かまわぬ

成田屋贔屓が「思いつくまま」の落書き。

歌舞伎用語あれこれ 2

2005-02-26 12:51:43 | 伝統芸能
差し金(さしがね)
黒塗りの棒の先に小動物などをつけ、後見が動かす時に使う棒をいう。「鏡獅子」「保名」の蝶や「先代萩」の雀、「本朝二十四孝」の兜など。

地絣(じがすり)
舞台の床に敷く布、地面を表す灰色または褐色の布を用いる。

時代物(じだいもの)
描かれている世界の題材や、人物の設定が「江戸時代以前のもの」。題材が鎌倉、室町またはそれ以前のもので、登場人物もその時代の人間。

七三(しちさん)
花道のうち、舞台へ三分、揚幕へ七分の距離の個処をいう。登退場の役者が、ここで見得・思いいれなどの演技を見せる。

しゃぎり(シャギリ)
閉幕をしらせるお囃子。太鼓・大太鼓・能管によって打ち囃される。

定式幕(じょうしきまく)
柿色(渋い赤)、萌黄(緑)、黒の3色縦縞の幕で、歌舞伎劇場の独特のもので、この幕を左(上手)から右(下手)引き開けて舞台が始まる。

実悪(じつあく)
「国崩し」(くにくずし)といわれるように、天下や御家を狙う大悪人。仁木弾正・明智光秀・秋月大膳のような、白塗りに立派な目鼻立ち、堂々たる貫禄をそなえ、悪の元凶にふさわしい風姿・芸格の大きさがもとめられる役どころ。

実事(じつごと)
善悪の葛藤の渦巻く世界で、悪の専横を、正義の方に立って耐え、しかも分別を備え、やがて力強く立ち上がる。「実悪」と対比し、それに上回る芸格を求められる役。その局面から、和実(わじつ)・辛抱立役・捌き役などに分化していく。

十八番(じゅうはちばん)
七世團十郎が天保11年(1840)に先祖の得意とした荒事のうち、十八番を選定し、命名したもの。歌舞伎以外でも、得意にする技芸を「十八番」(おはこ)と呼ぶ。

白浪物(しらなみもの)
白浪とは盗賊の異名で、中国の故事からきている。

所作事(しょさごと)
所作とは、動作、身のこなし、といった意味をもつ。そこから、歌舞伎では舞踊、あるいは舞踊劇を所作事という。また所作事には、必ず所作舞台というものを使う。これは普通の舞台(平舞台)の上全面にひのきの台を並べたもので、そのひのきの台一枚ずつを所作台という。

性根(しょうね)
こころね。役の性根をつかむことが大事。「型」という表面的なことと同時に役の持つこころをつかみとることが求められる。
スッポン(すっぽん)
花道の七三に、役者の出現。引っ込みのための「セリ」の機構が設けられている。登場する役者の姿が鼈(すっぽん)が頭を出すのに似ているため、この名称ができた。「将門」の滝夜叉、「床下」の仁木、「吉野山」の忠信など。妖力をもつ人物の出入りに用いられる。

世話物(せわもの)
描かれている世界の題材や、人物の設定が「江戸時代のもの」で江戸時代の観客には現代劇だった。

千両役者(せんりょうやくしゃ)
江戸時代、一年契約の給金が千両の高額に達した者を千両役者といった。

千穐楽(せんしゅうらく)
興行の最後の日のこと。千秋楽とも書く。略して「楽」、「楽日」(らくび)とも。

そそり(そそり)
語源的には「誘い出す」「浮かれさせる」の意味で、芝居の前夜祭とか「楽日」に、女形が敵役になったり、下回りが主役になったり、「楽屋落ち」を劇中に盛り込むなど、「無礼講」のような滑稽な演出をする。

立役(たちやく)
女形に対する男性に役の総称、また男の役を専門にする俳優の総称。

立女形(たておやま)
一座の中で最高位にある女形をいう。

丹前(たんぜん)
江戸初期、堀丹後守の屋敷の門前の風呂に湯女に伊達男が多数通った。その人目を引く風俗や歩き振りを「丹前風」と呼び、それを舞台の「歩く芸」としてとりいれたもの。花道を登場する際の出端(では)の演技などが丹前である。「鞘当」の不破・名古屋など。

だんまり(だんまり)
暗闇という設定でおお税の人が手探りで、あちこちと動き回る。パントマイム。

宙乗り(ちゅうのり)
役者の身体を宙に吊り上げ、空中を移動させる演出技法。猿之助お得意のスペクタクル。

チョボ(ちょぼ)
でんでん物(義太夫狂言)で、舞台上手に上部にある床で、役者の演技に合わせて描写浄瑠璃を演奏する。床本(浄瑠璃)の、節覚えの墨点(チョボ)からきたのか。竹本とも言われる。

つけ(ツケ)
立ち回りや見得・走る時・物を落した音など演技を際立たせるために、舞台の上手で四角い板に拍子木で打つ打ち音を「ツケ」という。打つ人を「ツケ打ち」、板を「ツケ板」という。

つらね(つらね)
まとまった長ぜりふを言うこと。雄弁と耳心地よく力強く語る。内容はあまり気にせず、音楽のような気分で聞くセリフ。

出語り(でがたり)
歌舞伎や舞踊で、舞台の上手か下手で、浄瑠璃連中が、観客に姿を見せて演奏する。

遠見(とうみ)
背景に使われる書割のうち、とくに遠景を画いたもの。また遠くに登場する人物をあらわすため、その人物と同じ扮装した子役を登場させるのを「遠見の子役」という。

常磐津(ときわず)
江戸浄瑠璃の宮古路文字太夫が、延享年間(18世紀)に創流。語り物を重視しながら、艶やかな趣を特徴とした語りをみせる。

緞帳(どんちょう)
豪華な織りや刺繍で目を楽しませてくれる幕。江戸時代には、大芝居は引き幕だけで、引き幕を使えない小芝居が緞帳を用いたため、「緞帳芝居」と賤しめられた。

とんぼ(とんぼ)
歌舞伎における立ち回りの技の一種。主役から投げられたり、切られた時に宙返りする動作。

長唄(ながうた)
元禄期、小唄を集め、アレンジして「長唄」と称した。歌舞伎とともに発展変化して、所作事の唄物、めりやす、大薩摩、下座音楽など、多彩な三味線音楽となる。

奈落(ならく)
向こう揚幕や花道スッポンを使うとき、楽屋の役者は舞台の下から揚幕へ通じる花道下の通路を使う。この暗がりの部分を「奈落」と呼んだ。仏教用語の「地獄=奈落」をあてたのは歌舞伎人の戯れ心であろうか。

生締(なまじめ)
油で棒状に固めた髷(まげ)で時代物の武士の役に使われる。

肉襦袢(にくじばん)
刺青(いれずみ)の肉襦袢は「弁天小僧」、荒事は「梅王の手足」、力士の綿入れ肉は「め組の相撲」、女性は「一の家の老婆」など、役者が特異な肌をあらわにする特殊演出の時に用いる。「河内屋」という、専門の店で調達する。

仁(にん)
「仁に合った」「仁じゃない」とか、役者が演じる役に合っているか、どうかを言うときに用いる。

人形振り(にんぎょうぶり)
義太夫狂言で、役者がある局面だけを人形浄瑠璃の木偶(でく)を真似て演じる、一種のけれん演技。「櫓のお七」「日高川」「金閣寺」などに見られる。

縫いぐるみ(ぬいぐるみ)
「床下」の鼠、「千里ヶ竹」の虎、「組討ち」の馬など、歌舞伎舞台で活躍する動物は、それぞれの色や模様の布で縫い上げ、下回りの役者が、全身にすっぽり着込んで演じる。演者は首のあたりの紗(しゃ)を張った窓から外を覗き、呼吸をして動きまわる。

暖簾口(のれんぐち)
屋台正面にある入り口に「わらび、流水」などの模様を染め抜いた暖簾(のれん)が下がっている。菅秀才の首を討った源蔵、八重が待ちかねる桜丸などの登場に、押し分けられる暖簾口が、その運命感を実に際立たせているのに気づく。

花道(はなみち)
正面に向かって舞台の左端近くから、舞台と同じ高さで、まっすぐに客席の後へ延びている細い道が花道。幅は五尺(約150cm)。花道は歌舞伎独特のもので、演者と観客との交流を容易にするのが目的。

八文字(はちもんじ)
花魁(おいらん)道中で花魁が茶屋と揚屋(あげや)の間を歩くとき、三枚歯の高い下駄をはいてあるく歩き方で爪先を外にまわすのが外八文字で内にまわすのが内八文字。

花四天(はなよてん)
華やかな所作ダテや、時代物の立ちまわりのとき、その様式にふさわしく、軍兵や捕り手が白地に赤の染め模様、裾の左右が割れた四天を着て、花枝や花槍を持ち、主役にからむ。この扮装、演者を「花四天」という。

引き抜き(ひきぬき)
衣裳を粗縫いした太い糸を抜き、舞台上で瞬時に衣裳を変える方法をいう。特に上部の衣装だけを引き抜いて、まったく変わったように見せるのを「ぶっかえり」という。

雛壇(ひなだん)
舞踊や舞踊劇のとき、音楽演奏者(長唄、文楽連中)が乗る台。緋毛氈(ひもうせん)を敷き、雛人形を飾る段に似ているので、この名がある。

老役(ふけやく)
穏健な性格で、若者たちの破綻(はたん)や焦慮(しょうりょ)を取りまとめていく老人の役。「鮓屋」の弥左衛門、「六段目」のお萱、「新口村」の孫右衛門などで、主役同様、重要な役を演じる。

太棹(ふとざお)
三味線は棹(さお)の太さによって、太・中・細に分けられ、独特の流派を形成する。太棹はもっとも大きく、重い音量を出して語りこむのに適しているので、義太夫節に用いられる。

ぽてちん(ぽてちん)
義太夫三味線の弾法をポテチンと弾き、口説きなどの身振りが最高潮に達した舞台の役者が、それに合わせ、一瞬身体をおこつかせ、美しく極まるという印象的な韻律演技をいう。

仏倒れ(ほとけだおれ)
前へばったりと倒れる荒業。義賢最後の場面が有名。

松羽目(まつばめ)
正面に大きく根付の老松を描いた鏡板のこと。歌舞伎では能や狂言に取材した舞踊劇や「勧進帳」などは背景に松羽目を使うため、松羽目物という。

回り舞台(まわりぶたい)
宝暦8年(1758)並木正三が「独楽廻し」から思いつき、本舞台の上に芯棒つきの丸舞台を二重に載せて、舞台両面に飾った道具転換を、芯棒を廻して見せたのが始まり。

見顕し(みあらわし)
隠していた身分や本性を見せること。

見得(みえ)
美しく見せる為に、俳優の演技がきまった瞬間、固定させる型をいう。映画、テレビのストップモーションに似ている。「絵面の見得」「元禄見得」「石投げの見得」「不動の見得」など多数。荒事で見得をきるとき、役者の目にご注目。一歩の目は上を見、他方の目は下を見るといいう、いわゆる「天地眼」という目をする。相当の訓練が必要。

見立て(みたて)
観客がよく知っている形に見立てる。「曽我の対面」の最後に登場人物が「富士山」の形に見立てて見得をして、おめでたさを演出する。

もどり(もどり)
はじめは極悪人と思われていた者が、いまはの際に、実は善人であったことが解き明かされる。その演出や演技をいう。「鮨屋」の権太、「合邦」の玉手、「寺子屋」の松王など。

紋(もん)
市川家の「三升」(みます)、尾上家の「重ね扇」など、役者の家の紋は、それぞれの芸人としての来歴があり、なくてはならぬものである。

厄払い(やくはらい)
節分の夜、「御厄払いましょう」と、門口を訪れる「門付芸人」(かどつきげいにん)の口立てそのままに、幕末の作者・黙阿弥(もくあみ)は、七五調の台詞を多く用いたが、「三人吉三」の川端の場のお嬢吉三の「月も朧(おぼろ)に白魚の‥」のとき、「御厄払いましょう、厄落とし」の声を入れ、「ほんに、今夜は節分か‥」と受けての台詞は、鸚鵡石にも欠かせない台詞になっている。

櫓(やぐら)
劇場表正面の屋根の上に、劇場の定紋を染抜いた幕を覆ったもので、歌舞伎劇場が興行をおこなうことの象徴。

屋号(やごう)
役者の家にちなんでつけられた号のこと。仁左衛門の松嶋屋、菊五郎の音羽屋、團十郎の成田屋など。

やつし事(やつしごと)
「やつす」とは、もともと「貧しい姿になる」という意味。和事でも、昔は上流の暮らしをしていた者が、卑しく貧しくなっても、なお品位と艶やかさを失わない姿を見せるところが性根とされている。
屋台崩し(やたいくずし)
舞台上に設けられた御殿や屋敷が、天変地異や妖異で、崩壊する舞台装置の仕掛け。『将門』など。

山台(やまだい)
清元や常盤津などの浄瑠璃の演奏者がのる台のことで、以前は山の絵が書かれていたことによりこの名がある。

梨園(りえん)
芝居の世界のこと。中国の唐の玄宗皇帝が、梨を植えた庭園で奏樂者の子弟を養成した故事から、江戸期の漢学者が、歌舞伎の世界を指して表した語。

六法(ろっぽう)
荒事から始まった歩き方。歩行の強さを誇張したもの。六方は、普通の人間の歩き方と異なリ、右足を出す時は右腕を、左足の時は左手をだして、踏ん張って、力強くどしんどしんと歩く。弁慶や鳴神上人が、花道を引っ込む細の「片手六法」、不破伴左の登場の「丹前六法」、千本桜の忠信の「狐六法」などがある。

和事(わごと)
坂田藤十郎が創始した芸で、写実で柔らか味のある演技および様式をいう。上方系の芸、『心中天網島』の治兵衛、『廓文章』の伊左衛門などが有名。文字通り、和らいだ芝居のこと。ある局面の、特定の演技、演出を「事」といい、「荒事」「傾城事」「和事」などという。和事は、やわらかさのなかに、色気、ユーモアを身上(しんじょう)とした役柄である。

渡り台詞(わたりぜりふ)
一つ一つの繋がった台詞を、いくつかに区切って、複数の人が順々に言っていく演出。

割り台詞(わりぜりふ)
二人の人物がそれぞれの台詞を一句ずつ口交互にしゃべる演出。

「歌舞伎の用語帳」を、ひとまず終わるが、まだまだ他にもたくさんの用語がある。機会を見て追加していきたいと思う。