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-罪と罰-
小さな少年が突き出したナイフは、ショーンの脇腹をかすめた。幸い反射的に回避したので大事には至らなかったが、素人ならばその刃が腹に突き刺さっていたかもしれない。それほど鋭く殺意がこもった一撃であった。
「な……!?」
突然の事態にショーンは混乱する。それでも彼は、少年からある程度の距離をとって安全を確保したが、対峙した少年が彼に向ける憎しみに満ちた表情を見て更に混乱した。何故このような幼い少年に攻撃を受けなければならないのか、全く理解することが出来なかった。
(……僕を賊の一味だと勘違いしているのか!?)
それならば全ての説明は付く。この少年は身内を賊に殺され、その復讐をしようとしているのではないか。
だが、少年がいた位置は、ショーンと賊が戦っていた場所からさほど離れてはおらず、戦いの一部始終を見ていた可能性が高い。ならば彼と賊が仲間だと勘違いするとは考えにくかった。それなのに少年は、ショーン個人に対して怒りを向けているように見える。
それに先程の少年の攻撃は、小さな子供の物とは思えない鋭さがあった。しかも彼が手にしたナイフは、護身用や日常の作業に使用するような物ではない。明らかに殺傷を目的とした武器だ。つまり──、
(まさか、賊の仲間なのか? この小さな少年が!?)
少年は人身売買組織の一員であり、仲間を全滅させたショーンに対して復讐しようとしている──それならばこの状況も理解できる。
(人身売買組織にとって子供は商品である筈……。それなのにそうなっていないということは、構成員の子供ということか……!? それじゃあ……)
つまりショーンは、この少年の父を、その目の前で殺害してしまったことになる。それならば彼がショーンへ向ける憎悪の視線は当然の物だと言えよう。
いずれにせよ、この少年が賊の一味ならば、ショーンは選択しなければならない。
(人身売買の罪は……死罪……! 組織の一員ならばこの子も例外ではない……!)
この時代、子供ならば犯した罪が軽くなるというような法は無い。罪は罪であり、その重さは大人でも子供でも等しく背負うものだ。また、大人と子供の命に軽重の差も無かった。むしろ病などによる子供の死亡率の高さが故に、その命が軽んじられる風潮すらあるのだ。
だが、ショーンは自らが子供を裁かなければ事態など想定していなかった。覚悟なんぞしてはいなかった。
(どうする……!? こんな小さな子供を……っ!!)
相手を見て対応を甘くするのでは、法の正当性が揺らぐ。目の前の子供にもやむを得ない事情はあるのだろう。しかし、今し方ショーンが手にかけた者達だって、それは同じなのかもしれない。それに本来考えなければならないのは賊の事情ではなく、その被害にあった者達の事情なのだ。彼らは奴隷として売られた先で地獄を味わい、その末に命を落としているかもしれないのだから──。
その報いは必ず受けさせなければならない。だが、ショーンにとって守るべきは弱き者であり、その弱き者の中には子供も含まれる。その子供を罰する事は、彼の信念に相反するものだった。
ショーンは迷い、それが故に立ちすくむ。だが、目の前の少年は待ってはくれず、彼はナイフを振りかぶりながら駆け寄ってくる。
それを無視する訳にはいかず、ショーンは対応に移った。彼は手にしていた剣を放り投げる。そんな予想外の行動に少年は意表を突かれて動きを止めた。
その隙にショーンは少年の手からナイフを叩き落としつつ、その背後に回り込んで少年の首に腕を絡ませた。そしてそのまま絶妙な力加減で数秒とかけずに締め落とす。彼にとって素人同然の少年を無力化することは造作も無いことであった。
ただ、まだ覚悟を決めることが出来ないショーンは、少年の命を奪う事はどうしてもできなかった。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
-罪と罰-
小さな少年が突き出したナイフは、ショーンの脇腹をかすめた。幸い反射的に回避したので大事には至らなかったが、素人ならばその刃が腹に突き刺さっていたかもしれない。それほど鋭く殺意がこもった一撃であった。
「な……!?」
突然の事態にショーンは混乱する。それでも彼は、少年からある程度の距離をとって安全を確保したが、対峙した少年が彼に向ける憎しみに満ちた表情を見て更に混乱した。何故このような幼い少年に攻撃を受けなければならないのか、全く理解することが出来なかった。
(……僕を賊の一味だと勘違いしているのか!?)
それならば全ての説明は付く。この少年は身内を賊に殺され、その復讐をしようとしているのではないか。
だが、少年がいた位置は、ショーンと賊が戦っていた場所からさほど離れてはおらず、戦いの一部始終を見ていた可能性が高い。ならば彼と賊が仲間だと勘違いするとは考えにくかった。それなのに少年は、ショーン個人に対して怒りを向けているように見える。
それに先程の少年の攻撃は、小さな子供の物とは思えない鋭さがあった。しかも彼が手にしたナイフは、護身用や日常の作業に使用するような物ではない。明らかに殺傷を目的とした武器だ。つまり──、
(まさか、賊の仲間なのか? この小さな少年が!?)
少年は人身売買組織の一員であり、仲間を全滅させたショーンに対して復讐しようとしている──それならばこの状況も理解できる。
(人身売買組織にとって子供は商品である筈……。それなのにそうなっていないということは、構成員の子供ということか……!? それじゃあ……)
つまりショーンは、この少年の父を、その目の前で殺害してしまったことになる。それならば彼がショーンへ向ける憎悪の視線は当然の物だと言えよう。
いずれにせよ、この少年が賊の一味ならば、ショーンは選択しなければならない。
(人身売買の罪は……死罪……! 組織の一員ならばこの子も例外ではない……!)
この時代、子供ならば犯した罪が軽くなるというような法は無い。罪は罪であり、その重さは大人でも子供でも等しく背負うものだ。また、大人と子供の命に軽重の差も無かった。むしろ病などによる子供の死亡率の高さが故に、その命が軽んじられる風潮すらあるのだ。
だが、ショーンは自らが子供を裁かなければ事態など想定していなかった。覚悟なんぞしてはいなかった。
(どうする……!? こんな小さな子供を……っ!!)
相手を見て対応を甘くするのでは、法の正当性が揺らぐ。目の前の子供にもやむを得ない事情はあるのだろう。しかし、今し方ショーンが手にかけた者達だって、それは同じなのかもしれない。それに本来考えなければならないのは賊の事情ではなく、その被害にあった者達の事情なのだ。彼らは奴隷として売られた先で地獄を味わい、その末に命を落としているかもしれないのだから──。
その報いは必ず受けさせなければならない。だが、ショーンにとって守るべきは弱き者であり、その弱き者の中には子供も含まれる。その子供を罰する事は、彼の信念に相反するものだった。
ショーンは迷い、それが故に立ちすくむ。だが、目の前の少年は待ってはくれず、彼はナイフを振りかぶりながら駆け寄ってくる。
それを無視する訳にはいかず、ショーンは対応に移った。彼は手にしていた剣を放り投げる。そんな予想外の行動に少年は意表を突かれて動きを止めた。
その隙にショーンは少年の手からナイフを叩き落としつつ、その背後に回り込んで少年の首に腕を絡ませた。そしてそのまま絶妙な力加減で数秒とかけずに締め落とす。彼にとって素人同然の少年を無力化することは造作も無いことであった。
ただ、まだ覚悟を決めることが出来ないショーンは、少年の命を奪う事はどうしてもできなかった。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。