発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「がんばらない死に方」(与芝 真彰 著)

2016-11-30 07:10:27 | 
ワニブックス、2014年発行

東日本大震災後、“こころの危機”にどこまで宗教(とくに仏教)が対応できるのか、興味を持ちました。
平安時代末期の末法思想に対応したのは、鎌倉仏教の担い手である法然の浄土宗であり、親鸞の浄土真宗だったという歴史があったからです。
しかし、現代では十分に対応できているとは言い難い、というのが率直な印象です。

人間は病気を抱えたときも“こころの危機”を抱えることになります。
不安という姿の見えないモンスターに翻弄される日々が続くのです。

この本の著者は、医師であり僧侶でもあります。
なんとなく、生きている間は医師の領域、死後は僧侶の領域というイメージがありますが、その両方の視点を持っている著者の言葉を聞きたいと思い、読んでみました。

結論から述べると、やはり十分には対応できないのではないか、と感じました。
仏教の基本的な考え方は「生きることは苦しいこと」(一切皆苦)。
病気の苦しみを仕方ないことと受け入れるべし、生に執着することなくあきらめて死を受け入れるべし、と説きますが、その発想の転換がなかなかできなくて苦しむわけですから。

この本の中で、苦しみを克服する修行方法として、
1.自らは我慢する
2.期待せずに諦める
などを挙げています。
つまり、悟り=諦め(諦観)であり、一番崇高な行いは「自己犠牲」である、と。

なるほどそうかもしれません。

ただ、1と2を実践できた場合にそれに見合う報酬が得られるのか、疑問に思います。
人間の心はバランスが崩れると悪い結果を生みがち。
1が過ぎると心のバランスが崩れてしまいそう、2が過ぎると向上心までも影を潜めて人類の発展が止まってしまいそう、と感じるのは私だけでしょうか。

小児科の診察室で子どもがじっとしていないと、しびれを切らした母親が「キチンとしなさい!いい子にしなさい!」と叱咤します。
仏教の教えには、それと共通するところがあるような気がします。
「自分の欲望は我慢して他人に奉仕しなさい(=いい子にしなさい)」
すると、魂の平安が待っている・・・。




***************<備忘録>******************


□ 「三時」
 仏法の行われる時期を三つに分けたもの。
1.正法(しょうぼう):教えや修行が保たれ、悟る人がいる時代
2.像法(ぞうほう):教えが形骸化する時代
3.末法:人も世も荒れ果て悟りを得る者がいない時代

□ 阿弥陀三尊像
 阿弥陀如来の左右に控えるのは勢至(せいし)菩薩と観音菩薩で、それぞれ「智慧」と「慈悲」の象徴。つまり智慧と慈悲があって初めて人を救うことができる。

□ 病気を抱えるようになり毎日が不安で仕方ない人への対処法
1.病気そのものを知ること
2.病気からくる不安を、そっくりそのまま受け入れる

□ 「法印」(仏教の根本原理)
・諸行無常:この世に存在するすべてのものは同じ状態を保つことなく移ろいゆくもの。つまり、苦しみすら諸行無常で、いつまでも続くわけではない。
・諸法無我
・一切皆苦:人生は「苦」、もちろん楽しいことはある。でも苦しいこともかならずあるのが人生。
・涅槃寂静

□ 「四苦八苦」
 人生には苦しみの元になる存在が4つ、または8つある。
・四苦:生・老・病・死
・八苦(+4):愛別離苦(愛する者と別れる)、怨憎会苦(憎い相手と出会う)、求不得苦(ぐふとくく、求めるものを得られない)、五蘊盛苦(ごうんじょうく、成熟していく肉体と精神がコントロールできない)

□ 死は別れの一つである(宗教学者:岸本英夫氏)
 人は孤立した死を意識したときに、死ぬのが怖くなる。
 人生において小さな別れは常にあり、死だけを特別に思うことなく、小さな別れの集大成である。
 人生で小さな別れをいくつか経験しておけば「死」は特殊なことでなくなる。

□ 過去に「執着」せず、今に「気づき」、どう生きていくかを考える。
 苦しんだ方が、その先の人生が豊かになる可能性がある。病気も大変な試練であるが、人生の見方が変わる。
 病気を抱えて死に対する不安や恐怖を感じ、ひるがえって生への喜びを得て初めて命の大切さがわかる。

□ 「八正道」(はっしょうどう)・・・釈迦が最初の説法において説いた修行の基本
1.正見(しょうけん)  ・・・正しく見ること
2.正思惟(しょうしゆい)・・・正しく思うこと
3.正語(しょうご)   ・・・正しい言葉を使うこと
4.正業(しょうごう)  ・・・正しい行いをすること
5.正命(しょうみょう) ・・・正しい生活をすること
6.正精進        ・・・正しい努力をすること
7.正念(しょうねん)  ・・・正しく思索すること
8.正定(しょうじょう) ・・・正しく精神統一をはかること

□ 「六波羅蜜」(ろっぱらみつ)
 菩薩(大乗仏教における修行者)が仏陀になるための6つの修行。
 「波羅蜜」とはサンスクリット語で「彼岸に至る」の意味。「お彼岸」という言葉の彼岸は理想郷であり、彼岸に到達する修行が「波羅蜜」である。
1.布施(ふせ)  ・・・分け与えること
2.持戒(じかい) ・・・決められたことを守ること、もしくは慎み深くすること
3.忍辱(にんにく)・・・耐え忍ぶこと
4.精進      ・・・励み、努力すること
5.禅定(ぜんじょう)・・・精神統一し、心身を安定させること
6.智慧
 ・・・六波羅蜜の布施と忍辱は八正道にはなく、この二つが大乗仏教の特徴、つまり他者救済の性格を強く表している。

□ 三毒:貧(とん)・瞋(しん)・癡(ち)
 仏教では人間の諸悪・苦しみの根源を三毒と呼び、3つの煩悩に分類される。この3つの煩悩を克服するのが人生の修行である。
1.貧:貪り、必要以上に求める心
2.瞋:怒りの心
3.癡:真理に対する無知の心
(例)
・自分だけが辛い目に遭っていると感じるのは「癡」であり、たいへん愚かなこと。誰もが同じように苦しみを背負っているが、みな「こんなに苦しい」と口にしないだけで、他人も自分も同じように辛い目に遭い闘っている。
・「瞋」対策は「諦観」。期待せずに諦めるとたいへん楽になる。誰かに何かを期待するからこそ、それに裏切られたと怒りが湧いてしまう。

□ 人は孤独に生まれて孤独に死ぬ。
 さびしさに襲われることはその予行練習と捉えよう。

□ 米国人の高齢者は孤立しているけれど、孤独ではない。
 アメリカでは死と対峙したときの魂の救済(スピリチュアルケア)が確立しているが、日本は整備されていない。
 タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジアなどの仏教国では、看取り死のシステムとしてお坊さんがいる。

□ 「布施」(=「喜捨」)の種類
 「他者のために無償で何かをさせていただく」ことは、仏道において大きな功徳である。
1.財施:金銭や衣服食料などの財を施す
2.法施:お坊さんが仏の教えを説く
3.無畏施(むいせ):災難に遭った者を慰め、恐怖心を取り除く
その他(無財の七施);
・和顔施(わがんせ):笑顔を見せて相手の気持ちを慰める
・言辞施(げんじせ):優しい言葉を使って相手を慰める

□ 因縁
 自分だけで存在しているのではなく、かならず周囲との関係で自分というのは存在しているという仏教の教え。

□ 高齢者の延命治療は、家族愛なのか、それとも年金目当てなのか?
 延命治療を希望する家族の中には、患者の年金目当ての例が存在する。入院・手術費用がすべて年金でまかなわれ、の乳児用ベッドお金は家族に入ってくるため、家族の都合で無理矢理「息をしているだけ」という状態で生かされている。その結果、延命のために医療機器や高価な医薬品が自動的に投入され、1日でも長く生かされているのが日本の医療の現状である。

□ 仏教は人生をネガティブに捉えている宗教
 仏教では「生きることは本来『苦』である」と説く。『苦』とは苦しみというよりむしろ、思い通りにならないという意味。
 『苦』は生・老・病・死、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦に分けられる。つまり、人は生まれてくる場所も時も選べず、病み老いて死に、愛するものとはいつかは別れ、嫌いなものとも付き合わねばならず、欲しいものはなかなか得られず、自分の体や心すら思い通りにならないということ。
 その『苦』は行き過ぎた欲望や執着から生まれる。
 その欲望を抑え、悟りを開き仏となるために勧められている生き方が「八正道」(上述)である。

□ 「四十九日」の本来の意味
 人が亡くなった後は7日ごとに本人の人生が裁判にかけられ、7回目にその結果が出て次に何に生まれ変わるか決まる日、だから遺族は故人のために祈る、という習慣。

□ 「極楽」という概念
 平安中期の僧の源信は、985年に著した『往生要集』に初めて極楽の概念を著した。
 平安貴族たちは極楽往生を願い、阿弥陀如来を本尊とする仏堂を盛んに建立した(例:平等院)。当時は神社や寺院に金銭や物品を寄付したものだけが極楽浄土に行くことができ、人殺しや漁師や附子は地獄に落ちると言われていた。
 しかし法然は、
「南無阿弥陀仏さえ唱えれば誰でも極楽浄土に行ける」
 と唱え、それどころか
「自分が悪人だと自覚している人ほどもっとも助けられるべきだ」
 と言い出した。法然の弟子の親鸞も、
「人は阿弥陀仏を信仰した瞬間に救われている。救われているのだから、南無阿弥陀仏というお念仏で感謝をしなさい」
 と唱え、阿弥陀信仰の大衆化に努めた。

□ 極楽へ行く方法は仏教の宗派により異なる
 地獄は悪行した者の魂が死後に罰を受ける世界で、鎌倉仏教以前は、悪いことをした人は地獄に行き、よいことをした人は極楽へ行くという単純明快な考え。
 しかし浄土宗では、南無阿弥陀仏を唱えれば極楽に行けると主張した。
 真言宗では、人間には誰しも生きたまま仏になる素質があるという考え方があり、それを仏性(ぶっしょう)ないし如来蔵と呼んだ(即身成仏)。
 禅宗の場合は瞑想で成仏を目指す。煩悩を瞑想によってそぎ落としていくと、本来持っている仏性が目覚める。
 禅宗の開祖である達磨大師は、無言のまま9年間も壁に面して座禅し悟りを開いたと言われているが、この9年に及ぶ只管打坐(ひたすら座禅すること)によって手足が腐ってしまったという伝説が生まれ、これが玩具のダルマの発祥となった。

□ ヴィパッサナー瞑想
 アメリカではストレスの解消法として瞑想(メディテーション)が流行っており、「ヴィパッサナー瞑想」と呼ばれている。「ヴィパッサナー」とは「物事をあるがままに見ること」。精神統一し、今ここにいる自分を分析し、自分の本質に気づく瞑想法。
 禅宗に似ているが、ただひたすら座禅をする只管打坐だけでは米国人には漠然としすぎているようである。

□ 平穏死・平常死・尊厳死・安楽死・・・
・平穏死/平常死:延命治療などを受けず、自宅や介護老人保健施設などで、ふだんの生活の延長線上にある死を選ぶ方法。
・尊厳死:傷病により不治かつ末期になったときに自分の意思で延命措置を拒否し、人間としての尊厳を保って死に臨むこと。
・安楽死:患者さんの苦痛を取り除くなどの目的で薬物の投与や治療行為の中断により死期を早めること(慈悲殺とも言う)。

※ 安楽死の条件(司法判断による)
1.患者さんが耐えがたい激しい肉体的苦痛に苦しんでいること。
2.患者さんは氏が避けられず、その死期が迫っていること。
3.患者さんの肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段が無いこと。
4.生命の短縮を承諾する患者さんの明示の意思表示があること。
以上が全て揃っている場合に限り、医師が積極的或いは消極的手段により死に導くことが許される。

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双極性障害患者の脳に対する向精神薬の影響

2016-11-11 08:16:37 | 
 双極性障害患者は機能性疾患ではなく、脳の画像所見を示す器質性疾患と捉えられています。
 そのMRI所見と、薬剤の影響に関する報告を紹介します。

 リチウムは異常所見を改善させる効果があるようですね。
 抗精神病薬は?

■ 双極性障害患者の脳に対する向精神薬の影響は
ケアネット:2016/10/24
 双極性障害患者の脳の構造が異常であるとのエビデンスがある。リチウムの摂取量は、全体および部分的に脳ボリュームを正常化すると考えられるが、脳容積や皮質厚に対する抗精神病薬の効果は明確ではない。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのLucija Abramovic氏らは、双極性障害I型患者の大規模な均質サンプルを用いて、抗精神病薬とリチウム摂取により誘導された疾患特異的な脳の偏差を明らかにするため検討を行った。European neuropsychopharmacology誌オンライン版2016年9月21日号の報告。
 双極性障害I型患者266例および対象被験者171例よりMRI脳スキャンデータを収集した。患者群と対照群における皮質下ボリュームと全体および限局皮質測定(ボリューム、厚さ、表面積)を比較した。患者群において、リチウムおよび抗精神病薬と全体、皮質下、皮質測定との関連を検討した。
 主な結果は以下のとおり。

・患者群では、対照群と比較して、側面、第3脳室、尾状核、淡蒼球ボリュームが有意に大きく、前額部、頭頂部、帯状領域にあるいくつかの小さな皮質の有意な薄さが認められた。
・リチウムを摂取制定しない患者では、リチウム摂取患者と比較し、脳全体、視床、被殻、淡蒼球、海馬、側坐核ボリュームが有意に小さかった。
・抗精神病薬摂取患者では、大きな第3脳室、小さな海馬および辺縁皮質ボリュームと関連していた。
・双極性障害患者では、脳全体、皮質下、心室容積、とくに尾状核と淡蒼球の異常が認められた。

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「ストーカー 〜加害者たちの告白」(NHKハートネットTV)2016年10月

2016-11-06 07:01:02 | 
 ストーカーを被害者視点から扱う番組の多い中、加害者を取材しその治療を扱った内容です。

 精神科医は、「人間には人間的脳と動物的脳がある。ストーカーは本能に走りがちな動物的脳が暴走している状態であり、人間的脳により抑制するリハビリを行う」とコメント。
 ニセモノのスマホを使ってメールを出すという失敗経験を重ねたり、自分の行動を封印するおまじないのようなことを繰り返し口走ることにより、動物的脳の行動を疲弊させる作戦です。

 臨床心理士は、「ストーカーは、ストーカー行為の他に問題を抱えているヒトばかり」とコメント。
 そこを掘り下げると、育った家庭に問題があり、親から十分な愛情をもらえず、自己評価が低いことが浮かび上がってきました。

 自分を認めて欲しい。
 自分を必要として欲しい。
 自分を愛して欲しい。

 それが達成できないと、
 自分と同じように不幸になればいいんだ。
 という歪んだ行動の原因になります。

 ああ、ここでも同じか。

 秋葉原事件をはじめ、他の少年犯罪に「愛情不全症候群」を論じる視点があります。
 犯罪者も被害者の側面が無きにしも非ず。

 両親の愛情が受けられなかった。
 自分は存在価値がないと思う(自己肯定感の欠如)。
 自分に自身がない、信じられない。
 他人も信じられない。
 コミュニケーション不全を起こし、人間関係がぎくしゃく。
 極端な行動に出る傾向。

 おそらく、その親も十分な愛情を注がれる環境ではなかったのでしょう。
 愛情不足の連鎖をどう断ち切るか、まで議論が進まないと、犯罪はなくならないと思います。
 ほ乳類って、母に抱かれて母乳で育ち、父に守られる、というたくさんたくさん愛情が必要な動物なのです。
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小児・思春期うつ病に対する抗うつ薬

2016-10-01 07:21:56 | 
 思春期の患者さんにSSRI(抗うつ薬)を投与すると自殺企図のリスクが増えるとされていますが、実際に効く薬はあるのでしょうか。
 こんなニュースが目にとまりました。
 fluoxetine以外は効かない、という残念な結果です;

■ 小児・思春期うつ病に対する抗うつ薬に限界
2016.09.25:Medical Tribune
 小児と思春期のうつ病に有効な抗うつ薬はほとんどないことを示すメタ解析結果が、英国のグループによりLancet(2016; 388: 881-890)に発表された。

◇ プラセボを上回る改善が得られたのは1剤のみ
 小児と思春期のうつ病に薬物療法を行うべきかどうか、抗うつ薬を投与する場合にどの薬剤を優先すべきかについては議論がある。同グループは、2015年3月までの医学電子データベースを検索。小児および思春期のうつ病の急性期治療における抗うつ薬の有効性と安全性を検討したランダム化比較試験のメタ解析を行った。
 解析対象は34試験で、患者数は計5,260例であった。これらの試験では14種類の抗うつ薬(アミトリプチリン、citalopram、クロミプラミン、デュロキセチン、desipramine、エスシタロプラム、イミプラミン、fluoxetine、ミルタザピン、nefazodone、ノルトリプチリン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン)が用いられていた。
 解析の結果、プラセボと比べ有意な症状改善が認められたのはfluoxetine(標準化平均差-0.51、95%CI -0.99〜-0.03)(日本では未発売)のみであった。忍容性に関しても、fluoxetineはデュロキセチンやイミプラミンより優れていた。デュロキセチン、イミプラミン、ベンラファキシンは、プラセボと比べ有害事象による中止率が有意に高かった。
 この結果を踏まえ、同グループは「小児と思春期のうつ病治療に抗うつ薬が明らかな便益をもたらすとはいえないが、薬物療法を考慮するとしたらfluoxetineが最善の選択肢だろう」としている。

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「8時間睡眠のウソ」(川端裕人/三島和夫 共著)

2016-09-25 15:26:16 | 
日経BP社、2014年発行。
川端裕人、三島和夫共著。



文筆家(小説家?)の川端裕人氏が、三島和夫Dr.(国立精神・神経医療研究センター部長)を取材してまとめた本です。
睡眠・不眠症に関する最先端の知識がわかりやすく紹介されています。
知らなかった情報が次々と出てきて、勉強になりました。

まず、「体内時計25時間説はウソだった」というもの。
最新の研究によると、事実は24時間10分位であり、民族による差はほとんどないそうです。

それから「“8時間睡眠が理想”もウソ」
これを信じているために「自分は十分に眠れていない」と悩む人を作ってしまっている事実。

8時間がっつり眠ることができるのは15歳くらいまでで、70歳を過ぎると必要睡眠時間は6時間を下回る。
これは体重あたりのエネルギー消費量が減る(赤ちゃんの1/3!)ので眠ることで消費エネルギーを節約する必要性が減るため。
高齢者は若者と比べると、寝つきはあまり変わらないが、深い睡眠がまず減り、中途覚醒の回数が増え、そして朝の目覚めが早くなる(私自身がこの通りです)。

日本人は世界の平均からすると「眠らない国民」(なんとなく頷けますね)。
いや、社会構造の変化から夜も明るい社会になり「眠れない国民」になってしまった。
日本人の5人に1人が睡眠に問題を抱えている。

現代日本における子どもの睡眠事情も紹介されています。
母親が働いていると子どもの睡眠時間が短くなるという悲しいデータが存在し、寝不足の子どもたちは無理に起きている結果として非常にいらだちが強くなる子がいて、それで見かけ上ADHDや学習障害みたいな状態になる事がある、とも。

「眠れなくても寝床に横になっていればいつかは寝付くし、体も休まる」というのも間違い。
不眠症の人は「寝室恐怖症」に陥っている場合が多く、眠くなるまで別の部屋で過ごすべきである。
ただ、その項で「どうしても眠れなければ、その日は朝まで寝なくていい」とまでいうのは、ちょっと行き過ぎではないかと思うんですが・・・。

等々。

私自身、40歳を過ぎる頃から「不眠症」という言葉がちらつくようになりました。
仕事のストレスがメインだと思っていました(夜間もよく呼び出されるので寝た気がしないうちに朝になる)が、年齢的なものもあるのかな、異常というほどでもないグレーゾーンかな、などとこの本を読んで自分自身のことを振り返りました(^^)。

<メモ・備忘録>

・一般的に睡眠時間が7時間台の人が一番長生きする。

・寝不足・寝過ぎは太る?
→ 睡眠時間が短い人ほど食欲を増すホルモンの分泌が増えると同時に、食欲を抑えるホルモンも低下する。しかし、睡眠時間が長い人も太りやすいというデータがある(なぜかは現時点で不明)。

・睡眠は記憶の固定に積極的な役割を果たす。
 ・・・私は朝早起きしていろいろ作業をする習慣があるのですが、夜した方が記憶に残りやすいということらしい。う〜ん、夜は疲れていて頭も体も使い物にならないんだけど、どうしたものか・・・(^^;)。

・寝付けないときの対処法
→ 自然の眠気が出てくるまで夜更かしをするか、もしくは、寝付きやすい時間を希望の時刻まで早めるために、光などを使って調節するかのどちらか。

・チェルノブイリ原発事故やスペースシャトルチャレンジャー号の事故といったヒューマンエラーの部分は、それぞれシフトワークや睡眠不足に起因していた。

・10カ国の睡眠時間を比較した報告によると、日本の有職者の睡眠時間は、女性で特に短く7時間33分、フランスの8時間38分にくらべて1時間も短い。
 日本以外の9カ国では、男性より女性の方がよく眠っており、日本だけ女性の法が睡眠時間が短い。

・母親の勤務時間が長くなれば長くなるほど、子どもの睡眠時間に影響が出る。母親の就業時間が増えるにつれ、午後10寺以降に眠る子どもの割合が階段状に伸びている。

★ 午後10寺以降に就寝する幼児の割合;
       (1980年)→ (2000年)
 1歳6ヶ月児:  25%     55%
 2歳児:     29%     59%
 3歳児:     22%     52%
 4歳児:     13%     39%
 5-6歳児:    10%     52%

・人間のマスタークロック(親時計)は脳の視交叉上核という部分にある。
 ここで自律的、永続的に時計遺伝子の周期をリズミカルに発現している。

・午前中の光は体内時計を朝型に、つまり時刻を早める(早寝早起きにする)効果があって、夕方から深夜の光は逆に夜型にする。
 午前中にできるだけ太陽光を浴び、体内時計をリセットすることが大切。屋内の仕事では、昼間なのに室内照明の暗い光しか浴びないことになり、睡眠リズムの調整がうまくいかなくなりがち。
 現代生活の生活光の変化が、寝つきが悪いとか、昼間に眠いとか、睡眠習慣が現代社会に追いつかなくて、問題を抱えている人がどんどん増えて来た一因。

★ 光の強さ・・・晴天時の屋外:十数万ルクス、屋内(家庭照明)300〜600ルクス、夜の明るいコンビニ:1500ルクス、夜のパソコン作業:1000ルクス
→ 家庭照明に相当する数百ルクスでも長時間当たれば体内時計に影響が出ることが判明している。

・「体内時計25時間」という誤解
 1960年代の洞窟内での実験では人工照明の影響が計算に入っていなかった。夕方から深夜に相当する時間帯に人工照明の光に当たってリズムが後方にずれる効果が増幅されて、周期が25時間くらいに見えていた、というのが事実。

・睡眠相:ノンレム睡眠とレム睡眠と
(ノンレム睡眠)大脳皮質を休めて冷却する睡眠で、霊長類などの高等動物で発達した。
(レム睡眠)より古くからある睡眠で体の休息、エネルギーの節約が主な目的。

・「金縛り」はレム睡眠状態
 レム睡眠の時、頭は結構活発で夢を見やすい。しかし、夢の通りに動いたら大変なので、首から下が動かないようにスイッチがオフになっている。

・3時間睡眠で有名なナポレオンは昼寝の名人だった。

・不眠症状=不眠症ではない。昼間の生活が問題なくできれば深刻に考える必要はない。
 脳波上、正常な睡眠構造を持っていても、不眠を訴える人たちがいる。「眠れない」と訴える人は成人の40%いるが、その中で治療が必要な人は6〜8%にすぎない。
 基礎疾患(うつ病や疼痛性疾患等)のない不眠症を「原発性不眠症」と呼ぶが、「原発性不眠症=不眠恐怖症」である。

・長く眠りすぎると抑うつを誘導、断眠(徹夜)は気分を持ち上げる効果がある。
 うつ病の人が不眠気味になるのは、自己治癒的に断眠を自ら生じさせ、抑うつ気分を晴らそうとしているのだ、という説もある。

・シエスタ・昼寝は30分以内にすべし。
 それより長い人は認知症のリスクが高くなる。

・「眠れなければ、絶対ベッドにいてはダメ」
 10分経っても眠れなかったら、ベッドから出るだけではなくて、寝室から必ず出る必要がある。
 出来上がってしまった「寝室=眠れない場所」という条件反射を緩和するためにも、眠くならなければベッド・寝室から出るようにすることが効果的。

・不眠症の認知行動療法
1.眠くなったときだけ寝床に就く。
2.寝床は眠りと性生活のためだけに。他のことを一切やらない。
3.眠気がなければ一旦寝床を離れる。
4.眠れそうになるまで寝床に戻らない。
5.10分経っても入眠できなかったら他の部屋に移る。
6.それでも眠れない時は何度でも上記を繰り返す。
7.平日も休日も必ず毎日同じ時刻に起床する。
8.日中は眠くなっても昼寝をしない。

・乳児の睡眠は多相性
 赤ちゃんの時は1、2時間おきに寝たり起きたりしながら20時間も眠っている。だいたい2歳くらいになってくると、昼寝も1回くらいにまとまってくる。就学前になると、その昼寝のニーズも少なくなっていく。
 幼児期・未就学児にとって昼寝をするのは、赤ちゃん的な「分散型」の睡眠から大人の睡眠に移行する過程。
 
・小中学生の睡眠時間(平成22年、27000人の調査):小学校低学年で9時間、中学生になると8時間を割ってきて7.4時間。
 不思議なことに、中学生になって昼寝の時間が増えている(授業中に眠っている!)。一生の間で10代後半から30台はじめの頃が、一番夜型になりやすく、寝つきが悪くなる傾向がある。一番まずいのは、部活で汗も流さずに、夜に家庭照明をずっと浴び続けたとき。

・試験勉強の徹夜は記憶という視点からはダメ。
 長時間勉強しても、睡眠時間が短くなると、記憶した内容が頭の中でコンソリデート(定着)されていくのに悪影響がある。徐波睡眠(深い睡眠)もレム睡眠もそれぞれ、記憶したものを海馬(記憶を司るとされる脳の部位)に刷り込むのに役立っているので、キチンと長期的記憶を保持しようと思うなら、覚えた直後に睡眠を取らなきゃいけない。
 試験前に詰め込み勉強をして徹夜するのはいけない。単に眠気の問題ではなく、記憶した内容の想起力が低下したり、計算の正確さが落ちたりする。

・高齢者の睡眠(中途覚醒・早朝覚醒)と処方箋
 高齢者は寝つきは悪くないが、眠りが続かず、中途覚醒・早朝覚醒してしまう。正味、必要な睡眠時間も若い頃に比べると少なくなっている。でも、体は疲れるので早く横になりたい。それで早く寝ると結局、深夜のうちに目覚めて、なが〜い夜を過ごすことになる。
 対策は若年者とは真逆と考えるべし。
 朝は外光をブロックして室内でおとなしく過ごす。朝日を浴びての散歩は早期覚醒を助長する。夜間には強い光を1時間ほど浴びるとよい。

・認知症患者の睡眠問題
 高齢になってくると、睡眠も幼児の頃のようにやや多相性になってくる。認知症でも必要な睡眠時間はほかの高齢者と変わらない。昼寝れば夜起きるのは当然で、その時に睡眠薬を使っても、もともと睡眠がばらついているだけで不眠ではないから効きが悪い。もし昼夜逆転に悩んでいるようだったら、昼間は深寝をさせないように、うとうとしてたら声をかけて起こすというようなことを、デイケアでも自宅でも、手間がかかるけどやっていくしかない。
 認知症患者の睡眠問題が悪化していくことが、デイケアではないフルタイムの介護施設入所に至る原因の最大のファクターになる。

・健やかな睡眠のための12の習慣
1.睡眠時間は人それぞれ。日中の眠気で困らなければ十分と考える。
2.刺激物は避け、寝塗る前には自分なりのリラックス法を。
 カフェインの効果は4時間以上持続する。カフェインはコーヒーだけではなくお茶にも入っている(玉露はコーヒーの3倍)。
3.床に就くのは眠くなってから。入眠する時間にこだわらない。
4.同じ時刻に毎日起床。
 寝不足は蓄積するが、寝だめはできない。
5.光を利用。目覚めたら日光を入れ、夜の照明は控えめに。
6.規則正しい三度の食事、規則的な運動習慣。
7.昼寝をするなら、午後3児までの20〜30分。長い昼寝はかえってぼんやりのもと。
8.眠りが浅いときは睡眠時間を減らし、遅寝・早起きにしてみる。
 早寝・早起き・朝ご飯・・・早起きからはじめるべし。
9.激しいイビキ、呼吸停止(睡眠時無呼吸症候群)、足のピクつき(周期性四肢運動障害)やムズムズ感(レストレスレッグス症候群)などは要注意
10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門家に相談
11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠の元
 晩酌と寝酒は区別し、最低、眠るまでに4時間のインターバルが必要。お酒は睡眠に関しては「百害あって一利なし」。
12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全


<参考>
□ 「宇宙医学に学ぶ快眠の秘密」(JAXA)
□ 「健康づくりのための睡眠指針2014」(厚生労働省健康局)
□ 「睡眠・覚醒リズム表」(日本うつ病学会)
□ 「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン ー出口を見据えた不眠医療マニュアルー」(厚生労働科学研究班、2013年)
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