江戸前ラノベ支店

わたくし江戸まさひろの小説の置き場です。
ここで公開した作品を、後日「小説家になろう」で公開する場合もあります。

斬竜剣外伝・騎士の在り方-第17回。

2017年12月30日 21時25分07秒 | 斬竜剣
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-罪と罰-

 小さな少年が突き出したナイフは、ショーンの脇腹をかすめた。幸い反射的に回避したので大事には至らなかったが、素人ならばその刃が腹に突き刺さっていたかもしれない。それほど鋭く殺意がこもった一撃であった。
「な……!?」
 突然の事態にショーンは混乱する。それでも彼は、少年からある程度の距離をとって安全を確保したが、対峙した少年が彼に向ける憎しみに満ちた表情を見て更に混乱した。何故このような幼い少年に攻撃を受けなければならないのか、全く理解することが出来なかった。
(……僕を賊の一味だと勘違いしているのか!?)
 それならば全ての説明は付く。この少年は身内を賊に殺され、その復讐をしようとしているのではないか。
 だが、少年がいた位置は、ショーンと賊が戦っていた場所からさほど離れてはおらず、戦いの一部始終を見ていた可能性が高い。ならば彼と賊が仲間だと勘違いするとは考えにくかった。それなのに少年は、ショーン個人に対して怒りを向けているように見える。
 それに先程の少年の攻撃は、小さな子供の物とは思えない鋭さがあった。しかも彼が手にしたナイフは、護身用や日常の作業に使用するような物ではない。明らかに殺傷を目的とした武器だ。つまり──、
(まさか、賊の仲間なのか? この小さな少年が!?)
 少年は人身売買組織の一員であり、仲間を全滅させたショーンに対して復讐しようとしている──それならばこの状況も理解できる。
(人身売買組織にとって子供は商品である筈……。それなのにそうなっていないということは、構成員の子供ということか……!? それじゃあ……)
 つまりショーンは、この少年の父を、その目の前で殺害してしまったことになる。それならば彼がショーンへ向ける憎悪の視線は当然の物だと言えよう。
 いずれにせよ、この少年が賊の一味ならば、ショーンは選択しなければならない。
(人身売買の罪は……死罪……! 組織の一員ならばこの子も例外ではない……!)
 この時代、子供ならば犯した罪が軽くなるというような法は無い。罪は罪であり、その重さは大人でも子供でも等しく背負うものだ。また、大人と子供の命に軽重の差も無かった。むしろ病などによる子供の死亡率の高さが故に、その命が軽んじられる風潮すらあるのだ。
 だが、ショーンは自らが子供を裁かなければ事態など想定していなかった。覚悟なんぞしてはいなかった。
(どうする……!? こんな小さな子供を……っ!!)
 相手を見て対応を甘くするのでは、法の正当性が揺らぐ。目の前の子供にもやむを得ない事情はあるのだろう。しかし、今し方ショーンが手にかけた者達だって、それは同じなのかもしれない。それに本来考えなければならないのは賊の事情ではなく、その被害にあった者達の事情なのだ。彼らは奴隷として売られた先で地獄を味わい、その末に命を落としているかもしれないのだから──。
 その報いは必ず受けさせなければならない。だが、ショーンにとって守るべきは弱き者であり、その弱き者の中には子供も含まれる。その子供を罰する事は、彼の信念に相反するものだった。
 ショーンは迷い、それが故に立ちすくむ。だが、目の前の少年は待ってはくれず、彼はナイフを振りかぶりながら駆け寄ってくる。
 それを無視する訳にはいかず、ショーンは対応に移った。彼は手にしていた剣を放り投げる。そんな予想外の行動に少年は意表を突かれて動きを止めた。
 その隙にショーンは少年の手からナイフを叩き落としつつ、その背後に回り込んで少年の首に腕を絡ませた。そしてそのまま絶妙な力加減で数秒とかけずに締め落とす。彼にとって素人同然の少年を無力化することは造作も無いことであった。
 ただ、まだ覚悟を決めることが出来ないショーンは、少年の命を奪う事はどうしてもできなかった。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

執筆日記。

2017年12月23日 22時59分13秒 | 日記
 ども、江戸マサヒロです。今回は小説の更新をお休みします。
 前回はなんとか更新したけれど、体調不良で執筆が遅れてギリギリだったので、ストックがもう無いのだ……。まあ、今もちょっと体調が微妙だけど、それなりに描き進める事が出来たので、次回は問題ないはず……だが、もうすぐ年末年始というタイミングなので、家族が帰省してきたりするとちょっと分からん……。

斬竜剣外伝・騎士の在り方-第16回。

2017年12月16日 23時59分41秒 | 斬竜剣
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-戦いの跡-


 ウタラの大多数の民は貧しい。貧しすぎる。そんな民から略奪で奪える物なんてたかが知れていた。だが、彼らにも財産がある。それは身体であり、奴隷としての価値だ。若い男ならば労働力に、女子供ならば性的な目的で富裕層に売ることが出来る。
 だからこのウタラでは人身売買が横行するのである。
 そして、商品価値の無い老人などは容赦なく命を奪われる。事実、街には逃げ遅れた老人の亡骸がいくつも転がっていた。賊が街へ火を放つ際に、商品価値の無さそうな者達を選別したということなのだろう。別に商品価値が無くとも殺める必要までは無かった筈だが、他の住人達の恐怖心を煽って、抵抗する気概を奪ったというところか。
 そんな現実にショーンは怒りを感じていた。持たざる者に残されていた最後の物である命や人間の尊厳までも奪おうとする者達──。こんな治安の乱れた土地に生きる彼らにも、やむを得ない理由があるのかもしれない。そうでもしなければ生きていけないのかもしれない。
 だが、今同情すべきは奪われる側の人間であ。だから幸いにもショーンは、これから倒すべき相手に対して一切の迷いが生じなかった。かけるべき同情の念が見当たらなかった。
 その迷いの無い剣が、最初の1人を切り伏せる。
 そんな思わぬ先制攻撃に、男達は明らかな動揺を見せた。その隙を突いて、ショーンは更に3人を片づけ、近くの路地へ逃げ込む。
「なんだあのガキ! 逃がすなっ!」
 男達の反応は仲間を倒されたことに逆上してショーンを追う者と、未知数の実力を警戒してその場に留まる者の二手に分かれた。
(いい感じに分散してくれたな。これなら各個撃破も難しくない)
 ショーンの思惑通り、彼は戦いやすい場所へ男達を少人数ずつ誘い込み、順番に切り伏せて行った。それは彼にとって流れ作業といってもいいほど簡単な物だった。しかし、彼の実力を警戒して迂闊に後を追おうとはせず、1ヵ所に集まって行動している者達はそうもいかない。
「誘いには乗ってこないな……」
 ショーンは敵の集団からある程度の距離を取って足を止めた。このまま突っ込んだのでは、複数人の敵と同時に戦わなければならなくなる。それは得策ではない。ならば戦い方を変える必要があった。正直、素人同然の連中に対して使うのは卑怯なのではないかと彼は感じたが、ここは剣術の奥義と呼ばれる物を使うことにする。
「はぁっ!」
 ショーンは気合いと共に剣を高速で振り下ろした。その剣先から迸る闘気は衝撃波を発生させ、それは見えない刃と化してあたかも死に神の鎌の如く男達の命を吸い取った。
 剣術の奥義の1つ、「烈風刃」である。
 ショーンの予想外の攻撃に、男達は狼狽える。一体何が起こったのか──それはまだ理解し切れていないかもしれないが、ようやく勝ち目の薄い敵と相対しているということは自覚しただろう。それでも数の上ではまだ彼らの方が上回っており、全員で一丸となって戦えば、勝てないまでもショーンに一矢報いることは可能だったかもしれない。
 だが、彼らにとってショーンは、突如現れた強大な魔獣の類も同然である。そんな存在を前にして、恐怖心を抱くのはむしろ当然だった。今正に彼らの命は、無慈悲に食い尽くされようとしていたのだから。
 それでも未だ果敢に反撃を試みようとする者もいたが、それは極少数であった。ある者は逃走を試みようとし、ある者は呆然とその場に立ちすくんだ。
 そんな統率を失った集団を片づけるのは、最早ショーンにとっては造作もない作業であった。ほどなくして、周囲にはショーン以外に立つ者はいなくなり、そしてその場に聞こえるのは彼の荒い呼吸のみ。
 ショーン自身はそんなに疲弊したつもりは無い。かといって、精神的にも動揺しているつもりも無い。だが、それは現実感が乏しく自覚が無いだけで、やはり倒すべき悪とはいえ、始めて人を殺めた事実が彼の心の奥底をかき乱しているのだろう。それが乱れた呼吸となって現れている。
 しかし、ショーンは未だその理由が理解できずに、いや、心の何処かでは理解しているのだろうが、騎士として強くありたいと願う矜持が弱い心を否定し、理解が及ばずに困惑したままだった。
 それでも、いつまでもそのままでいる訳にもいかない。数分かけてどうにか呼吸を整えたショーンは、周囲にまだ敵の残党がいないかを確認し、シグルーンに合流しようと歩き出す。
 おそらくシグルーンは既に戦いを終えており、ショーンのことを待っているだろう。いや、おそらく今頃は傷付いた街の住人達の手当をする為に動き始めている筈だ。彼もそれを手伝わなければならない。戦いが終わって、それで全てが済んだという訳ではないのだ。むしろこれからの方が、やらなければならないことが多いだろう。
 だがその時、ショーンの目の前の、燃え残った建物の陰に動く物があった。
「子供……?」
 そう、それは子供であった。まだ10歳くらいの男の子……だろうか? 黒い髪がボサボサに伸びているし、身なりもこの国の住人らしく痩せた身体をみすぼらしい服で覆っているのでイマイチ性別が判別できないが、おそらくはそうなのだろう。その顔付きには幼いながらも精悍な物が備わりつつあった。
 どうやら逃げ遅れた子供であるようだった。ショーンは彼を保護する為に慌てて駆け寄る。その瞬間──、
「え?」
 ショーンの脇腹の辺りをナイフがかすめるように通り過ぎていった。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

執筆日記。

2017年12月10日 00時23分29秒 | 日記
 ども、江戸です。今週は腰を痛めて寝込んだ為、小説の執筆が遅れたので更新はお休みします。
 今の時期は寒さの所為か、体調を崩す事が多いですねぇ。過去を振り返ってみても、年末の頃は結構寝込んでいる事が多いような気がする……。

斬竜剣外伝・騎士の在り方-第15回。

2017年12月03日 00時23分48秒 | 斬竜剣
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-初 陣-

 ショーンとシグルーンが街の入り口に辿り着くと、炎から逃げまどう人々が街の外へと逃げだそうとしている姿が確認できた。
 意外なことに住民の避難は始まったばかりのようで、つい今し方までは消火を試みていたらしい。彼らにとっては炎も恐ろしいだろうが、住む場所を失えばそれはそれで生命に関わるのだから当然であろう。夜の冷気や昼間の直射日光、そして風雨に晒されるような環境では、人間の体力は容赦なく奪われる。特に元々の極貧生活で弱り切っていた彼らには、致命的な影響となりかねない。
 また、火を放った張本人の人身売買組織は、
「敵はまだ街の反対側に陣取って、本格的に突入していないようね。まあ、火勢が衰えてからじゃないと、自分達も危ないでしょうし。でもだからこそこちらにも時間的な余裕があるわ」
 と、シグルーンは、ショーンには全く確認する術が無い遠く離れた敵の動向を言い当てた。それが事実ならば、住民達にはまだ直接的な攻撃は殆ど加えられていないだろう。ならばまず優先するのは住民の避難と、火災の鎮圧である。
「さーて、まずはこの炎を消してしまいましょうか」
 シグルーンはおもむろに呪文の詠唱を始めた。厳かなその声には確かに何かしらの力が込められている──魔法は素人である筈のショーンにさえも、そう確信させるものがあった。
「天地(あめつち)の狭間に漂う水の子よ、汝ら集いては霧、弥増(いやま)して集いては雲!」
 その呪文詠唱と同時に、火災より生じた黒煙以外は何も無かった空が俄(にわか)に曇りだし、周囲は急激に薄暗くなった。しかもその生じた雲は街の上空にしか存在せず、まるで街に蓋をしようとしているかのようである。勿論、実際に蓋をする訳ではないが、生じる結果は同じであった。つまりは消火だ。
「祈雨(タキ・トゥー)」
 呪文の完成と同時に、上空の雲から大粒の水滴が大量にこぼれ落ちる。その瀑布(ばくふ)の如き水の激しい攻めによって、街を包む炎の勢いは瞬く間に弱まっていった。
「凄い……!」
 ショーンがこの魔法を見るのは初めてではない。これまでもシグルーンが畑に水を撒く為に使っていたのだが、無論こんな街全体を覆うほどの物ではなく、しかも苗が流出しないようにする為に水量を絞った極めて小規模の物だった。
 だが、これはその気になれば洪水を発生させることも可能だと思える雨の勢いだった。ショーンは改めて天候操作が高度な大魔法であると言われている理由を知った。
「さて、火が消えたから、敵が動くわよ。どうやら街へ突入する集団と、街の外周へ迂回して外に逃げ出そうた住民を捕らえようとする集団に分かれるようね。私は外側を討つから、少年は中ね」
「は、ハイ!」
 シグルーンの指示を受けて、ショーンは直ぐ様街へ突入した。そして、まだ遠くに見える敵と街の様子を見て、何故に自身が街の中を任されたのかを彼は察する。敵の数は15~20人程度のようだが、ショーンにとっては殲滅できないという程ではない。しかし、多勢に無勢であるが故に、万が一も有り得る。
 そこで、まだ残っている建物を遮蔽物として利用するのである。それならば、少なくとも周囲を取り囲まれて1度に複数の敵を相手にしなくても済む。
 逆にシグルーンは、何処にも身を隠す場所がない野原で、複数の敵と同時に渡り合わなければならない。当然、ショーンよりも何倍も危険度は高い。だが、魔法が使える彼女ならば、取り囲まれる前に遠距離から相手を殲滅することも可能だろう。
 だからショーンは、シグルーンの心配はさほどしていない。まずは自分自身の心配の方が先だ。
 前方から剣を振りかぶった男が迫る。幸い一塊になった集団から突出しており、ショーンにとっては1度に多人数を相手にすることもなく、恰好の的であった。
 どうやら男は、ショーンがたった1人で、しかもまだ幼い少年だからと油断しているようであった。しかし、それは無理もないことである。誰が自分の半分にも満たないであろう年齢の子供に、他者の命を簡単に奪えるだけの剣の技量が備わっていると考えるだろうか。だが、その油断が彼にとっての不運であった。
「おい、そこのガキ! その剣を捨てて大人しく従えば命までは取らねぇよ! こちらも乱暴なことをして商品価値を落としたくは──」
 男のその言葉は、最後まで口から吐き出されることは無かった。それよりも前にショーンの剣が、彼の身体の中を何の抵抗もなく通り過ぎていたからだ。


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