江花和郎@ブログ

2005~2011年連合新潟会長を務める間書いたブログをその後も時々更新しています。

ボツになったレビュー

2012年10月17日 | 映画
地元紙に掲載する映画レビューを上映館から依頼されて書いたのですが、映画館から新聞社に原稿が渡った段階で記者から「映画紹介は、映画評論家の佐藤忠男氏に依頼したいるので内容が重複するようなものは掲載できない。江花さんの経験に基づく感想や提言ならいいが」とダメ出しがあり、間に立っている映画館も辛そうでしたし、私としては短い字数制限の中でそれなりの「経験に基づく感想や考え」も入れたつもりだったので、こちらから「今回は止めにしましょう」ということにしました。
「でもせっかく書いたんだから、ブログに掲載しても大丈夫でしょうか?」と聞くと、上映館から「それは是非にもどうぞ」とお許しが出ました。

人生で初めて書いた映画レビューです。

『キリマンジャロの雪』
 南フランスの港町マルセイユ、くじ引きの場面から映画は始まる。
 主人公のミシェルは労働組合の委員長だ。どうしても20人の首を切らなければならない。彼が選んだ方法は「くじ」、これが一番公平だと思って‥‥。
 くじに当たって自分もクビになってしまったが、あるいはそうなることを望んでいたのかもしれない。妻のマリ=クレールは長年労働者のために闘ってきた夫の失業を「ヒーローと暮らすのは疲れる」と優しく受け入れてはくれたのだが。
 しかしそれぞれの家庭事情を一切無視した「くじ」は、実はもっとも安易な方法だったとも言える。20人の解雇者を選ぶという労組の委員長にとって過酷で困難な役目からミシェルは逃げただけではなかったのか。自分も候補に入れることを免罪符にして。
 ある夜、ミシェルの家に強盗が押し入る。数日後捕まった犯人は一緒にリストラされた元同僚の青年だった。彼は幼い弟二人を懸命に養いながら借金と生活苦に行き詰っていた。仲間に裏切られたショックと同時に、くじでリストラ対象者を選んだことが果たして公平だったのかミシェルは悩む。
 介護の仕事で家計を支えるマリ=クレールは、失業して気力も萎えていくミシェルに「あなたもただの男ね」「ヒーローじゃないとやっと気づいた?」と活を入れる。犯人を憎む夫、こっそり犯人の弟たちの面倒を見る妻。ジャン・ジョレス(フランス社会党創立者)を尊敬し自身も労働者のために闘ってきたはずなのに、働くことを通じて人とより深くつながっていたのは妻の方だった。誰かが傷つけばみんなで励まし、困っている人がいれば手を差し伸べる、妻は生活の場面で実際にそのように生きていた。
 ロベール・ゲディギャン監督いわく「フランスでは、女性は男性よりも常に正しいし先を行っている」。
 相手を許したとき、自分も救われる。見終わった後、人に優しくなれる映画だ。

 タイトルの『キリマンジャロの雪』はヘミングウェイではなく、映画の中で孫たちが合唱するフランスのシャンソンのヒット曲。新潟シネ・ウインドで10月27日~11月9日まで上映。


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