ども、江戸です。今週は家族の通院の付き添いとかで忙しいので小説の執筆はお休みです。というか、ただでさえ病院に通っている状態なのに、家族全員で風邪気味とかちょっとヤバイ。ここはゆっくり休みたい所だけど、往復4時間の通院を連続4日しなければならないのよねぇ……。
※最初(もしくは他の回)から読みたい人はカテゴリーの目次か、右のリンクをご利用下さい→目 次。
-畑違いの挑戦-
現状を打破する希望を得たショーンは、興奮気味に拳(こぶし)を強く握りしめた。これで多くの人間を救うことが出来るのならば、それは彼にとって人生の目的の1つを達成したとも言える。
いや、救いを求める人間はこの世に限りなく存在する。それが故に、その目的は永遠に叶わない物なのかもしれないが、現状よりも少しでも改善が見込めるのならば、それにこしたことはない。
「つまりこの植物を大量に栽培して、誰でも手に入れられるような状態にすればいいということでね!?」
「そういうこと。ただ、あちこちにグリーンプラントを植えているけれど、まだまだ数が足りないわ。もっと増やしてからウタラの民の手に渡るようにしないと、税をかけるだけの価値が生じてしまうか、すぐに食べ尽くされてしまう。だから少年にはグリーンプラントを増やす為の手伝いをしてもらおうと思ってね」
と、シグルーンはショーンの肩に手を置く。その瞬間、また視界が一変する。
「こ、これは!?」
ショーンの視界は、先程までの荒れ地とは一変した。周囲に山の姿を確認でき、先程よりも若干の空気の薄さも感じる。それに少し気温も低い。どうやら何処かの高地に転移したらしい。
だが、周囲の山々の風景には岩肌ばかりが目立ち、ある意味では先程の荒れ地とあまり印象が変わらないと言えた。ただし、足下の地面に目を向けてみれば、一面が緑色に染まっているという、今までの風景には無かった鮮やかな色彩がある。それはまさにグリーンプラントの群生地であった。
「取り敢えず人里離れた場所で繁殖させて、徐々に人里の近くへ群生地を拡げるつもりよ。そして人々の手に渡るのと同時に、簡単に育てて増やせることを周知させようと思うの。これで更に爆発的にグリーンプラントがこの地に満ちる筈だわ。
まあぶっちゃけ、生態系を大いに狂わせてしまうだろうけれど、元々この土地の生態系は破綻しているから、結果はどのみち大差ないでしょう」
「は、はあ……」
ショーンは戸惑いを含む返事を返す。この時代、生態系の概念はまだ一般的に知られた物ではなく、それは彼にとっても同様だった。ただ、一つの種だけが増えるのが良くないことだけはなんとなく理解できる。クラサハードでもよく蝗(イナゴ)の大発生によって農作物が大打撃を受けたという話を聞いていたからだ。
だから、シグルーンがこれからやろうとしていることが本当に正しいのかどうかは分からない。もしかしたら将来に何か大きな禍根を残してしまう可能性も充分に有り得た。
しかし、これまでのシグルーンからの教えで、全く弊害の無い手段はこの世には殆ど無いということをショーンは学んでいた。結局、少ない選択肢の中から、最善と思えるものを選ぶしかないのだ。
「分かりました……。僕も可能な限り助力したいと思います。ただ、正直言って勝手がよく分かりません」
これからやろうとしていることは、謂わば農業の分野である。シグルーンはともかく、ショーンにとっては完全に専門外であった。
「そこは習うより慣れろ……ってことで、私と一緒にやってみましょう」
「ハ、ハイ!」
この日より、ショーンの騎士道を志す者らしからぬ農耕の日々が始まったのである。
次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。
-畑違いの挑戦-
現状を打破する希望を得たショーンは、興奮気味に拳(こぶし)を強く握りしめた。これで多くの人間を救うことが出来るのならば、それは彼にとって人生の目的の1つを達成したとも言える。
いや、救いを求める人間はこの世に限りなく存在する。それが故に、その目的は永遠に叶わない物なのかもしれないが、現状よりも少しでも改善が見込めるのならば、それにこしたことはない。
「つまりこの植物を大量に栽培して、誰でも手に入れられるような状態にすればいいということでね!?」
「そういうこと。ただ、あちこちにグリーンプラントを植えているけれど、まだまだ数が足りないわ。もっと増やしてからウタラの民の手に渡るようにしないと、税をかけるだけの価値が生じてしまうか、すぐに食べ尽くされてしまう。だから少年にはグリーンプラントを増やす為の手伝いをしてもらおうと思ってね」
と、シグルーンはショーンの肩に手を置く。その瞬間、また視界が一変する。
「こ、これは!?」
ショーンの視界は、先程までの荒れ地とは一変した。周囲に山の姿を確認でき、先程よりも若干の空気の薄さも感じる。それに少し気温も低い。どうやら何処かの高地に転移したらしい。
だが、周囲の山々の風景には岩肌ばかりが目立ち、ある意味では先程の荒れ地とあまり印象が変わらないと言えた。ただし、足下の地面に目を向けてみれば、一面が緑色に染まっているという、今までの風景には無かった鮮やかな色彩がある。それはまさにグリーンプラントの群生地であった。
「取り敢えず人里離れた場所で繁殖させて、徐々に人里の近くへ群生地を拡げるつもりよ。そして人々の手に渡るのと同時に、簡単に育てて増やせることを周知させようと思うの。これで更に爆発的にグリーンプラントがこの地に満ちる筈だわ。
まあぶっちゃけ、生態系を大いに狂わせてしまうだろうけれど、元々この土地の生態系は破綻しているから、結果はどのみち大差ないでしょう」
「は、はあ……」
ショーンは戸惑いを含む返事を返す。この時代、生態系の概念はまだ一般的に知られた物ではなく、それは彼にとっても同様だった。ただ、一つの種だけが増えるのが良くないことだけはなんとなく理解できる。クラサハードでもよく蝗(イナゴ)の大発生によって農作物が大打撃を受けたという話を聞いていたからだ。
だから、シグルーンがこれからやろうとしていることが本当に正しいのかどうかは分からない。もしかしたら将来に何か大きな禍根を残してしまう可能性も充分に有り得た。
しかし、これまでのシグルーンからの教えで、全く弊害の無い手段はこの世には殆ど無いということをショーンは学んでいた。結局、少ない選択肢の中から、最善と思えるものを選ぶしかないのだ。
「分かりました……。僕も可能な限り助力したいと思います。ただ、正直言って勝手がよく分かりません」
これからやろうとしていることは、謂わば農業の分野である。シグルーンはともかく、ショーンにとっては完全に専門外であった。
「そこは習うより慣れろ……ってことで、私と一緒にやってみましょう」
「ハ、ハイ!」
この日より、ショーンの騎士道を志す者らしからぬ農耕の日々が始まったのである。
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今週は町外の眼科へ行ったりしていた為、時間も無いので小説の更新はお休みします。最近は早くも老眼が入り気味なんだけど、眼鏡による矯正視力自体は落ちて無くて良かった。
さて、小説に出てきた「グリーンプラント」ですが、これは私が栽培している多肉植物の「子宝弁慶草」がモデルです。さすがに形状は大幅に変更しましたが、子株が大量について増やすのが容易な所はそのままで、前々から食用とかに有効活用出来ない物かと思っていました。それを小説に活用したのが今回の話です。
ただ、初期の段階では「グリーンプラント」の設定は無く、漠然と何らかの野菜を使おうと考えていたように思います。だから繁殖力が強いとかいう設定があったかどうかも朧気。
さて、小説に出てきた「グリーンプラント」ですが、これは私が栽培している多肉植物の「子宝弁慶草」がモデルです。さすがに形状は大幅に変更しましたが、子株が大量について増やすのが容易な所はそのままで、前々から食用とかに有効活用出来ない物かと思っていました。それを小説に活用したのが今回の話です。
ただ、初期の段階では「グリーンプラント」の設定は無く、漠然と何らかの野菜を使おうと考えていたように思います。だから繁殖力が強いとかいう設定があったかどうかも朧気。
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-食糧問題の解決策-
ショーンは追いついてきたシグルーンの存在に気付いてはいたが、今更泣き顔を取り繕うのも潔(いさぎよ)くないと思い、涙は流れるに任せた。そして落ち着くと彼は、
「申し訳ありません、見苦しい所を見せてしまいました」
と、照れ笑いを浮かべながら詫びた。
シグルーンはそれを柔らかい微笑みで受け止めた。この飾らなさは好ましいと彼女は思う。不必要に高い誇り(プライド)は、時として己を縛る。信念があるのはいい。だが、それにこだわりすぎて判断を誤るのでは元も子もないのだ。
その点ショーンは、まだ柔軟性があり、その若さが故に伸びしろもある。今後の成長が楽しみだとシグルーンは思う。だから、彼に妙案を与える。
「さて……今後の方針だけど、以前ウタラの問題はウタラ自身で解決すべきだと言ったわね?」
「ハイ……しかし街の状況を見た限り、民の方から何かできるとは……」
「そうね、少なくとも食料の自給に関しては、作れば作るだけ重税を課されて、更に貧しくなるだけなんだもの、みんな無駄だと思っているわね」
それならば、やはり元凶であるウタラの王政を打倒するしかないのか──ショーンは暗澹たる気分に陥る。だが、シグルーンは、
「だから私達が少しだけ手助けをしてやる必要があるわ。ねぇ少年、その辺に転がっている石に価値があると思う?」
と、問う。ショーンはその意図が読めずにポカンとする。
「は?」
「所有することで財産となり、徴税の対象になり得るか……という意味よ?」
「それは……その中身に貴金属が含まれているということでもなければ無理なのでは……? 何処にでも有る石ならば誰も欲しがらないですし、ほぼ無価値です」
「そうね。過去には何処にでも有り、生きる為に絶対必要な空気を呼吸する行為に対してすら税をかけた頭のおかしい君主もいなかった訳ではないけれど、通常はそこまでしないわ。
物の価値というのは、稀少だからこそ多くの人間が欲し、その結果価値を高めるのよ。逆に誰もが手に入れられる物の価値が低いし、課税の対象外になるわ。そんな物にわざわざ重税を課せば、さすがに民も生きていけないと反発するからね。かといってその価値に見合う低税にすれば、税を徴収する過程でそれ以上のコストがかかってしまうのよね」
「……! つまり、ウタラの民が得る食料が、租税の対象にならないほどありふれた物にすればいいということですか!?」
ショーンの答えにシグルーンは満足げに頷く。だが、ショーンの顔はまだ納得していない風であった。自分自身で答えておいてなんだが、そんな都合のいい食物があれば、この世から食糧危機なんて問題はとっくに払拭されている筈だ。
「あ~、少年の言いたいことも分かるわよ? でも、正直不味いのよねぇ……アレ」
「……不味い……のですか」
シグルーンの意外な答えに、ショーンはわずかに脱力した。
「そう、その上栄養価もそんなに高くないから、あくまで餓死を防ぐ為のその場凌ぎにしかならないというか……。通常の市場で取引されるようになるまでには、もっと品種改良しないと駄目な代物なのよ」
「でも、あるのですね? このウタラの状況を少しは改善出来そうな物が!」
「ええ」
ショーンの瞳に希望の色が灯る。この世の地獄とも言えるこのウタラの現状を打ち破る突破口があるのならば、それは純粋に喜ばしいことであった。
「それで、それは一体どのような食べ物なのですか?」
子供のように──実際に子供とも言える年齢だが──急かすショーンの姿に、シグルーンは湧き上がった頭を撫で回したくなる衝動を抑えながら、また何処からともなく植物の苗を取り出した。
それは何処かホウレンソウに似た植物であったが、その葉の裏に5mm程度の無数の何かが木の枝になる果実のようにぶら下がっているのが確認できた。
それをよく見れば、苗の姿をそのまま小さくした物のように見える。
「これは……子株なのですか?」
「そう、葉の裏に大量の子株を付けて、短期間で爆発的に増えるわ。場合によっては親株に繋がった子株の状態の時から更に子株……いや孫株と言うべきかしらね、それを付けることすらある。
しかも荒れた土地の少ない水でも育つから、本当に増やすのは簡単なのよ。この繁殖力に優れた植物は、名付けるなら緑の工場(グリーンプラント)って所ね!」
シグルーンが自慢げにその植物を頭上高く掲げた。この奇妙な植物こそが、このウタラを革新的に変える救い主となるかもしれない物であった。
それがショーンの目には、沈みかけた太陽の朱色にに照らされて、どことなく神聖な雰囲気を帯びてるようにも見えた。
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-食糧問題の解決策-
ショーンは追いついてきたシグルーンの存在に気付いてはいたが、今更泣き顔を取り繕うのも潔(いさぎよ)くないと思い、涙は流れるに任せた。そして落ち着くと彼は、
「申し訳ありません、見苦しい所を見せてしまいました」
と、照れ笑いを浮かべながら詫びた。
シグルーンはそれを柔らかい微笑みで受け止めた。この飾らなさは好ましいと彼女は思う。不必要に高い誇り(プライド)は、時として己を縛る。信念があるのはいい。だが、それにこだわりすぎて判断を誤るのでは元も子もないのだ。
その点ショーンは、まだ柔軟性があり、その若さが故に伸びしろもある。今後の成長が楽しみだとシグルーンは思う。だから、彼に妙案を与える。
「さて……今後の方針だけど、以前ウタラの問題はウタラ自身で解決すべきだと言ったわね?」
「ハイ……しかし街の状況を見た限り、民の方から何かできるとは……」
「そうね、少なくとも食料の自給に関しては、作れば作るだけ重税を課されて、更に貧しくなるだけなんだもの、みんな無駄だと思っているわね」
それならば、やはり元凶であるウタラの王政を打倒するしかないのか──ショーンは暗澹たる気分に陥る。だが、シグルーンは、
「だから私達が少しだけ手助けをしてやる必要があるわ。ねぇ少年、その辺に転がっている石に価値があると思う?」
と、問う。ショーンはその意図が読めずにポカンとする。
「は?」
「所有することで財産となり、徴税の対象になり得るか……という意味よ?」
「それは……その中身に貴金属が含まれているということでもなければ無理なのでは……? 何処にでも有る石ならば誰も欲しがらないですし、ほぼ無価値です」
「そうね。過去には何処にでも有り、生きる為に絶対必要な空気を呼吸する行為に対してすら税をかけた頭のおかしい君主もいなかった訳ではないけれど、通常はそこまでしないわ。
物の価値というのは、稀少だからこそ多くの人間が欲し、その結果価値を高めるのよ。逆に誰もが手に入れられる物の価値が低いし、課税の対象外になるわ。そんな物にわざわざ重税を課せば、さすがに民も生きていけないと反発するからね。かといってその価値に見合う低税にすれば、税を徴収する過程でそれ以上のコストがかかってしまうのよね」
「……! つまり、ウタラの民が得る食料が、租税の対象にならないほどありふれた物にすればいいということですか!?」
ショーンの答えにシグルーンは満足げに頷く。だが、ショーンの顔はまだ納得していない風であった。自分自身で答えておいてなんだが、そんな都合のいい食物があれば、この世から食糧危機なんて問題はとっくに払拭されている筈だ。
「あ~、少年の言いたいことも分かるわよ? でも、正直不味いのよねぇ……アレ」
「……不味い……のですか」
シグルーンの意外な答えに、ショーンはわずかに脱力した。
「そう、その上栄養価もそんなに高くないから、あくまで餓死を防ぐ為のその場凌ぎにしかならないというか……。通常の市場で取引されるようになるまでには、もっと品種改良しないと駄目な代物なのよ」
「でも、あるのですね? このウタラの状況を少しは改善出来そうな物が!」
「ええ」
ショーンの瞳に希望の色が灯る。この世の地獄とも言えるこのウタラの現状を打ち破る突破口があるのならば、それは純粋に喜ばしいことであった。
「それで、それは一体どのような食べ物なのですか?」
子供のように──実際に子供とも言える年齢だが──急かすショーンの姿に、シグルーンは湧き上がった頭を撫で回したくなる衝動を抑えながら、また何処からともなく植物の苗を取り出した。
それは何処かホウレンソウに似た植物であったが、その葉の裏に5mm程度の無数の何かが木の枝になる果実のようにぶら下がっているのが確認できた。
それをよく見れば、苗の姿をそのまま小さくした物のように見える。
「これは……子株なのですか?」
「そう、葉の裏に大量の子株を付けて、短期間で爆発的に増えるわ。場合によっては親株に繋がった子株の状態の時から更に子株……いや孫株と言うべきかしらね、それを付けることすらある。
しかも荒れた土地の少ない水でも育つから、本当に増やすのは簡単なのよ。この繁殖力に優れた植物は、名付けるなら緑の工場(グリーンプラント)って所ね!」
シグルーンが自慢げにその植物を頭上高く掲げた。この奇妙な植物こそが、このウタラを革新的に変える救い主となるかもしれない物であった。
それがショーンの目には、沈みかけた太陽の朱色にに照らされて、どことなく神聖な雰囲気を帯びてるようにも見えた。
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