発達障がい・こころのやまい

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統合失調症にわが国初の“エビデンスに基づく”薬物療法ガイドライン

2015-10-08 06:46:27 | 
 目についた記事から抜粋します。

■ 統合失調症にわが国初のエビデンスに基づくガイドライン
 日本神経精神薬理学会,薬物療法に特化した推奨を明示
2015.09.29:メディカル・トリビューン

 日本神経精神薬理学会は2015年9月24日,統合失調症の薬物治療ガイドライン(GL)を公表した。これまで,わが国には統合失調症の治療に関して専門家の意見に基づいたGLはあったが,エビデンスに基づいたものはなかった。また,海外のエビデンスに基づいたGLがわが国の治療で参照されることもあったが,海外とは使用可能な薬剤や用法,医療制度が異なるため,わが国独自のGLが求められていた。第45回日本神経精神薬理学会のシンポジウム「統合失調症の薬物治療ガイドライン」で明らかにされた同GLの概要を紹介する。

□ 将来の包括的治療GL策定を視野に,まずは薬物療法に照準
 同GLは,2013年10月に結成された同学会の統合失調症薬物治療GLタスクフォースがほぼ2年がかりで作成した。暫定版が2015年3月に同学会の公式サイトで公開され,その後寄せられたパブリックコメントを反映させた最終版がまとめられた(全文を公式サイトで公開)。
 今回のGLは薬物療法に特化したもの。この点について,シンポジウムの冒頭で石郷岡氏は「本来は統合失調症の包括的治療GLの作成が望まれるが,薬物療法以外の治療法に関するエビデンスの質にはばらつきがあるのが現状。まずは薬物療法のGLを作成し,将来の包括的治療GLの一部に位置付けることを提案したい」と説明した。
 GLはMindsの「診療ガイドライン作成の手引き」に準拠して作成された。「初発精神病性障害」「再発・再燃時」「維持治療」「治療抵抗性」「その他」の5章で構成され,エビデンスレビューに基づき推奨グレードは「強い推奨=1」と「弱い推奨=2」の2段階,エビデンスレベルはA(強い)~D(とても弱い)の4段階で示された。
 いずれも,すべての疾患の治療と同様に,治療選択では治療の有効性(益)と副作用(害)のバランスを勘案することが前提とされている。また,統合失調症治療の中で薬物療法は比較的エビデンスが豊富な領域ではあるが,有効性や副作用に関して実薬同士を比較した前向き研究や小児および高齢者,日本人が対象の臨床研究は少ないため,症例報告も含めたレビューが実施された。なお,クリニカルクエスチョン(CQ)に対してエビデンス不十分である場合には「推奨なし」とされ,エビデンスレベルのみが示された。

□ 第二世代抗精神病薬を広く推奨,治療抵抗性ではクロザピンが第1選択
 第一世代抗精神病薬(FGAs)と第二世代抗精神病薬(SGAs)の選択に関しては,「初発精神病性障害」「再発・再燃時」「維持期治療」のいずれにおいてもSGAsの選択を推奨(再発・再燃時は"強い推奨")。ただし,SGAs間の比較に関するエビデンスは不十分であったため,特定のSGAの推奨には至らなかった。
 また,複数の抗精神病薬を十分な量,十分な期間服用しても改善が認められない治療抵抗性の治療ではクロザピン(商品名クロザリル)を第1選択として強く推奨。血液学的副作用や心筋炎・心筋症,けいれん,便秘,体重増加・耐糖能異常など同薬の副作用の対処法についても詳細が記された。
 治療抵抗性統合失調症に対し臨床でしばしばクロザピンあるいは他の抗精神病薬との併用で用いられるベンゾジアゼピン系薬に関しては,精神症状を改善させるとの報告は少なく,有害事象のリスクを高める可能性があるため,「併用しないことが望ましい」と明記された。

 なお,わが国の統合失調症患者数は70~80万人で,このうち 20~30%(15~25万人)が治療抵抗性と推定されている。しかし,クロザピンの使用患者モニタリングサービス(CPMS)の2015年2月末時点の登録患者数は3,175例で,クロザピン治療を受けている治療抵抗性患者は1~2%程度であるのが現状だという。

◇各章の概要(推奨の一部)は以下の通り。
★ 初発精神病性障害:再発予防には1年以上継続
・FGAsと比べ,SGAsでは脱落率が低く,症状改善度や治療反応率は優れている傾向があるなどのエビデンスに基づき,「SGAsを選択することが望ましい(2=推奨グレード,A=エビデンスレベル,以下同)」と記載
・SGAs間の比較に関する十分なエビデンスはなく,順位付けはできないとの判断から,SGAs間の薬剤選択に関しては症例個別の要因を検討して選択を行うことを推奨(2D)
・治療反応の判定に必要な期間は「治療開始後少なくとも2~4週かけることが望ましい(2D)」と記載
・初発精神病性障害の再発予防における抗精神病薬の最適な治療継続期間に関しては,「少なくとも1年間続けること」を1Aで推奨

★ 再発・再燃時:ベンゾジアゼピン系薬は「併用しないことが望ましい」
・再発・再燃時に抗精神病薬の切り替えあるいは増量を考慮する前に,現在の抗精神病薬の投与量,投与期間,アドヒアランスが適切かどうかを確認することを推奨(1D)
・アドヒアランスが良好かつ血中濃度も有効域にあるのに反応がない場合には切り替えを考慮するが,まだ増量する余地があり,忍容性に問題がなければ増量する(2D)
・SGAsはFGAs(ハロペリドール)と有効性は同等で,忍容性に関しては錐体外路症状の発現頻度が低く,プロラクチン値の上昇が少なかったなどのエビデンスを踏まえ,SGAsはFGAsよりも有用性が高い(1A)と記載
・併用治療に関しては,ベンゾジアゼピン系薬は「ごく短期間に限り有効だが長期的には副作用や依存の観点から併用しないことが望ましい(2D)」,バルプロ酸は「3週間以内の併用は有効だが長期的には陰性症状を悪化させ,忍容性の観点からも長期投与は行わないことが望ましい(同)」との主旨の推奨を記載。抗うつ薬や他の気分安定薬の併用については「有効性は明らかではないため併用は行わないことが望ましい(同)」と記された

★ 維持治療:服薬継続を強く推奨
・維持期※における抗精神病薬の服薬継続は,再発率を低下させ,入院回数を減少させる他,死亡率の低下やQOLの改善にも寄与するとのエビデンスを踏まえ,1Aで推奨
・SGAsは再発予防や治療継続,副作用の観点からFGAsより優れるとして,FGAsよりもSGAsを推奨(2B)。SGAs間の比較に関してはエビデンスが不十分であるため推奨はなし
・持効性抗精神病薬注射剤(LAI)は,アドヒアランスの低下により再発が問題になるケースに対しては使用が望ましく(2C),患者が希望する場合には強く推奨(1C)
・維持期における抗精神病薬の減量が有用か否かについては研究デザインにばらつきがあり,結果も一貫していないため,現時点では結論付けることはできない。このため,「減量実施の是非は個々の患者の症状や副作用に応じた臨床的判断に委ねられる(推奨なしD)」とされた

★ 治療抵抗性:副作用に注意を要するがクロザピンを強く推奨
・治療抵抗性統合失調症に対するクロザピンは精神症状の改善においてSGAsへの優位性は示されていないが,FGAsより優れていること,死亡のリスクが低く,自殺予防効果が高いことなどを踏まえ「無顆粒球症などの副作用に注意を要するが,有用であり強く推奨する(1A)」と明記
・クロザピン治療が有効な症例に「血液学的副作用」「心筋炎・心筋症」「けいれん」「便秘」「体重増加・耐糖能異常」などの副作用が生じた場合の対処法を明示
・クロザピンの効果不十分例には電気けいれん療法(ECT)またはラモトリギンの併用療法が選択肢として挙げられている(それぞれ2C, 2D)一方,その他の気分安定薬・抗てんかん薬,抗うつ薬,ベンゾジアゼピン系薬などの併用は「行わないことが望ましい(2D)」と記載。クロザピンの導入初期におけるバルプロ酸の併用は心筋炎リスクを高める可能性があるため「行うべきではない(1C)」とされた
・クロザピンやECT以外の治療法に関しては,抗精神病薬とその他の気分安定薬・抗てんかん薬,抗うつ薬,ベンゾジアゼピン系薬などの併用は「行わないことが望ましい(2D)」と明記

★ その他:「精神運動興奮状態」「緊張病」など諸問題に推奨治療示す
・「精神運動興奮状態」「緊張病」「抑うつ症状」「認知機能障害」「病的多飲水・水中毒」「錐体外路系副作用」「悪性症候群」「抗精神病薬による体重増加」について推奨される治療法やエビデンスレベルが示された。また,「病的多飲水・水中毒」に関連して低ナトリウム血症の補正についても説明が付記された
※統合失調症の病期は症状が活発で不安定な「急性期」,症状が改善し病状が安定しつつある「安定化期」,症状が消失し病状が安定している「安定期」に分類される。このうち安定化期と安定期を合わせて維持期と定義された。