を紹介してきた。
 今回紹介するテーマは、日本でなお被害が減らない「振り込め詐欺」が北米で被害が広がっていることから、詐欺専門サイトを開設、各種詐欺手口を列挙し、その被害予防防止につとめている「米国商事改善協会(BBB)」および「カナダ銀行協会の詐欺予防サイト(Fraud prevention Tip))の最新情報や「詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)」等の具体的な取組みを紹介する

 読者は読んですぐに気がつくと思うが、孫の懇請に弱い祖父母の感覚は古今東西を問わないことがよく理解できる。「ちょっと待て」、「冷静に考えて」と言葉だけでなく国際犯人グループの早期逮捕が急務であるが、組織全体を壊滅するため国際協力がますます欠かせなくなってきている。

 また、カナダのCAFCの“SeniorBusters program”で見るとおり、相談相手も相者も高齢者といういい意味での高齢社会の相互コミュニケーションの場として有効に機能している点は、筆者が従来からかかわっている東京大学「高齢社会総合研究機構(IOG)」の研究テーマと関係してこよう。

 なお、筆者は皮肉にも銀行協会や捜査当局による振込阻止の取組みは、わが国の方がすすんでいると思う。


1.米国商事改善協会(Better Business Bureau:BBB)の取組み
 2009年11月2日、BBBは次のようなカナダ人からの振り込め電話詐欺に関し、消費者向けの警告文を発表した。

(1)手口の概要
・ある祖父母に孫からと信じさせる「今、大変困っているんだ」との電話がかかってくる。
・思わせぶりの孫は、通常「カナダを旅行中であるが逮捕されたとか自動車事故に巻き込まれたと窮状をうったえる。損害賠償金や保釈金をすぐ払わねばならないので、すぐにおばあちゃんは数千ドル(1万5千ドルといったケースもある)を電信為替で送金して欲しい」といった内容の電話をかけてくる。

 多くの高齢者は、この手の詐欺にはかからずに詐欺の報告を警察等関係機関に報告している間に別の犠牲者が発生している。話の内容はそれぞれ異なるものの、常に緊急事態として「悲しい身の上話(tale of woe)」(筆者注1)が出てくる。
 緊急性をうったえる詐欺者の言葉は、人の錯覚を麻痺させる。論理的でない感情で物事を決めてしまうのである。

 振り込め詐欺の広がりを考えて、米国では数州の司法長官は警告を行った。

 米国の法執行機関は、加害者が米国全体にわたる高齢者の電話番号をどのように取得しているかは確認できていない。しかしながら、加害者は高齢者にあたるまでランダムに電話をかけていると推測される。

 この場合の基本的な手口は疑いを持たない祖父母に対し犯人は、まず「おれだよ」といって電話の相手に自分の親しい孫の名前を言わせるように誘導する。

(2)詐欺にかからないための方策
①このような詐欺の手口にかからないためには高齢者は本当の孫しか知らない質問を電話口で問いかけるべきである。電話のかけ手が秘密であり、この場では言えないとするときは慎重に対処すべきである。すなわち、警察に電話して合法的な正しい内容確認を要請すべきである。

②それ以上の行動を行う前に電話相手の話の確認を他の家族や親族等に行う。

③詐欺師は通常“Western Union (筆者注2)や“MoneyGram” (筆者注3)を通じた電信送金を要求するが、それは「赤旗(red flag)」が立ったものとみなすべきである。これら電信送金で送られた資金は詐欺師によりいったん受け取られるとその追跡は極めて困難で法執行機関や銀行でも取り戻しは不可である。

④犠牲者になったときは、速やかに地元警察に報告するとともに次の関係機関に報告すべきである。
 「カナダ詐欺予防コール・センター」へのホットライン(1-888-495-8501:通話無料:toll free)やインターネットでの報告が可能である。

2.カナダの振込み詐欺の実態と取組み
 カナダの振込詐欺の実態と具体的な阻止策について概観してみる。

(1)カナダ銀行協会(CBA)の警告と注意事項
「おばあちゃん! 助けて」と言う標題で始まる振込め詐欺の手口の説明は米国のBBBよりやや具体的である。ほとんどは同様の内容であるが、話を本物らしく見せるため詐欺師は、警察官、保釈保証人または弁護士のように行動するために別の人を電話口に置くかもしれないと書かれている点である。

 CBAは、消費者を巻き込んだ詐欺対策強化のための情報提供サービスとして
ウェブサイト上に“Safeguarding Your Money”と題して“Canadian Anti-Fraud Call Centre、”「経済犯罪オンライン報告サイト(Reporting Economic Crime Online:RECOL)」(筆者注4)等外部機関に関するリンク情報も提供している。

(2) 詐欺予防コール・センター(Canadian Anti-Fraud Call Centre:CAFC)の取組み
 1993年に設立された「Canadian Anti-Fraud Call Centre」は、カナダ騎馬警官隊(Royal Canadian Mounted Police:RCMP)、オンタリオ州警察(Ontario Provincial Police)およびカナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada ) (筆者注5)により共同管理されている。
 特に同センターは、マス・マーケテイング(telemarketinng)、前払い手数料詐欺:ナイジェリアン詐欺(advance fee fraud:West African)、インターネット詐欺、なりすまし詐欺等に関する情報や犯罪情報機関の情報を収集する。

 CAFC自身は詐欺捜査を行うことはないが、世界中の法執行機関」に対し貴重な情報を提供する。

 CAFCが集め分析した情報は、広く国民に各種の詐欺のタイプを周知する意味でその効果を計るための評価ツールとして機能する。

 CAFCは“SeniorBusters program”により運営されており、現在は高齢者に対するマス・マーケティング詐欺と戦うために集まった高齢者のボランテイアから構成されている。
 SeniorBusters program”は、違法な「マス・マーケティング詐欺」および「なりすまし情報盗取や詐欺」に関する教育、カウンセリング、斡旋・紹介(referrals)等を提供している。

 なお、同センターには2009年中に48件の振込詐欺関連の苦情が寄せられ、州全体では被害者は21人、被害総額は7万1,123カナダ・ドル(約569万円)と報告している。
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(筆者注1) “tale of woe”と言う英語は日本人ではあまりなじみがなかろう。米国でもそうであるかは分からないが、BBBの記事の原文を良く読んで欲しい。原文(第5パラグラフ)では“tail of woe”となっている。BBBでもこのような初歩的なミスを犯すのかと考えたが、そのうちメールでBBB事務局に確認するつもりである。

(筆者注2)  Western Union .JPサイトの説明を引用しておく。「ウエスタンユニオンは、電報会社として創立され、今日では世界最大手の国際送金サービス事業者へと発展しました。2006年には、創業以来ご提供してきた電報業務を完全に廃止し、国際送金サービス事業者に転換しました。ウエスタンユニオンは、様々なパートナーと協業し、現在全世界37万を超える取扱店で、お客様に多彩な金融サービスをご提供しています。」
同サイトでは、日本国内の取扱店、送金手続・受取方法や手数料等について解説している。

(筆者注3) “Money Gram”の取扱銀行であるブラジル系のイタウ・ウニバンコ銀行東京支店(Itaú Unibanco S.A. Tokyo Branch)(東京丸の内センタービル1F)のHPで確認できる(ただし、英語表示であるが)。送金・受取方法等が説明されている。日本の代理店は東京1個所しかない。

(筆者注4) カナダの“Economic Crime Online(RECOL)”についてはわが国では一般的に閲覧できる解説がないので、ここで簡単に触れておく。

 “RECOL”は国際、連邦および州政府の法執行機関(経済犯罪の申立のコピーを受けるのに合法的な調査の利害を持つ規制監督機関や民間商業団体)と同様な統合パートナー・シップにかかる率先機関である。パートナーはカナダ騎馬警官隊、オンタリオ州警察、インターネットによる犯罪申立センター(Internet Complaint Center)である。
 管理されたユーザーの同意(USER CONTROLLED CONSENT)では、適切な法施行機関と監督官庁に詐欺の申立を行わなければならない。RECOLは潜在的調査のための適切な法施行機関、規制監督機関または民間の商業団体を申立先として推薦する。RECOLは現在の詐欺の傾向に関係するリアルタイムのデータを提供するとともに、経済犯罪に関する教育、防止および認識を支援、提供する。
 ユーザーによって入力されたすべてのデータのプライバシーは保護され、実際にオリジナルの申立データを入力したユーザーのみが調査できる。 RECOLイニシアチブに係わるすべてのメンバーは、内容のプライバシーと当該情報が経済犯罪申立の調査を支援するに使用されるだけであることを保証することにつき監視する。
 このサービスは、カナダ全国ホワイトカラー犯罪センター(National White Collar Crime Centre of Canada )により管理されて、カナダ騎馬警官隊や他の共同機関により支援される。

(筆者注5) カナダ連邦産業省競争局(Competition Bureau of Canada )が執行する法律としては、 「競争法 ( Competition Act:c34)」「消費者包装表示法 ( Consumer Packaging and Labelling Act:R.S., 1985, c. C-38)」 「繊維製品表示法 ( Textile Labelling Act:R.S., 1985, c. T-10)」「重貴金属表示法 ( Precious Metals Marking Act:R.S., 1985, c. P-19)」の4法がある。さらに競争局では、各種消費者詐欺の阻止に関する問題も取組んでいる。

[参照URL]
・「米国商事改善協会(BBB)」の高齢者向け振込め詐欺(Grandparents Scam)に関する警告サイト
https://www.bbb.org/new-york-city/get-consumer-help/articles/grandparents-scam/
・カナダ銀行協会の高齢者向け振込め詐欺警告サイト
https://cba.ca/gift-card-demands-scam
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カリフォルニア州司法長官のウェルズ・ファーゴ子会社3社とのARSに関する14億ドルの返還和解が成立

2009-11-20 07:32:48 | 消費者保護法制・法執行

Last Updated: March 3,2021

 11月18日、カリフォルニア州司法長官エドモンド・G.ブラウン(Edmond G. Brown Jr.)(長くカリフォルニア州知事をつとめている)とウェルズ・ファーゴの子会社3社が行ったオークション・レート証券(auction-rate security:ARS)を購入した投資家への14億ドル(約1,232億円)の返還和解が成立した。

Edmond G. Brown Jr.氏

 このARS取引をめぐる投資家への返還について、例えば2008年8月21日にメリル・リンチがニューヨーク州司法長官やSEC等と和解しており、同年7月24日に同州のクオモ司法長官はUBSに対し民事訴訟を起こした後、8月11日に194億ドル(約1兆7千億 円)で和解するなど一連の和解事例があげられる。(ニューヨーク州の司法省長官サイトで見てもARSをめぐる和解は2008年7月以降続いており、今回のカリフォルニア州の和解もこれら一連の司法機関や法執行機関対応であることはいうまでもなかろう。


 一方、2009年3月30日、ニューヨーク連邦地方裁判所はUBSに対するクラス・アクションについて棄却命令(dismiss order) (筆者注1)を下した。その理由は、前述した2008年8月11日付けのニューヨーク州や連邦の金融監督機関や法執行機関のUBSとの和解で、流動性のない証券を持たされた原告自身すでにUBSによる額面によるARSの買取を選択した以上、買値全額を受け取っているというものである(購入時1株当り25,000ドル支払い、和解により1株当り25,000ドル受け取る)。(筆者注2)


 今回のブログは、カリフォルニア州の和解のニュース・リリースの概要とそもそも問題となった“ARS”とはいかなる取引でどのようなリスクがあるのか等について改めて簡単に整理する。特に、リリースの最後に指摘しているとおり、2005年3月にSEC、米国四大会計事務所および米国財務会計基準審議会(FASB)がいずれも“ARS”は現金同等と扱うべきでないことを決定した警告をウェルズ・ファーゴは無視した点が最大の起訴事由といえる。

 また同様な監視強化の動きとしては、11月16日に証券監督者国際機構(IOSCO) (筆者注3)専門委員会は、市中協議文書「リテール投資家に対する販売時(Point of Sale)の販売時の開示に関する原則」を公表し、広く意見を求めている(コメント期限は2010年2月16日)。本文書は集団投資スキーム(CIS)について、情報開示に関する原則を提示するもので、わが国の金融庁も概訳し取扱機関の関心を求めており、関連情報として追記する。

 なお、今回紹介する返還和解だけでなく証券詐欺行為に対し米連邦裁判所陪審が2008年8月17日、クレディ・スイス・グループの元ブローカーで、証券詐欺などの罪で起訴されたエリック・バトラー被告(37歳)にすべての起訴事実について有罪の評決を下すなど、米国の金融危機を背景とした証券取引詐欺訴訟は多くの事例を見るが、今回は省略する。

1.カリフォルニア州司法長官等の投資家に対する返還金和解のリリース内容
 以下のとおり仮訳した。その投資家保護の意義と法執行機関としての問題意識が表れていると感じた。

 カリフォルニア州司法長官エドモンド・G.ブラウン(Edmond G. Brown Jr.) は本日“誤解を招く投資アドバイス(misleading advice)”に基づくオークション・レート証券を購入した投資家、慈善団体、中小企業に対しウェルズ・ファーゴの子会社3社に対する14億ドルの画期的な和解について合意した。

 「ウェルズ・ファーゴは、確固たる利益と流動性を約束してオークション・レート証券を購入するよう数千の投資家を勧誘したが、市場が崩壊した時、これら投資家はのけ者にされ置き去りにされた。誤解を招く助言に基づき投資家はこれらのリスクのある証券を購入したのである。今や、一般投資家や中小企業は最終的にこれらの資金を取り戻せる。」
 
 本日の和解に基づき、ウェルズ・ファーゴは全米の数千の小口顧客、慈善団体や全米の中小企業に対しいまや流動性のないARSをカリフォルニア州の投資家分の7億ドルを含む14億ドルを買い戻すことになる。同時にウェルズ・ファーゴはカリフォルニア司法長官府にかかる法律手続費用および将来にわたるモニタリング費用(筆者注4)も支払う。

 2008年2月、全米のARS市場は凍りつき、その投資家は自分が保有する証券の売却が不可となった。2009年前半に長官はカリフォルニア州の証券法した理由で、ウェルズ・ファーゴの子会社である「ウェルズ・ファーゴ投資、LLC(Wells Fargo Investments,LLC) (筆者注5)」、「ウェルズ・ファーゴ仲介業務サービス、LLC(Wells Fargo Brokerage Services,LLC)」および「ウェルズ・ファーゴ金融機関向け証券サービス、LLC(Wells Fargo Institutional Securities,LLC) (筆者注6)」を起訴した。(筆者注7)(筆者注8)司法長官の起訴はウェルズ・ファーゴが重要な事実を省略して、ARSについて繰り返し安全で流動性があり現金と同様の投資方法であるといった誤った説明を行い販売してきたことを理由とする。また、ウェルズ・ファーゴは販売代理店に対する適切な監督、教育を怠ったとともに不適切な投資の販売行為を行ったことも起訴事由に当たる。

 本起訴は、ウェルズ・ファーゴがARSのリスクや過去におけるオークションの失敗という産業界や社内の警告を明らかに無視した点を争うものである。
 2005年3月にSEC、米国四大会計事務所および米国財務会計基準審議会(FASB)がいずれも“ARS”は現金同等と扱うべきでないことを決定している。これらの警告にもかかわらず、ウェルズ・ファーゴは安全、流動性があり現金類似の投資対象として2008年の前半に全米のオークション市場が凍結するまで積極的に販売し続けていた。

 また、ウェルズ・ファーゴは“ARS”をマーケテイングや販売する際に“ARS”がどのような投資商品でオークション手続がどのように機能するかについて、そのリスクやオークションが失敗に終わったときの当然の結果について情報提供を行っていなかった。

2.“ARS” の商品スキームおよびリスク発生の経緯と具体的リスク
(1)わが国のオークション・レート証券(ARS)の定義
 わが国で“ARS”について正確に説明した資料を探してみた。2008年8月8日付けのロイター通信(日本語版)は次のように米国の現状を解説している。
「米連邦政府や州政府がオークション・レート証券(ARS)の販売をめぐり、大手金融機関の取り締まりを強化している。ARSは当初、安全で流動性の高い金融商品として販売されたが、世界的な信用収縮の影響で今年2月に市場がまひし、投資家が、保有するARSを売却できない状態となっている。

ARSの仕組みやこれまでの経緯は以下の通り。
・ARSは長期債の一種。1984年に初めて発行された。課税・非課税の双方がある。金利は短期市場金利に連動し、一定期間ごとに入札で見直す。入札は、7日、28日、35日ごとに行うケースが多い。
・発行体にとっては、短期金利で長期資金を調達できる利点がある。ARSの市場規模は3300億ドル。米国の州・市・公的機関による発行が、全体の半分を占める。残りは、クローズドエンド型ファンド、企業、教育ローン機関などが発行していた。
 ・ARSは、現金に近い性質を持つ流動性の高い金融商品として販売され、通常の預金よりも高い金利を求める個人投資家、富裕層、企業などが購入してい
た。
・今年に入るまで入札が不成立になるケースはほとんどなかったが、サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題で業績の悪化した大手金融機関が、ARSの買い入れを中止したことで、今年2月以降、入札が成立しないケースが相次いだ。多くのARSには金融保証会社(モノライン)の保証が付いており、モノラインの経営悪化も、ARS市場の縮小に拍車をかけた。」
 ・トムソン・ロイターのデータによると、過去8年間ARSの引受額が多かった
金融機関は、シティグループ、UBS、ゴールドマン・サックス、RBC、モルガン・スタンリー、リーマン・ブラザーズLEH.N、JPモルガン、ワコビアWB.N、メリルリンチMER.N、バンク・オブ・アメリカなど。
 ・ARS市場の混乱で、ARSの金利は長期金利を上回る水準に跳ね上がった。
投資家は保有するARSを換金できず、発行体は高金利の支払いを余儀なくされた。入札が不成立となったニューヨーク・ニュージャージー港湾公社のケースでは、20%の金利支払いを迫られた。(以下略す)」

 一方、わが国の“ARS”の解説例を見てみよう。2008年8月14日付けフジサンケイ・ビジネスの記事は次のとおり紹介している。
「ARSは、州や市といった自治体などが発行する長期債券の一種で、1984年に初めて発行されました。金利は短期市場に連動し、一定期間を過ぎると入札で金利を再び設定します。
 発行側としては、短期市場金利で長期資金を調達できるメリットがあります。発行体は自治体のほかにも、信用力の高い企業や教育ローン機関なども発行し、その市場規模は3000億ドル(約33兆円)にものぼります。発行体の信用力も高いことから、金融市場では「安全性が高い金融商品」として知られています。通常の預金よりも金利が高いため、個人投資家や企業などが購入していたようです。
 安全性が高いのに、米大手金融機関が買い戻しているのはなぜでしょうか。
 実は、金融機関側の販売方法に問題があったとされています。投資家に販売する際、損失のリスクがあるにもかかわらず、「換金性が高く、現預金と変わらない」などと説明したことを自治体などは問題視しているようです。
 もともと換金性が高かったためこうしたセールストークになっていたようですが、昨年夏に端を発したサブプライム(高金利型)住宅ローンの焦げ付き問題により、ARSの神話が徐々に崩れていきました。(以下略す)」

 以上のように、ARSは米国における金融破たんの影響の広がりと深さが多くの投資家を巻き込んだ事例の1つといえる。
 翻って、わが国の詐欺的証券アドバスに対する司法機関や金融監督機関の対応はどのようなものといえようか。ためしに金融庁のサイトから「オークション・レート証券」や「ARS」を検索してみた。結果は「ゼロ」であった。

   **********************************************************************************
(筆者注1)筆者自身、スタンフォード大学ロースクールの「クラス・アクション」専門解説サイト(正式名は“The Securities Class Action Clearinghouse”)を定期的に読んでいるが、この件は忙しさに紛れ読み飛ばしていた。改めて調べると、ARSをめぐる多くのクラス・アクションが提起されており、3月30日の裁判所命令の対象となった事件は2008年3月21日に申し立てられた証券法違反を理由(告訴状参照)とするものである。”UBS AG Securities Litigation”につき裁判経緯や決定内容等がわかりやすくかつ詳細に解説している。

 なお、今回、従来から付き合いのある弁護士Kevin M.LaCroix氏の解説にも目を通した。

Kevin M.LaCroix氏

(筆者注2)USBに対する複数クラス・アクションが統合されており、3月30日のニューヨーク連邦地方裁判所の判決はすべてを棄却することを承認するものである。なお、判決後20日以内に原告は再告訴できるのであるが、原告は5月6日に同裁判所に再告訴している。その詳細は同ロースクール・サイトでは確認できなかった。

(筆者注3) 証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions :IOSCO、通常イオスコと呼ばれます)は、世界109の国・地域(2008年11月現在)の証券監督当局や証券取引所等から構成されている国際的な機関であり、以下の4つを目的としています。
・①公正・効率的・健全な市場を維持するため、高い水準の規制の促進を目的として協力すること。
・②国内市場の発展促進のため、各々の経験について情報交換すること。
・③国際的な証券取引についての基準及び効果的監視を確立するため、努力を結集すること。
・④基準の厳格な適用と違反に対する効果的執行によって市場の健全性を促進するため、相互に支援を行うこと。
金融庁サイトの説明から一部抜粋引用。なお、改めて注意しておくが“IOSCO”を、「通常イオスコ」と言うのはわが国だけである。海外では恥をかくので注意して欲しい。)

(筆者注4)「将来にわたるモニタリング費用」とはいかなるものか。これに類した表現を含む米国の類似の和解判決を読んでみた。正確な金額は不明であるが、おそらく和解内容の遵守状況を法執行機関として監視する諸費用であり、環境破壊裁判では汚染状態をなくす費用等が例示されている。

(筆者注5)米国における“LLC”とはいかなる経営組織をいうのであろうか。「有限責任会社」と言う訳語が一般的に使われているが、組合(partnership)や会社、法人(corporation)の違いは何か。
現中央大学法科大学院教授の大杉謙一氏が2001年1月に発表した「米国におけるリミティッド・ライアビリティー・カンパニー(LLC)およびリミティッド・ライアビリティー・パートナーシップ(LLP)について」(日本銀行金融研究所/金融研究/2001.1でわが国の旧有限会社等と比較しつつ正確にまとめられている(なお、2006年5月1日施行の会社法により有限会社法は廃止され、有限会社の新設は出来ない点に留意されたい)。一言で言うと「LLCはスモール・ビジネスを主として念頭においた組織形態であり、小規模会社に私法上というよりもむしろ税法上の恩典を与えることを主目的として導入された組織形態」とある。今回被告となったウェルズ・ファーゴの子会社はウェルズファーゴ経営実体の業務別担当部門そのものであることになり、今回の和解においてウェルズ・ファーゴ・グループ自体の責任を前面においたリリース等の意味がやっと理解できた。

(筆者注6) “Wells Fargo Institutional Securities,LLC”は正確にはウェルズ・ファーゴ証券の機関投資家担当の子会社のようである。

(筆者注7) 起訴状(12頁)によると第一訴因(first cause)はカリフォルニア州法人法(California Corporations Code)25401条にもとづく証券詐欺(security fraud)、第二訴因は25216(a)条にもとづくブローカー・ディラーによる証券詐欺(security fraud by a broker-dealer)である。
25401. It is unlawful for any person to offer or sell a security in this state or buy or offer to buy a security in this state by means of any written or oral communication which includes an untrue statement of a material fact or omits to state a material fact necessary in order to make the statements made, in the light of the
circumstances under which they were made, not misleading.

25216. (a) No broker-dealer or agent shall effect any transaction in, or induce or attempt to induce the purchase or sale of, any security in this state by means of any manipulative, deceptive or other fraudulent scheme, device, or contrivance. The commissioner shall, for the purposes of this subdivision, by rule define such
schemes, devices or contrivances as are manipulative, deceptive, or otherwise fraudulent.

なお、カリフォルニア州の法律検索のイロハについては11月13 日の筆者ブログ 2.(2)を参照されたい。 

(筆者注8) わが国では“CALIFORNIA CORPORATIONS CODE”自体一般的でないので簡単に補足する。
「カリフォルニア州の法人の設立根拠法は、CALIFORNIA CORPORATIONS CODEで、各種法人や非法人組織の規定も整備されています。
 Title 1.CORPORATIONS(会社)
 Title 2.PARTNERSHIPS(組合)
 Title 2.5. LIMITED LIABILITY COMPANIES(有限責任会社)
 TITLE 3.UNINCORPORATED ASSOCIATIONS(法人化されていない組織)
 Title 4~ Title 5 省略
 カリフォルニアの会社設立は州当局(Secretary of State)への法人設立の届出(110条)を行い、届出から90日以内に受理され効力が発行します。設立の届出から90日以内に定款の内容の一定の情報(STATEMENT OF INFORMATION)について届出が義務付けられています(1502条)。
東京フィールド法律事務所のブログから引用)

〔参照URL〕
http://ag.ca.gov/newsalerts/release.php?id=1834&
http://ag.ca.gov/cms_attachments/press/pdfs/n1719_wellsfargoaffiliates.pdf
http://www.leginfo.ca.gov/cgi-bin/calawquery?codesection=corp&codebody=&hits=20

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米国IC3やFinCEN等によるインターネット犯罪や不動産担保ローン詐欺の最新動向報告

2009-04-18 02:27:35 | 消費者保護法制・法執行



 Last Updated : March 6,2021

 わが国を含め、コンピュータ犯罪の情報収集の中心的機能を担っている米国インターネット犯罪苦情センター(Internet Crime Complaint Center:IC3(筆者注1)が、米国における2008年版調査結果“2008 Internet Crime Report”を発表した。

 IC3が公表した最新コンピュータ犯罪報告の2007年版については、KDDI総研の藤崎太郎氏が詳細に報告しており(筆者注2)、2008年報告も共通的な項目分析が行われていることから、本ブログでは2008年版における特徴点を中心に述べることとする。

 また、本ブログでも過去に紹介してきた米国のマネーローンダリングの取締機関である連邦財務省金融犯罪法執行ネットワーク(Financial Crime Enforcement Network:FinCEN)は金融機関に対する不動産担保ローン詐欺(Mortgage Fraud Report)に関する第4次報告を行っている。
 ””Mortgage Fraudについて、サブプライムローンの損失や差押(foreclosure)拡大と時期を会わせ2006年からFinCENによる報告が行われており、第4次ということからその傾向を追いながら解説を試みる。

 いずれにしても「振り込め詐欺」やマネーローンダリングの例に見るとおり、筆者が従来から追い求めている「進化し続ける詐欺社会」から庶民を守るには、あらゆるメディアを活用した「迅速な警告体制」と被害予防のための情報提供であろう。その意味で、法執行機関である警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトの最新予防策のための“Cyber Warning” による最新の警告が、2006年7月ということはサイバー犯罪の範囲をIT技術を駆使した犯罪面だけに狭く解しすぎているのではないか。(筆者注3)

 一方、米国では、例えば前記「 2008 Internet Crime Report」付属資料2(Appendix-2)において犯罪阻止のための犯罪類型別留意事項と具体的な相談・苦情届出先(Best Practice to Prevent Internet Crime)をまとめている。きわめて簡単な内容ながら一般消費者向けの効果的な情報提供例といえる。(筆者注4)
 実際、連邦司法省やFBIサイトを見ていると1週間に1~2回は詐欺裁判の有罪判決のリリースが出てくる。こんなに詐欺が多いのかと感心しているわけにはいかない。改めて本ブログでも詐欺特集が必要になるであろう。

 他方、先般本ブログで紹介したオーストラリアのSCAMwatchも詐欺の範疇を広くとらえたうえで詐欺手口の解説を行っており、消費者にとっては極めて有益と考える。

 さらに、わが国では一般的に知られていないが、2002年に国土安全保障省(DHS)の一部門 (筆者注5)となったU.S.シークレット・サービス(United States Secret Service:USSS)(筆者注6)は優先的重要任務として、金融システム基盤と決済システムの保護を上げ、そのためコンピュータ犯罪やインターネット詐欺等に対する捜査、逮捕や予防対策への責任を担っており、他に機関では見られない独自の専門家による捜査機能・活動について今回のブログで概要を紹介する。

1.IC3「 2008 年Internet Crime Report」の特徴点
(1)犯罪類型別苦情件数・被害額割合・1件あたり被害額(中央値)
①商品未送や代金未払い詐欺(Non-delivered merchandise and /or payment):苦情件数は全体の31.9%と最も多く、被害額の割合で見ると28.6%、1件あたり被害額は800ドル(約7,800円)である。
②オークション詐欺(Auction fraud):苦情件数割合は25.5%、被害額の割合は16.3%、1件あたり被害額は610ドル(約6万円)である。
③クレジット・デビットカード詐欺:同9.0%、同4.7%、同223ドル(約22,000円)である。
④その他信用詐欺(Confidence fraud:相手を信用させて財産的被害をもたらすもの、前記①、②やナイジェリアン手紙詐欺もこの類型に属す)、コンピュータ詐欺、小切手詐欺(check fraud:小切手の偽造・変造や残高不足を知りながら振り出すもの)、ナイジェリアン手紙詐欺が件数割合として上位7類型となった。

(2)被害額の多いもので見ると、小切手詐欺(3,000ドル)、信用詐欺(2,000ドル)、ナイジェリアン手紙詐欺(1,650ドル)である。

(3)加害者(perpetrators)の居住地域的特徴で見ると、比較的人口が多い次の州が多く、2007年の調査結果と同様の傾向を示している。()内は2007年の順位。
①カリフォルニア(1)
②ニューヨーク(3)
③フロリダ(2)
④テキサス(4)
⑤ワシントンD.C.(上位10位に」はいっていない)
 なお、米国以外の国でみると英国、ナイジェリア、カナダ、中国、南アフリカが多い。

(4)詐欺による被害者への接触ルートは、Eメール(74.0%)、ウェブサイト(28.0%)が上位2つを占める。

2.米国FinCENの「不動産担保ローン詐欺(Mortgage Fraud Report)に関する第4次報告」
(1)過去4回のFinCENによる不動産担保ローンに関する詐欺報告の公表年月は、
 次のとおりである。
・第1次2006年11月:FinCEN Mortgage Loan Fraud Assessnent
・第2次2008年4月:Mortgage Loan Fraud:An Update of Trends based Upon an Analysis of Suspicious Activity Reports
・第3次2009年2月:Filing Trends in Mortgage Loan Fraud
・第4次2009年3月:Mortgage Loan Fraud Connection with Other Financial Crime
************************************************************************************************
(筆者注1)わが国でIC3に該当する公的機関は、警察庁サイバー犯罪対策プロジェクトおよび都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口等のみであろうか。

(筆者注2)藤崎氏のレポートは、丁寧かつ原資料に忠実に解説されていると思う。ただし1か所気になったのは13頁のコンピュータ詐欺(Computer Fraud)の定義に関し「米国会計検査院」と引用されている。原語はGAO(U.S. Government Accountability Office)であるが、わが国では確かに「会計検査院」と訳されるのが一般的であり、筆者もかつてはそのように訳していた。しかし、連邦議会に対する権能や権限等について再度見直し、2007年9月の本ブログ以降は「連邦議会行政監査局」という訳語を使用している。

(筆者注3)IC3の報告書の要旨を読むと、コンピュータ犯罪にかかわりそうなあらゆる苦情をまず連邦、州、地方の関係機関が広く収集し、その中から関連重要犯罪を絞り込んでゆく分析過程が浮かび上がる。2008年1月1日から同年12月31日の間にIC3が受け付けた苦情275,284件(前年比33.1%増)の中には非詐欺にあたるスパムメールやチャイルド・ポルノ等も含まれている。

(筆者注4)わが国の関係省庁や機関がサイバー犯罪とくに「ボット(コンピュータを悪用することを目的に作られた悪性プログラムで、コンピュータに感染すると、インターネットを通じて悪意を持った攻撃者が、コンピュータを外部から遠隔操作する)」に対処するため共同運運営体制をとった例として、2006年12月1日に経済産業省と総務省が20010年3月31日までの期間限定で設置したサイバークリーンセンター運営委員会(CCC-SC)による「サイバークリーンセンター(CCC)」があげられる。総務省や経済産業省を中心にISPの協力をえながらボット駆除や再感染防止の中心プロジェクトと担うとしている。ウェブサイトの説明も一般的に分かりやすく工夫の跡が伺える。

 なお、CCCは2006年より国の事業として行ってきたが、その活動は2011年3月に終了している。

 しかし、一方でサイバー犯罪の範囲の拡大はとどまるところを知らない。海外の動向を見ても、米国がインターネットにかかわる苦情情報を情報源としながら、連邦捜査局(FBI)を中心として全米ホワイトカラー犯罪センター(NW3C)、主要民間企業、学術研究機関の協力のもとで極めて専門性の高い専門家集団を集めたサイバー犯罪捜査専門部門(全米サイバーフォレンジックス&教育連盟(National Cyber-Forensics & Training Alliance)や苦情収集に特化したIC3等)を構成して、最終的に連邦司法省や法執行機関を支援し、常に変化するサイバー犯罪の定義に苦慮しながらも可能な範囲でIT社会の脆弱性に取組んでいる姿を見ると、わが国のような限定型の取組みで十分なのか疑問に思える。

(筆者注5) 2002年第107連邦議会を通過し成立した“Homeland Security Act of 2002”(Public Law 107-296)に基づき国土安全保障省(DHS)が設置され、同時にUSSSが財務省からDHSに移管された。このことはDHSの組織図やUSSSの歴史説明で明記されている。

(筆者注6)本ブログでしばしば紹介するとおり、米国の公的機関の法的根拠や重要任務に関するわが国の解説は、最新の法律情報等を確認していないものや不正確な内容のものが目につく。例えば、いまだにUSSSを「財務省検察局」(情報処理推進機構(IPA)の2004年8月「電力重要インフラ防護演習に関する調査 報告書」16ページ等)と訳している例が多く(わが国で一般的に利用されている翻訳サイト“Excite”や“ALC”も同様の訳語を使用している)、また「財務省秘密検察局」と言うものもある。昔のテレビの見すぎか。ビジネス用語だけでなく政治組織に関する訳語の正確性は重要であり、迅速に見直すべきであろう。

 “Secret Service”の基本的組織構成は3部門からなり、要人(大統領、副大統領、次期大統領、次期副大統領、これらの家族、元大統領およびその配偶者(再婚した場合を除く)、16歳までの大統領の子供、米国訪問中の外国政府の代表者や配偶者等である)の警備に当る特別捜査官(Special Agent:約3,500人)、対狙撃支援部(Countersniper Support Unit)、犬を使った爆発物探知部隊(Canine Explosives Detection Unit)、緊急対策部隊、金属探知支援部隊(Magnetometers)からなる制服部隊(Uniformed Division:約1,300人)、および法科学・法定証拠(forensic)専門科学者、心理学者、法執行に関する教官、人事専門家、予算アナリスト、火器に関する教官、会計士、研究者、物理的セキュリティやコンピュータの専門家、グラフィックデザイナー、作家や弁護士を含む個人的支援高度専門家グループ(Support Personnel:約2,000人)からなる。
 なお、USSSは2008年から5年間の戦略計画United States Secret Service Strategic Plan-FY2008-FY2013”を公表している。写真入りで分かりやすく説明されている。関係者や興味のある方は是非読まれたい。

(筆者注7) IC3の2007年報告にあって2008年版にないものに「投資詐欺(Investment Fraud)」がある(付属資料2の「詐欺にあわないための留意事項」では盛り込まれているが)。犯罪統計の連続性や被害規模からいっても無視し得ない重大犯罪であると考えるが、IC3に確認する時間的余裕がないので機会を改める。ただし、2009年3月31日にフロリダ連邦地方裁判所は投資詐欺(Ponzi aschemeの由来についてはWikipedia参照)の犯人であるマニュー・オガル(44歳)に対し禁錮10年に加え、損害賠償金12,744.349.50ドル(約12億4,900万円)および3年の監視付き釈放(supervised release)判決を下している。

〔参照URL〕
http://www.nw3c.org/downloads/2008_IC3_Annual%20Report_3_27_09_small.pdf
http://www.fincen.gov/news_room/rp/files/mortgage_fraud.pdf

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