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-魔術師の館-
翌朝、食事を終えた戦乙女騎士団は宮廷魔術師コグラの研究所へと向かう。
騎士団の宿営地とは反対側の村外れにあるその研究所は、貴族の別荘をそのまま流用したのか、屋敷の規模はかなりの豪邸である。ただし、その外観はかなり古く、築数十年は経過していると思われた。充分な管理がされていないのか、館の周囲は雑草に覆われており、壁には蔦植物が生い茂ってさえいる。
それ故に不気味な印象は拭えなかったが、これが魔術師の研究所だと一見しただけで分かる者はほぼ皆無であろう。むしろ廃屋と勘違いする者の方が多そうである。
「これは……面妖な……」
コグラを庇う筈の立場であったリリィがうっかり口走ってしまい、慌てて口を噤んだ。だが、おそらく他の団員達も同じような反応であろう。彼女達の間でコグラに対する不信感が俄(にわか)に増していく。
そして、出来ればこのような不気味な屋敷には近付きたくないというのが本音であるに違いない。だから──、
「全員で押しかけても迷惑だろうから、ウチと他2~3人で話を聞きに行こうか。それ以外の者は屋敷の周囲を調べつつ外で待機ね」
そんなセシカの提案に一同は胸を撫で下ろした。
しかし、そんな彼女達の中からも最低2人はセシカに同行しなければならない。誰が行くのか、お互いに牽制し合っていたその時、
「それでは私(わたくし)が」
リリィが名乗りを上げる。自国の宮廷魔術師からの事情聴取を、余所者であるセシカだけには任せておけないということなのだろう。
「そ、それでは私も……」
続いてリリィに近しい者達が名乗りを上げ、研究所への訪問メンバーはあっさりと決まった。再び胸を撫で下ろす一同である。
準備が整ったセシカ達は門をくぐり、屋敷の玄関へと辿り着いた。そこでセシカは、かなり強めに扉をノックする。大きな屋敷だ。それくらいでなければ中に音は届かないだろう。
しかし反応は無い。
「いないのかな……?」
そしてもう一度、更に強めに扉を叩くが、やはり反応は無かった。不審に思い、セシカは扉を開けて屋敷の中を覗き込む。
「ちょ、ちょっと勝手に!」
リリィがセシカを窘(たしな)めようとするが、彼女は構わずに中へと踏み込んだ。
「中で倒れていたりしたら、手遅れになるっしょ。コグラ殿ーっ?」
「ですが……!!」
その時である、踏み込んだセシカの足が見えない何かに触れたような気がした。直後──、
キャァ──────────ッ!!
と、女性の叫び声ような音がけたたましく鳴り響く。その音のあまりの大きさに、一同は思わず耳を塞いだ。
「な、何これっ!?」
セシカ達は戸惑うが、音の止め方も分からず、ただ身構えることしか出来なかった。
しかし3分ほど経過した頃になって音は唐突に止まり、そして屋敷の奥から人影が現れる。
「何者かね!?」
少々慌てた様子で現れたのは、ローブを纏い如何にも魔法使いという風貌をした細身の男であった。年の頃は四十代前半くらいだろうか。
この男がコグラだというのなら、宮廷魔術師をアースガルの宮廷魔術師筆頭にしてシグルーンの後見人であるホズしか知らないセシカは、「意外と若いな?」という印象を持つ。実際、宮廷魔術師に取り立てられるくらいなのだから、それなりの実績を積んできている筈だが、それにしては若い。
まあ、それを言うなら騎士団長になろうとしているセシカも異例の若さではあるが、魔術に関しては長い研究期間も必要である上に、戦場で前線に出て武功を上げる機会も少ないので、騎士の昇進速度とは単純に比べられない。
「これは失礼した。我々は戦乙女騎士団の者です。この村で起きた事件の調査の為、コグラ様にお話を伺いたく参上いたしました。しかし呼び掛けに反応が無かった為、やむを得ず踏み込んだ所、何らかの魔法を作動させてしまったようだ」
リリィがセシカを差し置いて名乗りを上げる。あまり騎士らしくないセシカに喋らせるよりは信頼を得られやすいという判断だろう。
「そ、そうでしたか……。今、奥で研究に没頭しておりましてな。来客には気付きませんでした。結果、貴公等に対して盗賊対策に仕掛けた精霊が反応してしまったようで、申し訳ない。」
リリィの言葉を聞いたコグラは、明らかに動揺したような表情を一瞬浮かべた。そのあからさまに怪しい態度に、セシカ達は疑念を確信に変えつつある。
「そうでしたか……。ともかく、少々お時間をいただけないでしょうか、コグラ様?」
「え、ええ……。それではこちらの応接室へどうぞ……」
と、何処か嫌々な様子で、コグラはセシカ達を屋敷の奥へと招き入れた。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
-魔術師の館-
翌朝、食事を終えた戦乙女騎士団は宮廷魔術師コグラの研究所へと向かう。
騎士団の宿営地とは反対側の村外れにあるその研究所は、貴族の別荘をそのまま流用したのか、屋敷の規模はかなりの豪邸である。ただし、その外観はかなり古く、築数十年は経過していると思われた。充分な管理がされていないのか、館の周囲は雑草に覆われており、壁には蔦植物が生い茂ってさえいる。
それ故に不気味な印象は拭えなかったが、これが魔術師の研究所だと一見しただけで分かる者はほぼ皆無であろう。むしろ廃屋と勘違いする者の方が多そうである。
「これは……面妖な……」
コグラを庇う筈の立場であったリリィがうっかり口走ってしまい、慌てて口を噤んだ。だが、おそらく他の団員達も同じような反応であろう。彼女達の間でコグラに対する不信感が俄(にわか)に増していく。
そして、出来ればこのような不気味な屋敷には近付きたくないというのが本音であるに違いない。だから──、
「全員で押しかけても迷惑だろうから、ウチと他2~3人で話を聞きに行こうか。それ以外の者は屋敷の周囲を調べつつ外で待機ね」
そんなセシカの提案に一同は胸を撫で下ろした。
しかし、そんな彼女達の中からも最低2人はセシカに同行しなければならない。誰が行くのか、お互いに牽制し合っていたその時、
「それでは私(わたくし)が」
リリィが名乗りを上げる。自国の宮廷魔術師からの事情聴取を、余所者であるセシカだけには任せておけないということなのだろう。
「そ、それでは私も……」
続いてリリィに近しい者達が名乗りを上げ、研究所への訪問メンバーはあっさりと決まった。再び胸を撫で下ろす一同である。
準備が整ったセシカ達は門をくぐり、屋敷の玄関へと辿り着いた。そこでセシカは、かなり強めに扉をノックする。大きな屋敷だ。それくらいでなければ中に音は届かないだろう。
しかし反応は無い。
「いないのかな……?」
そしてもう一度、更に強めに扉を叩くが、やはり反応は無かった。不審に思い、セシカは扉を開けて屋敷の中を覗き込む。
「ちょ、ちょっと勝手に!」
リリィがセシカを窘(たしな)めようとするが、彼女は構わずに中へと踏み込んだ。
「中で倒れていたりしたら、手遅れになるっしょ。コグラ殿ーっ?」
「ですが……!!」
その時である、踏み込んだセシカの足が見えない何かに触れたような気がした。直後──、
キャァ──────────ッ!!
と、女性の叫び声ような音がけたたましく鳴り響く。その音のあまりの大きさに、一同は思わず耳を塞いだ。
「な、何これっ!?」
セシカ達は戸惑うが、音の止め方も分からず、ただ身構えることしか出来なかった。
しかし3分ほど経過した頃になって音は唐突に止まり、そして屋敷の奥から人影が現れる。
「何者かね!?」
少々慌てた様子で現れたのは、ローブを纏い如何にも魔法使いという風貌をした細身の男であった。年の頃は四十代前半くらいだろうか。
この男がコグラだというのなら、宮廷魔術師をアースガルの宮廷魔術師筆頭にしてシグルーンの後見人であるホズしか知らないセシカは、「意外と若いな?」という印象を持つ。実際、宮廷魔術師に取り立てられるくらいなのだから、それなりの実績を積んできている筈だが、それにしては若い。
まあ、それを言うなら騎士団長になろうとしているセシカも異例の若さではあるが、魔術に関しては長い研究期間も必要である上に、戦場で前線に出て武功を上げる機会も少ないので、騎士の昇進速度とは単純に比べられない。
「これは失礼した。我々は戦乙女騎士団の者です。この村で起きた事件の調査の為、コグラ様にお話を伺いたく参上いたしました。しかし呼び掛けに反応が無かった為、やむを得ず踏み込んだ所、何らかの魔法を作動させてしまったようだ」
リリィがセシカを差し置いて名乗りを上げる。あまり騎士らしくないセシカに喋らせるよりは信頼を得られやすいという判断だろう。
「そ、そうでしたか……。今、奥で研究に没頭しておりましてな。来客には気付きませんでした。結果、貴公等に対して盗賊対策に仕掛けた精霊が反応してしまったようで、申し訳ない。」
リリィの言葉を聞いたコグラは、明らかに動揺したような表情を一瞬浮かべた。そのあからさまに怪しい態度に、セシカ達は疑念を確信に変えつつある。
「そうでしたか……。ともかく、少々お時間をいただけないでしょうか、コグラ様?」
「え、ええ……。それではこちらの応接室へどうぞ……」
と、何処か嫌々な様子で、コグラはセシカ達を屋敷の奥へと招き入れた。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。