ターボ過給の大元のエネルギーは
「膨張行程終わりの気筒内圧力」
で
これが大気圧以下だと、
「排気行程での、排気押し出し損失過給」しかできない。
←ターボと言えばこの印象がつきまとうが発想の根本はコレに非ず
これならクランク軸駆動のS/Cの方がマシで、
固体(ピストン)→流体(排気)→固体(ターボ)→流体(新気)の経路より固体(クランク+過給機)→流体(新気)方が効率は有利。
オマケ 「ターボで排気の残留エンタルピーを回収」と書いた教科書
間違いとは言えないが適切ではない。字面だけが独り歩きをする典型で
・トルコンの「トルク増幅」
・トランジスタの「電流増幅」
となにやら似ている。
「エンタルピー」を冒頭で持ち出す意義が見いだせない。コレは論文ではなく教科書で読者層の立場では概要把握が先。回収できるのは「膨脹行程終りの気筒内ガスの静圧が持つエネルギー(エクセルギー)」で、温度高けりゃエンタルピーは高いが気筒内~排気ポートの圧力差がゼロなら「排気の残留エンタルピー」をターボは回収できない。「エンタルピー」を持ちだすのは「膨脹行程終りの静圧が持つエネルギー」のず~っと後の最後のオマケで十分。「エンタルピー」は動力を取り出した「結果」を記述できるが「ある特定の手段で動力を取り出せるか」には言及できない。残留エンタルピーを回収 → 熱交換器か?となるのがフツウの人。
筋は違うがどこぞやで「絞り膨脹でエンタルピー不変だから無損失」なる珍説を唱えた方(エンタルピー線図中毒患者)を見かけた。線図が読めるだけの邪魔知識で何の役にも立たない。
現代流に表現するなら「大気環境に対して、膨張行程終わりの排気の圧力が持つエクセルギーを回収」と書くべきで、ここにも「珍語を唱えるだけのエンタルピー中毒患者」が生息している。
原理は、
圧力(厳密には静圧)⇔速度 は、理想極限では可逆変換できる。少なくとも気体の粘性=0であることが必要。タッタこれだけ。
応用例
ノズル 【滑らかな】先細り管 圧力→速度変換
ディフューザー【滑らかな】末広がり管 速度→圧力変換
ベンチュリー【滑らかな】コークボトル型 圧力(速度は低い)→速度(静圧は下がる)→圧力(速度は低い)
【滑らかな】は、流れの剥離→渦発生→流体粘性により運動エネルギーを失う
このプロセスをできるだけ避ける形状設計、を含意している。可逆性不要、圧力を下げるだけなら、テキトーに絞ればいい。
図は、説明のための変形サイクル(?) 排気工程→吸気工程のすきま容積は扱いが面倒なので=0
用途は思考実験用なので、実現する機構とかはスルー。
排気弁が開くと、気筒内圧は即大気圧に下がるとする。実際は排気管内排圧(静圧)で止まるが極限まで理想化。排気脈動、圧力振動の類は面倒なので考えない。
黄緑色三角のエネルギー(排気圧力エネルギー224J)で、吸気を圧縮する。
想定する機構はなんでもよく、電気的エネルギーや機械的エネルギーに、黄緑色三角のエネルギーを100%蓄え、吸気圧縮に使う。
単純なピストン仕切りでは半端なところで釣り合って100%吸気圧縮に使えないのでダメ。
例えば↓のような機構を仮想
これでは無意味にややこしいというなら、ピストン+クランク+ワンウエイクラッチ+慣性モーメントが十分大きいメカロス=0のフライホイール。ピストンは十分ゆっくり動き、押す力がなくなれば(大気圧まで膨張すれば)フライホイールはフリー回転になる。このエネルギーを使って圧縮するときはピストンに圧縮側にだけ移動できるラチェットでも付ければよい。
長々と書いたのは「準静的」に「圧力のエネルギーを全て別の容器に移動する」を実現する便法。「圧力のエネルギー」も曖昧な言い方だが(変化のさせ方で取り出せる仕事は変わるがここでは可逆断熱変化を想定)他によい表現が出てこない。シリンダー~クランク系、フライホイールの寸法質量等をどう設定すれば、どの程度の「準静度合い」「圧力エネルギーの他容器への移送効率」が達成できるか、simulateできそうな気はするが、そこまで熱心ではない+めんどくさそう+何か他の知識も要りそうなのでやらない。
上記の論理に100%の自信はない。熱心な方は論理の妥当性ないしはデタラメ性について検討されたし。
ターボも同じで、単純な仕切りではなく、絞りでも混合容器でもない。
気筒内ガス膨張終わり圧力P(静圧) →
ブローダウンして運動エネルギー 動圧=(1/2)*ρ*v^2 →
タービンコンプレッサ駆動→
空気を加速 動圧=(1/2)*ρ*v^2→
ディフューザーで減速して圧力P(静圧)
の変換をしている。動作流体粘性=0 機器効率100%なら 定常状態では必ず
タービン入口排圧(静圧) ここは高速 < ブースト圧(静圧) ここは低速
気筒内圧も、排気行程<吸気行程 不等号の向きは<である。>の誤記ではない。
「静圧過給」は、
ブローダウンして動圧
→大きな容積部に入れて動圧→静圧(速度低下)
→容積部からノズルで出す(静圧→動圧)
で、変換が2回増える。レスポンス重視なら静圧過給は即アウト→自動車用では使えない。
「静圧過給」は超大型ユニフロー2stディーゼルでは主流のようである。2stでターボ過給が成立するのがそもそもフシギな話。4stでは排気と吸気は独立した行程だが、2stでは吸気(掃気)と排気が同時に開いている期間が大半。2stでターボ過給を成立させるにはイロイロ条件があるらしく、各部の圧力挙動詳細データがないと理解不能。知らない話は他所の方のお任せで、「誰でもできる4stボルトオンターボ」とは異質。「誰でもできるボルトオン」は技術としては王道正道。
吸気密度2倍 264kPa (断熱圧縮) にするために必要な膨張行程終わり気筒内圧は、264kPaではなく477kPa必要になる。
排気圧力エネルギー224Jは
吸気行程で回収されるエネルギー164J(=過給機の押し込み仕事)+吸気圧縮仕事60J
に分け合わなければならないので、膨張行程終わり圧力>ブースト圧 になる。
上は現実を極限まで理想化しているが、機器効率がある程度高ければ、排気【圧力】エネルギーを、負のポンプロスとして、クランク軸に回収できそうなことは理解できる。高過給ディーゼルは既にそうなっているらしい。ポイントは膨張行程終わり圧力と、圧力⇔速度の変換(理想極限的には可逆変換)であって、温度は共連れで変わっているだけ、本質的には関係ない。測定値として出てくるが熱→機械エネルギーに直接変換するプロセスはない。
点火カットして排気系で燃料をアフターバーンさせ、ターボラグを短縮するレース屋専用の骨董品的手法がある。点火カットではなく極端に点火時期リタードして失火させても話は同じ。商用化できない話は他所でどうそ。
似た話はどこかで見たようなキオクが・・・
「レシプロ機関の初期にあったらしい無圧縮機関」「コンプレッサー無しの無圧縮ガスタービン」← 骨董品。
これとてタービン加速に直接的に寄与するのは「圧力→速度」で「温度」ではない。タービン入口:1300K、100kPa、速度=0、タービン出口:300K、100kPa、速度=0、この状態ではタービンは回せない。アタリマエの話だが、シツコク何度でも書く。
「熱」「温度」はここでは圧力差を生むための手段で、温度だエンタルピーだは動力を取り出した結果として共連れで変わっているだけ
とややヒネクレタ解釈をする方が
ターボで排気の残留エンタルピーを回収
と教科書に書くよりもオレ的には適切。
実際は
静圧⇔動圧の変換が100%可逆ではない。粘性の影響で、熱になって戻らない分がある=非可逆プロセス=仕事として(100%は)回収できない。極端な例が【定常】絞り膨張で、圧力(静圧)が下がるだけ。温度は不変。
管路断面積一定の定常絞り膨張で、体積が膨らむので運動エネルギー(動圧)が増えているように見える。
圧力半分に絞ると 密度半分+速度2倍=動圧2倍
だが2倍になったところで電卓たたくと無視できるほどの値で、結局静圧が下がっているだけ。圧力半分を1/5倍に変えたところで目くそ鼻くそ。音速流にでもなれば差が出るが、音速流自体が可逆性が強く支配する空間でのみ生成される。音速流ができてもターボやエジェクタ以外はディフューザー形状にしないから(できないorする必要がない)結局絞り膨張に近づく。【定常】をわざわざ入れているのは、絞り膨張でも定常非定常で温度その他の挙動が違うはずだから。
定常非定常問わず絞りが入ると
・可逆断熱膨張よりも膨張仕事(外部に取り出せる仕事、押し出し仕事)が減る
・可逆断熱膨張よりも膨張後の温度は上がる
どーんと拡大解釈すると、
圧力の保存、「圧力→速度」変換は簡単。臨界圧力比があれば、普通の穴から出すだけで音速流はできる。教科書にはノズルの形状の絵があるが、ただの穴でいい。音速流ができないのなら、流量チョークや負圧~流量特性すら、全く説明できない。
速度の保存、「速度→圧力」変換は簡単ではない。粘性がブレーキをかけるので、すぐに速度が減衰して熱に化けたがる。
・静圧⇔動圧に完全に化けるのではなく、静圧は必ず残っている
・気体⇔固体メカ へのエネルギー伝達効率
等々で、例のヤヤコシイ式になる。ヤヤコシイ式は実務家は完全理解すべしだが、原理だけに興味がある傍観者は斜め読みで十分。原理原則の理解がアヤフヤで末節の無駄知識が好きなのは分野問わずヲタの共通項のようだが。
タービン&コンプレッサは「速度型」のキカイで、効率の目玉を外せばどんどん効率は悪くなる→吸気圧に対して排圧が上がる。排圧ガーはこれが原因で、全領域「可変サイズタービン&コンプレッサ」でカバーすればウエイストゲートは不要になって排圧はドカンと下がる。「可変サイズタービン&コンプレッサ」は妄想で、サイズ違いのターボを何個か用意して、過給域を各々の効率の目玉で覆い尽くす。
元図は特許から借用して加工。
ポイントは、フツウのエンジン性能マップ的に見るには等エンジン回転線が右上がり(図の赤線)になること、と今日知ったのでmemoする。2倍過給で2.6barなのは断熱圧縮だからで、赤線は曲線になるはずだが面倒なので一直線で引いて数字はテキトー。無過給全負荷空気量はrpm比例ではなくηcが掛かるので↑のように描くのは誤りだが0次近似と思えば十分。
「並列(1→2個切り替え、小→大切り換え)」「直列(いわゆる2段過給)」等は省略、と書いたが近年増えているのはビックリで目的はディーゼルの排気対策。乗用車用6気筒の商品名「ツインターボ」はここでの「並列」「直列」分類には属さず、3気筒エンジンのターボ1個使いと同じでメリットはレイアウト・排気管取り回しの話を除けば排気干渉回避のみ。排気量半分の3気筒エンジン×2台と同じ構成で、出力性能は3気筒エンジン2台分で応答性は同じ。と宣伝には書かないが技術的にはそれだけ、と認識するのがフツウの人。
ターボの詳細は知らん。3次元流体力学+ノウハウの塊で、専門メーカー≒ガスタービン屋のお仕事。極限まで単純化すると一面が見える。
膨張行程終わり圧力>過給圧
排気行程の気筒内圧>大気圧 とすればさらに過給圧を上げられるが(例 VNタービンのタービンノズルを絞った状態)、ここでは理想極限である「排気行程の気筒内圧=大気圧」で単純化している。
エンジン回転を上げると、冷却損失が減るので膨張行程終わり圧力は高くなる。自然と過給圧は高くなる。ターボの実際の特性(理想からの解離原因の全て→メカロス、気体粘性、タービン&コンプレッサハウジングからの漏れ、コンプレッサ効率、タービン効率、サージング、最高回転限界、流量チョーク等々)やエンジンとのマッチングの話+点火時期リタード(低回転高負荷でリタードロスは最大)を無視すると
低回転では過給圧上がらず、高回転では上がりすぎる
のは、冷却損失に原因がある。
途中のプロセスは一切無視して、極限状態のエネルギーバランスだけから見ればこうなる。現実の詳細をどれだけ把握しても極限は越えられない。
オマケ
回転一定で、負荷を変えた場合、膨張終わり圧力は負荷が大きいほど大きくなる。負荷方向の過給機パワーバランスの理にかなっている。パワーバランスは流量とか温度(枝葉末節)を言い出す前に、まず気筒内の膨張終わり圧力を見る。ガソリンでもディーゼルでも同じ。クランク直結の容積式過給機は部分負荷の扱いが厄介で、燃費を考慮するとクラッチ、バイパス、絞り等が必須となる。
オマケ
「冷却損失」なるものは、機能保全(材料、オイルを過熱させないこと)を満たした上で残りは成り行き。安全サイドに振るから「冷却不要で保温しろ」「過冷却」シーンはいくらでもある。冬場に水温上がらないのはその代表で通風不要。寒冷地の人は分かっているから、むかしむかし某国では皆様段ボールで前面を塞いでいた。近年切り込んだのは電動ウオーターポンプ。水風呂をかきまわされては寒いだけで、実際の動作は知らないが壁面の昇温は早くなるから排気昇温と未燃HC削減には効く。
オマケ
30年近く前に提案された沸騰冷却。自技会876042。
「電子制御マンセ~期」のピークだったはずで、何やらいろいろついている、エアコンと同じで真空引きが要るじゃねえか等々はスルー。
この設計では道路勾配、旋回、加減速、路面からの振動入力による空焚き問題があるはず。ヤカンに少しだけ水を入れて火にかけたままゆすってみる。水量をかなり多くしないと空焚きの不安がつきまとう。性能メリットを語る能力は当方にはないのでスルー。
記載図面はラフなもので、詳細設計は不明。空焚きを避けようとすると、シリンダヘッド内部は水で満たしてアッパーデッキから煙突を出して気泡抜きをする必要がありそうだが、これでは気泡の通路が狭すぎて冷却能力が不足する。煙突まで水で満たす必要があるので、「気泡抜き」であって「蒸気抜き」ではない。それが嫌ならロアーデッキ~アッパーデッキの空間を思い切り高さ方向に広げる必要があるが、大設計変更になる。強度的にもつかも怪しいし、エンジンルームに収まるかも怪しい。エンジンは直立搭載が要求されV型は不可。論文はシャシーダイナモ実験だけで路上実験結果の記載はない。質疑も記載されているが、空焚きが不問に付されているのはイマとなってはフシギ。