事業承継
事業承継とは、会社の事業を後継者に引き継ぐことですが、中小企業においては経営者の後継者不足や高齢化などにより、それが進んでいないのが実情です。国の経済を支える中小企業を存続させ、さらに発展させていくためにも、経営者には事業承継の意義やその仕組みへの理解、また、遅すぎるとなる前により早い段階で対策を講じることが求められています。
「事業承継」とは
事業承継とは、一般的に、閉鎖を予定する会社や同族会社のオーナー社長が、親族や従業員に、あるいは、M&Aの相手先に事業を承継、譲渡させることを言います。
事業承継は、単なる相続の問題ではなく、会社の存続に係わる極めて重大な経営課題であり、慎重に検討したうえで進めていく必要があります。
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事業継承の現状
中小企業では後継者の不在、また、その結果による経営者の高齢化が進行していることにより、事業の承継を行うことができず、維持、伝承されるべき雇用や技術などが途絶えてしまうという重大な危機に直面しています。
中小企業における後継者の問題と、経営者の高齢化の状況について分析していきます。
後継者の確保が困難
かつては比較的容易であった後継者の確保が、昨今においては少子化などの影響もあって、そもそも子供がない、いても事業に関心を示さないなどの理由で難しい状況となっています。また、子供に対する職業選択の気遣いなどもあり、事業の承継を無理強いしていないというケースも増加しています。
中小企業の後継者不足の現状についてですが、下記、図表1によると、ほぼすべての売上規模の企業が前回の調査時よりも後継者不在率を上昇させていることがわかります。しかしながら、売上規模が1億円未満の企業にいたっては、78.2%もの高い数字を示しており、やはり、中小企業のほとんどがなんらかの後継者問題を抱えていることがわかります。
経営者の高齢化
中小企業の経営者は60歳代後半が最も多く、さらに高齢化が進んでいます。経営者の高齢化は、基本的には、先で述べた後継者不在問題が解消されないことによるものですが、後継者がいないために自身で事業を続けているという場合だけではなく、事業の将来性のなさを考えてこのまま自身の代で終わらせることを決断している場合もあります。
事業承継が進まなかった理由として、「将来の業績低迷が予測され、事業継続に消極的」というものが最も多く、「後継者を探したが、適当な人が見付からなかった」がそれに続くものとなっています。
つまり、単に後継者がいないために経営者としての地位を維持しているわけではないことがわかります。
このデータが意味するところは、中小企業の経営者はできるところまでは自身で事業を継続させるが、その後は廃業を考えているというものであり、政府においてもこのあと到来するであろう団塊の世代の引退時期に大きな懸念を抱いています。
事業継承の重要性
団塊の世代であろう中小企業の経営者は、年齢的にも引退時期を迎えようとしています。しかしながら、これまで述べたとおり、まだ引退を考えていない、あるいは考えられない経営者が多い状況となっています。
このまま事業を継続していくと会社の業績がどのようになっていくのかについては、社長の年齢が高くなるほど増収、増益である企業の割合は低下していくという結果が出ています。
どのような理由があるにせよ、このまま事業承継対策を行わない状態が続けば、上記、図表3のような業績悪化はもちろん、最悪の場合は廃業に追い込まれる可能性もあります。仮に経営者自身がそれを許容していたとしても、思わぬ負債を抱えてしまうことも考えられます。また、そのまま経営者が死亡してしまった場合にも遺産分割により、資産を集中できなかった会社は存続が危ぶまれます。
こうした事態を避けるためのものが事業承継であり、親族に承継しない場合においても、従業員や親族、また、取引先などのために適切な対策を講じることが求められています。
「事業譲渡」との違い
事業承継とは別に、事業譲渡というものがありますが、これは、会社の事業を後継者に引き継ぐというものではなく、事業の全部または一部を第三者に譲渡(売却)することを指します。例えば、複数の事業を行っている会社が、特定の事業だけ譲渡したい場合や対象会社に存在する債務を切り離すことを目的として選択される手法です。
後で説明するM&Aの一種になりますので、広い意味では、事業承継の手段のひとつであるとも言えます。
事業承継では、その会社が培ってきた様々な財産を後継者に承継することになりますが、その財産を大きく分けると、「人」、「資産」、「知的資産」の3つの要素に分類できます。
人の承継
まず、人についてですが、中小企業においては、以下で述べる「知的資産」におけるノウハウや取引関係との人脈などが経営者個人に集中していることが多いため、事業の円滑な運営や業績が経営者の資質に大きく左右される傾向にあります。人、つまり、経営者に集中している「経営権」の承継という意味になります。
資産の承継
株式、設備や不動産などの事業用資産などの「物」、運転資金や借入金など「金」のことです。会社保有の資産価値は自社株の評価となるため、事業承継でまず考えるべきは株式の承継になります。
知的資産の承継
経営理念、従業員の技術や技能、ノウハウ、経営者の信用、取引先との人脈などがこれに当たります。知的資産こそが会社の強み、価値であることから、この知的資産を承継することができなければ、その企業は競争力を失って事業の継続も難しくなります。
現経営者は、自社の強みや価値がどこにあるのかを理解し、これを後継者に承継していく必要があります。