土手猫の手

《Plala Broach からお引っ越し》

No.35「横顔」

2008-10-24 02:06:03 | 掌編(創作)
いつの間にか雨になっていた。

街行く人の中に一つ二つ傘が開いて、
「雨が降って来たのか…」と目を凝らす。
降り始めの細かい雨が、秋の冷ややかな風の上に透けて見える。

ふと、向かいのビルに目をやると屋上に一羽の鳩。

「一羽か…」
そう見渡すと、何羽かの鳩が。視界の外へ飛んで行った。
目を戻すと、上空には旋回する二羽の。

けれど、鳩は「何故?」と思う程に全く意に介す様子が無い。

凝視してるかの様に、背を伸ばし首を一方に固定したまま。
徐々に強くなってゆく雨脚に、たじろぐ様子も無い。
「鳩も何想うこと有るのか…」


身じろぎもせずに。
佇む。

既に他の、姿も声も無くなって。
雨は軒先から吹込んで来る程になっていた。
「濡れるよ」


そのうちに。ふいと。
給水塔の陰に入って行った。
飛び立つ姿は無い。

降る雨を見上げて。一息をつく。


「ねえ気づいてた?」私は「僕は」ずっと君を見ていたけれど。



2008.10.23(10.24 加筆) ?


リンク。10/23


No.12「チャイム」

2008-04-26 23:10:23 | 掌編(創作)
突然、先生の言葉が説明が耳馴染みの有るものに変わった。
ぼうっと流れていた時間、頭にスパークが翔る。「えっ?これもうやったとこ…」
瞬間私は顔を上げた。「…いや。」その頭を振って考える。「おかしい!?」
いくら勉強嫌いな自分でも、さすがにそれ位は解る。言葉・内容、繋ぎ方が全てまるまるおんなじならば。おんなじ、カリキュラムでは無く段取り、話そのものが同じだったのだから。
眉間にしわを寄せながら「あれっ?」ハッキリとして来た?目で辺りをそっと伺うと、誰一人として声を挙げる気配も無い。気づいて無い?
「何で?」ぼんやりを引きずったまま、かの頭を無理矢理に、回転数を上げさせて、答えを探そうとする。え…っと、
『同じとこやってるよ!(笑)』『進まなくてラッキー!』って魂胆?
つかの間、納得を見つけた気分になる。でも…
にしても、この静寂さは『異常』では無い『いつも』過ぎる?

取り敢えず「仕方無い。」私は混乱した頭のまま、その時間を遣り過ごす事にした。他にやる事も無い。授業中だ、聞き覚えの有る授業ではあってももう一度、聞きながら休み時間を待つしか無い。
「そうは言ったって!」どうしたって、まして「もうやった。」なら。『勉強』の二文字なんて造作無く滑り落ちてしまう。
窓ガラスの先は花の色にけぶっている。時計の針は9時22分。
「目は開いている。開けてるけど…」「もしやこれは夢?夢を見ている?また随分と、ハッキリした夢よね…」
「夢か…」もし、ならば。もし白日夢なら終業のベルに依って覚まされる筈だ。
でなければ。級友達のはやし声によって覚まされるだろう。「うんうん。」
そうきっと、ここに居る一同にベルは告げることだろう『もういいよ。』そして『さあいいよ。』と。うん論理的。
あれこれとくどくどと巡らせている内にやれやれやっと、
『もういいよーーーー』は来た。


一気に教室の空気が緩む。ONからOFFへの瞬間移動だ。
開けた窓の隙間から花びらが吹き込んで来た。
『春は曙』かぁ。もうそんな時間じゃないか…さて起きなくっちゃね。
休み時間に「起きる」とは、はてさて困った生徒であるなと我ながらに思う。
学校もとんだ新入生を受け入れてしまったものだな。なぁんて、さっきまでとは打って変わった呑気さで、私は待っていた。
そうだろう当然の反応を待つ。しかしクラスメートはこれといった、別に格段変わった様子を見せる気配は無い。おしゃべりをしたり、伸びをしたり。いつもの光景だ。
お菓子をまわす、スカートを扇ぐ。真似して扇ぐ。
回転数安定、動作確認。スリープはしてない。
「やっぱり…」つまり、そういう事?私はやっと飲み込んだ。
本当は、ずっと目が覚めていた事に今の今まで気づいて無かった、らしい私は確かめるかの様に声を出してみた。
「私だけが聞いていたのか、同じ授業をもう一度。」

白日夢は目覚ましのベルと共に「そのまま」現実へとスライドして行っていたのだ。

キンコンカンコーン…
夢じゃない事を音が告げる。
「そうか中学じゃなかったっけ…」

始業を知らせる音だけが晴れやかに、チャイムへと姿を変えていた。



?  2008.4.26記(4.27加筆修正)