
NHKを離れてわかった、強みと表裏一体の「忖度」 膳場貴子さん
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聞き手・中沢絢乃2023年2月6日 11時55分
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写真・図版
NHK考 公共放送を問う 膳場貴子さん
TBS系「報道特集」でキャスターを務める膳場貴子さん(47)は、NHKでアナウンサーとしてニュース番組や「プロジェクトX~挑戦者たち~」などを担当した後、2006年に退職。フリーに転じた後は「筑紫哲也NEWS23」など、TBSの報道番組で活躍してきた。双方の現場を知る膳場さんは、NHKの強みを再認識する一方で「政治への忖度(そんたく)が足かせになることがある」と感じるという。膳場さんが見てきたNHKと民放の違い、そして公共放送に期待することは。
受信料値下げ、新会長就任と大きな動きが続き、インターネット発信の「本業化」も議論されているNHK。メディア環境が激変するデジタル時代に、公共放送はどうあるべきなのか。元局員や有識者に聞きました。
――TBSでは一貫して報道番組を担当し、語りやスタジオ回しに安定感を感じます。元々報道志望だったのですか
好きですが、報道志望というような大それたものでは実は、なかったです。あくまでもいち生活者として、物事、社会をジャーナリスティックに見るのは面白いし、自分も社会の一員として必要なことだと思っていました。もちろん今は報道の仕事が好きで携わっていますが、当初は色々なことに興味があるうちの一つという感じでした。
TBSの報道局で感じるのは、報道・メディアは権力を監視するウォッチドッグ(番犬)でなければいけないという基本的な意識が、スタッフみんなの中にあることです。中でも、16年から担当している「報道特集」は、特に独自の調査報道をしていこうという意欲的な姿勢で取材をしています。権力というのは政治的なものに限らず、大きな影響力を持つ力や存在など広い意味で捉えています。
ぜんば・たかこ 1975年、東京都出身。97年にNHKに入局し、アナウンサーに。「おはよう日本」「プロジェクトX~挑戦者たち」などに携わり、「紅白歌合戦」の紅組司会も務めた。2006年に退局し、同年からTBS系「筑紫哲也NEWS23」のサブキャスターに。16年から「報道特集」キャスター。
――NHKと民放では、取材や番組作りにどんな違いがありますか
政治ニュースは想定質問以外は聞けない
NHKも民放も、番組が「政治的に公平であること」は放送法で定められていますし、取材活動自体はそうは違わないと思うんですが、番組に携わる記者やディレクターの裁量は、全然違うなと感じることが多々あります。
NHKは組織が大きいので、組織として物事を決定していく。番組を超えて、その上の人々の意思を反映して決定していくところがあるんです。TBSは、個々の記者、ディレクターの個人の意思が最大限尊重されていると感じます。
報道番組で比べると、記者やディレクター、キャスターが「自分はこう考える」と意見したり、問題提起をしたりすることは民放では当たり前ですが、NHKは少ないですね。また、NHKではやはり政治に気を使いました。別に誰かに言われるわけではないのですが、不文律が色々あったと思います。私がNHKのニュースセンターにいたのはもう20年近く前ですが、特に政治ニュースに関しては、アナウンサーは基本的に、記者と打ち合わせて想定した質問以外のことは自発的には聞けない、という体制でした。私のキャリアが浅かったこともあるのでしょうが。
膳場さんがNHK時代に先輩から「NHKはね……」と諭されたエピソードとは。NHKの取材力、ポテンシャルを知っているからこそ、それが「忖度」から発揮し切れていないことを、膳場さんは残念がります。
――TBSは違いますか
むしろフリーハンドすぎて逆…
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写真は毎日新聞から
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聞き手・中沢絢乃2023年2月6日 11時55分
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NHK考 公共放送を問う 膳場貴子さん
TBS系「報道特集」でキャスターを務める膳場貴子さん(47)は、NHKでアナウンサーとしてニュース番組や「プロジェクトX~挑戦者たち~」などを担当した後、2006年に退職。フリーに転じた後は「筑紫哲也NEWS23」など、TBSの報道番組で活躍してきた。双方の現場を知る膳場さんは、NHKの強みを再認識する一方で「政治への忖度(そんたく)が足かせになることがある」と感じるという。膳場さんが見てきたNHKと民放の違い、そして公共放送に期待することは。
受信料値下げ、新会長就任と大きな動きが続き、インターネット発信の「本業化」も議論されているNHK。メディア環境が激変するデジタル時代に、公共放送はどうあるべきなのか。元局員や有識者に聞きました。
――TBSでは一貫して報道番組を担当し、語りやスタジオ回しに安定感を感じます。元々報道志望だったのですか
好きですが、報道志望というような大それたものでは実は、なかったです。あくまでもいち生活者として、物事、社会をジャーナリスティックに見るのは面白いし、自分も社会の一員として必要なことだと思っていました。もちろん今は報道の仕事が好きで携わっていますが、当初は色々なことに興味があるうちの一つという感じでした。
TBSの報道局で感じるのは、報道・メディアは権力を監視するウォッチドッグ(番犬)でなければいけないという基本的な意識が、スタッフみんなの中にあることです。中でも、16年から担当している「報道特集」は、特に独自の調査報道をしていこうという意欲的な姿勢で取材をしています。権力というのは政治的なものに限らず、大きな影響力を持つ力や存在など広い意味で捉えています。
ぜんば・たかこ 1975年、東京都出身。97年にNHKに入局し、アナウンサーに。「おはよう日本」「プロジェクトX~挑戦者たち」などに携わり、「紅白歌合戦」の紅組司会も務めた。2006年に退局し、同年からTBS系「筑紫哲也NEWS23」のサブキャスターに。16年から「報道特集」キャスター。
――NHKと民放では、取材や番組作りにどんな違いがありますか
政治ニュースは想定質問以外は聞けない
NHKも民放も、番組が「政治的に公平であること」は放送法で定められていますし、取材活動自体はそうは違わないと思うんですが、番組に携わる記者やディレクターの裁量は、全然違うなと感じることが多々あります。
NHKは組織が大きいので、組織として物事を決定していく。番組を超えて、その上の人々の意思を反映して決定していくところがあるんです。TBSは、個々の記者、ディレクターの個人の意思が最大限尊重されていると感じます。
報道番組で比べると、記者やディレクター、キャスターが「自分はこう考える」と意見したり、問題提起をしたりすることは民放では当たり前ですが、NHKは少ないですね。また、NHKではやはり政治に気を使いました。別に誰かに言われるわけではないのですが、不文律が色々あったと思います。私がNHKのニュースセンターにいたのはもう20年近く前ですが、特に政治ニュースに関しては、アナウンサーは基本的に、記者と打ち合わせて想定した質問以外のことは自発的には聞けない、という体制でした。私のキャリアが浅かったこともあるのでしょうが。
膳場さんがNHK時代に先輩から「NHKはね……」と諭されたエピソードとは。NHKの取材力、ポテンシャルを知っているからこそ、それが「忖度」から発揮し切れていないことを、膳場さんは残念がります。
――TBSは違いますか
むしろフリーハンドすぎて逆…
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