江戸前ラノベ支店

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斬竜剣外伝・亡国の灯-第4回。

2015年11月02日 00時47分36秒 | 斬竜剣
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-合 流-

 レクリオが飛び出した窓の外は、20mほど下まで遮る物が何も無かった。そのまま墜落すれば即死は免れないだろう。
 ただ、幸いと言うべきか、廃墟と化した城には無数の蔦植物が生い茂っており、レクリオはそれに手をかけて墜落死を回避することができた。しかし──、
「ひっ!?」
 彼女を追って飛び出したスケルトンの一体が、ぶらさがる彼女のすぐ横をかすめて落下していく。それは勢い余った後続に押し出されて墜落したらしく、それ以上後に続くスケルトンはいなかったが、それでも上を見上げてみれば、窓からスケルトンが顔を出し、空虚な双眸で彼女を見下ろしている。
 どうやら蔦を登って上に逃れることは得策では無さそうだ。そもそも、蔦には人1人の体重を長時間支えていられるほどの強度は無い。小柄なレクリオの体重にさえ耐えかねて、ブチブチと彼女にとっては聞きたくもない嫌な音を発していた。
 レクリオは慌てて落下スピードをコントロールする為の呪文を唱えた。それは蔦が切れるのとほぼ同時に効果を発揮し、彼女は辛うじて命を拾うこととなる。
 ただ、ゆっくりと落下する彼女の足下に、またスケルトンの群れが押し寄せてこないとも限らない。彼女は何者も現れないことを祈りながら着地の瞬間を待った。
 そして無事に着地することに成功した彼女は、周囲をグルリと見渡した。どうやら城壁と城の間に位置する場所のようだが、前後に伸びる通路以外は、特に何も無いようだ。
 だが、どちらへ進めば出口なのかが分からない為、その生命の危機は払拭されていないのが問題であった。上空はがら空きだが、レクリオには飛行魔法は使えないし、垂直の壁を登ることも難しい。
 だからレクリオは、慎重に前後の通路の様子を観察してみる。すると片方の通路に何体かの遺体が転がっているのを発見する。おそらく、近付けばまたスケルトンとなって襲いかかってくるだろう。
「こっちはハズレか……」
 仕方が無くもう片方に向き直ってみると、やはりそちらにもスケルトンと思しき遺体が転がっていた。
「あ、あれぇ~……?」
 どっちもハズレ──この絶望的状況に、レクリオの目は潤み、全身が冷や汗で濡れてくる。
 しかし、このままこの場に留まっても、救出が期待できない状況では餓死を待つしかなくなるし、先程のスケルトンの群がここまで追ってこないという保証も無い。
 だからレクリオは前に進むことにした。最早眼球も腐り落ちているスケルトンに何処まで通用するのかは一種の賭けだが、念の為に光りを屈折させて自らの姿を消す術を使用し、ゆっくりと慎重に遺体へと近付いていく。
(あれ?)
 すると、転がっている遺体が尽く損壊していることに彼女は気が付いた。
(しかもまだ新しい……?) 
 仲間の誰かがこの道を通ったのでは?──レクリオはその事実に希望を見出した。
(え~と、この倒れ方だと、向こうから来た誰かに斬り倒された……?)
 と、レクリオは、仲間が進んだと思われる方向へ踏み出した。そちらが出口だとは限らないが、独りでいるよりは生き残る可能性が上がるだろう。今は仲間との合流が最優先事項だ。
 そしてレクリオは、進む先で何体ものスケルトンが破壊されているのを目撃することとなる。それは尋常ではない数であった。彼女が確認しただけでも50体近くはある。並の戦士ならば、単独で同時に対処出来るのは精々2~3体だろう。剣術の奥義と呼ばれるような技を使ったとしても、なかなかこうはいかない。
 しかも、剣術の奥義のような大規模な破壊を伴う技を使用したにしては、スケルトンが原形を留め過ぎている。これは通常の剣技のみだけで、スケルトンに対して的確に行動不能にする一撃を加えたということを指し示していた。恐ろしいまでの技量である。
(でも、そんな強い人、仲間にいたっけ……?)
 レクリオにはその人物に心当たりが無かった。そもそも、それほどの実力者ならば国の兵士として仕官し、それなりの地位に就いていてもおかしくないのだ。未だに冒険者なんて賤業で燻っている理由は無かった。
(これをやったのは、冒険者仲間じゃない……?)
 レクリオはこのまま進んでも良い物かと不安になる。この道の先にいる者が仲間でないのならば、彼女の安全は保証されないからだ。
 どうしたものかと思案していると、道の奥から何者かが戦闘を行っていると思しき音が聞こえてきた。何らかの武器と防具がぶつかり合い、骨が砕かれるような音が──。
 取り敢えずレクリオは、その音の出所を確認してみることにした。幸い物音は、この道の先にある曲がり角の向こう側から聞こえてくるようだ。角からちょっと顔を出して、誰が何をしているのかを見るだけならば、大した危険は無いだろう。
(どれどれ……あ!)
 そこで彼女が見たのは、無数のスケルトンと戦う男の姿であった。いや、それは戦うというよりは、一方的な虐殺だと言ってもいい。男の素早い動きにスケルトン達は反応することもできず、しかもほぼ一撃のもとに斬り伏せられていた。
(あいつ、生きていやがったのか!)
 それはレクリオにとって、よくは知らないが、全く知らない相手でもなかった。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。