介護を受ける人(要介護者)の状況に合わせて緻密な動きをするロボットが、相次いで開発されている。介護職の負担軽減や要介護者の自立支援が狙いだ。(安田武晴、高橋圭史)
抱えて移動/着替え手助け
実験中のRIBA2。床に寝た人を抱き上げ、スムーズに車いすに移す(名古屋市の理化学研究所で)
シロクマを思わせるロボットが、おじぎするように上体を傾ける。床に寝た人のひざと背中の下に両腕を差し込み、楽々と抱き上げて車いすに乗せた。
介護ロボット「RIBA2(リーバツー)」は、独立行政法人理化学研究所(名古屋市)と東海ゴム工業(愛知県小牧市)の共同研究グループが約4年かけて開発、今年6月に完成した。要介護者を抱えてベッドや車いす、トイレなどの間を移動させる。体重80キロまで対応できる。移乗介護で腰痛に悩む介護職の負担軽減が目的だ。
ロボットは身長1メートル37、体重230キロ。両腕と胸に埋め込まれたセンサーが要介護者の体重を感知。姿勢を判断して、腕の角度を調整することで、“抱かれ心地”をより良くする。
介護施設での実験に向け準備中で、研究グループの向井利春チームリーダーは「自動車くらいの値段を目指したい」と意気込む。東海ゴム工業で、2015年の商品化を目指している。
マネキンにTシャツを着せるロボット(奈良県生駒市の奈良先端科学技術大学院大学で)
奈良先端科学技術大学院大学の研究チームは10月、手足のまひなどがある人向けに、着替えを介助するロボットを開発した。
アルミニウム製の約1メートルのアームを2本搭載。研究室での実験段階だが、人があらかじめTシャツの袖を要介護者の両腕に通しておけば、アームがシャツを引っ張り、頭からかぶせるように着せてくれる。逆に、脱がせることもできる。マネキンでズボンの上げ下ろしにも成功した。要介護者の体格や姿勢に応じて、ロボットが動作を自動修正する。アームの先端が人体に触れた場合、パワーを制御するので安全という。
歩行補助も
HALを装着し、モニターを見る山田さん(横浜市の老健リハビリよこはまで)
要介護者の身体的な自立援助を目的とするロボットもある。筑波大が開発、サイバーダイン社(茨城県つくば市)が製造する歩行支援用ロボットスーツ「HAL(ハル)」は、足の骨格をイメージさせる。要介護者は、腰から両足の外側に、強化プラスチック製フレームを装着する。下半身につけたセンサーで、筋肉を動かそうとする時に出る微弱な電気信号を感知し、モーターの力で足の動きを補助する。国内の約120施設で導入されている。
老人保健施設「老健リハビリよこはま」(横浜市)でも今秋から、要介護者2人のリハビリでHALを試験的に使っている。脳出血の後遺症で右足などにまひが残る山田裕信さん(75)は週1回20分、HALを用いた歩行訓練を行う。
元々立った時に転倒しやすい姿勢になりがちだったが、「モニターで重心の位置が確認でき、バランスの取り方が良くなったと思う」と話す。ただ、着脱には人手が必要で、「多数の高齢者に用いるのは現状では難しい」との指摘もある。
普及へ課題
同施設の試験導入は、社団法人「かながわ福祉サービス振興会」が今年度、17施設で介護ロボットの有効性や実用化に向けた課題を検討する事業の一環だ。
実用例はまだ一部だが、普及すれば、現場の人手不足解消や介護の負担軽減のほか、産業振興も期待できる。だが、同振興会が昨年、介護施設職員約460人から回答を得た調査では、導入を阻む要因として、約半数が「事故が気になる」、約3分の1が「費用対効果が不明」を挙げた。
関口史郎・同振興会介護ロボット推進室長は「開発者の発想は画期的でも、実用的でない場合もある。介護現場の目線で課題を検討することが必要だ」と話す。
(2011年12月27日 読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=52335
抱えて移動/着替え手助け
実験中のRIBA2。床に寝た人を抱き上げ、スムーズに車いすに移す(名古屋市の理化学研究所で)
シロクマを思わせるロボットが、おじぎするように上体を傾ける。床に寝た人のひざと背中の下に両腕を差し込み、楽々と抱き上げて車いすに乗せた。
介護ロボット「RIBA2(リーバツー)」は、独立行政法人理化学研究所(名古屋市)と東海ゴム工業(愛知県小牧市)の共同研究グループが約4年かけて開発、今年6月に完成した。要介護者を抱えてベッドや車いす、トイレなどの間を移動させる。体重80キロまで対応できる。移乗介護で腰痛に悩む介護職の負担軽減が目的だ。
ロボットは身長1メートル37、体重230キロ。両腕と胸に埋め込まれたセンサーが要介護者の体重を感知。姿勢を判断して、腕の角度を調整することで、“抱かれ心地”をより良くする。
介護施設での実験に向け準備中で、研究グループの向井利春チームリーダーは「自動車くらいの値段を目指したい」と意気込む。東海ゴム工業で、2015年の商品化を目指している。
マネキンにTシャツを着せるロボット(奈良県生駒市の奈良先端科学技術大学院大学で)
奈良先端科学技術大学院大学の研究チームは10月、手足のまひなどがある人向けに、着替えを介助するロボットを開発した。
アルミニウム製の約1メートルのアームを2本搭載。研究室での実験段階だが、人があらかじめTシャツの袖を要介護者の両腕に通しておけば、アームがシャツを引っ張り、頭からかぶせるように着せてくれる。逆に、脱がせることもできる。マネキンでズボンの上げ下ろしにも成功した。要介護者の体格や姿勢に応じて、ロボットが動作を自動修正する。アームの先端が人体に触れた場合、パワーを制御するので安全という。
歩行補助も
HALを装着し、モニターを見る山田さん(横浜市の老健リハビリよこはまで)
要介護者の身体的な自立援助を目的とするロボットもある。筑波大が開発、サイバーダイン社(茨城県つくば市)が製造する歩行支援用ロボットスーツ「HAL(ハル)」は、足の骨格をイメージさせる。要介護者は、腰から両足の外側に、強化プラスチック製フレームを装着する。下半身につけたセンサーで、筋肉を動かそうとする時に出る微弱な電気信号を感知し、モーターの力で足の動きを補助する。国内の約120施設で導入されている。
老人保健施設「老健リハビリよこはま」(横浜市)でも今秋から、要介護者2人のリハビリでHALを試験的に使っている。脳出血の後遺症で右足などにまひが残る山田裕信さん(75)は週1回20分、HALを用いた歩行訓練を行う。
元々立った時に転倒しやすい姿勢になりがちだったが、「モニターで重心の位置が確認でき、バランスの取り方が良くなったと思う」と話す。ただ、着脱には人手が必要で、「多数の高齢者に用いるのは現状では難しい」との指摘もある。
普及へ課題
同施設の試験導入は、社団法人「かながわ福祉サービス振興会」が今年度、17施設で介護ロボットの有効性や実用化に向けた課題を検討する事業の一環だ。
実用例はまだ一部だが、普及すれば、現場の人手不足解消や介護の負担軽減のほか、産業振興も期待できる。だが、同振興会が昨年、介護施設職員約460人から回答を得た調査では、導入を阻む要因として、約半数が「事故が気になる」、約3分の1が「費用対効果が不明」を挙げた。
関口史郎・同振興会介護ロボット推進室長は「開発者の発想は画期的でも、実用的でない場合もある。介護現場の目線で課題を検討することが必要だ」と話す。
(2011年12月27日 読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=52335