かまわぬ

成田屋贔屓が「思いつくまま」の落書き。

歌舞伎用語あれこれ 1

2005-02-24 11:14:02 | 伝統芸能
歌舞伎は日本の伝統的古典芸能である。だから独特の言葉が少なくない。全部を知らないと歌舞伎が分からないというわけではない。でも、知っているにこしたこともない。

揚幕(あげまく)
能舞台では、鏡の間から橋掛りへの出入りにある。歌舞伎では、花道の奥にある幕や舞台上手のチョボ床(義太夫を語る場所)の下を揚幕と呼ぶ。揚幕にはその劇場の紋が染め抜かれているのが普通。揚幕の開閉は揚幕番と呼ばれる人間がやるが、この幕には鉄の輪で吊り下がっているため、開閉の度に「チャリン」と音が聞こえる。狂言によっては、音をさせないで開閉することもある。

浅黄幕(あさぎまく)
舞台前面に吊らされた薄い水色の幕。定式幕や緞帳の奥に吊って、上部から「振り被せ」(一瞬にしてふりかぶせ場面を隠す)たり、また「振り落とし」(瞬時に落として絵面を強調する)たりする。

荒事(あらごと)
初代市川團十郎(1660~1704)が作り上げた演技様式。顔や手足に紅・黒・青などの隈取りをして血管の浮き出た様を表し、装飾的な鬘(かづら)、厚綿衣装、小道具などを用い、動作、台詞とも非常に誇張された演出をしためっぽう強い武士や怪力乱神が登場し、魔術妖術入り乱れた大立ち回りを繰り広げる。江戸歌舞伎の特徴の一つでもある。

家の芸(いえのげい)
市川家の「歌舞伎十八番」、尾上家の「新古演劇十種」など、代表的な役者の家には、長い家系のなかで、それぞれ得意とする役柄を家の芸と定めている。

色悪(いろあく)
歌舞伎の役柄。敵役の一つ。表面は二枚目であるが、色事を演じながら、実は残酷な悪人で女を裏切る悪人の役。

板付(いたつき)
幕が開いた時、俳優がすでに舞台にいることをいう。板とは舞台の床板のこと。

受(うけ)
たとえば歌舞伎十八番「暫」の舞台正面に公家姿で座り、顔に青い隈をとった悪の張本人。主人公の演技の受け手と言う意味でウケという。


馬の足(うまのあし)
芝居の馬はつくり物の馬体を、前足と後ろ足とに入って担ぐ二人の下回りの役者が勤める。「組討」の、熊谷と敦盛を乗せる二頭の輪乗りは、鎧武者が背中に負った母衣(ほろ)を、舞台を引きずらぬよう飛ばしたり、海を泳いだり、その手際を見せるので、乗り手から「飼馬料」という祝儀がでるという。

絵看板(えかんばん)
その月に上演する狂言の登場人物を配した一場面を描き、劇場の正面に掲げてある看板絵で下から仰ぎ見るに適した独特の画風を鳥居派が完成させ、元禄から現在まで受け継がれている。

海老反り(えびぞり)
海老のように背中を反らせて見せる演技。女形の演技(特に舞踊)には、かなりの重労働である。

大薩摩(おおざつま)
享保期に大薩摩主膳太夫が創始した江戸浄瑠璃。荒事や時代だんまりを演じる前に、山台に並んだり、、あるいは浅黄幕の前で、唄い手は立身、弾き手は合引(木製の台)に片足をかけて三味線を弾く。これを出語りという。

鸚鵡石(おおむせき)
歌舞伎の名台詞を抜粋した冊子。伊勢の一の瀬川にある、鸚鵡石になぞらえて、こう命名されたとか。

大向う(おおむこう)
舞台から見た真正面(大向う)、つまり三階席や立見席の観客をいう。ここから役者に掛け声をかける常連も「大向う」と呼ばれている。

女形(おんながた)
女方とも書き、「おやま」とも読む。男が女を演じる。「おやま」の語源は、お山(遊女)で、初期歌舞伎の傾城買狂言のヒロインの名から出ている。老女役の「老女形」(ふけおやま)、一座最高の地位の女形うぃ「立女形」(たておやま)または「太夫」(たいう)という尊称がつく。

書割(かきわり)
大道具用語で、建物・風景などを描いた背景。

片はずし(かたはずし)
奥女中や武家女房の役に用いる鬘(かつら)。この鬘を使う役をいう。

型(かた)
広義では、演技・演出。ある劇内容の思想、感情、情緒を、独創的な演者が演じた典型的な表現・演技・演出・扮装などが次代に継承されていく。例えば九世團十郎の由良之助の型がある。

紙衣(かみこ)
本来は和紙で作った粗末な着物のこと。歌舞伎では紫か黒地に肩や袖に文字刷りの柄の布を継ぎ合せて、落ちぶれた姿を様式的に美化して用いる。助六が母からいただく紙衣は有名。

生世話(きぜわ)
歌舞伎の演目の一種である世話物の中でも特に写実的要素の濃いものをいう。

極付(きわめつけ)
他に比べるものの無いほど、定評があるという意味。

兼ねる(かねる)
役者の役柄の専門化(例えば、立役・女形・敵役など)は、厳格なものであるが、一方で役者が次第に多くの役柄を「兼ねて」演じることが少なくなくなった。六世菊五郎が、「揚巻」と「梅王丸」と「道玄」とを一興行で演じたことから「兼ねる役者」と評された。

上手・下手(かみて・しもて)
客席から見て、舞台右手を「上手」、左側を「下手」という。

柝(き)
芝居で打つ拍子木。歌舞伎の柝は、役者の到着を知らせる「着到止め」(ちゃくとうどめ)、開幕までの進行、幕の開閉、廻りや振り落としの合図、出語りや独吟のきっかけなど、進行を司る合図として打たれる。材料は樫(かし)、蒲鉾型に削る。約26センチ。

清元(きよもと)
文化11年(1814)、二代富本斎宮太夫が同じ豊後浄瑠璃(ぶんごじょうるり)の富本から分かれて創設。

切狂言(きりきょうげん)
「大喜利」(おおぎり)などともいう。幾つか並べた演目の、最後の幕を指して呼ぶが、初期歌舞伎のころ、本狂言の時代物に、添えものとして世話物を切狂言として附けたことに始まる。

髪梳き(かみすき)
恋しい男の髪を女が櫛(くし)で梳きあげる。歌舞伎のラブシーンの描き方の一つ。

口説(くぜつ)
相愛の男女が、痴話喧嘩(ちわげんか)を繰り広げるという、人情の機微(きび)を見せる一種の濡れ場。

口説き(くどき)
女性が日ごろ胸の奥に秘めていた想いを、夫や恋人に掻き口説く局面で、義太夫でもこの件(くだり)は、豊後や祭文(さいもん)などの他流派の曲調を取り入れ、艶麗な節付けをする。他流に「触る」ことから「さわり」と呼んでいる。また、くどくどと同じような節を繰り返して語る部分を「くどき」という。

隈取り(くまどり)
顔や手足に、紅・藍・黒・茶などの筋を入れる歌舞伎(荒事)独特の化粧法。初世團十郎が創作したもの。赤い隈取りは「正義」、藍色の隈は「邪悪」、茶色は「妖怪変化」などがある。

黒衣(くろご)
全身黒ずくめの衣装で、役者の介添えをする人。頭巾(ずきん)の前垂れは「紗」(しゃ)で、外が透けて見える。ときにはプロンプター(台詞をつける人)を務める。

化粧声(けしょうごえ)
荒事の主人公が、超人的な動きの間、舞台に居並ぶ端役たちが「アーリャーコーリャー」と唱和して、その武勇を囃し、終りに「デッケー」と締めくくる。「対面」「暫」で使われる。

外連(けれん)
意表をつく仕掛けや手法を用いてウケをねらう、見世物的要素の強い演出のこと。早替わりや宙乗り、仕掛物などスペクタクルな大衆的演出である。

後見(こうけん)
芝居や踊りの舞台で、演者のかげにいて演技の介添えする役。舞踊では黒紋付袴で着付後見、歌舞伎十八番などでは裃後見、芝居のなかでは「雪後見」「波後見」などもある。