最初の一週間は、あっという間に過ぎて行った。
主任になった先輩・大沢さんとは、挨拶を交わした程度で仕事ではそこまで関わらなかったから。
営業の仕事で、組んでいる人もいたし。
でも、その組んでる人に言われてしまった。
「松丘さん、主任になんかよそよそしくない?新人の頃は主任が指導してたって聞いたよ」
「…先輩…いえ、大沢さんも主任になったことですし、いつまでも新人気分じゃいけないと思いまして」
「そうか。ごめん、よそよそしいなんて言って」
「いえ」
よそよそしいか…
だって、どんな顔をしたらいいか、どんな話をしたらいいか、分からないんだもの。
だから、一言か二言であっさり、簡単になってしまう。
それが、人からはよそよそしく見えてしまうのだろうか。
翌週、月曜日。
昼休みにコーヒーを飲もうと給湯室に行くと、彼が一人でいるのが見えた。
どうしよう…ここで二人きりになるのは、嫌だ。
躊躇していると、彼が出てきた。
私を見て一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐ笑顔になる。
「お疲れさま。コーヒー飲むの?」
「あ、はい。お疲れさまです…」
「じゃ、お先に」
…行ってしまった。
何、あの笑顔。
ズルいよ、あんな素敵な笑顔見せられたら、また…
私は、強張ってる自分の頬を手のひらで叩いた。
しっかりしろ、自分。
惑わされないで仕事しなくちゃ。
それに、彼は私の自分勝手な告白を、やんわり断っただけ。
今だって、普通に接してくれた。
私ばっかり、つらい、って思うのは止めにしなくちゃ。
週末が過ぎて、彼が戻ってきて三週目。
ようやく、挙動不審にならなくなった頃に、遅れていた彼の歓迎会があった。
全体に仕事が立て込んでいて、なかなか出来なかったのだ。
課全体での歓迎会。
人数も多いし彼は主役。
皆が彼を囲む中で近くで話すなんて、出来るわけがない。
でも、あちこちで皆と改めて挨拶を交わしているのは、どこからでも見えた。
ほんの一瞬だけれど、私の前にも来てくれて。
「もう、教えることなんて何もないんだね。また、よろしくお願いします」と言ってくれた。
そこには、3年前と少しも変わらない彼がいた。
写真じゃない、生きて動いてる。
私の好きな笑顔をまた近くで見られた。
それだけで、思わず私も笑顔になっていた。
彼の目を見たとき、眼鏡の奥の彼の目が少しだけ見開かれた気がした。
思い出した。
どうして、彼を目で追うようになったのか。
誰かと笑い合う横顔。
目を細めてじっと見つめるくせ。
眼鏡の奥の穏やかな眼差し。
そんな彼を、もっともっと見ていたくなったから。
好きになった、から。
3年かけて、彼への気持ちを遠ざけた。
もう、忘れられた。
そう思ってたのに。
彼が戻って3週間。
今また、好きの気持ちが私の中にいっぱいになってる。
忘れるのに3年で、戻ってくるのは3週間…
ジタバタしていた3年は、いったいなんだったんだろう。
…もう、しようがない。
遠ざけた好きの気持ちを、手繰り寄せちゃったんだもの。
きっとまた、自分の気持ちに振り回される。
好きになって欲しいと欲張りになる。
ただ繋がっていたいと願った3年前。
彼が戻って来たことで、好きだとちゃんと自覚出来たこと。
たぶんそれが、3年の意味なんだ。
主任になった先輩・大沢さんとは、挨拶を交わした程度で仕事ではそこまで関わらなかったから。
営業の仕事で、組んでいる人もいたし。
でも、その組んでる人に言われてしまった。
「松丘さん、主任になんかよそよそしくない?新人の頃は主任が指導してたって聞いたよ」
「…先輩…いえ、大沢さんも主任になったことですし、いつまでも新人気分じゃいけないと思いまして」
「そうか。ごめん、よそよそしいなんて言って」
「いえ」
よそよそしいか…
だって、どんな顔をしたらいいか、どんな話をしたらいいか、分からないんだもの。
だから、一言か二言であっさり、簡単になってしまう。
それが、人からはよそよそしく見えてしまうのだろうか。
翌週、月曜日。
昼休みにコーヒーを飲もうと給湯室に行くと、彼が一人でいるのが見えた。
どうしよう…ここで二人きりになるのは、嫌だ。
躊躇していると、彼が出てきた。
私を見て一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐ笑顔になる。
「お疲れさま。コーヒー飲むの?」
「あ、はい。お疲れさまです…」
「じゃ、お先に」
…行ってしまった。
何、あの笑顔。
ズルいよ、あんな素敵な笑顔見せられたら、また…
私は、強張ってる自分の頬を手のひらで叩いた。
しっかりしろ、自分。
惑わされないで仕事しなくちゃ。
それに、彼は私の自分勝手な告白を、やんわり断っただけ。
今だって、普通に接してくれた。
私ばっかり、つらい、って思うのは止めにしなくちゃ。
週末が過ぎて、彼が戻ってきて三週目。
ようやく、挙動不審にならなくなった頃に、遅れていた彼の歓迎会があった。
全体に仕事が立て込んでいて、なかなか出来なかったのだ。
課全体での歓迎会。
人数も多いし彼は主役。
皆が彼を囲む中で近くで話すなんて、出来るわけがない。
でも、あちこちで皆と改めて挨拶を交わしているのは、どこからでも見えた。
ほんの一瞬だけれど、私の前にも来てくれて。
「もう、教えることなんて何もないんだね。また、よろしくお願いします」と言ってくれた。
そこには、3年前と少しも変わらない彼がいた。
写真じゃない、生きて動いてる。
私の好きな笑顔をまた近くで見られた。
それだけで、思わず私も笑顔になっていた。
彼の目を見たとき、眼鏡の奥の彼の目が少しだけ見開かれた気がした。
思い出した。
どうして、彼を目で追うようになったのか。
誰かと笑い合う横顔。
目を細めてじっと見つめるくせ。
眼鏡の奥の穏やかな眼差し。
そんな彼を、もっともっと見ていたくなったから。
好きになった、から。
3年かけて、彼への気持ちを遠ざけた。
もう、忘れられた。
そう思ってたのに。
彼が戻って3週間。
今また、好きの気持ちが私の中にいっぱいになってる。
忘れるのに3年で、戻ってくるのは3週間…
ジタバタしていた3年は、いったいなんだったんだろう。
…もう、しようがない。
遠ざけた好きの気持ちを、手繰り寄せちゃったんだもの。
きっとまた、自分の気持ちに振り回される。
好きになって欲しいと欲張りになる。
ただ繋がっていたいと願った3年前。
彼が戻って来たことで、好きだとちゃんと自覚出来たこと。
たぶんそれが、3年の意味なんだ。