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江戸前ラノベ支店

わたくし江戸まさひろの小説の置き場です。
ここで公開した作品を、後日「小説家になろう」で公開する場合もあります。

潜夜鬼族狩り 第47回。

2021年11月07日 14時22分53秒 | 潜夜鬼族狩り
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罪の報い
 
「ひ……!!」
 
 もしも今のが人体にやられたしたら、どういう結果になるのか? 
 そんなのは想像するまでもなかった。
 おそらく高確率で死ぬ。
 
 たとえ死ななくても、生きながらにして地獄を一足早く経験することになるだろう。
 壮前は、そんな経験は絶対に嫌だった。
 
「た、助けてくれ。
 わしらの非礼は謝る。
 金輪際あなた達の関係者には、一切手出しもしない。
 いや、今日限り、わし達は解散してもう世の中には一切の迷惑はかけない。
 だから、どうか許してくれっ!」
 
 壮前は床に額を擦り付けんばかりの勢いで土下座した。
 
「随分虫のいい話だな。
 そんなのが通ると思っているのか? 
 お前達が殺した人間達は、泣いて許しを請うただろう?
 それをお前達はどうした?」
 
「そ、そのことは後悔している。
 同じ立場に置かれて、なんて非情な真似をしたのかと悔いている。
 それは一生かけて償っていくつもりだ。
 
 それに、わしにはまだ小さな娘がいるんだ。
 何年も寝たきりになっている父親もいる。
 ここでわしに何かあったら、残された妻一人で面倒を見ていかなければならなくなるんだ。
 
 遺された者が苦しむことになる。
 そんなのはあんたの本意じゃないだろう? 
 わしは確かに、殺されても仕方が無いようなことをしてしまったかもしれんが、わしの家族にまで恨みが有る訳でもないだろう? 
 わしではなく家族を助けると思って、どうか命ばかりは……!」
 
 深々と頭を下げる壮前を見下ろしながら、誓示は大きく嘆息した。
 
「そんな使い古されたお涙頂戴の命乞いなんて、今時はやらないな……」
 
 そんな誓示の呟きに、壮前はビクリと身を震わせた。
 情に訴えかけて見逃してもらうという手は、通用しなかったようだ。
 では、次はどのような手段でこの場を凌ごうか、そう素早く計算し始めたその時、
 
「家族に感謝するがいい……」
 
「そ、それでは……?」
 
 意外な言葉が誓示から返ってきた。
 
(今のデタラメが通じたのか。
 思いのほか相手は甘ちゃんだったな)
 
 と、壮前は内心でほくそ笑んだ。
 壮前は独り身で、両親もすでに他界していたのだから──。

 が、誓示からは更に意外な言葉が返ってくる。
 
「これから長い長いリハビリ生活を送らなければならないお前の面倒を、見てくれるのだからな」
 
 その言葉に壮前はガバリと顔を上げた。
 すると、彼の眼前に誓示は呪符を突きつけていた。
 彼を見下ろす誓示の瞳は冷たい光をたたえ、一切の感情が消えていた。
 それは壮前にかける情けも、全く無いということだ。
 
「お前達が殺した人間には、家族がいなかったと思うのか? 
 そんな自分だけが例外だなんて、甘い話は通らないよ」
 
「ひ……」

 天は、壮前の「どうか命ばかりは」という願いを聞き入れてくれた。
 誓示も、壮前の願いを聞き入れてくれた。
 だが、結果は壮前の理想とは全く異なる。
 
 壮前は、どうにか命だけは取り留めたが、何年にも亘る厳しい治療とリハビリを、支える家族も無く、一人で孤独に耐えていかなければならなくなった。
 しかも結局彼の身体は、生涯完全な健康体に戻ることはなかったという。
 

 その日──壮前建設は、死者こそ出なかったが、何者かよって関係者のほぼ全員が重体にされるという凄惨極まりない攻撃を受けた。
 しかも、多くの者が健常者としての再起を見込めないほどの傷を負っていた為、壮前建設という組織は再建も見込めず、事実上壊滅した。
 
 しかしこれだけの大きな事件でありながらも、不思議とそのニュースは新聞の地方欄の片隅で反社会勢力団体同士の抗争事件として、小さく扱われただけだったという。
 ただ、この壮前建設の一件は、裏の社会で都市伝説のごとく畏怖の対象として噂されている、とある除霊事務所に関する一エピソードとして、末永く語り継がれるようになり、その語りの結びは決まって、
 
「もし除霊事務所が交渉にやってきたら、絶対に逆らうな」
 
 ──というものとなった。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

潜夜鬼族狩り 第46回。

2021年10月31日 14時04分18秒 | 潜夜鬼族狩り
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追い詰められた獲物

 その圧倒的なまでの誓示の強さは、間違いなく人間の次元には無い。
 それが直感的に理解できたのだろう。
 壮前は脅えきった表情で、机の陰に慌てて駆け込んだ。

 勿論、今更身を隠したところで、誓示から逃れられる訳でもないが、彼と対峙しているだけでも耐え難い恐怖を感じてしまい、そうせずにはいられなかったのだ。
 
「……お前がここの社長か? 
 敬愛する所長のお嬢さんに喧嘩を売ったという、身の程知らずの馬鹿野郎の壮前とかいう奴は……」
 
 壮前は誓示に呼びかけられて、縮み上がった。
 そしてとっさに、
 
「ち、違う、わしはここの担当税理士だ!」
 
 と、穴だらけの嘘をついて、誤魔化そうとした。
 何処の世界に出会い頭の人間に向けて、銃弾を撃ち放つ税理士がいるのだろうか。
 しかし壮前には、そんな細かいことを気にしていられる余裕はなかった。
 
「ん~?」

 誓示は胡散臭そうに、壮前が隠れている机を眺めていたが 、
 
「あ、やっぱりあいつか。
 分かった」
 
 と、また独り言を言っている。
 
「……お前が壮前だってことは、もうバレているからよ。
 さっさと出てきな」
 
「ば、馬鹿なっ、何を根拠に私が壮前だと言うんだ……!!」
 
 壮前は狼狽えた声音で机の陰から反論するが、その狼狽しきった声は十分に根拠になると思われた。
 だが、それ以上に確かな根拠を誓示は掴んでいる。
 
「……お前に恨みを持っている霊の団体さんが、みんな口を揃えてお前が壮前だって言っているんだけどなぁ。
 あくどい商売で結構な数の人間を破滅させてるな、お前。
 日頃の行いが悪いと、いざという時に命取りになるぞ。
 ま……今更忠告しても遅いが」
 
 そう呟くように言いながら、誓示はゆっくりと壮前が潜む机に歩み寄った。
 近寄ると、もう殆ど壮前の姿は丸見えなのだが、それでも壮前は冬眠中の熊のように身を丸めて、身を隠そうとしている。
 
「な……な、霊だと? 
 そんなものが見えるだなんて、信じられるかっ!」
 
「……一応うちの表の家業は、除霊屋なんだけどな……。
 しっかり見えるぞ。
 なんならここにいる団体さんの名前を読み上げてやるか? 
 ミシマタツヒコ……カトウマサシ……」
 
「し、知らん、そんな名前は知らん!」
 
 それは本当だった。
 壮前には、今誓示が読み上げている名前には心当たりが無い。
 だが、それは彼が無実だからという訳ではない。
 いちいち食い物にした相手のことなど、憶えていなかっただけだ。
 単なる金蔓の名前や人格など、彼にとっては興味の対象外だった。
 しかし──、
 
「ヒロカワレイコ……オオモトサクラ……」
 
 名前が女性名になると、いくつか心当たりのある名前が出てきた。
 当然だ。
 それらは、壮前が一時期愛人として囲っていた女達の名前だった。
 
 しかし彼女らは、壮前が飽きた途端に風俗業界等に売り払ってしまった。
 その中には逃げられないように麻薬漬けにされた末に、禁断症状で廃人となってしまった者や、自殺してしまった者、果ては臓器としてばら売りされてしまった者までいる。
 
(何故、こいつがその名を知っている!?)
 
 壮前は思わず誓示の方を見る。
 そして誓示と目があった。
 
「心当たりがあるだろ? 
 ざっと17人……随分と人を死に追いやったな。
 死人だけでもこれだ……被害者はこの何十倍もいるだろうな。
 これはお嬢さんの頼み抜きでも放ってはおけないし、被害者の皆さんが声を揃えて代わりに仇を討ってくれ……と、俺に頼んでいる……。
 ……覚悟はいいか?」
 
 誓示は笑う。
 獲物を追いつめた獣のような笑みだ。
 そして彼はコートの懐に手を差し込んだ。
 それを見た壮前は、「殺らなければ殺られる」と、反射的に手にしていた匕首を引き抜き、誓示に斬りかかった。
 ところが、
 
「刃を禁ずる」
 
 壮前の斬撃は、誓示が懐から出した呪符に受け止められた。
 ただの紙にしか見えないのに、まるで厚い鉄板であるかのように刃を弾き、その衝撃で刀身は折れてしまった。
 
「ぐああああっ!?」
 
 壮前は悲鳴を上げた。
 刀身が折れるような衝撃だ。
 匕首を手にしていた壮前の手首も無事では済まない。
 捻挫か、はたまた骨折か、その怪我の程度は見た目では分からないが、彼は匕首を取り落とし、右の手首を左手で押さえながら床に蹲った。
 
「なに痛がってるんだ? 
 そんなの、これからお前が負う傷から比べれば、かすり傷だろう……」
 
 と、誓示は手にしていた呪符を手近にあった机に貼り付けた。
 すると、机は瞬く間に爆薬で爆砕されたかのように原形を失った。
 だが、不思議と大きな音がすることも無く、破片はさほど飛び散らずに静かに床へと散乱した。

 一体何をどうすれば、こんな風に物体を破壊することができるのだろうか。
 理解しがたい現象を目の当たりにして、壮前は恐怖に顔を歪めた。

 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

潜夜鬼族狩り 第45回。

2021年10月24日 15時11分15秒 | 潜夜鬼族狩り
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禁術の男
 
 足音は、壮前がいる部屋の前で一旦は止まる。
 誰かが中を覗き込んでいるような気配はあったが、やがて足音は通り過ぎていった。
 壮前は安堵して、机の陰から顔を覗かせて周囲の様子を探ろうとしたが、その途端、遠ざかりつつある足音が止まる。

 そして──、
 
「ん? ああ、さっきの事務所に一人隠れてる? 
 なんとなくそんな気もしたが、やっぱりそうか」
 
 誓示の独り言が聞こえてくる。
 その内容は誰かと会話しているかのようだが、声は一人分しか聞こえてこない。
 ならばやはり独り言だ。
 
 しもかく、足音が足早に戻ってくる。
 
「ひ、ひいいいいっ」
 
 壮前は事務室の入り口へと銃口を向けた。
 彼は恐怖のあまり、完全に冷静さを失っていた。
 だから人影か部屋の入り口に現れた瞬間には、相手が誰なのか確かめることもなく、勢い良く引き金を引いていた。

 もしも部下だったらどうするかなんてことは、撃ってしまってから気がついた。
 思いのほか大きな発砲音が、彼にわずかな冷静さを取り戻させたのだ。
 だがすぐに彼は、先ほど以上に混乱することになる。
 
「弾丸を……禁ずる」
 
 壮前の撃った弾丸は、事務室に入ってきた男──誓示の額に命中したものの、まるで土塊であったかのように弾けて脆くも砕け散った。
 
「っ!? 
 ……っっ!?」
 
 混乱した壮前は、更に誓示目掛けて弾丸を撃ち放った。
 何発も何発も、果ては弾が切れて、何も発射されなくなってもカチカチと引き金を引いている。
 
 その結果──誓示は無傷だった。
 弾丸は全て彼に命中はしていたが、何故か弾丸の全ては誓示の身体を少しも傷つけることなく、逆に砕け散ってしまっていた。

 これは誓示の身体が、鋼鉄のような硬度を持っている──という訳ではないだろう。
 いかに硬い物質に撃ち込んだところで、弾丸はそう簡単には砕けない。
 たとえ厚い鉄板に撃ち込まれたとしても、跳弾してあさっての方向に跳んでいってしまうのが普通だ。
 
 これは誓示の仕掛けた術によって、弾丸の方が脆くなったのだ。
 誓示は呪禁道の術を基本として使っているが、有用なものであればその術系統はこだわらずに取り入れて融合させ、更に大幅なアレンジを加えて使っている。
 彼が今しがた使ったのは、どちらかといえば道教で伝わるところの禁呪に近い。

 しかし、呪禁道や道教と言われても、一般人にはそれがなんなのかよく分からないだろう。
 呪禁道とは、現在の密教系陰陽道の源流の一つとなったとも言われる呪術の系統である。
 陰陽道ならば映画やテレビドラマ等で脚光を浴びたことがあるので、一般人でもどのようなものなのかはある程度分か分かって貰えると思うが、つまり呪禁道はその陰陽道の親戚のようなものだと思ってもらえれば差し支えないし、両者を区別しなければならない必要性も無い(勿論、両者とも厳密には同じ物ではないことは確かなのだが)。
 
 一方道教とは、平たく言えば仙術──つまり仙人が使う術の系統である。
 仙人は人間が神になろうと試みた結果生まれた物であるとも言われており、それだけに道教の術の中には不老不死の秘術等、神かがった効力を持つものも多い。
 
 その中に対象物の性質を禁じて、その働きを奪うことができる術がある。
 例えば、水を禁じれば熱しても沸騰せず、冷やしても凍らなくなる。
 また、刃物を禁じればその刃は全く斬れなくなり、人を禁じればその精神活動を封じて術者の操り人形と化すという。
 これが禁呪である。
 
 とはいえ、一体どうすればそのようなことができるのか、それは術を使っている当の誓示自身でさえも一般人に納得できるように説明することは難しいだろう。
 言うまでもなく誓示が行ってみせたのは、完全にこの世の物理法則の常識の埒外に属する現象だからだ。
 
 ただ、あえて言うのならば、かつて人々は、あらゆる物質や現象には、神や命や心が宿るものだと信じていた。
 樹や獣や石や道具や山や雷や風──と、とにかく万物に心があるのだと信じられていた。
 そして、そこに心があるのならば、その心に働きかけて、人の望む結果を得られることも可能だと信じられていた。
 
 例えば山や川の神を祀って自然災害が起こらないように、あるいは作物の豊作を祈願するなど、実際に効果があったかどうかは別の話だが、今日でも日本全国で行われている祭事の数々は、そのような思想に基づいて行われるようになったはずだ。
 同様に禁呪に限らず、あらゆる魔術・呪術の多くは、それを根元としているのではなかろうか。
 
 そのことを踏まえて誓示の行った術の原理を意訳すると、「弾丸の意識に『自分は脆い』と強烈な暗示をかけて本当に脆く変化させた」──こんなニュアンスとなるだろうか。
 人間でも只の棒を焼けた火箸だと信じ込ませた上で押しつけられれば、熱さを感じ、火傷を負うことさえあるというのは有名な話だ。

 心はそれほどまでに肉体に影響を与えるのだから、もしも弾丸にも心があるのならば、同じような現象は起こり得る。
 無論、これは概念的な例えであって、実際にはもっと常人には理解できないような複雑な法則や力が働いているのだが。
 
 ともかくだ──誓示のこの術は、彼にほぼ無敵にと呼んでも過言ではないほどの大きな加護を与えていた。
 この術の加護がある限りは、自動小銃の連射はおろか、戦車砲弾の直撃でさえも彼を傷つけることは不可能だろう。
 理論上は核兵器ですらも無効化できるのかもしれない。


 ※「禁呪」については、20年くらい前に読んだ本の知識を元にしているので、正しいかどうかは分かりません。あくまでフィクションとしてお楽しみください。

 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

潜夜鬼族狩り 第44回。

2021年10月17日 13時35分23秒 | 潜夜鬼族狩り
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 迫る足音
 
 正体不明の尋常ならざる敵の来襲に、壮前の部下達は激しく動揺した。
 そんな部下達を、壮前は激しく叱責する。
 
「オロオロしてねぇで、さっさと迎撃しろっ!!」
 
「ハ、ハイっ!!」
 
 壮前にがなられて、部下達は慌てて思い思いの得物を手にし、部屋を出て行く。
 部屋に残された壮前は、再びモニターに視線を移す。
 
 そこには未だに誓示の姿があった。
 ドアは既に開いているのだから、壮前側の迎撃体勢が整っていない今の内に行動を開始した方が有利なはずなのだが、余裕があるのか誓示は悠然とそこに立っていた。
 
 おもむろに誓示は、カメラの方へ視線を向ける。
 そしてその向こうに壮前がいることが分かっているかのように、カメラのレンズを睨め付けて、そしてニヤリと笑った。
 その瞬間、モニターの映像が何故か途切れた。
 誓示は笑う以外の動きは、一切していなかったはずなのに──。
 
「…………!?」
 
 壮前には何か自身の理解できない事態が、着実に進行していることだけは理解できた。
 だが、それは何の解決にもならない。
 払拭できずにただ増大していくだけの恐怖をどうにかして和らげようと、重役向けの豪奢な机の引き出しの中を引っかき回して、拳銃を取り出した。
 
 しかしそれでもまだ足りないとでも言うかのように、棚の上に飾っておいた匕首も引っ張り出す。
 普通の人間を相手にするには、十分過ぎるくらいの武装だ。
 この装備の前では、どんな人間でも敵ではない。
 
 いや、そもそも拳銃やら刃物やらで武装した十数人を倒して、この3階の事務所まで辿り着ける者などいるはずがない。
 壮前の装備は必要の無い物だ。 
 ──相手が普通ならば。
 
 下の階から銃声が聞こえてくる。
 10発、20発……と、1人の人間に向けて放たれたものとは思えないような数の、発砲音が聞こえてくる。
 普通ならば、最初の1~2発で十分に敵を撃退できたはずだ。
 それにも関わらず、銃声はなかなか止まない。

 それどころか、ついにはドドドドドドドと、自動小銃の連続発砲音まで聞こえてくる。
 何故、たった1人の人間に対して、そんなものまで使う必要があるのか。
 
 答えは簡単だ。
 相手がそれを使わなければ勝てないような、化け物だからだ。
 そして永遠に続くかと思われるほど長い自動小銃の発泡音が唐突に途絶え、壮前建設に静寂が戻る。
 
「や……やったのか?」
 
 壮前はそうひとりごちたが、何かがおかしかった。
 先程の喧噪が嘘のように、この建物は静寂に包まれていた。
 それは侵入者と、それを迎撃する者との間に行われた戦闘が終息したことを示していたが、それにしても静かすぎる。
 人の気配が無さすぎた。

 一体十数名に及ぶ壮前の部下達は、どうなってしまったのだろうか。
 重い静寂が辺りを支配していた。
 いや、完全な静寂ではない。
 
 コツコツと、足音が聞こえてきた。
 それも、おそらくはたった1人分だけ。
 
「ひ……」
 
 壮前は震え上がって、机の陰に身を隠した。
 
 どうか自分の存在に気づかないまま帰ってもらいたい──と、神へ必死に祈った。
 こんなに真剣に祈るのは、3年前に牡蠣にあたって酷い腹痛や下痢に悩まされた時以来だ。
 あの時は1日で5kg以上も体重が落ちて本気で死ぬかと思ったが、今回はその時以上に危機的状況だった。
 
(神様……!! もう悪いことはしません。
 この場がしのげたら、この業界から足を洗って、真面目に生きていきますから、どうか命ばかりは……!!)
 
 それは壮前がこの世に生まれ出て以来、最も強い願いであったかもしれない。
 だからなのか、その願いは天へ通じた。
 彼の望みを裏切る形で──。


 次回へ続く(※更新は不定期。更新した場合はここにリンクを張ります)。

潜夜鬼族狩り 第43回。

2021年10月10日 14時28分18秒 | 潜夜鬼族狩り
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その道のプロ

 沙羅が新人を獲得してから30分ほど経過した頃、壮前建設の社屋を一人の男が見上げていた。
 年の頃は30前後のその男は、一見すると整った顔立ちをしている。
 しかしどことなく人生に疲れたような、虚無感が漂う表情を見ると、魅力的というには少々微妙なところがある。
 
 それに180 cm近くある痩身を、薄い茶色かがったコートで覆っているという風貌が少々異様だ。
 暦上はまだ春だとはいえ、そろそろコートは暑苦しい。
 
 しかも、そのコートはなんとなく重量感がある。
 おそらくそれは、先ほどから風が吹いても一切なびかない所為だろう。
 コートの内側に何かが仕込まれていると連想させるには、十分な重量感があった。
 
 やがて、男はゆっくりと壮前建設の入り口へ向けて歩き出す。
 彼の名は長谷川誓示。
 久遠除霊事務所に所属する男である。
 
 誓示は入り口の脇にあるインターホンのボタンを押して、抑揚の無い声音で呼びかけた。
 
「毎度ー。
 久遠除霊事務所でーす。
 先ほどの件で改めて伺いましたー」
 
「…………」
 
 しかし、インターホンからは、何の反応も返ってこなかった。
 仕方が無いので誓示は、とりあえずドアノブを回してみるが、鍵がかかっていて開かなかった。
 もう一度インターホンに呼びかけてみるが、やはり反応は無い。
 
 一方、壮前建設3階にある事務室では、劇的な反応が起こっていた。
 
「しししし、社長、き、来ました、女じゃねーけど、久遠除霊事務所とか名乗っています!」
 
 入り口に備え付けられた監視カメラのモニターを覗き込みながら、中年の構成員が叫んだ。
 その声を受けて、背後に控えていた壮前建設社長・壮前恒男以下部下の面々の間に緊張が奔る。
 壮前は部下を押しのけてモニターを覗き、強張った表情を浮かべた。
 
「こいつは……!!
 どう見てもコートの中に、武器を隠し持っているじゃねーか。
 本気でうちを潰しに来たのか……」
 
 壮前は背筋に冷たいものを走らせた。
 おそらく相手は本気だ。
 さきほど女を追って出て行った若い構成員達が逃げ帰ってきたが、彼らの話からは、相手が人の腕を切り落とすことさえ平気でやってのけるような、ある意味自分達と同種の人種であることは既に把握している。
 そんな連中が、ただ脅しに来ただけということは考えられない。
 
「どうします? 
 このままシカトしていたら、大人しく帰ってくれますかねぇ?」
 
「どうだろうな……。
 だが、無理矢理乗り込むにしても、あの扉は頑丈だから簡単には壊せやしない。
 奴が入り口で手間取っている間に、迎撃の準備を整えておけ!」
 
 壮前がそう部下に命じている間に、モニターの中では誓示が懐から一本の針金を取り出して、ドアの鍵穴に差し込んでいた。
 
「ん……?」
 
 そして、壮前が誓示の行動に気がついた時には、もうドアが開いていた。
 
「なぁーっ!?」
 
「社長ーっ!! だからあんな旧式の鍵じゃなくて、電子ロックにしようって言ったじゃないですかーっ!!」
 
 部下の男が悲鳴を上げる。
 だがあんな針金で、しかも僅か1~2秒で、鍵をあっさりと開けてしまうなんてことは、空き巣のプロでも容易なことではないだろう。
 下手をすると、合い鍵で普通に鍵を開けるよりもまだはやい。
 
 ともかく、何処かの組と抗争中の時分ならば話は別だが、わざわざ反社会勢力団体の事務所に忍び込む命知らずの者などいるはずもないからと、防犯設備にかける金を渋ったのが仇となった。
 
「な……なんだこいつは?」
 
 一同に動揺が走る。
 とりあえず相手がプロだということだけは分かった。
 一体何のプロなのかまではよく分からないが、少なくとも鍵を一瞬で無効化して、不法に家宅侵入しようとしている者が、人畜無害ということはまず有り得ない。

 これから侵入してくる男は、間違い無く危険な猛獣だった。


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