Dream-Speaker

有縁の方々のインタビューを通じて、共感と共有の種を播き、育てたい。

40年前のケミンダ師

2012年06月16日 | インタビュー
40年前のケミンダ師

東京都にお住まいの宮本Y子さんから、この写真をいただいた。



お若い頃のケミンダ大僧正を、宮本さん(左)と、パーリ語研究で知られる駒澤大学仏教学部の故・東元慶喜教授(右)が囲んでいる。
撮影されたのは昭和47年6月12日。
ケミンダ師を知る人は、若い時から日本中を行脚したとおっしゃるが、この写真にも、その事実がそのまま示されている。
宮本さんに当時のことをご教示頂いた。

宮本さんと東元慶喜教授の親族が画友であり、教授夫妻とも親しくお付き合いをされていたそうだ。その東元師がケミンダ師とともに、宮本さんを訪ねて来られた。東元師の親族の家を訪ねる前に、宮本さん宅に立ち寄ったのだそうだ。世間話から、宮本さんが気になった法衣やはきもの、肩から掛けた布袋のカバンなどまで、話題はたくさんあったという。

当時、宮本さん宅ではレンズ工場を経営されており、いろいろなレンズを研磨していた。
ケミンダ師と東元師は工場見学をされたという。その時に、ケミンダ師は、ミャンマーでは様々な宝石がとれるのだという話しをされた。宮本さんは「私の工場では、宝石までは磨けないんですよ」という話しをなさったという。

――ケミンダ師のことをどんなふうにお感じになられましたか?

宮本さん 東元師からケミンダ師のことを「えらいお坊様なのですよ」と聞かされていたので、緊張していたのですが、実際に会ってみると、話をよく聞き、人の目を見て、心を開いてお話し下さいました。威厳のある立派な方でした。

――ケミンダ師とのご縁を振り返って、どんな風にお感じになられますか?

宮本さん 今想うと、人と人とのつながり、そして「ご縁」をいただいたことを有難く、ケミンダ大僧正とお会いできたことは忘れられないことだったと、感謝しています。

――東元師もまた偉業を成しておられる。東元師が残した著作の一つ『パーリ語仏教常用聖典解説/PANNANANDA KEIKI HIGASHIMOTO PALI BUDDHIST CANON IN ORDINARY USE TOGHETHER WITH ITS EXPLANATION』 (昭和25年12月28日初版/発行所:駒澤大学パーリ文学研究室/発売元:丸善株式会社)を、先輩僧侶から頂いた。



現代では、日本で活動している上座部仏教の僧侶たちが上座部で読誦される聖典を日本語に訳した冊子を発表する機会が増えている。同書はそうした流れのはじまりのような印象だ。
東元師が訳した、聖典を読誦した後で唱えるという『祈念文』がある。

この真実のことばによりて
汝の(わが)もろもろの苦しみはしずまらんことを。

この真実のことばによりて
汝の(わが)もろもろの恐れはしずまらんことを。

この真実のことばによりて
汝の(わが)もろもろの患いはしずまらんことを。

あらゆる危難はさけられていく
すべてのわずらいはきえさるべし
汝に障礙あることなかれ
安楽長寿者たらんことを。

あらゆる幸運あるべく
すべての天神は守護すべし
一切諸仏の威力によりて
常に汝の安穏あらんことを。

あらゆる幸運あるべく
すべての天神は守護すべし
一切諸法の威力によりて
常に汝の安穏あらんことを。

あらゆる幸運あるべく
すべての天神は守護すべし
一切僧団の威力によりて
常に汝の安穏あらんことを。

天にとどまり地に住する
大威力ある天神諸龍よ
この善業を随喜して
永く教法を守護すべし。

天にとどまり地に住する
大威力ある天神諸龍よ
この善業を随喜して
永く教説を守護すべし。

天にとどまり地に住する
大威力ある天神諸龍よ
この善業を随喜して
常にわれをば守れかし。

雨は時にかないてくだるべし
また五穀は豊穣なるべし
さらに世間は富裕たるべく
国王は正法者たらんことを。


※現世利益的な意味にも取れる言葉が並ぶのだが、東元師は、上座部では、それはこの世での欲望を満たすために願い、唱えるのではないと教えているのだと説明する。この世での富や健康と言ったモノを願うのは究極的には、「涅槃にいたらんがため」であると、その意味を記されている。その流れを証明することにもなろうが、読誦が終わった最後には『誓文』と題して「無常・苦・無我 こよなき幸なる涅槃」という句を三唱するという。最期は、無常であり、無我である涅槃に向かう。

――聖典を翻訳したら、それは日本語にしても、美しい言葉だった。
というのは、相手が聖典であるからこそ当たり前のことなのだろうが、こうした翻訳を通してそのことを再確認すると、「別の言語に翻訳しても美しい言葉」というのは、やはり驚きでもある。

パーリ語研究の大家と、ビルマからやってきた僧侶と、その2人を歓迎した宮本さんの40年前のわずか1日の出来事があった。宮本さん自身が40年前のことをこれほど鮮やかに思い出せるという、その「縁」の不思議さ、素晴らしさを思う。


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