このコンクールで審査委員長をつとめておられた児玉 清さんが亡くなられたのが昨年の5月でした。審査委員長というよりも本が大好き、こよなく読書を愛しておられた読者代表でもある児玉さんのいらっしゃらない造本装丁コンクールはなんだかさみしい気がします。
ところで今年の三賞は文部大臣賞が『蒸気機関車讃歌 白い息遣い』雪原の中を迫ってくるD51の黒い巨体それにかぶせて簡潔なタイポグラフィの書名、妙に惹きつけられる装丁でした。本文のレイアウトも美しい。著者は山岸起一郎、版元は(株)クレオ、装幀は加藤勝也、印刷・製本は凸版印刷。 経済産業大臣賞は『透明人間→←再出発』これはまさに造本装幀コンクール向きの造本、審査員の先生方も兜を脱いだのでは。詩:谷 郁夫・写真:青山裕企 版元はミシマ社で装幀は斉藤文平、鈴木千佳子、印刷(株)サンエムカラー製本印刷設計(株)。東京都知事賞は『フィジカル・グラフィティ・ツアーせつだん81面相』これも異色、実験的造本といえます。版元牛若丸、装幀は松田行正、印刷は三永印刷(株)、製本は小高製本。
個人的な感想としては奇を衒った造本装幀が高位入賞する傾向はどうかと思います。おそらく児玉さんが加わっていたらひとことあったでありましょう。美しい造本、格調高い装幀、優れた印刷、高度な製本技術でいつまでも残る造本装幀遺産選びのような審査であってほしいのです。
我田引水と思われそうですが、私が選んだ一冊は日本書籍出版協会理事長賞の『明解活字の美しさ』、明朝体活字の美しさを追求した矢作勝美著、版元は(株)創元社、装幀は濱崎実幸、印刷・製本図書印刷。表紙や函の箔の使い方から花布やスピンの扱いまで神経が行き届いていて高潔なオーソドックスさがいいと思うのです。