私の研究日記(映画編)

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『人生は、奇跡の詩』(DVD)

2008-10-14 02:19:01 | さ行
監督 ロベルト・ベニーニ
脚本 ロベルト・ベニーニ
    ヴィンセンツォ・セラミ
出演者 ロベルト・ベニーニ
    ニコレッタ・ブラスキ
    ジャン・レノ

 自宅DVDにて鑑賞(2008年10月5日)

 『ライフ・イズ・ビューティフル』(以下、「前作」)のロベルト・ベニーニが監督、脚本、主演を手がける作品。また彼の妻ニコレッタ・ブラスキは、「前作」同様、この作品でもヒロインを務めている。

 物語の舞台は、2003年のローマ。主人公は大学教授で詩人のアッティリオ(ロベルト・ベニーニ)。彼はある女性に心を奪われている。女性の名前はヴィットリア(ニコレッタ・ブラスキ)。二人の間には二人の娘がいるが、アッティリオの浮気が原因で別居中。
 それでも、彼は、彼女との結婚式の夢を毎晩のように見てしまうほど、彼女にぞっこん(死語?)である。だが、ヴィットリアはそっけない。「ローマに雪が降って、その中で虎を見たら、一生あなたと暮らすわ」などとはぐらかされてしまう。
 ある日、そんな彼女が、遠い異国の地バグダッドで負傷し意識不明の重体であるとの連絡が入る。取材でバグダッドを訪れている間にイラク戦争が始まり、その犠牲となったのだ。愛する彼女を救うための、赤十字の医師団に紛れ込み、何とかイラクへ入国バグダッド入りしたアッティリオ。薬も設備もない病院で待っていたのは、余命数時間という危篤状態のヴィットリアだった。

【ネタばれ注意!!】
 本作を語る上では、どうしても「前作」に触れずにいられない。「前作」は、主人公グイド(ロベルト・ベニーニ)の命を懸けた「嘘」が息子の命を救うという物語。物語の最後に起こる「嘘から出た実」に、心底感動させられてしまう作品である。
 アッティリオのハイテンションな喋りと、ハチャメチャぶりはグイドそのものだし、ヴィットリアに対する彼の一途な愛は、ドーラに対するグイドの愛に似ている。主人公の愛が嘘を現実にするというストーリー展開も、「前作」と同じ。そういう意味で、「前作」を見ている人は、新鮮さの欠けた作品と感じるかもしれない。

 にもかかわらず、少なくとも私自身は、本作に引き込まれずにはいられなかった。
 まず、上手いなーと思ったのが導入場面。幻想的な古代遺跡を模した庭園での結婚式の場面である。下着姿のアッティリオが現れ「な、何だ?」と驚き、初っ端から物語へと引き込まれていく。

 また、サーカスでラクダに乗ったことがバグダッドで役立ったり、検問でのアメリカ兵とのやりとりがあったおかげでイタリアに帰国できたりと、物語の中の何気ないセリフや場面が、後の場面の重要な伏線になっているというのが、この作品の面白いところの一つとなっている。
 特に、それまで張り巡らされたいくつもの伏線が、まとめて結び付いていくラストは見事という他ない。娘の憎らしいボーイフレンドの話、アッティリオの小鳥の話、ヴィットリアが出した条件、強盗から取り返したネックレスは、全てこの場面のためにあったのかと、思わず膝を打ちたくなった。

 こうした物語の構成上の上手さもさることながら、愛する人への命懸けの献身という「前作」同様のテーマは、切なくやはり魅力的である。アッティリオはハイテンションな喋りで、ヴィットリアに一方的に愛を説き、彼女のそっけない態度にもめげず、彼女の行く所をついてまわるという、若干ストーカー気味の人物。だが、彼女を救うための、アッティリオの奔走は文字通り命懸けである。イラク戦争中のバグダッドは、強盗や爆撃、検問、地雷など至る所で危険が待ち構えている。「前作」がハッピーエンドとは言えない終わり方だっただけに、奔走する彼の様子は、まさに命懸けの綱渡りを見ているようで、必要以上に冷や冷やさせられた^^。

 何より、「前作」を見た私としては、どのような嘘からどのような実が飛び出すのか、期待せずにいられないかった。この作品は、そうした期待へもちゃんと答えてくれている。物語の最後にサーカスの火事が偶然生み出した嘘は、幻想的かつロマンチックで、思わず目頭が熱くなる場面でもある。

 逆に、難点を挙げると、いくつか分かりにくい点があったことである。まず、アッティリオとヴィットリアが夫婦関係にあるのか、それより緩やかなパートナー関係にあるのかが分からなかった。それに、フアド(ジャン・レノ)が自殺した理由も、結局のところ何だったのかが最後まで明らかにされていない。
 また、個人的な好みでいうと、タイトルは、邦題の『人生は、奇跡の詩』よりは、原題の「虎と雪」(La Tigre E La Neve/ The Tiger and The Snow)のままの方が良かったのではないだろうか。

 というように、悪い点も挙げることはできるが、総じていうなら素晴らしい映画であるといえるだろう。見た後の余韻がとても心地良かった。自信を持ってお薦めできる作品である。