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日本航空再建問題の迷走(2009年9月15日から10月29日まで)

2009-11-15 15:37:03 | Economics
日本航空側再建案提示(2009年9月15日)から前原タスクフォース解散(2009年10月29日)までの議論の迷走について
Hiroshi Fukumitsu

日本航空の苦境と資金的逼迫
 日本航空は2009年3月末で約8000億円の有利子負債を抱え、資金調達に苦しんでいる(2001年の米同時テロ 2003年のSARS重症急性呼吸器症候群 燃料高騰など)。06年に公募増資で約1400億円、08年には優先株発行で約1500億円調達したものの09年6月末の自己資本比率は9%台に低下。
 09年6月末に政策投資銀行などと一部政府保証のついた1000億円の融資契約締結(国土交通省が再建を主導することを前提に600億円の危機対応融資 うち480億円は政府が保証)して一息ついた。
 とはいえ2009年8月7日に発表された2009年4-6月期の連結決算で過去最悪の990億円の最終赤字を記録(09年3月期決算で民営化後の初めての決算で約1300億円の最終赤字 2期連続の最終赤字が濃厚)。日本航空の赤字額は通期で2000億円規模に達しており、財務的にはすでに実質的破綻状態にあるとみられる。

日本航空が再建案提示 (2009年9月15日)
 2009年9月15日 日航(今年度内に2500億円の資金調達が必要だとされ、金融機関に1000億円の追加融資を要請中と報道されている)は、国土交通省の有識者会議(座長 杉山武彦一橋大学長)に再建計画素案を提示した。有識者会議は8月20日に続く2回目。
 国土交通省はおそらくは総選挙による政権交代があっても、この問題の判断は自民党政権と民主党政権で大きくは変わらない前提で決着を急いでいた。
 同日の会議で日航は赤字路線を内外すべてやめると表明。すなわち国内外16空港から完全撤退、50路線を廃止。グループ社員6800人を2011年度までに削減。営業経費を08年度に比べ3割削減するとした。しかし素案に対して金融機関側からは融資判断に耐えられないと厳しい指摘があった。
 なお航空連合スカイチームの米デルタからの出資の話が、この有識者会議当時あった。この出資受け入れを国土交通省は日航に勧めたとされる。日米航空交渉の妥結に、デルタの力が必要で国土交通省は日航を利用したとも指摘される。そもそも日航側は航空連合の乗り換えに消極的で現在のワンワールドの米アメリカンからの出資に期待したようだ。しかしこの出資は得られたとして数百億円で必要額に不足。これらの航空連合からの出資は日航の再建の議論にとって本筋のお話ではないと指摘されている。

前原国土交通相が有識者会議白紙化を発言(9月17日未明)
 9月17日未明 前原国土交通相が有識者会議を自民党政権下のものとして白紙化を発言して波紋を呼んだ。白紙化は、国土交通省の進め方に反発していた、日本航空、金融機関の双方にとって、歓迎すべきことだったのかもしれない。
 しかしこの問題の解決には、年金問題があり、その解決が容易でないことが、やがて見えくる。

 9月21日 主力行は新旧分離を要請していると報道された。これは採算路線など優良事業だけ引き継ぐ新勘定を分離。経営をスリム化、旧勘定は清算処理するもの。さらに公的資金投入のため特別立法で行い、民間金融機関の融資には政府保証求めるというもの。それを前提に返済繰り延べ、債務の株式化に応じるというもの。
新旧分離は不採算事業をかかえたままでは追加支援をしても、収益力は回復しないとの金融機関側の判断がある。
公的資金については日航の特別扱いへ疑問がでる

 9月22日 日航が廃止を検討している国際・国内線50路線の全容が明らかになる⇒路線廃止には地元との調整は難航も予想される

 9月24日 前原誠司国土交通相 西松社長と会談 西松氏は経営再建策(改正産業活力再生法による公的資金注入を要請)を説明 前原氏はその後、日本政策投資銀行など取引金融機関幹部と会談する。

 9月25日 前原誠司国土交通相が特別チームの設置を発表した。学者中心の有識者会議(座長に杉山武彦一橋大学長)を正式に白紙にした。特別チーム、すなわちタスクフォースは旧産業再生機構出身の高木新二郎氏、富山和彦氏ら5人。この実務に精通した専門家を日航に乗り込ませるとされた。
なお前原大臣は日本航空が破たんしているのに、現時点では法的整理を考えていないと繰り返し発言。政府の政策の選択肢を自らせばめてしまった。

 10月1日 日航は予定通り、整備子会社や空港子会社の統合を実施した。

タスクフォースが再建素案を公開(10月13日)
 10月13日に前原誠司国土交通省直属の再生タスクフォースの再建素案が発表された(銀行への説明が行われた。後述するように銀行側はさらなる支援要請に強く反発した)。その内容は自主再建を基調とするものだが、実際は政府の関与拡大を見越したもので以下のとおり。

 まず日航は2500億円規模の債務超過に陥っているとの認識を示した。これは実質債務超過にあり民間金融機関による新規貸し出しは不可能という意味。
 その上で
金融機関による
 債権放棄2500億円 債務の株式化300億円 などで3000億円の債務減額(債権放棄などで3000億円)
日航側は 
 1500億円規模の出資を含む最大4800億円の新規資本調達を10年3月末までに実施
 西松遥社長ら経営陣の退陣(10年1月末までに新たな経営体制に移行)
 退職者・現役社員ともに年金支給額半減で年金積み立て不足3300億円(細野祐二「まだある隠れた簿外債務 安易な救済は国民の負担大」『エコノミスト』2009年11月10日, 45-47は過大な割引率により積み立て不足が過少に計算されている可能性を指摘している。)を3分の1(1000億円)に⇒ OBの反発で合意取り付けは困難が予想される。しかしもしも日本航空社員の年金が公的資金で賄われることになれば、今度は国民の反発は必至である。
 人員削減3年で9000人⇒9000人~1万人への積み増し ⇒乗員を含む削減に労働組合の反発が予想される
事業再生ADRの活用
政策投資銀行による11月中の危機対応融資の実施
改正産業活力再生法に沿った危機対応出資
11月末をめどに再建計画を策定するというもの。
 ⇒銀行側は更なる支援に強く抵抗した。日本政策投資銀行 3メガバンク 本格的査定作業入り(09/10/14) 再建素案の3000億円のほかに追加融資が見込まれる。産業再生機構のもとで再建したダイエーに対する4400億円に迫る規模に金融機関の間にとまどいがあるとされる。

○タスクフォース内でも自主再建ではなく国の積極的介入が必要との認識が固まる(09/10/16)財務省と日本政策投資銀行は再建素案受け入れ困難と判断(09/10/17)タスクフォースと政府内で企業再生支援機構の活用案浮上(債務免除益が非課税になり、銀行側も機構が事業再生計画を認定すれば貸出金を正常先に格上げできる)。

○タスクフォース 日本政策投資銀行 3メガバンクと再建素案につき協議進める(09/10/18) 予定を早めて10月内に再建計画案策定することが明らかにされた。銀行団は新規の金融支援などに難色示したとされる。作業部会中核メンバーが11月1日をめどに日航入りで調整中であることがわかった。

10月20日 タスクフォースの修正素案が示された(公的資金含め3000億円の資本増強など)。素案 ⇒ 修正素案
 清算価値 最大で6000億円超の債務超過 金融支援で穴埋め 存続させれば債務超過額は2700億円程度に縮小。
 金融支援5500億円
  公的資金注入を含め資本増強 1500億円 ⇒ 3000億円
  金融機関による債権放棄   2500億円 ⇒ 2200億円
  債務の株式化         500億円 ⇒  300億円(主力4行)
 金融機関の融資3500億円
  つなぎ融資         1800億円 ⇒ 2000億円(11月中)⇒政府保証には特別扱いとの批判強い
シンジケートローン     1500億円 ⇒ 1500億円  
 リストラ(2014年度までに)
  45-50の不採算路線の整理 ⇔ 地元自治体・政治家が抵抗(これまでも日航は実行力なし 02年のJAS統合で不採算路線増える 組合も複雑さ増すなどの背景がある)
  小型化によるコスト削減
 (なお日本航空の経営スタイルはhub and spoke 小型機と大型機の組み合わせ。そのため機体の種類が増えて高コスト体質を生む。いま利益を出している航空会社はpoint-to-point といわれる新興勢力とされている。小型機で地方空港間を結ぶ。LCCとも呼ばれ機体の種類を絞り込み、経費を抑え低価格で顧客の支持を広げるのが特徴。なおLCCとはlow cost carrierのこと。以上の点は、日本国内についても、日本航空や全日空など大手航空会社が苦戦するなか、スカイマーク、エアドウ、スカイネットアジア、スターフライヤーなど新興航空会社が不況下で営業黒字(09/07-09)を計上したことでも確認される。機材の絞り込み、小さな本社機能、燃料の値下がり、旅客の価格志などが新興勢力に有利に働いているとみられる。)
  約290の子会社・関連会社半減
  約9000人(9月の日航案では6800人)の人員削減 ⇔ 労働組合が抵抗(これまでも日航に実行力がなかった問題がある)
 年金債務の削減(支給額半減とOBへの一時金一括払い 報道によればJALはの手厚い年金とは上乗せが月額25万ほど。合計額で月額48万ほど。年収が年金だけで580万ほどになるというもの。JAL-OBが年金死守に回ればJALを救済することなく倒産させるべきだという世論は間違い違いなく高まるだろう)。 
 年金積み立て不足(未認識債務)は現状3300億円 これを1000億円規模に縮小 ⇔ OBの反対抵抗で実現しない可能性があり実効性に不安があるものも政府は強く日航側に要請。日航側は抵抗している。受給者・待機者を含め対象は約9000人。実際は2-3割削減との見通しもある。3分の2以上の同意取れるか。
 銀行団による要請
  法的整理回避は合意
  しかし支援は今回が最後
  減資による株主責任明確化 ⇔ 株主の反対で実現しない可能性 株主総会で特別決議必要。可能か。
  つなぎ融資に対する政府保証
  空港使用料などの引下げ
  なお全日空との統合については全日空メーンの三井住友の抵抗があり実現がむつかしい。
 政府保証の仕方
  日本政策投資銀行による危機対応融資(原則8割までの政府保証)
  企業再生支援機構(資本金200億円 政府出資が100億円(当初50億円)でスタート。発足時50人程度(年末までに80人弱)。その後、100億円を130の金融機関から追加出資。資金枠1兆6000億円 政府保証の借入で業務 社長に西澤宏繁氏 人材や顧客など有用など有用な経営資源があるが、過大な債務を負った企業について、債務を減らし3年以内の経営再建を目指す。企業再生支援委員会委員長に瀬戸英雄氏) 出資 直接融資 銀行団との再建策の協議・調整 より踏み込んだ リストラ案 資産査定 ⇔ 一時検討された改正産業活力再生法(原則3年で企業価値向上を条件)から透明性の点で支援機構活用となったとされるが裏の事情(おそらく3年での再建は不能ということか?しかし再生支援機構も3年以内の支援完了を目指す)は伝わらない。反面、企業再生機構は発足後間がないの(2009年10月16日発足)で人員・出資枠(手持ち資金?)とも不十分との声も。

○前原国土交通相・藤井財務相のトップ会談もたれる(10月20日)⇒財務省側は、企業年金の積み立て不足額3300億円の穴埋めに税金が投入されるのでは、国民の納得が得られないなどとする。 

○首相官邸で首相も加わる政府最終調整でも調整できず(10月23日)⇒企業再生機構を枠組みとして使う案が浮上

○企業再生機構で再生計画仕切り直し、タスクフォースは解散へ(10月29日)
 金融機関(日本政策投資銀行 メガバンク3行) 関係省庁(国土交通省のほか財務省 厚生労働省)の調整つかず(財務省および金融機関がいずれも不同意)。
 日航の年金債務が焦点だが、年金の減額は財産権の侵害との批判もある。他面では法的整理に移行したときには年金受取が困難になる事態も考えられる。一部には法的整理の断行を主張する意見もある。
 日本航空が破綻状態にあることを明らかにしたことはタスクフォースの貢献だが、タスクフォース案にはもともと政府の介入拡大が想定されており、タスクフォース=自主再建、企業再生機構=政府の主導による再建という報道は、問題をわかりにくくしてはいないか。最終的に企業再生機構にバトンがわたったことで、国土交通省が打開の主導権をとれなかったこと、主導権が財務省に移ったことが読み取れる。事態は法的整理に向けて大きく動き出したといえよう。


政府が「日本航空の再建に向けての方策」発表(2009年11月10日)
 「方策」は、企業年金削減は不可避としたうえで(公的資金が年金支払いに充てられに、企業年金削減に関し法的措置を検討が冒頭に)、資金繰りについて新たな法的措置の検討を明言している。
 具体的には、政策投資銀行がつなぎ融資(適切な信用補完に関する予算および法的措置がとられるものと認識)。1000億円程度の資金枠を11月末までに設定。
3メガバンクが国際協力銀行の100%保証で250億円程度融資(機材更新資金)。
日本航空は事業再生ADRを申請して金融機関への支払いを停止へ。

日本航空OBが年金削減特別立法に反対を表明(2009年11月11日)
 日本航空の退職者でつくる「JAL年金改定について考える会」が、特別立法に反対する要望書を前原大臣宛てに提出した。しかしこれは、筋書きに乗ったと同然の動きであり、OBへの国民の同情は期待できない。OBが政治的に動けば動くほど国民の反発を引き出すだけだろう。
 制度設計上は、年金の減額は、厳しく制限されている。OBが抵抗を続ければ、日本航空は存続自体が否定されるところまで国民の議論はゆくだろう。日本航空という企業とその従業員に対して、同情的な国民が極めて少ないということにOBたちは早く気づくべきだ(この点で法的整理に消極的な前原大臣の世間とのズレも相当に大きい)。

09年4-9月期決算発表 事業ADR申請(2009年11月13日)
 この連結決算で日本航空は、過去最大の1312億円の最終赤字を計上。9月末の純資産は1592億円(3月末から375億円減少)。注記で「借入金の返済条項の履行に困難がある」ことを認める。
 また事業再生ADR(裁判外紛争解決制度)を申請。
 受理されれば、債権者に対して債権回収や担保設定の一時停止を要請できる。

originally appeared in Oct.22, 2009. corrected and reposted in Nov.15, 2009.

日本航空、会社更生法申請(2010年1月19日)へ
メインバンク制度の崩壊と事業再生ADR
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