江戸前ラノベ支店

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斬竜剣外伝・亡国の灯-第6回。

2015年11月15日 00時47分02秒 | 斬竜剣

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-元凶の在処(ありか)-

「はあっ!? 何言ってんの!? あんたが持ち込んだこの話の所為でもう何人も死んでいるのよ!?」
 最早、財宝を求めて城の探索だなんだと言っている場合ではない。一刻もはやくここから脱出しなければ、レクリオ達の命だっていつどうなるのか分からない状況だ。それにも関わらず、「脱出しない」というサエンのことが彼女には理解できなかった。
 そもそも、如何にサエンほどの実力があったとしても、全てのスケルトンを独りで相手していては、さすがにここまで生き残ることは難しかったはずである。彼はそれを知っていて、この探索の話を持ってきた可能性もある。
「もしかしてあんた、私達を囮にしたんじゃないのっ!?」
「いや、そりゃあ仲間がいる方が危険度は下がるだろうという打算はあったけれど……俺独りでもここには来るつもりだったぜ? 財宝の話だって別に嘘は言ってねぇ。生命を懸けるだけの価値があると思ったからお前らも話に乗ったんだろうし、危険を承知でここに来たはずだが? 別に文句を言われる筋合いは無ぇよな?」
「ぐっ……!」
 レクリオは言葉に詰まる。確かに危険と隣り合わせが常の冒険者は、いつ命を落としてもおかしくない。その上、この城に侵入した者が尽く未帰還であるという前情報もあった。それを承知の上で来たのだから、全ては自分自身の責任である。
 だがだからこそ、この状況での深入りは有り得ない。引き際の見極めは、冒険者としての重要な素養の1つだ。
「だけど、いくらなんでもこのまま進むのは危険でしょーが!」
「じやあ、おば……お姉さんだけ帰れば? 俺は独りででも進むけどな」
 それが出来たら苦労はしない──と、レクリオは頭を抱えた。そうこうしている間に、サエンはさっさと歩を進める。
「ちょ、ちょ、まっ!」
 慌ててレクリオはその後に続く。彼女独りの力ではスケルトンに対処できない以上、そうするしか他に術はなかった。
「でも、なんでそこまでして……」
 まだ生き急ぐような年齢でもなかろうに……と、レクリオは疑問に思う。
「俺の目的の為には、この城に眠る財宝がどうしても必要なんでな。それに決着をつけなきゃならない奴もいる……!」
「は? 決着? それって他にも誰か、この城にいるってこと?」
 そんなレクリオの疑問にサエンは答えない。しかし、よくよく考えてみれば、あれだけ膨大な数のスケルトンが自然発生したとは思えなかった。何処かにそれを操っている者がいるというのは、至極当然の帰結である。
「敵の親玉の懐に行くってこと!?」
 酷く焦ったレクリオの問いに、サエンはやはり答えない。しかし、その顔は不敵に笑っていた。
(どどどどどーすんのよ。これって更に危険な場所に行くってことだよね!? 死ぬよ? 今度こそ死ぬよ!?)
 だが、このまま独りで引き返しても多分死ぬ。それならば、まだサエンの強さに賭ける方がマシだろうか。レクリオは激しい葛藤を繰り返しながら彼の背を追い続け、そして手遅れとなった。
 サエンはとある扉の前で足を止める。人がくぐり抜けるだけにしてはあまりにも大きく、過剰なほどの装飾を施された扉だ。
「……ここ、何処なの? 宝物庫?」
「……いや、王の間だ」
「はあっ!?」
 レクリオ的には王の間になんか用は無い。そこにはおそらく財宝も、城から脱出する為の手立ても無いだろう。全く踏み入れるメリットが無い領域であった。その上げられた素っ頓狂な声も当然だと言える。
 むしろそこは、本来国の頂点に位置する者が君臨せし場所だ。ならば、今のこの死者の国に相応しい者が待ちかまえている可能性が高いのではないか。
 その存在との遭遇は、この城に入ってから最大限の危機が彼女達に降りかかるということを意味している。いや──、
「じゃあ、そこにいる奴を倒せば、あのスケルトンを無力化できるってこと!? 財宝も盗り放題!?」
「……まあそういうことになるな」
 この絶望的な状況からの一発逆転が狙える。その事実にレクリオは色めき立った。自分では敵わない相手でも、サエンほどの実力者ならばどうにかなるかもしれない。結果として城からの生還と、財宝の分け前が少しでも手にはいるのならば、これは相当に美味しい棚ぼたである。
 ここはサエンに自らの命を賭けてみるのも有りかもしれない。
 だが、サエンが王の間に繋がる扉を少し開けた瞬間、レクリオのそんな想いは吹き飛んだ。
「ひっ!?」
 扉の隙間から溢れ出た空気が、他とは明らかに違う。冷気ではないはずなのに、肌に突き刺さるような冷たさを感じるそれは、悪意や殺気と呼ぶべき物なのか、あるいはもっと悪い別の何かなのか──今までそれを経験したことが無いレクリオには何なのか分からなかったが、ともかく触れるだけでも身を蝕む毒の如き空気。
 その吹き溜まりを前にして、最早レクリオには王の間に踏み込もうなどという気持ちは消え去っていた。ここはサエンを独り残してでも引き返そう──と、彼女が踵(きびす)を返しかけたその時、今来た道の奥からスケルトンの群れが追ってくるのが見えた。先程までは別のフロアから追ってくる気配は無かったのに、城主へと接近する外敵へと一斉に反応したということだろうか。
「……あたし、死んだ」
 少なくとも、退路が完全に絶たれてしまったことは間違いない。
 恐怖のあまり、半笑いになりながらレクリオは涙した。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。