goo blog サービス終了のお知らせ 

江戸前ラノベ支店

わたくし江戸まさひろの小説の置き場です。
ここで公開した作品を、後日「小説家になろう」で公開する場合もあります。

ロスト・ウィザード-あとがき。

2014年07月02日 21時59分45秒 | ロスト・ウィザード
 ども、江戸まさひろです。これを読んでいる人が本編を読んでいるのかどうかは分かりませんが、ここを読んで「興味を持ったのでこれから本編を読む」というパターンでも全然OK。ただ、微妙にネタバレ要素が入っているかもしれないので、その辺は注意。


 さて、取りあえず本作は終わりですが、大きな物語の中の1エピソードを描いただけなので完結はしておりません。とにかく色々と設定を作ってはいるのですが、なんとなく続きはまだ書いていないという……。

 その原因は「主役が女の子じゃないと筆が乗らない」という私の性質とは無関係ではないような気もします(笑)。実際、『神殺しの聖者』もイヴリースの性別を男から女に変更しただけで話が数倍に広がったからなぁ……。あと、エルミが万能過ぎて逆に使い難かったというのもあるのかもしれませんが……(実際、強すぎるので一部の能力を封印しているのよ、この人。まあ、それはクロスにも言えるのだけど)。

 なんにしても、現状ではまだ中途半端な状態の作品なので、現時点ではあんまり褒められた内容ではないなぁ……と感じています。せめてもうちょっと大きな事件を盛り込んでおけば、1つの作品としてもつと格好もついたし、続編への足がかりにもし易かっただろうに……という反省点もありますね。
 
 それでも機会があれば続きを書きたいとは思っています。ただ、その時はもうちょっとサリアをメインにした方が描き易いかもねぇ……。少なくとも、サリアがとある目的で都に行くという展開は確実にあると思いますが、そこからどのようにして大きな事件に繋げていくのかはまだ考えていない……。一応、エルミのライバルになる魔法使いや、銃器や爆弾を用いる敵勢力の存在などは考えているのだけどね。…………うむ、そいつらにまたサリアを誘拐させるか?(注:江戸はその場の思い付きネタをすぐ採用する傾向にあります)

 ともかく、現時点ではまだ手も付けていないので、「続きを待っていて」と無責任な事は言えませんが、心のどこかでこの作品の事を覚えておいて貰えれれば幸いです。


     

 水着サリアで感謝。

 それでは、次回作の準備の為、通常の更新は暫らく休みます。次の作品は私にとっては現時点で最大の長編シリーズです。

ロスト・ウィザード、キャラクター表。

2014年06月30日 00時06分07秒 | ロスト・ウィザード
 ここでは『ロスト・ウィザード』の登場キャラクターの顔イラストを公開します。なお、絵は同人誌で発表した物です。

     

     

 右上から ・エルミ ・サリア・カーネルソン ・セシオン・カーネルソン ・マリア・カーネルソン。
 左上から ・クロス ・クロスの部下 ・クウガ ・キャム ……となります。

 サリアは同人誌版の頃から髪型がよく変わるキャラなので、デザインは現在も安定していません。ツインテールとかもちょっと描いてみたかったかも。あと、他のキャラは割と現在でもそのまんまです。
 というか、クロスはこの作品が生まれる前から存在しているキャラで、30年近く前からあまり変わっていないような気がする。ぶっちやけ、他の作品(まだ未発表)の主役なんだよなぁ……(この作品では最後まで脇役だけど)。一方、エルミもまだ明かせない機密の塊みたいな存在だったりするし……。そんな世に出ていない設定だけは山のようにある。

ロスト・ウィザード-第12回。

2014年06月29日 00時37分32秒 | ロスト・ウィザード
 ※最初(もしくは他の回)から読みたい人はカテゴリーの目次か、右のリンクをご利用下さい→目 次


     


―エピローグ・サリアの日記―

 親愛なるパティーへ(注釈 サリアは手紙形式で日記を書く。パティーとはサリアが日記につけた名前である)。
 今日は朝から天気がいい。
 パティーも新聞とかで知っていると思うけど。あたしを狙っていた盗賊達も全員捕まって、牢屋に放り込まれた。もうなんの心配も無く森に遊びに行けるのだけど(あ、お父さんからの謹慎命令は聞かなかったことにする)、午前中は家でゴロゴロしていた。
 何故かって? きっとエルミさんがいない所為だと思う。
 お父さんも、お母さんも、さすがに都へ帰るエルミさんについていくことは許してくれなかった。
 ええ、あたしはエルミさんについて行きたいと思った。まあ、あたしも通る主張だとは思っていなかったけど……。やっぱり齢12にして嫁入りや独り立ちするなんて無茶もいいところだわ。生き急ぎすぎてるよね? 
 でも、エルミさんのことは諦めた訳ではないよ? 昔から『光の剣のラーソード』はあたしの憧れではあったけど、手の届かない存在だとも思っていた。だって、大陸一の英雄だもの。
 だけど、あのエルミさんになら手が届くって気がする(笑)。なんだか恋愛事には疎そうだし、その上、積極的でもなさそうだから、きっとあと数年は結婚出来ないだろう。そもそもあまりもてなさそうだから、十二翼のラーソードという肩書き抜きならばライバルも少ないに違いない! ……書いといてアレだけど、なんかあたしちょっとヒドイかも(笑)。
 それでも、たぶん大陸一強くて、そしてなによりも優しい――あんないい人をこのまま見過ごすなんて勿体ないと思わない? そう、勿体ないよね。
 でも、今のままじゃエルミさんの所にはまだいけない。これから沢山自分を磨いて、鍛えて、成長させて、ともかく最低でもお子様を卒業しなきゃならない。
 あたしは「自分は子供じゃない」なんて言ってしまうほど子供じゃないつもり。だけど大人でもない。だって少なくとも周りの人間はあたしのことを子供扱いするもの(エルミさんだってそうだった)。これは厳然とした事実なのだから、あたしが子供だというのは事実なんだ。正直認めたくないけど認めない訳にはいかないよね。
 だから、あたしの道のりはまだまだ先が長いのだ。それを思うと途方に暮れてしまい、ついつい午前中はゴロゴロと過ごしてしまった訳なのです。
 でもね、さすがに退屈になったので、午後から森へ遊びに行くことにしたの。
 え? 遊ぶヒマがあったら、自分を磨く努力を始めた方がいいんじゃないかって? う、うん、それも勿論するよ。でも、まあそれは明日から(汗)。あ、今「明日も『明日から』と言いだしそう」とか、思ったでしょう? 確かに夏休みの宿題とかはいつもそうなのよね。そして後で地獄を見るの(泣)。でも、今度は大丈夫、今回は本気だから。
 だって、あたしに決心させるようなことがあったんだもの。 
 そう、森に行くことにした、って所までは書いたわよね。あたしは森に行ったんだけど、そこで何があったと思う? なんとエルミさんと再会できたのよ。
 いや~、驚いたのなんの。あたしがエルミさんと初めてあった崖の所に行ってみると、そこにはエルミさんが茫然としたように立っているんだもの。
「なにをしているの?」
 って、聞いてみたら、なんでもこの前発見した化石がどうしても気になって、せめてこれだけは発掘して行こう、とエルミさんは思っていたらしいの。だけどいざ発掘を始めてみれば、他にも珍しい化石がワサワサと沢山出てきたんだって。うん、確かに大きな竜みたいな生き物の全身骨格もあったわよ。
 で、エルミさんは徹夜で発掘に挑んでみたものの、これらの化石を全部発掘するには、数ヶ月やそこらでは無理だろう……でも、そんな膨大な発掘時間は全く無く、それどころか今度いつここへ来れるのかすら分からない。とはいえ、このままこの化石を放置して帰れば、他の人に発掘されるのかもしれない。
 …………そんな訳で、どうしたらいいのか途方に暮れていたらしいの。見るからにかなり困っていたわ。
 正直、(こんな変な石の為に必死になって変な人)と一瞬思ったけど、なんだかこういうエルミさんも子供っぽくてちょっと可愛いかも。それに、これは『渡りに船』だということに気付いたのよ。
 あたしはエルミさんに提案したわ。
「この化石は我が家で発掘します。そして、あたしを盗賊団から救出してくれたことの謝礼としてエルミさんへ進呈します」
 ……ってね。
 エルミさん喜んでいたわよ。
「あたしが直接届けに行く」
 って言ったらちょっと笑顔が引きつってたけど……。
 そしてその後すぐ、今度こそ本当にエルミさんは帰っちゃった。そりゃあ名残惜しかったけど、無理矢理引き留めて嫌われちゃうのも嫌だから我慢したよ。
 そもそも、あたしが午前中のノリを引きずって午後も家でゴロゴロとしていたら、エルミさんに会えなかったという事実を考えると、ちょっとだけでもエルミさんに会えただけでもかなりの幸運だったと思うの。
 その上、エルミさんの所へ行く口実も手に入れることが出来たしね。なんだか運命があたしの味方についてくれたって気さえする!
 うん、ノってきたわよ! なんだか万事がうまくいきそうな気がしてきた。まあ、まだ何年かはかかるかもしれないけど、必ずや良い報告が出来ると思うので、パティーも期待して待っていてね。
 じゃあ、今日はこの辺で。

   新暦103年5月21日
                                  サリア・カーネルソン 


 追伸―これからエルミさんにも手紙を書いてみようと思います。エルミさんは忙しそうだけど、筆無精ではなさそうだから、ちゃんと返事は来るかな? 暫くの間は文通ってのもいいかもしれないわね。もし返事が来たら、その内容を教えてあげるわ。楽しみにしていてね。


 追伸の追伸 パティー、お久しぶり。
 なんだか昔の手紙を読み返してみると、「変にパワーがあったよね、子供の頃って」と率直に思う。まあ、今も大差ないのかもしれないけれど。結局、初志貫徹しちゃった訳だしね。
 そう、ようやく良い報告ができます。
 ……って、今は忙しくて詳しく書いている余裕は無いので、詳細はまた今度。でも、親友の貴女なら、大体は分かってくれるわよね。
 今、あたしは幸せです。それだけを伝えたくて……。
 じゃあ、手短ですがまた今度。

   新暦110年5月17日
                            サリア・カーネルソン(この姓も今日が最後)

                                                      お わ り 


 後書きへ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

ロスト・ウィザード-第11回。

2014年06月28日 00時22分47秒 | ロスト・ウィザード
 ※最初(もしくは他の回)から読みたい人はカテゴリーの目次か、右のリンクをご利用下さい→目 次


「あぶないっ!」
 思わずエルミのもとへ駆け出しそうになるサリアをクウガは手で制した。
「何やってるんですか!? 早く助けないと!」
「……心配するな。あいつなら大丈夫だ」
「え……? でも……」
「あいつが盗賊ごときに負けてちゃ、俺達の立場なんて無(ね)ぇよ」
 と、クウガはさほど動じず、サリアの心配を取り合おうともしない。
 そうこうしている内にクロスは剣を高々と振り上げ、エルミ目掛けて振りおろそうとしていた。
 しかもだ、
「なんだ、ありゃあ……!?」
 泰然としていた筈のクウガが動揺の入り交じった声を上げた。それも当然であろう。クロスの剣が眩い光と熱を放っていたのだから。その剣から繰り出される斬撃が並の威力の斬撃であるはずがない……が、問題はそこではない。
(あいつと同質の剣だと……!?)
「光の剣!? まさか……!?」
 サリアも驚愕した。光の剣の使用者と言えば、『十二翼』の団長、光の剣の(ライトソード)ラーソードが最も有名である。いや、他の使用者など聞いたことが無い。
「ハハハハハっ! 光を自在に操る聖なる剣(つるぎ)――光烈武剣! 俺の家の家宝でな、奥の手は最後の最後で見せるものだっ! 食らうがいい、この『光烈斬』の味を!!」
 凄まじい光の奔流を伴った斬撃がエルミに襲いかかる。それはエルミが結界を形成しようにも、間に合いそうにもないタイミングだ。いや、あるいは結界が間に合ったとしても、それは苦もなく破壊されるかもしれない。
 だからエルミも結界を形成しようとはしなかった。それどころか一切の回避行動さえも取ろうとしない。彼は素早く手を振り上げる。
(魔法攻撃で斬撃の相殺を狙うか。だが、あんな光球を何発も撃ち出す暇はもう無ぇぞ!)
 最早エルミの反撃は間に合わないことを確信し、クロスは全力で剣を振り抜いた。振り抜いたつもりだった。しかし、その斬撃は半ばで静止することとなる。
「なっ……!?」
「奥の手は最後の最後で見せるもの……全く同感ですね」
 エルミは不敵に笑う。
 クロスの光を纏う剣は、同じく光を纏う――いや、光そのものの剣に遮られていた。
「ひ……光の剣……!?」
「魔力を集中して形作ったものです。これが、私の二つ名の由来ですよ……」
「まさかお前、大陸最強の剣聖と謳われた光の剣のラーソードなのかっ!?」
「そう、私の名はエルミ・ラーソード。今時真っ当な魔法使いなんて、この大陸には残っていないのですよ。私の本業は一応剣士ということになっていますからね……」
 と、言うなり、エルミはクロスの剣をはじき上げた。
     
「くっ!」
 クロスは数歩後退して体勢を直しつつもエルミ目掛けて斬撃を撃ち放った。牽制である。エルミが自身と同等以上の動きが出来ることは既に知れている。あの動きで剣による攻撃を連続して繰り出されれば、今のクロスの体勢では防御もままならない。だから、牽制してエルミの動きを止める必要がある。
 だが、エルミはその攻撃を苦もなくかわした。それはつまり――、
「く……かっ!」
 無数の光の筋がクロス身体を薙ぎ、彼は短い呻きを残して地に倒れ臥した。
「や……やったぁ!」
 サリアはエルミの勝利を悟り、歓声を上げる。そして彼のもとへ駆け寄ろうとしたその時、
「待ちな」
 クウガに肩を掴まれて止められる。
「まだ、だ」
「え?」
 怪訝な顔でサリアはクウガの方を振り返る。その瞬間、背後から――つまりエルミ達の方から、絶叫とも思えるような声が立ち昇った。
「ウオオオオオォォォリャアアアァァァァァーッ!!」
 クロスが凄まじい勢いで跳び起きた。いや、まさに跳んだ。常人には絶対に不可能な高さまで跳び上がったクロスは、更に手にしていた剣を高々と振り上げる。
 剣は瞬時に膨大な光を纏い、巨大な光の柱と化した。それをエルミ目掛けて振り下ろす。
「降神剣(こうじんけん)っ!!」
「――っっ!!」
 エルミは自らの頭上に降り注ぐ巨大な光の柱に、自らの光の剣を叩き付けた。
 激しい爆音の後、一瞬の静寂――。
 最初に口を開いたのはクロスであった。
「……チッ、俺の降神剣を斬るかよ……。大したもんだよ」
「貴方こそ奥の手は最後に見せるものだと言いながら、まだ奥の奥を隠していたとはね……。しかも私の剣を受けてなお、あの大技を放つ――大したタフさですよ」
 エルミは微笑を浮かべた。そんな彼の顔には最早緊張感は無い。事実、彼の手にしていた光の剣は数m先まで伸びて、クロスの脇腹に食い込んでいた。
 だが、クロスはそれをさほど気にした様子もなく、
「ちょっと聞きたいんだがよ、俺ほどあんたの手を焼かせた奴はいるか?」
 と、聞く。
「ここ15年くらいでは、貴方が初めてですね」
「そうか、それじゃあ俺がこの大陸の中で2番目の実力者を名乗っても、さほど問題無いな」
 クロスは誇らしげに笑った。それを見たエルミは呆れ顔を浮かべる。
「……よく笑っていられる余裕がありますねェ」
「……だってよ、お前手加減したろ?」
「……それでも気絶させるつもりでやってるんですよ? でも、まあ確かに手加減はしましたね。貴方ほどの実力者を死なせるのは惜しいですから」
 エルミは爽やかな笑みを浮かべる。それを見てサリアは思わず、
(カッコイー!)
 と思ってしまった。真剣勝負の相手に手加減するのは、ともすれば嫌味な態度に見えてしまいがちだが、それを全く感じさせないのはエルミがクロスのことを本気で死なせたくないと思っているからなのであろう。そんな彼の優しさと、大陸一との噂も間違いなく事実であろうと思わせる強さは、やはりサリアの目から見ても格好良く見えた。その想いはクロスも同じなのかもしれない。
「かなわないな……」
 だから、彼も素直に負けを認めるしかない。クロスは静かに背から倒れ込み、そのまま動かなくなる。どうやら今度こそ気絶してしまったようだ。
 その時、クウガがサリアの背をポンと押した。サリアは肩越しにクウガの方へ視線を向けたが、そこにはクウガの姿は無い。つまり戦いはもう終わったということなのだろう。それに気付いたサリアはエルミの方へと駆け出す。
「エルミさーん!」
「サ、サリアちゃん」
 エルミは焦った。サリアがタックルと言わんばかりの勢いで自らの懐に飛び込ん出来たからだ。だが、それからサリアは身じろぎ1つしようとしない。いや、その身体は微かに震えている。よく耳を澄ませば聞き逃しそうになるほどの小さな嗚咽の声――。
(よっぽど怖い想いをしたんですね……)
 と、エルミはサリアを励まそうと口を開きかけたその時、僅差ででサリアに先をこされた。
「憧れのラーソードが、こんな変な人だったなんてぇぇぇぇ~!」
「うぐ……」
 わっ、とサリアは泣き声をあげた。そんなサリアの嘆きに、エルミは発しかけていた言葉を喉に詰まらせる。確かにそう言われてしまうと反論出来ない部分があるのも事実だ。
 それでも、エルミは「フッ」と微笑を浮かべて、サリアの頭を軽く撫でる。半ば冗談じみたサリアの嘆きも、その実、やはり誘拐や遭難の恐怖からくるものなのだろうということがなんとなく分かったからだ。ただ、勝ち気な性格のサリアは、「怖かった」とは素直に認めたくはなかったのだろう。
 だから、エルミは何も言わずにサリアを慰める。
「………ごめんなさい。あたしが勝手に森に入った所為でエルミさんに怪我させたり、危ない目に遭わせたりして。ううん……それだけじゃない。たぶん、もっと沢山の人に迷惑かけてる……」
「……かまいませんよ。サリアちゃんが無事に帰ることがそれだけでも充分償いになります」
「うん……」
 サリアわずかに頷いた。
「……でも、あたし、子供だからって甘えていたくない。いつかは恩返しするよ。特にエルミさんには絶対に……」
「そんな……別に気を使わなくてもいいのですよ?」
「ううん、それじゃあ、あたしの気が済まないもの。だから、エルミさんの所へお嫁入りして、一杯恩返ししてあげるから」
「は……?」
 サリアの聞き捨てならぬ言葉を聞いて、エルミの目は点となった。エルミがサリアの方へ目を向けてみると、彼の胸にすがりついて泣いていた彼女はいつの間にか泣き止み、枯れの顔を真剣な眼差しでじっと見上げている。
 思わずエルミはたじろいだ。
「……い、今なんと?」
「エルミさんの所に、お嫁に行ってあげるって。だって、エルミさんって仕事に追われて女の人と知り合う機会ってあまり無さそうだし、仮に知り合っても、エルミさんって朴念仁っぽいから関係が進展するのに凄く時間がかかって、結局途中で終わっちゃうんでしょ?」
「うう……っ!?」
 図星をさされてエルミは呻いた。
「だからあたしがお嫁に行ってあげるって。わざわざ女の子の方からお嫁に行ってあげるって言ってるのよ? こんなチャンスを逃したらもう一生結婚出来ないかもよ? それに求婚を断って女に恥じをかかせるなんてとんでもないことだわ!」
 ……段々と脅迫じみてきた。
「え、でも、いや、しかし……」
 エルミはしどろもどろになりつつも、なんとか抵抗しようと試みた。……が、何をどうしたらいいのかさっぱり分からない。サリアの言う通り、やはり彼は朴念仁で女性の扱い方なんて知らなかったのだ。そうこうしてもたついている間に、サリアの瞳が涙で潤む。
「……あたしが嫌いなの?」
 ギクリとしてエルミが固まる。女の子に泣きそうな顔をされるとやはり弱い。エルミは大慌てで弁明を始めた。
「ち、違いますよ!? 嫌いな訳ないじゃないですか、嫌いじゃありませんよ!」
「そう、それじゃあ何も問題無いじゃない。じゃあ、この話は成立ってことで」
 サリアは泣き顔転じて会心の笑みを浮かべた。一体どこまでが演技だったのやら……。
「ちょっ、ちよっと待ってくださいよ。それとこれとは話が別ですって……!」
 一瞬呆気に取られたエルミだったが、すぐさま抗議の声を上げた。しかし、サリアは聞く耳持たず、クルリと身を翻し、
「さぁ~、早く帰ってお母さん達に報告しなくちゃ。ね、キャム」
 とペットに語りかけながら家路へと向かう。……方向を分かっているのだろうか?
「ちょっとぉ!」
 このまま引き下がる訳にはいかないエルミは更に抗議を続けようとしたが、そんな彼の背後では、
「婚約おめでと~」
 と、クウガがいつの間にか現れて冷やかしの声を上げていた。そのニヤついた目は「仲間に言いふらす」と、雄弁に語っている。
「あああああああ………」
 思わずエルミは頭を抱えてその場に蹲るのであった。
「まあ、子供の言うことだ。その内、気が変わるだろうさ」
「そうでしょうか…………そうですよね」
 クウガのなんとなく無責任なフォローの言葉を、エルミはそうでありたいと、思うことにした。
 しかし、それは希望的観測にしか過ぎないような気がしてならないのは何故なのであろうか。エルミはとてつもなく大きな運命の流れを感じて、途方にくれるのであった。

 結局、サリアの誘拐事件の対処に休暇の殆どを費やしてしまったエルミは、この後すぐに都への帰路へ着いた。勿論、その際には、サリアが「いかないで」だの「ついていく」だのと駄々をこねたとか。
 これがこの事件の顛末である。これは後に語り継がれる『光の剣のラーソード』の伝説の中でも、地味で目立たないエピソードではあるが、後のラーソードの人生に多大な影響を与えたとして、後世の歴史研究家達の間では重要な事件であると認識されているという。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

ロスト・ウィザード-第10回。

2014年06月27日 00時08分18秒 | ロスト・ウィザード
 ※最初(もしくは他の回)から読みたい人はカテゴリーの目次か、右のリンクをご利用下さい→目 次


―魔法使いの逆襲― 

 サリアは大人しくクロスの後についていった。別段ロープ等で手足の自由を奪われてはいない。その気になれば逃げ切れるかどうかは別として、いつでも彼からの逃走を試みることは出来た。しかし、再び遭難するのは懲り懲りだったし、それ以上にどうしてもクロスに逆らう気が湧いてこない。
 それは今の彼の姿を見れば無理からぬことであった。
 クロスは熊を引きずっていた。どうやら本気で熊鍋にするつもりらしい。熊肉はクセが強いので、肉が苦手な人ならば全く受け付けない場合もあるのだが、それも肉の下処理と調理法次第では美味しく食べられる。……が、問題はそこではない。
 クロスが引きずっているのは熊の手足などの断片的なものではなく、先ほど両断された半身であった。半分だけとはいえ、その重量は数百kg以上もあるだろう。それを片手で、しかもやたらと樹木や岩等の障害物が多い森の中で苦もなく引きずっている。並の人間には不可能な芸当であった。
 果たしてこれが人間に可能なことなのだろうか、とサリアは思う。まさしく化け物じみた怪力であった。いや、あえて断言しよう、『化け物である』と。
 そんなクロスの力をまざまざと見せつけられてしまっては、さしものサリアも敗北を認めざるを得ない。そう、敗北である。自身の納得いかないことに従うのは、彼女にとってかなりの屈辱であった。
(……いつか闇討ちしてやる!)
 そう堅く心に誓うサリアであった。そうでもしなければこの場は我慢できそうにない。
 やがて盗賊達の隠れ家である洞窟が見えてきたが、そこには明かな異変が生じていた。
「あ……?」
 洞窟の入口でクロスの部下達が倒れていたからだ。彼は慌てて部下達に駆け寄ろうとしたが、踏みとどまった。冷静に考えれば何が起きたのかはすぐに分かる。もっとも、部下が全員死んでいるような状態であれば、そこまで冷静になれたかどうか疑問であるが……。遠目に見ても、部下達が致命的な傷を負っている様子は無い。どうやら気絶しているだけらしい。
「まさか……こうも早くに再戦を挑いどんでくるとはな……」
 クロスは多少の驚きが入り交じった、しかしそれでいて期待感に満ちた表情を浮かべた。
「え……まさかエルミさんが?」
 サリアには信じられなかった。あれだけの重傷を受けた彼がもう自身を助けに来てくれるなどとは……。しかしその半面、心の何処かでは何故か納得出来た。なにせ彼は、この大陸の常識から逸脱しているとも言える魔法使いなのだから。
「……居やがるんだろ? さっさと出てきやがれ!」
 クロスは洞窟の中に向けて呼びかけた。すると、洞窟の奥から何者かが歩み寄ってくる。
「!?」
 しかし、クロスの予想に反して、洞窟から出てきたのはエルミとは別人だった。そして、彼の混乱に追い打ちを駆けるようなサリアの叫び、
「エルミさんっ」
「何っ!?」
 慌ててクロスは振り返る。そこには彼とサリアの間に割り込むように立つエルミの姿があった。クロスが洞窟の内部にいた人物に気を取られている間に忍び寄ったらしい。先ほどクロスがサリアを攫う時に使った手をそのまま流用したようである。
「てめぇ……! 仲間がいたのか……」
「ええ。まあ、今日ここで会えたのは殆ど偶然だったのですけどね」
「大体、何でもう歩き回れる。かなりの重傷を負わせたはずだぜ」
「まあ、治癒魔法も使えますからね。それにしても、いざサリアちゃんを救出に来て見れば、洞窟内にいないのですから焦りましたよ。まあ、ここで待ち伏せしていて正解でしたが……サリアちゃん、あまり無茶しないでくださいよ」
 と、エルミはサリアに視線を送った。
「あ……ありがとう、エルミさん」
「まず、お礼なら貴女のペットに言ってください。あの子の案内が無ければ、こんなにも早くここを見つけることなんてできなかったでしょうから。それに、私への礼なら、まずあの男を片付けてからですね」
「キャム!」
 虎縞リスネコがエルミの肩から飛び降り、今度はサリアの頭への駆け上った。この小さな友人が自身を助ける為に奔走してくれたという事実に、サリアは思わず涙ぐんだ。
 一方、クロスが剣呑な視線をエルミに送る。
「てめぇ……。俺を片付けるだと? 仲間を連れて来たからっていい気になるなよ」
 しかしエルミはそれに動ぜず、ただ手でサリアに離れているようにと合図を送る。
「いえいえ、仲間と2人がかりでなんて卑怯な真似はしませんよ」
「はん、別に強がらなくたっていいんだぜ? 俺相手になら丁度いいハンデだ。卑怯じゃねぇ」
「いえ、卑怯ですね。一応、貴方の後ろにいるのは、十二翼の1人、疾風迅雷の異名を持つクウガさんです。十二翼がたった1人に2人がかりなんて卑怯じゃないですか」
「…………!?」
 クロスは驚愕の視線を肩越しに背後へと送った。しかし、そこには既に人影は無い。人が動いた気配など、全く感じられなかったというのに。
「とりあえず、サリアちゃんの安全は確保しましたからね。後は私に任せるということでしょう」
「……まさか、てめぇも……」
 クロスは驚愕と狂喜が入り交じった面持ちで呻く。彼の目の前にいるのは永年かけて捜し求め、倒したいと願ってた存在だということが分かったからだ。
「ええ、だから油断していたとはいえ、一般の素人相手に負けたというのは、少々具合が悪いのですよ。貴方を倒して、この十二翼の名についた汚点を拭い取らせてもらいますよ」
 エルミは不敵に微笑んだ。その顔には今までの飄々(ひょうひょう)として何処か頼りない雰囲気は微塵も無い。
「まさか……エルミさんが……!?」
 サリアも驚きを禁じ得ない。しかし、現在この大陸で使用不可能とされる魔法を扱える彼が、この大陸最強の兵団の中でも精鋭中の精鋭の一員というのも、頷けなくもない話ではあった。
「ハッ……ハハハハハハッ! そうか、てめぇが十二翼か! それじゃあ、1度はてめぇに勝った俺は、既に十二翼に匹敵する実力の持ち主ってことになるなぁ!」
 クロスはけたたましく哄笑をあげる。しかし、自身の実力がこの大陸で少なくとも上から12番以内に入ることが実証されたようなものだ、無理もない。
「笑っていられるのも今の内ですけどね。すぐに私に勝ったことは帳消しになりますから……。もう、さきほどのような小手先の芸当は通じませんよ」
「芸?」
 エルミの言葉にサリアは小首を傾げた。先ほどのクロスの技が芸などはとても思えない。あれは、まさしく奥義と呼ぶに相応しい技だった。
 しかし、エルミの言葉に図星を指されたのか、クロスは目を見開いている。
「あれを見切った……っていうのかよ?」
「ハイ。本来直線上にしか飛ばないはずの烈風刃の衝撃波が、いきなり軌道を変えたのには驚かされましたがね。しかし、糸がかすかに見えましたよ。となると、タネは簡単。剣の先に取り付けた極細かつ高強度の糸を闘気によって鞭のように操り烈風刃に見せかける――まあ、それはそれで素晴らしい技術ではありますけど……しかし、烈風刃と比べると威力が無い。もしあれが本物の烈風刃ならば、直撃を受けた私はさすがに今ここにはいなかったでしょうから」
 サリアはクロスを見遣った。渋い彼の表情からエルミの言葉がことごとく図星であったことが知れる。しかし、サリアは彼がインチキ剣士だとはとても思えなかった。先ほどの熊を倒した手並みといい、彼が凄腕の剣士であることは疑いようもない。
「エルミさん気をつけて、あいつ強いよ」
「分かってますよ。……ですよね?」
 と、エルミはクロスに問いかけた。
「ああ……。俺はまだ全部見せちゃいないからな。それに、あれを見切られたのは意外だが、だからと言ってかわせるかどうかは話が別だ」
「試して見ますか?」
「臨むところよ!」
 その瞬間、クロスは腰に下げた鞘から剣を一気に引き抜いた。そしてすぐさま剣を一閃。衝撃波が――いや、クロスの闘気に操られた糸がエルミに襲いかかる。
 例え手品のタネを知っていても、実際に手品師が行うそれを素人が目で確認することは難しい。人を騙す巧妙な仕掛けもさることながら、それを扱うテクニックとスピードも半端では無いのだ。それと同様にクロスの技も、その正体が分かっていてもそう簡単に回避出来る類の物ではないはずだ。事実、エルミも『かすかに』の程度でしか糸を確認していないと言っている。
(とは言え、奴には防御策があることを前提にして技をしかけないとなっ!)
 と、クロスは判断した。先ほど彼が放った糸での攻撃は、途中で軌道を変えなければ確実にエルミにかわされていたであろう。つまり、並の烈風刃程度の技ならば、エルミは完全に見切っており、そして通用しないということだ。それはこの糸による攻撃も同様であるのかもしれない。少なくとも技の正体を知った上で、なんの対抗手段も講じていないとは考えにくい。
(だがな、これはかわせねぇぞ!)
 唐突にクロスが操る糸が軌道を変えた。しかも、ただ軌道を変えただけではない。糸はまるで獲物を捕らえる大蛇の如く、螺旋を描きながらエルミの身体に巻き付こうとしていた。闘気――生命力と言い換えてもいいが、本来体内に作用するその力を修練によって体外へ排出し、それを武具などに帯びさせて強化したり、闘気そのものを攻撃の手段とする技術がある。クロスはそれを極限まで鍛え上げ、糸を自在に操る事を可能にしていた。最早それは、魔法と大差ないレベルにまで達しているのかもしれない。
 ともかくこれはまずかわせない。と、言うよりも逃げ場が無い。
 しかし、エルミはさほど焦りの色を見せなかった。
 エルミに襲いかかった糸は、彼の身体に到達する直前に皆弾け、そして千切れとんだ。
「なっ!?」
 驚愕するクロス。そんな彼にエルミはのほほんとした口調で告げる。
「この程度の攻撃、魔力による防御の壁……結界を構築すれば別にかわすまでも無いですね」
「そんなのありかっ!?」
「こんなの魔法による戦闘での常識ですよ。100年前ならば転位魔法で逃げるという手段もありましたけどね」
「そういうことを言ってるんじゃねェ! それぐらい俺にだって分かっている! 俺は並の結界で防げるような攻撃をした覚えは無いって言ってるんだよっ!」
「へえ、結界を知っていた? もしかして、貴方は大陸の外から来たのですか?」
「まあな」
 クロスは自慢げに胸を張った。確かにこんな辺境の大陸までてわざわざ海を越えやって来たことは凄いのかもしれないが、しかし自慢出来るようなことでもない。多くの人間からは変人扱いされるのが関の山だろう。ましてや、世界征服目的ならばなおさらだ。
 だが、大陸の外から来たということは、魔法がどういう物なのかを把握し、そしてその対処の仕方を知っているということでもある。
「それでは、手加減の必要は無いですかね」
「ちょっ!?」
 エルミは唐突に掌から無数の光球を撃ち放った。その数、約20発――いや、その数はまだまだ増える。エルミは飽くこと無く光球をクロス目掛けて放ち続けた。
     
「ちょっと、待て! コラ! おおいっ!」
 クロスは必死で光球から逃れようとしていた。信じがたいスピードで光球をかわし、時には剣で叩き落とす。しかし、いかんせん光球の数が多すぎる。対処しきれなかった光球が彼の身体に炸裂し、ダメージを蓄積させて行く。光球の1発1発はさほど威力が高くないようだが、いずれはクロスを戦闘不能に追い込むであろう。
「クッ、この……、ちょっと、待てって!」
 クロスの苦悶の声、しかしエルミの攻撃は止(や)まない。
「……スゴイ」
 サリアはゴクリと喉をならした。目の前の戦いはあまりにも彼女の持つ常識からかけ離れている。だが、彼女が更に常識ハズレな光景を目の当たりするのはこれからである。
「ちょっと待てって、言ってるだろーがっ!!」
「!?」
 突如、クロスを襲う光球の群が一斉に消し飛んだ。恐らく、クロスは糸を操って、いくつもの光球へ同時に攻撃を加えたのであろう。
「……待てって言ってるのが聞こえねーのか……」
 クロスは非難めいた言葉をエルミに放った。その呼吸はかなり乱れている。
「待てと言われて、待つ馬鹿はいない、って昔から言うではないですか。それに貴方なら自力でどうにかすると思いましたし」
 と、エルミは悪びれた様子もなく言う。
「……ったく、いくら最下級魔法だからって、あれほど連続して撃てる奴は、俺の故郷の大陸でも殆ど見たことが無ぇよ……」
(これが魔法文明全盛の100年前で、更に上級の魔法を連発出来るとしたらと思うとゾッとするぜ……)
 クロスは一瞬、畏れるような想いを抱いたたが、
「……どうやら、本気になってもいいようだな」
 すぐに楽しげな笑みを浮かべた。
「本気ですか……」
「ああ、もうお遊びの小技は捨てるぜ。これからは殺(や)る気で繰り出す大技よ。いくら頑丈な結界だって破壊不可能って訳じゃねーんだからな……」
「まあ、確かに……」
 エルミは軽く嘆息した。が、まだまだ余裕はある。
「けっ! その余裕も今の内……だっ!!」
 クロスはその台詞も言い終わらない内に、手にしていた剣をエルミ目掛けて投げつけた。
「!?」
 思わぬクロスの行動に虚を突かれたエルミは反応が遅れ、剣の直撃こそ受けなかったものの、その体勢を大きく崩す。そこへクロスが迫る。
「小技は捨てたんじゃなかったんですか!?」
「だから、今投げ捨てたろっ!」
 次の瞬間、クロスは背負っていた大剣に手をかけた。普通なら背に取り付けた鞘から引き抜けるような長さの刀身では無いのだが、鞘に切れ目が入っており、ある程度剣を抜いてから切れ目に合わせてスライドさせると完全に鞘から抜けた。
 だが、引き抜かれた剣は背負うだけでもやっとなのでは? と思えるほど刃渡りが大きく、常人にはとても振り回せるような代物には見えなかった。しかし、クロスはそれを軽々と振り上げた。
「食らえ――――――っ!!」
 クロスの剣は一直線にエルミ目掛けて振り下ろされた。しかも、その高速の打ち込みは刀身に衝撃波を纏うほどである。
(本物の烈風刃! いや、これは衝撃波と斬撃を同時に叩き込む烈風刃よりも高度な技、『疾風刃(しっぷうじん)』の変則技ですか!)
 エルミはすぐさま結界を形成した。クロスの斬撃はかわせないタイミングではない。しかし、同時に来る衝撃波は地面に炸裂すると同時に周囲に飛び散り、それを避けきることは不可能であろう。だから結界による防御を行う。
 だが、正直エルミには結界でクロスの攻撃を完全に防ぎきる自信は無かった。この攻撃は先ほどまでとは威力の桁が明らかに違う。いや、エルミが今までに見てきた、いかなる疾風刃よりも強力だとさえ言ってもいい。果たして結界が持ち堪えられるかどうか、それは一種の賭けだった。
 そんなエルミの結界へとクロスの斬撃は叩き降ろされた瞬間――、
 ゴッと、最早斬撃から生じたとは思えないような爆音を伴って、衝撃波が周囲に荒れ狂った。
「ひ……!」 
 サリアは短く悲鳴を上げた。押し寄せる衝撃波に巻き込まれたらとても生命の安全は期待出来そうになかった。その証拠に衝撃波と共にかなり大きめの石も飛んおり、身体に直撃したら内容物が根こそぎ弾け飛びそうな勢いだ。
 だが、あわやサリアが衝撃波に巻き込まれようとしたその刹那、何者かが彼女を抱きかかえ、安全な場所まで脱出した。
「いやあぁぁぁ~っ!? 犯されるぅぅぅぅ!?」
 それはもういいから……。ともかく、サリアは何が起きたのか把握しきれず、混乱し慌てふためいた。
「助けてもらって人を性犯罪者扱いかよ!?」
 そんな非難がましい声を聞いて、サリアはにわかに冷静さを取り戻した。その声に全く聞き覚えが無かったからだ。少なくとも盗賊達ではない。
「あ……えと……確かクウガさん?」
 サリアは覆面姿を見て、ようやくそれが何者かを知った。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます。……そのスミマセン」
 さすがのサリアも、相手が十二翼という大陸最強の存在を目の前にして、畏(かしこ)まった態度を示した。一方クウガは、さほど気分を害した様子もなく丁重にサリアを地に下ろす。
「まあ、仕事をあいつに押しつけたんだ、これくらいは働かないとな」
 と、クウガは呑気な口調で言った。しかし、サリアは慌ててエルミの方へと視線を送った。先ほどのクロスの攻撃を受けて、無事に済んでいるとはとても思えない。
「あ……」
 そしてサリアの予想通り、エルミは地面に倒れて――いや、すでに起きあがりかけているが、それはクロスの技を完全に防ぐことができなかったことを物語っている。
 一方クロスはエルミが立ち直る前に追撃を仕掛けようとしているのか、再び彼に迫っていた。



 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。