昨年亡くなった歌人、河野裕子さんの遺歌集ともいうべき歌集「蝉声」(2011年6月/青磁社)を読んだ。人が余命いくばくもない時期にどんなことを思うのか、自分が将来いつかそうなる時にはどうしているだろうか、生とはなにかと思うとしんみりとさせられる。印象的な歌をいくつか紹介したい。
一日ひとひ死を受けいれてゆく身の芯にしづかに醒めて誰かゐるなり
残しゆく者残さるる者かなしみは等量ならねど共に蝉きく
わが知らぬさびしさの日々を生きゆかむ君を思へどなぐさめがたし
手をのべてあなたとあなたに触れたきに息がたりないこの世の息が
(口述筆記の最後の歌。この翌日に死去)