医学雑誌「臨床精神薬理 Vol.19, No.6 Jun. 2016」
星和書店発行
双極性障害の薬物療法についての私の知識は、
・気分安定薬リチウム(リーマス®)が基本処方
・躁状態には非定型抗精神病薬であるオランザピン(ジプレキサ®)
・うつ状態には抗うつ薬は無効であり、あえて使用するとすればラモトリギン(ラミクタール®)
・ジプレキサ®は肥満/脂質代謝異常に、ラミクタール®は薬疹に注意
程度です。
最新の医学雑誌に件名の特集を見つけたので購入して読んでみました。
内容は、2015年10月に開催された第25回日本臨床精神神経薬理学会のシンポジウムをまとめたもの。
・・・が、残念ながらあまり新しい知見は見つけられませんでした。専門家も苦労しながら治療に当たっているようです。
<メモ>
■ 「特集にあたって」(井上猛、東京医科大学)
・双極性障害の薬物療法は急性期のみならず維持・予防療法を視野に入れる必要があるために、薬物選択が難しい。
・2000年までは双極性障害の研究は非常に少なかったが、2000年以降飛躍的に研究が進み、次々に双極性障害の症候学、経過、治療法の常識が書き換えられてきた。
■ 「双極性障害の早期治療」(田中輝明、釧路総合病院)
・双極性障害は再発を繰り返す精神疾患であり、再発とともにさまざまな機能障害が進行する。また、再発とともに気分エピソードの間隔が短縮化され、ささいなストレスでも再発しやすくなる。
・従来の双極性障害の治療GLにおいては、病期分類の視点が欠如しており、初発や再発、難治例といったタイプ別の治療アプローチ十分に取り組まれてこなかった。
・近年、背景に“neuroprogression”と呼ばれる中枢神経系における進行性の変化が関与していると考えられるようになった。再発に伴う認知機能障害や心理社会機能の悪化、lithiumや認知行動療法に対する治療反応性の低下もこの結果と考えることができる。
・気分安定薬(lithiumやvalproate)および一部の非定型抗精神病薬(aripiprazole, olanzapine, quetiapine)はneuropregressionを抑制する可能性がある。
・双極性障害の発症年齢は20歳前後と若く、3/4は12-30歳の間に最初の気分エピソードを呈する。
・早期からのlithium投与が治療反応性を高めるが、長期使用による副作用に注意すべし。慢性腎障害、甲状腺機能低下、高カルシウム血症のリスクが高まる。
・治療ガイドラインにおいて第一選択薬に位置づけられる非定型抗精神病薬も長期使用により遅発性の錐体外路症状や糖脂質代謝異常の発生が懸念される。
■ 「混合状態に対する薬物療法の選択肢」(武島稔、Jクリニック)
・急性期:olanzapine(OLZ)が第一選択、aripiprazole(ARP), perospirone, quetiapine(QTP), これらと valproic acidやlithium(Li)の併用も選択肢になる。
混合性躁病の躁状態に対する改善効果は薬剤間で純粋躁病と大差ないが、うつ状態への効果は薬剤間で差がある。躁症状が重度の場合は、非定型抗精神病薬(atypical antipsychotics, AAP)と気分安定薬(mood atabilizers, MS)の併用を考慮する。
AAPの投与量は、統合失調症や躁病エピソードに比べてかなり少ない。AAPは妊孕性不良のために継続困難な例も多く、LTGはその場合抗うつ作用を担保する役割も持つ。LTGのみでは気分が不安定な例、躁病優位の病歴や発揚気質を持つ例、自殺リスクが高い例ではLi(うつ病相には適応外)併用を考慮する。
・維持期:lamotrigineやlithium(Li)を考慮
RCTは存在しない。自殺予防効果を期待してのLi、うつ病相予防の効果が確立し、薬疹以外は妊孕性が高いlamotrigineも考慮に値する。
筆者外来の双極性障害の混合性うつ病に対する薬物療法データ;
・開始治療の28%がAAP単独、72%がAAP+MS、AAPの67%がOLZ、MSの69%はLTG
・採集観察時点では、AAP単独の割合は減り、MS単独ないしAAP+MSが78%。主として忍容性不良のために、AAPの中でOLZの占める割合は減少している
・90日後の累積寛解率は、双極性障害では77.8%
■ 「双極性うつ病(双極性障害の大うつ病エピソード)の薬物療法」(秦野浩司、大分大学)
・双極性うつ病(双極性障害の大うつ病エピソード)は最も治療が難しい気分エピソードである。
・治療GLで推奨される薬物療法は、QTP、Li、OLZ、LTGによる単剤治療と、気分安定薬であるLi、LTGの併用療法である。ただし、OLZ以外は保険適用外。
Liは効果発現までに6-8週間を要する。Liは有効濃度と中毒域が近い。
※ 本邦未発売であるが、olanzalineとSSRIであるfluoxetineの合剤(olanzapine/Fluoxetine Combination, OFC)という薬剤もある。
※ LTGの重篤な皮膚障害(SJS、TEN)は、投与開始量が推奨量よりも多い例、急速に増量を行った例、VPAとの併用例に多い。
・それらが無効の場合、抗うつ薬の追加投与も検討されるが、SNRI、三環系/四環系抗うつ薬など躁転リスクの高い薬剤の使用は避け、SSRIや mirtazapineなどを最低必要量、短期間の使用が推奨されるが、現状ではエビデンス不足である。
・双極性うつ病に対する薬物療法の最近のネットワーク・メタ解析;
短期的効果:OLZ>QTP>LTG>Li
長期的な双極性うつ病の再発予防効果:QTP>LTG>Li>OLZ
→ 急性期効果を優先すればOLA、長期的な再発を考慮すればQTP、メタボリックな副作用も考慮して総合的に判断すると、LTGやLiがOLZやQTPよりも劣っているとは言いがたい。
・双極性うつ病にはLTGを薬疹に注意しながら漸増していくと、徐々に抗うつ効果が発揮されることが多い。筆者の検討では有効血中濃度は5-11μg/mLである。
・LTG投与によりうつ状態が改善したものの、あと一歩で遷延している場合には、mirtazapine(リフレックス®)を7.5-15mg/日追加すると正常気分に回復することがある。数ヶ月安定していることを確認後中止することが望ましい。もう一つの選択薬はescitalopram(レクサプロ®ほか)の半錠(5mg)追加であり、中止時期は同様である。
星和書店発行
双極性障害の薬物療法についての私の知識は、
・気分安定薬リチウム(リーマス®)が基本処方
・躁状態には非定型抗精神病薬であるオランザピン(ジプレキサ®)
・うつ状態には抗うつ薬は無効であり、あえて使用するとすればラモトリギン(ラミクタール®)
・ジプレキサ®は肥満/脂質代謝異常に、ラミクタール®は薬疹に注意
程度です。
最新の医学雑誌に件名の特集を見つけたので購入して読んでみました。
内容は、2015年10月に開催された第25回日本臨床精神神経薬理学会のシンポジウムをまとめたもの。
・・・が、残念ながらあまり新しい知見は見つけられませんでした。専門家も苦労しながら治療に当たっているようです。
<メモ>
■ 「特集にあたって」(井上猛、東京医科大学)
・双極性障害の薬物療法は急性期のみならず維持・予防療法を視野に入れる必要があるために、薬物選択が難しい。
・2000年までは双極性障害の研究は非常に少なかったが、2000年以降飛躍的に研究が進み、次々に双極性障害の症候学、経過、治療法の常識が書き換えられてきた。
■ 「双極性障害の早期治療」(田中輝明、釧路総合病院)
・双極性障害は再発を繰り返す精神疾患であり、再発とともにさまざまな機能障害が進行する。また、再発とともに気分エピソードの間隔が短縮化され、ささいなストレスでも再発しやすくなる。
・従来の双極性障害の治療GLにおいては、病期分類の視点が欠如しており、初発や再発、難治例といったタイプ別の治療アプローチ十分に取り組まれてこなかった。
・近年、背景に“neuroprogression”と呼ばれる中枢神経系における進行性の変化が関与していると考えられるようになった。再発に伴う認知機能障害や心理社会機能の悪化、lithiumや認知行動療法に対する治療反応性の低下もこの結果と考えることができる。
・気分安定薬(lithiumやvalproate)および一部の非定型抗精神病薬(aripiprazole, olanzapine, quetiapine)はneuropregressionを抑制する可能性がある。
・双極性障害の発症年齢は20歳前後と若く、3/4は12-30歳の間に最初の気分エピソードを呈する。
・早期からのlithium投与が治療反応性を高めるが、長期使用による副作用に注意すべし。慢性腎障害、甲状腺機能低下、高カルシウム血症のリスクが高まる。
・治療ガイドラインにおいて第一選択薬に位置づけられる非定型抗精神病薬も長期使用により遅発性の錐体外路症状や糖脂質代謝異常の発生が懸念される。
■ 「混合状態に対する薬物療法の選択肢」(武島稔、Jクリニック)
・急性期:olanzapine(OLZ)が第一選択、aripiprazole(ARP), perospirone, quetiapine(QTP), これらと valproic acidやlithium(Li)の併用も選択肢になる。
混合性躁病の躁状態に対する改善効果は薬剤間で純粋躁病と大差ないが、うつ状態への効果は薬剤間で差がある。躁症状が重度の場合は、非定型抗精神病薬(atypical antipsychotics, AAP)と気分安定薬(mood atabilizers, MS)の併用を考慮する。
AAPの投与量は、統合失調症や躁病エピソードに比べてかなり少ない。AAPは妊孕性不良のために継続困難な例も多く、LTGはその場合抗うつ作用を担保する役割も持つ。LTGのみでは気分が不安定な例、躁病優位の病歴や発揚気質を持つ例、自殺リスクが高い例ではLi(うつ病相には適応外)併用を考慮する。
・維持期:lamotrigineやlithium(Li)を考慮
RCTは存在しない。自殺予防効果を期待してのLi、うつ病相予防の効果が確立し、薬疹以外は妊孕性が高いlamotrigineも考慮に値する。
筆者外来の双極性障害の混合性うつ病に対する薬物療法データ;
・開始治療の28%がAAP単独、72%がAAP+MS、AAPの67%がOLZ、MSの69%はLTG
・採集観察時点では、AAP単独の割合は減り、MS単独ないしAAP+MSが78%。主として忍容性不良のために、AAPの中でOLZの占める割合は減少している
・90日後の累積寛解率は、双極性障害では77.8%
■ 「双極性うつ病(双極性障害の大うつ病エピソード)の薬物療法」(秦野浩司、大分大学)
・双極性うつ病(双極性障害の大うつ病エピソード)は最も治療が難しい気分エピソードである。
・治療GLで推奨される薬物療法は、QTP、Li、OLZ、LTGによる単剤治療と、気分安定薬であるLi、LTGの併用療法である。ただし、OLZ以外は保険適用外。
Liは効果発現までに6-8週間を要する。Liは有効濃度と中毒域が近い。
※ 本邦未発売であるが、olanzalineとSSRIであるfluoxetineの合剤(olanzapine/Fluoxetine Combination, OFC)という薬剤もある。
※ LTGの重篤な皮膚障害(SJS、TEN)は、投与開始量が推奨量よりも多い例、急速に増量を行った例、VPAとの併用例に多い。
・それらが無効の場合、抗うつ薬の追加投与も検討されるが、SNRI、三環系/四環系抗うつ薬など躁転リスクの高い薬剤の使用は避け、SSRIや mirtazapineなどを最低必要量、短期間の使用が推奨されるが、現状ではエビデンス不足である。
・双極性うつ病に対する薬物療法の最近のネットワーク・メタ解析;
短期的効果:OLZ>QTP>LTG>Li
長期的な双極性うつ病の再発予防効果:QTP>LTG>Li>OLZ
→ 急性期効果を優先すればOLA、長期的な再発を考慮すればQTP、メタボリックな副作用も考慮して総合的に判断すると、LTGやLiがOLZやQTPよりも劣っているとは言いがたい。
・双極性うつ病にはLTGを薬疹に注意しながら漸増していくと、徐々に抗うつ効果が発揮されることが多い。筆者の検討では有効血中濃度は5-11μg/mLである。
・LTG投与によりうつ状態が改善したものの、あと一歩で遷延している場合には、mirtazapine(リフレックス®)を7.5-15mg/日追加すると正常気分に回復することがある。数ヶ月安定していることを確認後中止することが望ましい。もう一つの選択薬はescitalopram(レクサプロ®ほか)の半錠(5mg)追加であり、中止時期は同様である。