大阪でも昆布が取れる 生産量維持、ポイントは「養殖」 消費地と産地ともに探る安定供給

2024年09月02日 10時54分30秒 | Weblog

江戸時代から昆布の一大消費地だった大阪でも、実は昆布の養殖が行われている。昆布の自生地は北海道周辺など北の海だが、養殖なら各地で生産できる。天然昆布が激減しているなか、昆布の生産量維持には養殖がポイントになる。大阪で好まれる真昆布(まこんぶ)の主産地、北海道函館市は、完全養殖の確立・拡大や生産者の育成に向けた取り組みを開始。ブランド名の普及も目指すなど再生に本腰を入れている。

大阪育ちも

6月初旬の早朝5時半。大阪府最南端・岬町の谷川港を出港した漁師の尾崎恭之(やすゆき)さん(66)が昆布の養殖場へ向かった。

ブイが浮いている養殖施設まで約10分。ワカメの養殖と兼用している。海中では、促成養殖(1年)の真昆布が揺らめいていた。

「今年はわりと出来がええよ。虫食いも少ない」。尾崎さんは海中のロープから昆布を切り離し、船上に引き揚げた。細長く小ぶりで、北海道の昆布と比べると大幅に小さい。

漁にかかる時間は短いが、そのあとの作業が長い。漁港へ戻ると船上で昆布を約170センチに切り、スポンジを使い海水で1枚ずつ丁寧に洗う。「このひと手間で仕上がりが変わる」という。

収穫した真昆布は洗浄した後、1枚ずつつるして干す=6月、大阪府岬町洗った昆布は、洗濯ばさみでつるして乾燥させる。しゃがんで立ってを繰り返す、少しつらい作業だ。

尾崎さんによると、地元の谷川漁業協同組合では、多いときで25軒ほどが昆布の養殖を手掛けていたが、現在は4軒のみ。高齢化の進行が影響しているという。

尾崎さんは「1人でたくさんの作業はできないし手間もかかるけど、待っていてくれるお客さんがいるからできる限り続けるよ」と笑顔を見せた。

生産量わずか30キロという尾崎さんの貴重な昆布をいただいた。歯応えが良く、やわらかく薄いので酢の物や煮物などによく合った。

小規模生産

大阪府立環境農林水産総合研究所の水産技術センター(岬町)によると、大阪南部の沿岸で、約40年前から、小規模の昆布養殖が取り組まれてきたという。

毎年1月に青森県栽培漁業振興協会から、養殖の種糸(種苗)を購入し、海水温がまだ低い5月下旬~6月中旬に収穫する。生産量が少ないため、ほとんどが地元で消費されているという。

岬町での昆布養殖は、しけが多く魚が取れない冬場の収入源として始まったとされる。漁の閑散期に昆布が育つのも好都合だったようだ。

細々とながら、一大消費地で行われている昆布養殖。新たに参入を検討する事業者も現れた。昆布のつくだ煮を製造・販売する「舞昆のこうはら」(大阪市住之江区)は、2050年までに大阪湾で真昆布の養殖を計画している。「将来的な展望で北海道と同等のものができるかもわからないが、量をカバーできれば」とする。

行政が本腰

函館市は国の交付金も受け、真昆布の完全養殖による安定生産や需要の拡大、担い手の育成などを目指したプロジェクトを令和4年から始めた。昆布の持続的な生産、消費に行政も本腰を入れようという試みだ。

その一環で6月末、函館市農林水産部の職員が大阪市を訪れ、昆布の流通業者らでつくる大阪昆布商工業協同組合のメンバーとの初の意見交換会が開かれた。

真昆布生産の課題を話し合った北海道函館市と大阪昆布商工業協同組合の意見交換会=6月、大阪市中央区同組合からは「天然でないとつくれない商品がある」「本当においしい真昆布の味が失われつつある」など、天然真昆布の回復や養殖昆布の品質向上を求める声などが上がった。

同組合は市に、気候変動にも対応できる完全養殖の確立▽若者の昆布産業への参画や情報発信などの取り組み-などを求める要望書を提出した。

名称普及へ

真昆布はほかの昆布に比べ、消費者への知名度は高くないとされる。函館市は、商品が「山だし昆布」や「白口浜真昆布」などさまざまな名称で流通してきたことも一因とみて「函館真昆布」のブランド名に統一し、浸透を図る。

函館の真昆布の歴史や生産過程、料理レシピや取扱店などをまとめたウェブサイト(https://makombu.marine-hakodate.jp/)を開設した。地元漁協の努力もあり、最近は、大手スーパーのプライベートブランドで「函館真昆布」と銘打つ商品も並ぶようになってきたという。

函館真昆布の総合ウェブサイト。歴史や生産過程などを紹介する同市は「(北海道日高地方産の)『日高昆布』も正しくはミツイシコンブだが、通称が抵抗なく受け入れられている。函館真昆布の名前も定着してくれれば」と期待を込める。

担い手確保を模索

函館市が昨年行った漁業就業実態調査では、市内5漁協の組合員数約1700人が10年後、半数まで減少することがわかった。市内最大規模の漁協である南かやべ漁業協同組合でも20年前から約3割減少。高齢化も進んでおり、令和4年度は60歳以上の組合員が53%、20代はわずか6%だった。

若者の担い手を増やそうと市は今夏「漁業就業体験」を企画。産地で約2週間、座学や現場研修を通して漁業での暮らしや仕事を知ってもらい、就業につなげようという初の試みだったが、応募者はなかった。

市水産課は「初めてのことで準備に手間取り、告知期間が足りなかった。来年以降も地道に周知していきたい」としている。若者に漁業の魅力を伝える力が求められている。(北村博子)  産経新聞

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 蔵に火をつけ、蔵と住宅を全... | トップ | 【新米概算金】主要産地で2~... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事