前回の、負荷(BEMP)-メカロス(FMEP) 特性を使い、過給時燃費率を検討する。
無過給の特性を(無責任に)過給域に直線で外挿するだけ。
メカロスは、P-V線図の圧縮膨張行程のみの図示平均有効圧(IMEP)の関数と仮定。
吸排気行程は大気圧との差が小さいので、メカロスに対する影響はないとする。
FMEP換算メカロス(bar) =0.807+0.0667×[IMEP (bar)]
断片的に見かける最近機種の熱勘定よりも数字はかなり大きいようだが、ざっくり傾向を見るのが目的なのでいじらない。
① フツウの無過給、
② 大気圧=2気圧になったときの無過給、
③ 吸気密度=2倍 ( 264kPa ) 過給
面倒なのでインタークーラー無し 熱力学計算上は結果が大同小異 エンジン技術_7 P-V線図
上記3仕様の全負荷燃費率を比較。
図示燃費率は、無過給、大気圧=1気圧の状態から、変わらないものとする。
←この仮定はガソリンエンジンの現状では大嘘になる。過給するだけでは点火時期リタード+燃料増量でどんどん悪くなる。
時間概念は無しで吸排気弁絞り損失=0
過給機全断熱効率=100% 吸気密度2倍断熱圧縮(264kPa) の過給機駆動仕事は
FMEP換算=0.60bar 吸気行程でクランク軸に回収される分はさし引いてある 上死点→下死点で絞り損失=0で過給機押し込み仕事を100%回収 FMEPに換算する過給機駆動仕事は内部圧縮仕事のみ
全負荷燃費率は、(フツウのNA=240g/kwh と仮定)
理想的条件を仮定しても、そうそう燃費率が下がるものでもない。目玉を上に広げるのが精一杯。
過給機仕事=0の「大気圧=2気圧」でも、231/240=0.96掛けまでしか下がらない。
極限全断熱効率(100%)の機械式過給機+絞り損失(圧力低下)=0で過給機押し込み仕事をクランク軸に100%回収して238/240=0.99掛け。
現実は、ノッキング→点火時期リタード、燃料増量、絞り損失、過給機効率等々で・・・
機械式過給+ミラーサイクルも計算。
空気密度4倍過給(696kPa)+吸気ストローク半分(実圧縮比約半分)
傾向をはっきりさせるため思い切り変える。
過給機仕事が増える分、燃費率は悪化する。図示燃費率が変わらない(リタード・増量ロスがない+膨脹比を維持)+過給機仕事は理想極小極限値としても、過給圧を上げる+吸気ストロークを短縮して逃げるだけでは燃費率はどんどん悪化する。実際はインタークーラー付で、
・圧縮膨張行程の圧力が下がる分、FMEPで得をする
・圧縮膨張行程の温度も下がるので、冷却損失は得をする
・圧縮終わり温度、圧力は下がるので、ノッキングでは得をする
このへんのせめぎ合いになるが、インタークーラーポン付けだけでは無過給より悪くなるから全負荷BSFCは公表しない。←競争商業社会では当然の話
オマケ
過給ミラーサイクルを最大限単純化したモデル
過給率を上げるほど、過給機駆動FMEPは増大、ノッキングはシビアになる。製品化例は、
・ほどほどの過給率
・ほどほどにダウンサイズ
・膨張比維持orアップ
・公言するのはモード燃費(カタログ燃費)だけで燃費率マップは公表しない
ターボディーゼルのように「じゃんじゃん使ってくれ!」の過給域(目玉がほぼ全負荷まで突き抜ける)ではない。ネックはまずノッキングなので、イマなら直噴一択になる。
ターボ+ミラーサイクル
ガスエンジン(定置 発電用等)では昔から実用化例がある。動作範囲(回転負荷)が広い+低速トルク命+ターボラグとにかく短く、の要求がある自動車用では例を知らない。
上の機械式過給機で書いたように、等エンジン吸入空気量に対してより高い過給圧が要求される→より多くのコンプレッサ仕事が必要→より高い膨張行程終わり圧力が必要
ここがジレンマのはず。発電用の常用域は定格点≒最大出力点。部分負荷でダラダラ動かす使い方は経済性が×。
EGRによるノッキング改善も、発電用で初めて眼にした記憶がある。「ノッキング改善」を現代流に定義すれば「ノックするしない」ではなく「等空気量点でトレースノック点のBSFCが良くなるか リタードロスが減るか 仮想MBTトルクにどれだけ近づいたか」
181013追記
2015年にAudiがターボ+ミラーサイクルを発売、2016年にVW。ターボでも無過給に対して
【BEMPを上げて同時にBSFCを下げられる領域がある】
VGT、過給ミラーサイクル、LP-EGR (2016年 三菱重工)
と書いたが、いつでもどこかに限界はある。
背景には、ターボのワイドレンジ化+ターボ総合効率(タービン×コンプレッサ×メカ)アップ+可変動弁の標準装備+DI化があるものと思われ。