嘘
1
嘘に敏感な子どもがいた
ごまかされた
言いくるめられた 裏切られた
相手にもされなかった
ぜんぶヒガイシャの自分なので
自分だけが傷ついた
そして長いことわすれなかった
そのくせ自分の嘘には鈍感だった
自分の嘘で傷ついた人のことには
もっと鈍感だった
2
嫌うより
嫌われるほうがいい という強がり
忘れるより
忘れられるほうがいい といういじけ
会議の場で
―あんたはキライダ!
そう言い放った会社の上司
六年ぶりの同窓会で
―きみはダレデシタッケ?
そうたずねた担任の先生
ぼくは嫌いでもなく
忘れてもいなかったけれど と
自分を言いくるめた
3
母に何年も嘘をついていたことがあった
小一のとき崖から落ちたと母にいった
落ちて膝を打ったと母に言った
ほんとうは数十センチのジャンプで降りただけ
なぜ落ちたといったか なぜ
膝を打ったといったのか
あわてて医者に連れて行かれ
特にけがなどしていませんがと言われた
血もでていないし
すりむきさえしていないですと
なぜあのとき落ちたといったか
なぜあのとき膝を打ったといったか なぜ
まだ膝は痛みつづけていると訴えたのか
毎日駆けずり回って遊んでいるのに
あのとき本当はネ
―そう告白したのは小四のとき
東京の医者にかかり くわしく検査をされ
特にわるいところはありませんねえと言われた
骨も神経の反射も
まったく異常ありませんよと
僕はとうとう母にいった
母は僕より僕を信じてくれていたのだ
僕の代わりに膝を痛めてくれていたのだ
あのとき本当はネ
あのとき本当はネ
●ご訪問ありがとうございます。
「嘘」をつきなれてきた私です。「嘘つかぬ いち日でしたと 嘘をつき」という川柳を真顔で作りました。
生涯嘘のなかったイエス・キリストのことを思いながら、悔い改めをしたいと思います。