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有縁の方々のインタビューを通じて、共感と共有の種を播き、育てたい。

無償で医療を提供するために、寄付で運営されている病院。JIVITA DANA SANGHA HOSPITALのご案内。

2011年11月24日 | ≪ビルマ・メロメロ≫の方々へ
ミャンマーにおける医療ボランティアの本来の姿。寄付で運営される病院JIVITA DANA SANGHA HOSPITALの活動――日本語による案内。


写真:日本人眼科医・服部匡志氏と。応接間の壁一面に寄進者の名前が掲げられている。病院内の要所要所に掲げられたその人数はまさに「無数」。数えきれない。どれだけの人々が想いを同じくして、病院建設にかかわったのか。

ミャンマーの旧首都・ヤンゴンに、JIVITA DANA SANGHA HOSPITAL(ジビタダーナサンガホスピタル=僧侶のために奉仕する病院)という総合病院があります。


JIVITA DANA SANGHA HOSPITALと名の付く病院で有名なのは、このヤンゴンの病院以外にも、ザガイン管区のWachet Jivita dana Sangha Hospital(ワチェ ジヴィタ ダーナ サンガ ホスピタル)と、同じくザガイン管区にもう1箇所。さらに、マンダレー管区に1箇所あるようです。合計4箇所の病院がよく知られているようですが、今回取り上げるのは、ヤンゴンのJIVITA DANA SANGHA HOSPITALです。
 
さて、このヤンゴンのJIVITA DANA SANGHA HOSPITALは、先進国における最先端レベルと同等の設備や医療の提供、というわけにはいきませんが、しっかりとした近代的な病院設備を誇り、入院患者のために150床のベッドもあります。この病院には、大変素晴らしいことがあります。
近代的な設備が素晴らしいのか。それとも、大人数の入院患者を引き受けることができることが素晴らしいのか。
 
それよりも、もっと素晴らしいことがあります。
ここは、仏教精神に基づいて医療ボランティアをするための病院である。ということです。ここでは、院内で使われる設備や薬類、ミャンマー人医師・看護師の診察や手術、治療などの行為もすべて、ボランティアとして展開されています。病院そのものが、仏教精神に基づくボランティアで運営されています。




2009年10月、浄土真宗本願寺派のNPO法人・JIPPOの末本弘然理事、ミャンマーでNGO活動を展開する団体・メコン総合研究所(日本事務所・千葉県松戸市)の岩城良生事務局長、普段はベトナム・ハノイのベトナム国立眼科病院の客員教授で、網膜硝子体手術指導医として医療奉仕をされている日本人眼科医・服部匡志氏と、この病院を訪問しました。
見学中、病院の事務局長から末本師と私は、「あなたたちは僧侶ですから、この病院に入院することができますよ。国籍も宗派も関係ないですよ」と声をかけられました。
この病院は、僧侶と尼僧のための病院であり、それが転じてヤンゴン市民に対しても医療ボランティアを実践しています。ここで、JIVITA DANA SANGHA HOSPITALの施設や活動を紹介する英文パンフレット・2008年度版を翻訳し、ご紹介します。



日本語できちんとこの病院のことを紹介する機会はあまりないでしょう。ここには、「知らなかった」で終わらせるには、あまりにももったいない内容があります。日本語による案内文はJIVITA DANA SANGHA HOSPITAL事務局に確認していただき、日本語による公式な翻訳として、了承されています。

JIVITA DANA SANGHA HOSPITAL
僧侶のために奉仕する、寛大さと、親切心と、愛の病院
「王たるブッダに仕えたいと願う者は、病める僧侶に仕えよ」 パーリ経典

――1――
 ジヴィタ・ダーナ・サンガ・ホスピタルは、非政府組織であり、非営利団体です。この病院では、僧侶、尼僧、そして在家の人々に対して、ミャンマー国内外から寄せられた寄付によって、医療奉仕活動を行っています。
寄付者からのお金(資金による援助)、用具(物品による支援)、奉仕(行為による支援)によって、医学の治療と手当てをすること、その実際の行為を引き受けています。

注 一般市民のことを、英文では「Civilian」ではなく、「lay person」としています。僧侶と尼僧のための病院だという前提がありますので、僧侶、尼僧と対比させた場合の呼称として、一般市民ではなく在家となります。実際の診察、治療の対象は、僧侶、尼僧、一般市民と、門戸は広く開放されていますが、市民をわざわざ「Lay person」とした理由が、後々、大きな意味を持ってきます。

――2――
 この病院は、1940年に設立された。ミャンマー愛国者の集団によって設立されたのです。ヤンゴン・バハ区・ギャータヤ通りの小さな無償の診療所として活動をスタートしました。

――3――
 もともとの創設者たちの気高い目的は、無償の医学としての検査や治療を、すべての病人や体が弱い人々に提供することでした。民族を問わず、宗教も、地位や身分も、富める者も貧しい者も、その違いを問わず、提供することでした。

――4――
 1952年12月、その小さな診療所は現在の所在地であるヤンゴン・バハ区・コミンコーチン通り38番地に移転しました。
 古い木造の建物の一角に、10床のベッドを置いた病院として開業。それから年を追うごとに寄付が増えたのです。僧侶、尼僧、在家の人々からの深刻な求めに応じて便宜を図り、その恩恵を与えてきました。多くの医師が病院に対して、専門家として奉仕活動を申し出てきました。あらゆる地位、職業に就いている人もまた、高貴な理由のために、無私の奉仕活動を続けたのです。
現在この病院には、入院患者のための施設があります。外来患者に対する専門の部もあります。
 100人の僧侶と、50人の尼僧を入院患者として受け入れるために、8棟の建物があります。1952年時点では、10床の小さな病院だったのですが、2008年には150床の近代的な病院へと成長しました。これは、我々の誇りです。そして、その成長の要因の大部分は、多くの寄付者による慈善活動にこそあるのです。

――5――
 今日では、この病院には最新の医療処置、外科手術用の機材、エックス線や超音波、研究室、内視鏡などより良い治療や検査のための機材が与えられています。

――6――
 心臓病の患者に対して治療するために必要な、負荷心電図検査(トレッドミルECG)を行うための機材もそうです。さらには、心停止状態の患者を蘇生させるための除細動器もあります。

注 負荷心電図検査=ベルトコンベア状のトレッドミル(ウォーキングトレーナー)の上を歩きながら、心臓の電気的な活動を、心電図計で記録していく検査。安静時には分からない心拍のリズムなどを見つけるのに役立ちます。

――7――
 この病院は、外来患者として病院を訪れた僧侶、尼僧、在家の人々それぞれに対応する便利な設備を備えています。外来に対応する部署にもまた専門医もいます。外来受付は平日のみ、朝8時から夕方4時まで開いています。

――8――
 この病院に治療を求めてやってきた僧侶や尼僧は、外来受付で最初に問診をうけます。そして、その後、彼らは、各自の病状を調べられ、必要に応じて入院患者として認定されます。

注 日本の病院でもそうですが、外来受付の時点で、発熱の有無などについて、問診表に、自分の症状を書き込みます。

――9――
 この病院では治療できないと考えられる患者に対しては、さらに上級の検査や治療を受けるために、それぞれの検査項目や病気に応じた政府の病院が紹介されます。この病院の運営委員会は、このような紹介先の病院で治療費を払えない僧侶や尼僧に対して、補助金を提供しています。

――10――
 眼科は様々な病気で苦しんでいる僧侶や尼僧に対して、その治療を申し出ています。目の検査をし、病気の種類をつきとめます。目の手術は必要に応じてやり遂げられています。白内障の手術後に使用する無水晶体眼用レンズもまた、無償と定められているのです。

――11――
 歯科では抜歯やあらゆる歯の治療をしています。年輩の僧侶や尼僧に提供する入れ歯・義歯は無償です。
耳鼻咽喉科でも必要な検査と治療を僧侶と尼僧に提供しています。外国製の補聴器もまた、無償で提供しています。

――12――
 この病院は、僧侶のための病院として知られていますが、在家の患者にも同等の治療を提供しています。
一般の開業医が外来受付で無償の検査を実施しており、入院するべきだと認められた患者は、さらに上級の投薬や治療を受けることができます。 一般的な病気の患者の場合には、基本的な薬類は、その病気が完治するまで、無償で提供されています。

注 ミャンマー人医師の場合、開業医として自分のクリニックを運営している人もいますが、数箇所の病院に勤務する勤務医が多いそうです。勤務医は、給与をもらう職場としての病院を確保して、さらにその上で、JIVITA DANA SANGHA HOSPITALのようなボランティアのための病院にも籍を置き、時間を作っては奉仕活動にいそしむ。というスタイルをとっているようです。
1人の医師がいくつもの病院を巡回して診察や治療をするのが一般的なようです。開業医もまた、自分のクリニックでの診察時間の合間を縫って、JIVITA DANA SANGHA HOSPITALでのボランティアにつとめているようです。こうした医師の出勤スケジュールは病院内で掲示されていたり、尋ねれば受付で知ることができるので、患者は自分が望む医師の担当日時を狙って、受診することができるようです。


――13――
 在家の患者への治療は、内科医、外科医の専門的な指導のもとで行われます。
患者は、その処方に対して、名ばかりの謝礼を求められます。それは、予備検診料として300チャット(30円)です。
緑内障(急性閉塞隅角緑内障)の激しい痛みがあり、かかる費用を支払う余裕がない、とても貧しい在家の患者には、外科手術の費用を、この病院が全額負担しています。

注 急性閉塞隅角緑内障は、急激に眼圧が高まり、「人が感じる痛みの中でもっとも強い痛み」と言われるほどの痛みを引き起こす症状で、突然発症して一晩で失明することもある大変な病気だそうです。

――14――
 この病院では、3つの手術室が効率よく運営されています。2つの手術室は、新しい8階建ての病棟にあります。1つは大きな手術室。僧侶と在家の男性患者の一般的な外科処置に使われています。この手術室は、泌尿器科、小児科、耳鼻咽喉科の患者の手術にも使われています。ほかの手術室では、眼科の手術で、4人の患者を同時に手術できます。
 尼僧と在家の女性患者の一般的な病気と婦人科の治療は、尼僧のための手術室がある区画と同じ区画で行われています。(きちんと、女性のための設備として運営されています)

――15――
 この病院には、20人の常勤医師が雇用されています。90人以上の専門医を含む100人以上の医師が、奉仕活動を申し出ています。この病院では、19種類の専門的な病気(眼科、歯科、泌尿器科、耳鼻咽喉科など)に対して、投薬治療と外科手術を行うことができます。週末や休日も、急な治療や投薬を必要とする患者のために、医師がつめているのです。

――16――
 この病院は、非政府組織・公共の施設なのです。ミャンマー国内外から広く集まった寄付により、まったくの慈善事業として運営されています。その慈善活動には、親切心と愛の精神によって裏打ちされたお金、用具、行為による奉仕が含まれています。
 僧侶と尼僧に無償の医療をささげることは、仏陀の法と教えを世に広めることの一助となります。そして、一般社会に医療を提供することは、ミャンマー国民の健康に価値ある貢献をすることになります。
 慈悲の心を広める、この崇高な活動を続けていくために、遠方、近隣を問わず(ミャンマー国内外を問わず)、私たちへ助けの手を差し伸べてくれることを、強く希望しています。

 ジヴィタ・ダーナ・サンガ・ホスピタル運営委員会より。

注 英語の原文では、「GENEROSITY/GOODWILL/LOVE」という言葉を並べています。
しかし、この病院は、仏教の精神に則った病院です。
仏教の立場で見れば、慈善活動・親切心・愛ということは、「慈悲を具体的に表現する作業」を言いたいのだろうと推察できます。「慈悲」という概念は、英語圏では語られることがない概念かもしれません。英語圏の人々が、普段から「慈悲」ということを捉えていないのであれば、それを正しく英語で説明するのは、かなり難しいのではないか。と思われます。そのために、「英語圏の人々に理解してもらいやすい言葉(イコールではないけれど、大きくズレるわけでもない言葉)」として、「GENEROSITY/GOODWILL/LOVE」となっているのだろうと、考えました。ですから、日本語で仏教の立場でこの病院を説明するならば、「慈悲」に、戻しておくべきだろうと考えました。


Translate and explain:即信
Advise:Yoshio Iwaki


ミャンマーにおける医療ボランティアの歴史は、ミャンマー人が作り支えてきた――慈悲によってのみ、人から人に伝わるもの。


写真:写真中央下の募金箱にも募金を入れることが可能。寄進者は事務局長らと記念撮影をして、右側の掲示板に掲げられることもある。





 この病院は完全に寄付によって運営されていますので、病院の敷地内には、寄付を受け付ける専用の事務所があります。我々も、そのオフィスで寄付をしました。ヤンゴンの市民たちは、寄付するお金がたまれば、自分が診察を受けなくても、この事務所を訪れ、寄付していくようです。もちろん、ニュースになるくらい著名な人々によるサポートもありますが、活動の基本は、ミャンマー人自身が、日々の暮らしの中で支え続けたことによって、ミャンマーにおける医療ボランティアの歴史を作ってきたのでした。JIVITA DANA SANGHA HOSPITALのパンフレットを日本語で紹介することによって、このような、名もなき方々の想いを知る人が増えてくれることを願います。


写真:病院内の一室で、看護を学ぶ若者たちがいました。我々も少し授業に参加させていただきました。


写真:この病院には寄付を受け付ける専用の部署があります。

本稿は、仏法僧Buddhist On Stageからの転載です。


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