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-サエンという男-
それは冒険者達にこの廃都での探索話を持ち掛けてきた男であった。確か名はサエン・バンカーとかいったか。
そんなサエンは他所の土地からの流れ者であり、故にその素性や実力はレクリオに知る由も無かったが、まさかこれほどの物だとは思っていなかった。いや、誰であろうとも、こんなデタラメな力を持っているなんてことを想像できる訳がない。
事実、サエンとの圧倒的な実力差を前にしては数の差は全く無意味であり、スケルトンの集団はあっという間に壊滅してしまった。熟練の冒険者が10人前後でようやく対応できるような数だったことを考えれば、完全に規格外の強さである。
「すご……」
「!」
思わず漏らしたレクリオの感嘆の声に反応したサエンは、剣の切っ先を彼女の方に向ける。
「ひいっ!? ちょ、ちょ、あたし、あたし!」
レクリオは慌てて物陰から姿を現した。だが、サエンはまだ警戒を解かない。
「……ゴースト(亡霊)に知り合いはいないが?」
そんな彼の言葉の意味を、レクリオはすぐに飲み込むことができなかった。が、自身が姿を消す術を使用中であることに思い当たり、慌ててそれを解除する。
「あ、あたしだって」
「ん? ……ああ、一緒に来たちびっ子か」
「はあっ!? ちびっ子じゃねーよ! ちゃんと成人している立派な大人の女性なんだぞ!」
サエンに子供扱いされてレクリオは激昂した。普段から冒険者仲間にその容姿の幼さを弄られている彼女ではあるが、殆ど付き合いのない他人同然のサエンにまで遠慮無く言われると、余計に腹が立つ。
だが、サエンはレクリオの反論を受けてもなお、疑わしげな視線彼女へと向け続けている。まあ、身体的な成長が緩慢なエルフ族ならばともかく、ハーフとは言えエルフらしからぬ容貌のレクリオに「成人」と言われても信じられないのは無理もない。
そこでレクリオは、唯一大人の女性らしく見えると自負するそこそこ豊かな胸を張って、自らに対する子供疑惑を強く否定する。
「ホントだぞ、これでも歴とした33歳なんだから!」
「……それが本当ならオバサンじゃん」
「あぁんっ!?」
聞き捨てならない言葉にレクリオの相貌が鋭く釣り上がる。子供扱いしたかと思えば今度はオバサン扱いとは、何処までも失礼な奴だ。
「貴様、今全ての三十路(みそじ)女を敵に回したぞ、コラ……!」
レクリオは右の拳をサエンの顎にグリグリと押しつけながら彼を睨め上げた。本当は殴りたいところだが、本気で喧嘩になったら分が悪いのは、先程のサエンの戦闘からも明らかである。そのことを考慮した彼女はギリギリの所で自重して、結局は手を出してしまっている。
だが、サエンは鬱陶しそうな表情をしながらも、割となすがままにレクリオの拳を受け入れていた。
「……でも、自分の倍の年齢なんて、オバサンとしか思えないだろ?」
「は?」
今、「倍の年齢」と言ったか?と、レクリオはサエンの信じ難い言葉に硬直した。彼女の目から見て、サエンは20代後半の男性──つまり同年代にしか思えない容貌をしていた。しかし、
「あんた……何歳なのよ……?」
「17だが?」
「ガキじゃん!?」
「うるせーよ……」
サエンの口から衝撃的な数字が出てきて、レクリオは驚愕する。そして同時に納得もした。
(う~ん、子供じゃ目上に対する口の利き方を知らなくても仕方がない……かぁ?)
そう思うと彼に対して少し優しい気持ちになることが出来た。幼さからくる無知が故の無礼を許すのも、大人の余裕ある態度ではなかろうか、と──。
しかしその一方で、サエンの超絶的な戦闘能力は、子供の範疇を大幅に超える物だ。その年齢に似つかわしくないアンバランスな在り方は、不自然だと言ってもいい。だからレクリオは、サエンに対しての警戒心を解くことができなかった。
だが、彼はこの城から脱出する為には貴重な戦力となる。この大ハズレな仕事を持ってきたというそもそもの元凶ではあるが、ここはそれに目を瞑り味方に付けた方が得策であった。
幸い相手が大幅に年下なのだから、主導権を握ることだって不可能ではない。
「……まあ、そういうことなら、このお姉さんの指示に従うといいよ? そうすれば、この城から無事に脱出することが出来るはずだから」
ところが、サエンから帰ってきた言葉は、
「脱出するつもりなんて無いが?」
レクリオの淡い期待を打ち砕くものであった。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
-サエンという男-
それは冒険者達にこの廃都での探索話を持ち掛けてきた男であった。確か名はサエン・バンカーとかいったか。
そんなサエンは他所の土地からの流れ者であり、故にその素性や実力はレクリオに知る由も無かったが、まさかこれほどの物だとは思っていなかった。いや、誰であろうとも、こんなデタラメな力を持っているなんてことを想像できる訳がない。
事実、サエンとの圧倒的な実力差を前にしては数の差は全く無意味であり、スケルトンの集団はあっという間に壊滅してしまった。熟練の冒険者が10人前後でようやく対応できるような数だったことを考えれば、完全に規格外の強さである。
「すご……」
「!」
思わず漏らしたレクリオの感嘆の声に反応したサエンは、剣の切っ先を彼女の方に向ける。
「ひいっ!? ちょ、ちょ、あたし、あたし!」
レクリオは慌てて物陰から姿を現した。だが、サエンはまだ警戒を解かない。
「……ゴースト(亡霊)に知り合いはいないが?」
そんな彼の言葉の意味を、レクリオはすぐに飲み込むことができなかった。が、自身が姿を消す術を使用中であることに思い当たり、慌ててそれを解除する。
「あ、あたしだって」
「ん? ……ああ、一緒に来たちびっ子か」
「はあっ!? ちびっ子じゃねーよ! ちゃんと成人している立派な大人の女性なんだぞ!」
サエンに子供扱いされてレクリオは激昂した。普段から冒険者仲間にその容姿の幼さを弄られている彼女ではあるが、殆ど付き合いのない他人同然のサエンにまで遠慮無く言われると、余計に腹が立つ。
だが、サエンはレクリオの反論を受けてもなお、疑わしげな視線彼女へと向け続けている。まあ、身体的な成長が緩慢なエルフ族ならばともかく、ハーフとは言えエルフらしからぬ容貌のレクリオに「成人」と言われても信じられないのは無理もない。
そこでレクリオは、唯一大人の女性らしく見えると自負するそこそこ豊かな胸を張って、自らに対する子供疑惑を強く否定する。
「ホントだぞ、これでも歴とした33歳なんだから!」
「……それが本当ならオバサンじゃん」
「あぁんっ!?」
聞き捨てならない言葉にレクリオの相貌が鋭く釣り上がる。子供扱いしたかと思えば今度はオバサン扱いとは、何処までも失礼な奴だ。
「貴様、今全ての三十路(みそじ)女を敵に回したぞ、コラ……!」
レクリオは右の拳をサエンの顎にグリグリと押しつけながら彼を睨め上げた。本当は殴りたいところだが、本気で喧嘩になったら分が悪いのは、先程のサエンの戦闘からも明らかである。そのことを考慮した彼女はギリギリの所で自重して、結局は手を出してしまっている。
だが、サエンは鬱陶しそうな表情をしながらも、割となすがままにレクリオの拳を受け入れていた。
「……でも、自分の倍の年齢なんて、オバサンとしか思えないだろ?」
「は?」
今、「倍の年齢」と言ったか?と、レクリオはサエンの信じ難い言葉に硬直した。彼女の目から見て、サエンは20代後半の男性──つまり同年代にしか思えない容貌をしていた。しかし、
「あんた……何歳なのよ……?」
「17だが?」
「ガキじゃん!?」
「うるせーよ……」
サエンの口から衝撃的な数字が出てきて、レクリオは驚愕する。そして同時に納得もした。
(う~ん、子供じゃ目上に対する口の利き方を知らなくても仕方がない……かぁ?)
そう思うと彼に対して少し優しい気持ちになることが出来た。幼さからくる無知が故の無礼を許すのも、大人の余裕ある態度ではなかろうか、と──。
しかしその一方で、サエンの超絶的な戦闘能力は、子供の範疇を大幅に超える物だ。その年齢に似つかわしくないアンバランスな在り方は、不自然だと言ってもいい。だからレクリオは、サエンに対しての警戒心を解くことができなかった。
だが、彼はこの城から脱出する為には貴重な戦力となる。この大ハズレな仕事を持ってきたというそもそもの元凶ではあるが、ここはそれに目を瞑り味方に付けた方が得策であった。
幸い相手が大幅に年下なのだから、主導権を握ることだって不可能ではない。
「……まあ、そういうことなら、このお姉さんの指示に従うといいよ? そうすれば、この城から無事に脱出することが出来るはずだから」
ところが、サエンから帰ってきた言葉は、
「脱出するつもりなんて無いが?」
レクリオの淡い期待を打ち砕くものであった。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。