本文詳細↓
「いえ、それがさっぱり……。主要な種族の言語ぐらいしか」
「我は読めるぞ! 見せてみよ」
勝ち誇ったように肩の上で胸を張るアダムに半信半疑で鍵を渡せば、たしかに読んでくれた。
「《滴る架上の葡萄》であるな」
「……それから何を連想しろっていうんだ?」
幸先いいのか前途真っ暗なのか、分からなくなった。
「まあまあ、まだ他にもヒントはあるはずですから。ひとまず、この本や紙束を空箱に入れてしまいましょう。たまに資料として欲しがる方がいるんですよ」
持った瞬間崩れてしまったものはしょうがないけど、できるだけ丁寧に箱に本と紙を入れた。作業が終わる頃には時計の長針はゆうに2周していたけど、その甲斐あってカーペットの全貌が見えるようになっていた。
「こういう織物や、あと絵画などもけっこうなくせ者です。文字が装飾の一部となっていることがあるので」
おじさんが指を一つ鳴らすと風が巻き起こり、細かな埃や砂は全て、小さな明かり取りの窓から外へ追い出された。さすがに色褪せた感じは残ったけど、美しい幾何学模様がはっきりと見えるようになった。奥からと手前からに分かれて、目を皿のようにしてカーペットの上をなぞった。今度見つけたのはおじさんのほうで、《女神が白蒼色のドレスをひるがえした》と書かれていたらしい。
そのとき突然、壁の一部が横にズレて穴が空いた。
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