活版印刷紀行

いまはほとんど姿を消した「活版印刷」ゆかりの地をゆっくり探訪したり、印刷がらみの話題を提供します。

『本のエンドロール』を読む

2018-06-21 11:34:04 | 活版印刷のふるさと紀行

 講談社から出た『本のエンドロール』を見つけたのは書店の棚でした。最近はとかくAmazonの世話になることが多くなっていますが、「犬も歩けば」で,こうしためぐりあいはうれしいものです。

 まず、気になったのが書名のエンドロールでした。たしか、映画の終わりに監督や出演者や製作スタッフなどの名前がながながと流れるのがエンドロールだったはず、本のエンドロール?その私の疑問は本を手にしたら氷解しました。

 なんと、なんと,本文ページの最後、裏見返しの前のページに,この本を印刷した会社の印刷営業担当者から印刷機機長や組版のオペレーターまで全工程のスタッフが23人、製本会社のスタッフが担当別に10人、それに配本に当たった運送会社名まで全部で36人のお名前が見開きに羅列されているではありませんか。

 ところで、この安藤祐介さんの書き下ろしは豊澄印刷株式会社の営業マンが主人公、「印刷会社はメーカー」、「いや印刷会社はあくまで印刷会社」と意見を異にする二人の営業マンが助け合って印刷・製本会社の各部門の人たちの協力のもと1冊の本を仕上げるまでの苦労話です。

 こうした本づくりの舞台裏を描いた小説は私の知る限りありません。アナログからデジタルへ大変革の中で苦闘する出版界や印刷界という社会的背景といい、その中で揉まれる印刷営業マンの苦悩も読み取れますが、皆さんのご興味を削いではいけませんからここでは小説の中身には触れないでおきます。

 ひとつだけ私が気に入らなかったのは奥付です。本のエンドロールは奥付です。たとえば、カバーにも紙クロースの表紙にも印刷現場で働く人を配し、本扉の絵柄も印刷機を流れる刷本で、いかにも書名にふさわしい写真と装丁ですが、この写真家や装幀者の名前が目次裏に扱われています。さらにこの本の印刷用紙のデーターも同じページに小さく扱われております。彼らも著者本人もエンドロールに名を連ねるスタッフではないのでしょうか。

 エンドロールとして著者名から写真家名、装幀家名はもちろん、36人のスタッフ名、それに製紙会社などの用紙データも配した奥付だったらもっと喝采をおくるのですが。

 

 

 

 

 

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