発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「依存症」は「孤独な自己治療」

2024-08-24 16:58:04 | 精神科医療
「依存症は治療可能な病気である」ことが最近指摘され、
実践されるようになりました。

万引きや痴漢を繰り返すヒトを“犯罪者”として扱うのではなく、
“治療が必要な病人”と考えるのです。

そんな私の感覚の中で、
表題にあるような、興味ある記事が目に留まりましたので紹介します。
読んでいて、

「従来の依存症診療は治療というより説教に終始し効果がなかった、
 説教でうつ病がよくならないのと同じ」
「根底にある「孤独」に向き合い癒やさなければ解決しない」

という文言には大いにうなづきました。

我々は時々、よかれと思ってやったことなのに、
間違いを犯していることがあります。

例えば、いじめ問題。
いじめる側を悪、と捉えて対処します。
例えば、虐待。
虐待した側を悪、と捉えて対処します。

もちろん、いじめも虐待も、
その行為に対する罰は受けるべきです。

しかしいじめも虐待も増える一方で、
全然解決されていません。

私は片手落ちだと思うのです。
「いじめる側の事情」
「虐待する側の事情」
を理解し、寄り添う行為がなければ解決しないのではないか?
日本ではその視点による対応が後手後手です。

<ポイント>
・法令違反として罰しても依存症という疾患は良くならないことから、依存性物質をやめさせようと強いるのではなく、依存症患者の人格を尊重して困りごとに対応し、物質使用による害を減じることがハームリダクションの理念。
・日本では、「ダメ、ゼッタイ!」というキャッチコピーに代表される、厳罰主義に基づいた施策が実施されている。依存症診療においても、依存症は無理やりでもやめさせることが大切であり、それが治療の基本と考えられていた。
・自分の力ではやめられないのが依存症という病気。そのような患者さんに医療者が「使うんじゃない!」と言うのは、説教であって治療とはいえない。説教でうつ病がよくならないのと同じ。
・精神科の診療の基本は「患者が何に困っていて、どうしたいか?」を聞き、そこを支援すること。どうやったらやめられるかを一緒に考える、というスタンスでなければ治療は進まない。
・依存症患者さんの困りごとを一緒に解決するため、まず、依存症に至る背景を理解する必要がある。すると皆、虐待などの大変つらい過去を持ち、人間不信と自信喪失を抱えて生きていることが判明した。
・依存症患者は「人に癒されず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」として依存性物質を使用している。
・そのような状況の方に対して、無理に依存性物質をやめさせようとしても無理。根底にある「生きづらさ」「孤独」を癒さなければ、眼前の依存性物質から引き離しても、別の依存性物質に依存先を変えるだけ。
・依存性物質を使用する理由についてアンケートを取ると、6割が「苦しさを紛らわすため」と回答しており、「楽しいから」というのは3割弱にとどまった。
・意思の力でやめられないのが依存症であり、使用するのは病状であると説明している。依存症患者に「味方」と思ってもらわなければ、本音で話してもらえない。医療者は味方であること、困りごとに一緒に対応したいという思いを伝えて関わっていくだけで、いつしか信頼関係が築けて、その信頼関係に癒されるようになり、患者さんは依存症から回復していく。
・本人ができることは本人にやってもらい、本人ができないことを支援する。人を信頼できるようになり、人に癒されることで、依存症は回復していく。
・やめさせることができなくても、関わり続けることで、事故や自殺を防げる可能性がある。

■ 依存症は“孤独な自己治療”
 依存せざるを得ない背景の理解を埼玉県立精神医療センター副病院長の成瀬暢也氏に聞く
聞き手:小板橋律子=日経メディカル
2023/08/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ハームリダクションと呼ばれる薬物施策を「薬物汚染が深刻な国が、取り締まることができないためにやむなく採用した施策」と誤解していないだろうか。法令違反として罰しても、依存症という疾患は良くならないことから、依存性物質をやめさせようと強いるのではなく、依存症患者の人格を尊重して、困りごとに対応し、物質使用による害を減じることがハームリダクションの理念だ。違法薬物の依存症患者に対しても、ハームリダクションの理念に沿う患者中心の診療を実践している埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也氏に、その実際を聞いた。

──成瀬先生は、ハームリダクションという概念が国内で注目されるようになる前から、依存症患者への関わりにおいて「やめさせようとしない治療」を続けていたそうですね。

成瀬 日本では、「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチコピーに代表される、厳罰主義に基づいた施策が実施されています依存症診療においても、長らく、依存症は無理やりでもやめさせることが大切であり、それが治療の基本と考えられていました。私自身、そう教育を受け実践していた時期がありましたが、この方法が有効であるとする科学的根拠はありません。厳しいことを言うと患者さんは受診しなくなるだけです。

 そもそも、自分の力ではやめられないのが依存症という病気です。そのような患者さんに医療者が「使うんじゃない!」と言うのは、説教であって治療とはいえない。説教でうつ病がよくならないのと同じです。本人はやめられないから困っているのですから、どうやったらやめられるかを一緒に考える、というスタンスでなければ治療は進まないと考えるようになりました。

 実際、精神科の診療の基本は、「患者が何に困っていて、どうしたいか?」を聞き、そこを支援することです。しかし、なぜか依存症診療はその基本から外れていたのです。私の診療は、本来の精神科の診療を依存症にも適応させているだけです。

 依存症患者さんの困りごとを一緒に解決するため、まず、私は、依存症に至る背景を理解する必要があると考え、患者さんにご自身のことを教えてもらいました。そして分かったことは、皆、虐待などの大変つらい過去を持ち、人間不信と自信喪失を抱えて生きているということです。以下に示すような共通する特徴があるのです。

<依存症患者に共通した特徴>(成瀬氏による)
1. 自己評価が低く自分に自信を持てない
2. 人を信じられない
3. 本音を言えない
4. 見捨てられる不安が強い
5. 孤独でさみしい
6. 自分を大切にできない

 依存症患者さんは、「人に癒されず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」として依存性物質を使用しているのです。そのような状況の方に対して、無理に依存性物質をやめさせようとしても、無理というものです。根底にある「生きづらさ」「孤独」を癒さなければ、眼前の依存性物質から引き離しても、別の依存性物質に依存先を変えるだけです。

──「孤独な自己治療」とは胸に刺さる言葉です。先生は、覚醒剤のような違法薬物を使用している場合でも、初診時に依存症患者さんを「ようこそ!」と迎えるそうですね。

成瀬 覚醒剤も含めて依存性物質を始めるきっかけは、好奇心や快感希求です。しかし、それだけの目的で使う人は依存症には至らず、依存性物質から卒業していきます。一方、やめられなくなるのは、「孤独な自己治療」として用いる方々です。

 実際、私の患者さんの多くは「生きているのがつらい」と言います。依存性物質を使用する理由についてアンケートを取ったことがあるのですが、6割が「苦しさを紛らわすため」と回答しており、「楽しいから」というのは3割弱でした。加えて、自殺未遂歴がある方が6割もいました。孤独で追い詰められている方が最後の命綱のように薬物に依存しているのです。
・・・
 医療につながっていてもらうことが大切ですから、初診が勝負だと思っています。初診時に「来てよかった」と思ってもらわないと2回目以降につながりません。初診では、受診したことを褒め、困りごとをうかがって一緒に対応していくこと。また、覚醒剤には通報の義務はありません薬物を使用している場合、逮捕されると治療が継続できないという弊害が生じるので、決して通報しないと保証しています。ただし、治療に影響するので、使用した際は正直に教えてほしいとお願いしています。その際、意思の力でやめられないのが依存症であり、使用するのは病状であるとも伝えています。

 違法薬物の場合、逮捕されること自体を阻止するつもりはありませんが、治療の中断につながるため、「逮捕されてほしくない」という思いを伝えています。また、自身の生命の安全を確保するという意味で、使用時の注意点を教えています。例えば、誰かと一緒にもしくは誰かに連絡した上で使用する、使用した後は出歩かない、お酒と併用しない、睡眠を確保する、などです。

 がまんできずに使って、来院する方もいますが、そのような方にも、「よく来たね」と伝えています。使用後に来院するのはとてもたいへんなことですし、もし来院できなければ、孤立を深め、状態が悪化し、死か逮捕かとなるわけで、そう考えるとやはり、「よく来たね」という言葉が心から出てきます。
 とはいえ、外来治療中に逮捕される方は珍しくありません。そのような方には、「出所したらすぐにおいでね」と伝えています。

 依存症患者さんに「味方」と思ってもらわなければ、本音で話してもらえません。本音で話せる場所がなかった方々の「安心できる居場所」になる、これが治療を行う上で何よりも大切だと思っています。

──患者さんにそこまで親身に接していると、先生に依存する患者さんが出てくるのではと危惧しますが、それは大丈夫なのでしょうか。

成瀬 依存症診療で長らく言われていたことの1つに、「共依存になるので、熱心に関わるべきではない」というものがあります。巻き込まれてはダメ、甘やかしてはダメ、手を貸してはダメ、というものです。
 
 もちろん、医師一人で対応すべきではなく、救世主になってはいけません。多職種と一緒にチームで関わります。その際の基本的な考え方として、「本人ができることは本人にやってもらい、本人ができないことを支援する」です。本人ができることまでやってしまうのはよい支援ではないですし、本人ができないことを放置してしまったら、悪化してしまいます。また、治療にマイナスになることははっきり断るなど、線引きは心掛けています。ただし、巻き込まれないと見えないものがたくさんあるとも思うのです。関わった上で、適切な距離感を見つけていく、というプロセスが必要ではないかと思います。

 医療者は味方であること、困りごとに一緒に対応したいという思いを伝えて関わっていくだけで、いつしか信頼関係が築けて、その信頼関係に癒されるようになり、患者さんは依存症から回復していきます。「やめなさい」と一度も言っていないのに、ある時、「先生、やめれたよ」という報告を受けるという経験を数多くしてきました。無理にやめさせようとせず、関わり続けるだけで回復は生まれるのです。まさにこれは、ハームリダクションの理念に沿うもので、図らずも、実践の場で実感しているという状況です。

──まさに「北風と太陽」の寓話のようで、心温まるお話です。

成瀬 依存症は回復します。しかし、そのためには、人を信頼できるようになり、人に癒されることが不可欠だと私は考えています。

──ところで、欧米のような、無償の注射針提供などのハームリダクション施策は日本に必要とお考えでしょうか。

成瀬 海外と日本では、主に使用される薬物や社会状況が異なることから、必要な施策も異なると思います。欧米など海外で問題となっているヘロインは、大量使用時に呼吸抑制で死亡するリスクが高く、強い離脱症状も出ます。そのため、より安全な代替麻薬に置換する治療が実施されています。また、注射針の回し打ちによるHIV感染が激増したため、注射針の無償提供が行われていますが、日本では回し打ちでのHIV感染は少ないというのが現状です。日本で使用されることが多い覚醒剤は、興奮系の薬物で、呼吸抑制リスクがなく、離脱症状もあまりなく、代替療法はありません。

 ただ心配なのが、違法薬物に対する社会の目が厳しく、違法薬物依存者の回復の道を閉ざしかねない風潮が強いことです。通報のリスクから受診のハードルもとても高い。実は、覚醒剤による逮捕者は年々減っていますが、再犯率がとても高く、逮捕者の高齢化が進んでいます。

 加えて、「違法薬物でなければ使って問題ない」という社会風潮が強い点も心配です。「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の最新データでは、睡眠薬・抗不安薬が、覚醒剤をわずかに抜いて、やめられない薬物として初めて1位になりました(図3)。市販薬の乱用も急増しています。法による厳罰主義だけでは、薬物依存の問題は解決できないと感じています。


図3 1年以内に使用あり症例の「主たる薬物」の比率に関する経年的推移(出典:令和4年度厚生労働行政推進調査事業費補助金による「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」2022年)

 私は、違法薬物も含めて薬物への依存症は、一般の精神科外来で診ることができないかと考えています。これまで紹介したように、覚醒剤であっても私は基本的に外来で診療していますので、病床のない精神科診療所でも実践できます。

 特に、処方薬や市販薬の乱用は、今後ますます増える可能性があり、依存症の専門医療機関だけで全ての患者に対応するのは不可能です。そもそも、処方薬の場合、処方している医師がいるわけですから、その責任もあります。

 処方薬や市販薬への依存症に対してどうアプローチすべきかの具体的な指針は現状ありませんが、依存症患者さんの背景は皆、同じです。人間不信と自信喪失を抱えて生きづらい人たちです。無理にやめさせようとせずに、患者さんと関わり続けていただきたいです。やめさせることができなくても、関わり続けることで、事故や自殺を防げる可能性があります。悪い方向にはいかないでしょう。
 
 アルコール依存症には、内科などの、かかりつけ医に関わっていただきたいと思っています。国内には、アルコール依存症患者は107万人存在すると推定されています。一方、診断が付いているのは5万~8万人程度で、その多くは重症化した後です。軽症患者さんは自覚がなく、治療も受けていませんが、本来、軽症の段階で関与して重症化を予防するのが医療でしょう。
・・・


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