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尿器を使った排泄介護を考える

2010年11月24日 | インタビュー
尿器を使った排泄介護を考える

介護される人にとって、尿器を使えばストレスを緩和できるなど好影響を与える可能性が高いが、現状ではこれにスポットライトが当たる機会が意外に少ない。排泄介護の専門家で排泄用具の情報館・むつき庵の代表をつとめておられる浜田きよ子さん(京都市上京区)と、小規模多機能型居宅介護事業所・良の家の管理者で介護支援専門員をつとめる西村優子さん(滋賀県大津市)に尿器の現状と可能性について語っていただいた。


尿意がある人には尿器を使う

写真:浜田きよ子さん(左)と西村優子さん(右)

――排泄介護の世界では紙おむつやポータブルトイレに比べると、尿器はなかなか脚光を浴びていないように感じます。

浜田さん 尿器は、使いこなせば本当に便利なアイテムなのですが、介護の世界ではポータブルトイレや紙おむつに隠れ、活用頻度は低いのが現状です。介護の世界を俯瞰してみると、活用されない理由として、人材育成、教育の問題や、介護サービスにおける効率化の追求などの要因が複雑に絡んでいるように思います。

西村さん 私は看護師で、医療の世界から介護の世界へと仕事のフィールドを広げてきた立場です。病院における排泄介護といえば、紙おむつではなく尿器で、看護師が長年にわたって学んできたのも尿器です。
 病院の備品として相当数常備し、使うたびに消毒して複数の患者さんに対応するケースが多いのです。健康な人でも骨折などで一時的に安静を強いられる場合もあり、尿意のある人には必ず尿器を使います。
 ところが20年ほど前、介護施設で仕事を始めた頃の話ですが、尿器が見当たらずにびっくりしたことがあります。施設内に常備してなかったのです。それはこんなケースから発覚したのでした。
 紙おむつをあてているおばあちゃんですが、廊下から交換用のおむつを載せたカートの音が聞こえてくると、そのときにはじめておむつの中で排尿をするのです。尿意があるからこそ、おむつの中で排尿することを嫌がり、苦肉の策としておむつ交換直前に排尿していたのです。
 尿意がある人にこんなおかしな対応をと、尿器を探しても見つからず、たずねた近所の薬局でも見つからないので、遠方の薬局まで足を運び、入手することができました。さっそくこのおばあちゃんに使ってもらったら、その後は尿器で排尿するようになり、紙おむつをつけなくなりました。

浜田さん 排泄をサポートするための選択肢の優先順位はトイレ、ポータブルトイレ、おむつという順です。本来、尿器はおむつの前にあるべきものです。また、ポータブルトイレに移乗できない人は、ポータブルトイレよりも尿器が重宝されるはずなのです。
 尿器がいかに便利なものかということを実感していただくために、施設でも住宅でも、次のような尿器の使い方を実践してみてはいかがでしょうか。

写真:むつき庵が主催するおむつフィッターの研修会で講演する浜田さん

 尿意を感じてからトイレに行くまでにもたついたり、尿モレしやすい人は、ベッドサイドなどに尿器を置いてトイレに行く前に尿器を使う。その後、落ち着いてからトイレで尿器にたまった尿を流す。こうすると、排泄のたびに抱いていたあせりがなくなり、精神的にも楽になれます。結果として排泄の失敗をなくすことも可能です。

西村さん 施設の場合、尿器にたまった尿を捨ててほしいというコールに対して、職員が手をかけられないという問題が起きたことがあります。また、学生として介護技術を学ぶ段階では、尿器の使い方を学んでいないのかもしれませんね。
 介護施設のスタッフの場合、紙おむつの当て方は大切なこととして学んでいますが、尿器については「当て方が分からない」という声も多く、どうも心もとないのが実際のところです。

浜田さん 確かに、尿器を使用できる条件としては「本人が自分で使う」のが最も失敗しない方法ですね。
 介護者が尿器を当てるのは、本人がするよりもはるかに大変で、要介護者の衣服を脱がし、下着を脱がし、陰部と尿器の角度を調節し、固定する…といった複雑な作業が発生します。

元気な人が使う尿器
――尿器を見る角度を少し変えてみたいのですが、失禁パンツやパッド類は外出が楽しくなるように、微量の尿に対応するラインナップが増えています。さらに尿器にも、小型で携帯できるタイプ(携帯用トイレ)が登場しています。これらの違いはどこにありますか?

浜田さん 失禁が心配な女性にとって軽失禁パッド類は入手しやすく便利なものですが、尿を吸収して閉じ込めた後の処理に特徴があります。尿は身体に密着したままですから、身体から切り離すには使用済みのパッドをゴミとして捨てることが必要です。
 失禁パンツは、高齢者が旅行に行く前に購入するケースがありますね。ただ、実際のところは「お守り」として心的ストレスの緩和に役立っていることが多いとみられます。なぜかと言いますと、実際に失禁パンツの中で排尿すると、ごく微量のとき以外はパンツをはきかえる必要が発生し、パンツをはきかえる場所を確保したり、予備のパンツを持参することが、思ったよりも手間だということになりやすいので、旅行やレジャーでは、失禁パンツはお守りとして機能することがあります。

西村さん パッドやショーツ、紙おむつの中で排尿すると、どうしてもベタベタ感や皮膚への刺激が発生しますね。「排泄物は、身体にくっつけると不快、切り離すと快適」というのは生理的な原則です。かといって、尿器は服や下着をめくって陰部を露出させるので、どこでも使えるものではないですね。

浜田さん 先日、沖縄から京都まで強行スケジュールで帰ってきたのですが、飛行機や列車の待合時間がほとんどなく、都会にいるのに6時間ばかりトイレに行けない状況に陥ってしまいました。そのときは、携帯用トイレを持参するか、紙おむつをはいておけば良かったと思いました。トイレの必要性は外出時にこそ急激に高まるものですね。

西村さん 私は阪神淡路大震災の時に、携帯用トイレの重要性を痛感しました。普段は使わなくても良いから、手の届く場所に常備する大切さを知りました。

浜田さん 私は、携帯用トイレがレジャー業界などを巻き込んで発展することが、尿器を取り巻く環境を改善することにつながるのではないかと考えています。
 尿器は病気であったり、介護を必要とする人が使っているイメージがありますが、同じ尿器カテゴリーに属していながら、携帯用トイレは元気な人、若い人が使うものという印象が強まっています。
 携帯用トイレを使って渋滞中の車の中で排尿するといったレジャーに関連するシーンでの需要はまだまだ伸びるでしょう。

西村さん 元気な人が尿器を使うことで、尿器の存在がオープンになりますね。

写真:大阪で開催されるバリアフリー展に出展したむつき庵のブース

浜田さん 元気な人に使ってほしい理由がもう一つあります。元気な人が尿器を使いこなすようになれば、より使い勝手の良い製品を求めるベクトルが生まれ、製品そのものの性能が向上します。先日、ヨーロッパの製品で、女性の立ち小便用の尿器を見せてもらう機会がありました。尿道口に当てると前に飛ぶようになっています。ところが、この製品そのものは、陰部に当てるプラスチックが硬くて快適ではない。アイディア自体は、むつき庵に集う「おむつフィッター」の皆さんには好評で、「なぜ日本のメーカーが柔らかな素材でこの製品を作らないのか」と話題になりました。
 ハイキングなど屋外でしゃがんで排尿すると、虫や蛇といった問題があるので、女性の立ち小便には一理あります。排泄の選択肢が増えるのは悪くない話です。
 また、元気な人が尿器を使うというアイディアには、元気なお年寄りも関心を持っているようです。
 ろうと状になった部品だけの尿器があります。ペットボトルなどにセットして、簡易型尿器として使うのですが、ある老人会でこの尿器を披露したら、おじいちゃんたちに大人気でした。
 元気な人が尿器を使うというアイディアには、多様なシーンが想定されます。冬場に就寝中に何度も起きてトイレに行くことが大変だったり、冷えた屋内を歩くことで急激な温度変化にさらされて血圧に悪影響を及ぼす場合は尿器で済ませたほうがよいでしょう。
 書斎で仕事に熱中している時には、尿器に排尿したほうが楽だと感じるケースもあるでしょう。

西村さん 健康な人にも尿器を使いたくなるシーンが必ずありますね。

後半に続く


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