発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

オーバードーズ(市販薬乱用)2024

2024-09-19 16:06:51 | 精神科医療
日本思春期学会で薬物依存の講演を聴講しました。
最近増えてきた「市販薬乱用」の話を興味深く聴きました。

2014年にはなかった市販薬乱用・・・
どうやらその主因は「危険薬物禁止」であり、
それが激減すると同時に増加し、
つまり「簡単に手に入る依存性薬物」として注目を浴びたことらしい。

さらに市販薬は個人で入手し個人で乱用できるという、
現代社会の抱える「孤独」「孤立」とリンクしやすい特徴がさらに拍車をかけた、
という説明で、頷きながら聞きました。

ポイントと感じた箇所をメモしておきます。

▢ 乱用された市販薬ランキング
1.ブロン錠・ブロン液(せき鎮静・痰除去薬)
2.パブロン・パブロンゴールド(総合感冒薬)
3.ウット(睡眠鎮静剤)
4.ナロン・ナロンエース(鎮痛剤)
5.イブ・イブクイック・イブプロフェン(鎮痛薬)
6.ドリエル(睡眠薬)
7.バファリン(鎮痛薬)
8.コンタック(総合感冒薬)
9.トニン・新トニン・シントニン(せき鎮静・痰除去薬)
10.セデス(鎮痛薬)
11.ベンザ・ベンザブロック(感冒薬)
12.レスタミン(抗アレルギー薬)
13.ロキソニン(鎮痛剤)
14.ルル(総合感冒薬)
・・・
と馴染みのある市販薬の名前が並び、驚かされます。

▢ 乱用市販薬の二大成分
・メチルエフェドリン(覚醒剤の原料)
・ジヒドロコデイン(麻薬の一種)

これも医療関係者にはお馴染みの成分です。

▢ 市販薬を乱用する背景
・つらい気持ちをやわらげたいが、誰にも相談できない。
・生きるための手段・・・「死にたい」気持ちから一時的に逃れることができる。
・居場所としてのインターネット(SNSの匿名性)、家庭・学校に居場所がない。

リストカットの背景も「死ぬため」ではなく「生きるための手段」と説明されており、
現代社会が抱える病理が別の形で現れているということでしょう。

▢ 市販薬乱用者の共通する要因
・体質(ドーパミン放出機能の弱さ)
・幼少期の経験・生育環境
(例)親からの虐待・冷遇、学校でのいじめ、
   褒められる・認められる経験の乏しさ
 ・・・脳内報酬系(褒められ認められることによる天然のドーパミンの快感)を経験していない。
・トラウマ(性暴力、凶悪犯罪との遭遇)
 → 以上の要因があると薬物により得られる快感に絶大な魅力を感じやすい(感じるのはしかたない?)
 → 依存症になりやすい。

・・・脳内報酬系が自然に日常的に稼働する経験がないので、薬の快感に抵抗できないということ。
 演者は「生育環境など過去の話を聞くと、“薬に依存してもしょうがない”というひどいエピソードばかり」と話していました。

▢ 「孤立の病」としての薬物依存
・社会的孤立・・・人とのつながりがない
・薬物に手を出すキッカケは「つながり」を得るため
  → 「仲間」と見なされる
  → 大切な人との絆が深まる
  → 薬物使用・・・対人的な緊張感・不安の緩和、劣等感の解消
       ⇄ ひと付き合いの苦手さ、自尊心の低さ
・「助けて」が言えない・・・援助希求能力の低さ
・依存症の「自己治療仮説」(苦痛の回避)
・(安心して人に依存できない病気)

・・・市販薬乱用者は、従来の「楽しむためにクスリを使う」薬物中毒のイメージと異なり、みな真面目で孤独です。
人付き合いが苦手で人を頼るのも下手、つらさから逃れるためにクスリに手を出す、そしてそのクスリは近所の薬店で売っている・・・という悪循環ができやすい構図が浮かび上がります。

▢ 薬物依存啓発運動の功罪
・薬物乱用防止教育「ダメ、ゼッタイ!」
・薬物自体についての知識伝授としては意義あり。
・しかし依存症者への誤った理解と偏見を生じやすい。
・刑罰による排除・規制の強化は必要な支援と逆方向
・依存症者はさらなる孤立へ

薬物乱用者は病気なので、本人の意志があっても止められない、
それを非難すると逃げ場がなくなってしまい、孤立が深まる悪循環・・・。

▢ ハーム・リダクション
・薬物問題は刑罰や規制では解決しないことが世界共通の認識
薬物問題を抱える人に必要なのは刑罰ではなく、治療と支援
・WHO「薬物問題を非犯罪化し、健康問題として扱うこと」(2014年)
・ハーム・リダクション(被害の低減):薬物を強制的に止めさせることよりも、薬物による健康被害を減らし、命を守ることが重要。

・・・日本はこの考え方がまだまだ浸透していませんね。

▢ 支援者にできること
・薬物を使用したことを否定しない。
・止めること・止め続けることの難しさへの理解(簡単に手放すことはできない)
・根気強くつながり続けること(ゆるくつながり、時にはお節介も必要)。

<オーバードーズに対して周囲はどうする?>(NHKのHPより)
・つらい気持ちにより添う。
・解決には時間がかかると心得る。
・専門機関に迷わず相談する。


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「依存症」は「孤独な自己治療」

2024-08-24 16:58:04 | 精神科医療
「依存症は治療可能な病気である」ことが最近指摘され、
実践されるようになりました。

万引きや痴漢を繰り返すヒトを“犯罪者”として扱うのではなく、
“治療が必要な病人”と考えるのです。

そんな私の感覚の中で、
表題にあるような、興味ある記事が目に留まりましたので紹介します。
読んでいて、

「従来の依存症診療は治療というより説教に終始し効果がなかった、
 説教でうつ病がよくならないのと同じ」
「根底にある「孤独」に向き合い癒やさなければ解決しない」

という文言には大いにうなづきました。

我々は時々、よかれと思ってやったことなのに、
間違いを犯していることがあります。

例えば、いじめ問題。
いじめる側を悪、と捉えて対処します。
例えば、虐待。
虐待した側を悪、と捉えて対処します。

もちろん、いじめも虐待も、
その行為に対する罰は受けるべきです。

しかしいじめも虐待も増える一方で、
全然解決されていません。

私は片手落ちだと思うのです。
「いじめる側の事情」
「虐待する側の事情」
を理解し、寄り添う行為がなければ解決しないのではないか?
日本ではその視点による対応が後手後手です。

<ポイント>
・法令違反として罰しても依存症という疾患は良くならないことから、依存性物質をやめさせようと強いるのではなく、依存症患者の人格を尊重して困りごとに対応し、物質使用による害を減じることがハームリダクションの理念。
・日本では、「ダメ、ゼッタイ!」というキャッチコピーに代表される、厳罰主義に基づいた施策が実施されている。依存症診療においても、依存症は無理やりでもやめさせることが大切であり、それが治療の基本と考えられていた。
・自分の力ではやめられないのが依存症という病気。そのような患者さんに医療者が「使うんじゃない!」と言うのは、説教であって治療とはいえない。説教でうつ病がよくならないのと同じ。
・精神科の診療の基本は「患者が何に困っていて、どうしたいか?」を聞き、そこを支援すること。どうやったらやめられるかを一緒に考える、というスタンスでなければ治療は進まない。
・依存症患者さんの困りごとを一緒に解決するため、まず、依存症に至る背景を理解する必要がある。すると皆、虐待などの大変つらい過去を持ち、人間不信と自信喪失を抱えて生きていることが判明した。
・依存症患者は「人に癒されず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」として依存性物質を使用している。
・そのような状況の方に対して、無理に依存性物質をやめさせようとしても無理。根底にある「生きづらさ」「孤独」を癒さなければ、眼前の依存性物質から引き離しても、別の依存性物質に依存先を変えるだけ。
・依存性物質を使用する理由についてアンケートを取ると、6割が「苦しさを紛らわすため」と回答しており、「楽しいから」というのは3割弱にとどまった。
・意思の力でやめられないのが依存症であり、使用するのは病状であると説明している。依存症患者に「味方」と思ってもらわなければ、本音で話してもらえない。医療者は味方であること、困りごとに一緒に対応したいという思いを伝えて関わっていくだけで、いつしか信頼関係が築けて、その信頼関係に癒されるようになり、患者さんは依存症から回復していく。
・本人ができることは本人にやってもらい、本人ができないことを支援する。人を信頼できるようになり、人に癒されることで、依存症は回復していく。
・やめさせることができなくても、関わり続けることで、事故や自殺を防げる可能性がある。

■ 依存症は“孤独な自己治療”
 依存せざるを得ない背景の理解を埼玉県立精神医療センター副病院長の成瀬暢也氏に聞く
聞き手:小板橋律子=日経メディカル
2023/08/22:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ハームリダクションと呼ばれる薬物施策を「薬物汚染が深刻な国が、取り締まることができないためにやむなく採用した施策」と誤解していないだろうか。法令違反として罰しても、依存症という疾患は良くならないことから、依存性物質をやめさせようと強いるのではなく、依存症患者の人格を尊重して、困りごとに対応し、物質使用による害を減じることがハームリダクションの理念だ。違法薬物の依存症患者に対しても、ハームリダクションの理念に沿う患者中心の診療を実践している埼玉県立精神医療センターの成瀬暢也氏に、その実際を聞いた。

──成瀬先生は、ハームリダクションという概念が国内で注目されるようになる前から、依存症患者への関わりにおいて「やめさせようとしない治療」を続けていたそうですね。

成瀬 日本では、「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチコピーに代表される、厳罰主義に基づいた施策が実施されています依存症診療においても、長らく、依存症は無理やりでもやめさせることが大切であり、それが治療の基本と考えられていました。私自身、そう教育を受け実践していた時期がありましたが、この方法が有効であるとする科学的根拠はありません。厳しいことを言うと患者さんは受診しなくなるだけです。

 そもそも、自分の力ではやめられないのが依存症という病気です。そのような患者さんに医療者が「使うんじゃない!」と言うのは、説教であって治療とはいえない。説教でうつ病がよくならないのと同じです。本人はやめられないから困っているのですから、どうやったらやめられるかを一緒に考える、というスタンスでなければ治療は進まないと考えるようになりました。

 実際、精神科の診療の基本は、「患者が何に困っていて、どうしたいか?」を聞き、そこを支援することです。しかし、なぜか依存症診療はその基本から外れていたのです。私の診療は、本来の精神科の診療を依存症にも適応させているだけです。

 依存症患者さんの困りごとを一緒に解決するため、まず、私は、依存症に至る背景を理解する必要があると考え、患者さんにご自身のことを教えてもらいました。そして分かったことは、皆、虐待などの大変つらい過去を持ち、人間不信と自信喪失を抱えて生きているということです。以下に示すような共通する特徴があるのです。

<依存症患者に共通した特徴>(成瀬氏による)
1. 自己評価が低く自分に自信を持てない
2. 人を信じられない
3. 本音を言えない
4. 見捨てられる不安が強い
5. 孤独でさみしい
6. 自分を大切にできない

 依存症患者さんは、「人に癒されず生きづらさを抱えた人の孤独な自己治療」として依存性物質を使用しているのです。そのような状況の方に対して、無理に依存性物質をやめさせようとしても、無理というものです。根底にある「生きづらさ」「孤独」を癒さなければ、眼前の依存性物質から引き離しても、別の依存性物質に依存先を変えるだけです。

──「孤独な自己治療」とは胸に刺さる言葉です。先生は、覚醒剤のような違法薬物を使用している場合でも、初診時に依存症患者さんを「ようこそ!」と迎えるそうですね。

成瀬 覚醒剤も含めて依存性物質を始めるきっかけは、好奇心や快感希求です。しかし、それだけの目的で使う人は依存症には至らず、依存性物質から卒業していきます。一方、やめられなくなるのは、「孤独な自己治療」として用いる方々です。

 実際、私の患者さんの多くは「生きているのがつらい」と言います。依存性物質を使用する理由についてアンケートを取ったことがあるのですが、6割が「苦しさを紛らわすため」と回答しており、「楽しいから」というのは3割弱でした。加えて、自殺未遂歴がある方が6割もいました。孤独で追い詰められている方が最後の命綱のように薬物に依存しているのです。
・・・
 医療につながっていてもらうことが大切ですから、初診が勝負だと思っています。初診時に「来てよかった」と思ってもらわないと2回目以降につながりません。初診では、受診したことを褒め、困りごとをうかがって一緒に対応していくこと。また、覚醒剤には通報の義務はありません薬物を使用している場合、逮捕されると治療が継続できないという弊害が生じるので、決して通報しないと保証しています。ただし、治療に影響するので、使用した際は正直に教えてほしいとお願いしています。その際、意思の力でやめられないのが依存症であり、使用するのは病状であるとも伝えています。

 違法薬物の場合、逮捕されること自体を阻止するつもりはありませんが、治療の中断につながるため、「逮捕されてほしくない」という思いを伝えています。また、自身の生命の安全を確保するという意味で、使用時の注意点を教えています。例えば、誰かと一緒にもしくは誰かに連絡した上で使用する、使用した後は出歩かない、お酒と併用しない、睡眠を確保する、などです。

 がまんできずに使って、来院する方もいますが、そのような方にも、「よく来たね」と伝えています。使用後に来院するのはとてもたいへんなことですし、もし来院できなければ、孤立を深め、状態が悪化し、死か逮捕かとなるわけで、そう考えるとやはり、「よく来たね」という言葉が心から出てきます。
 とはいえ、外来治療中に逮捕される方は珍しくありません。そのような方には、「出所したらすぐにおいでね」と伝えています。

 依存症患者さんに「味方」と思ってもらわなければ、本音で話してもらえません。本音で話せる場所がなかった方々の「安心できる居場所」になる、これが治療を行う上で何よりも大切だと思っています。

──患者さんにそこまで親身に接していると、先生に依存する患者さんが出てくるのではと危惧しますが、それは大丈夫なのでしょうか。

成瀬 依存症診療で長らく言われていたことの1つに、「共依存になるので、熱心に関わるべきではない」というものがあります。巻き込まれてはダメ、甘やかしてはダメ、手を貸してはダメ、というものです。
 
 もちろん、医師一人で対応すべきではなく、救世主になってはいけません。多職種と一緒にチームで関わります。その際の基本的な考え方として、「本人ができることは本人にやってもらい、本人ができないことを支援する」です。本人ができることまでやってしまうのはよい支援ではないですし、本人ができないことを放置してしまったら、悪化してしまいます。また、治療にマイナスになることははっきり断るなど、線引きは心掛けています。ただし、巻き込まれないと見えないものがたくさんあるとも思うのです。関わった上で、適切な距離感を見つけていく、というプロセスが必要ではないかと思います。

 医療者は味方であること、困りごとに一緒に対応したいという思いを伝えて関わっていくだけで、いつしか信頼関係が築けて、その信頼関係に癒されるようになり、患者さんは依存症から回復していきます。「やめなさい」と一度も言っていないのに、ある時、「先生、やめれたよ」という報告を受けるという経験を数多くしてきました。無理にやめさせようとせず、関わり続けるだけで回復は生まれるのです。まさにこれは、ハームリダクションの理念に沿うもので、図らずも、実践の場で実感しているという状況です。

──まさに「北風と太陽」の寓話のようで、心温まるお話です。

成瀬 依存症は回復します。しかし、そのためには、人を信頼できるようになり、人に癒されることが不可欠だと私は考えています。

──ところで、欧米のような、無償の注射針提供などのハームリダクション施策は日本に必要とお考えでしょうか。

成瀬 海外と日本では、主に使用される薬物や社会状況が異なることから、必要な施策も異なると思います。欧米など海外で問題となっているヘロインは、大量使用時に呼吸抑制で死亡するリスクが高く、強い離脱症状も出ます。そのため、より安全な代替麻薬に置換する治療が実施されています。また、注射針の回し打ちによるHIV感染が激増したため、注射針の無償提供が行われていますが、日本では回し打ちでのHIV感染は少ないというのが現状です。日本で使用されることが多い覚醒剤は、興奮系の薬物で、呼吸抑制リスクがなく、離脱症状もあまりなく、代替療法はありません。

 ただ心配なのが、違法薬物に対する社会の目が厳しく、違法薬物依存者の回復の道を閉ざしかねない風潮が強いことです。通報のリスクから受診のハードルもとても高い。実は、覚醒剤による逮捕者は年々減っていますが、再犯率がとても高く、逮捕者の高齢化が進んでいます。

 加えて、「違法薬物でなければ使って問題ない」という社会風潮が強い点も心配です。「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」の最新データでは、睡眠薬・抗不安薬が、覚醒剤をわずかに抜いて、やめられない薬物として初めて1位になりました(図3)。市販薬の乱用も急増しています。法による厳罰主義だけでは、薬物依存の問題は解決できないと感じています。


図3 1年以内に使用あり症例の「主たる薬物」の比率に関する経年的推移(出典:令和4年度厚生労働行政推進調査事業費補助金による「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」2022年)

 私は、違法薬物も含めて薬物への依存症は、一般の精神科外来で診ることができないかと考えています。これまで紹介したように、覚醒剤であっても私は基本的に外来で診療していますので、病床のない精神科診療所でも実践できます。

 特に、処方薬や市販薬の乱用は、今後ますます増える可能性があり、依存症の専門医療機関だけで全ての患者に対応するのは不可能です。そもそも、処方薬の場合、処方している医師がいるわけですから、その責任もあります。

 処方薬や市販薬への依存症に対してどうアプローチすべきかの具体的な指針は現状ありませんが、依存症患者さんの背景は皆、同じです。人間不信と自信喪失を抱えて生きづらい人たちです。無理にやめさせようとせずに、患者さんと関わり続けていただきたいです。やめさせることができなくても、関わり続けることで、事故や自殺を防げる可能性があります。悪い方向にはいかないでしょう。
 
 アルコール依存症には、内科などの、かかりつけ医に関わっていただきたいと思っています。国内には、アルコール依存症患者は107万人存在すると推定されています。一方、診断が付いているのは5万~8万人程度で、その多くは重症化した後です。軽症患者さんは自覚がなく、治療も受けていませんが、本来、軽症の段階で関与して重症化を予防するのが医療でしょう。
・・・

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統合失調症の看護(松下 年子:横浜市立大学教授)

2019-08-03 14:20:06 | 精神科医療
放送大学「統合失調症の看護」(松下 年子:横浜市立大学教授)の聞いたときのメモです。

さて、聴講前の私の予備知識は・・・

・古くは「人格を破壊する精神病」とされて恐れられてきた。
・日本では抗精神病薬を多量に使用して、その副作用で動けなくして精神病棟で一生を過ごさせる治療法が当たり前だった。
・近年登場した新規抗精神病薬は副作用が減り、社会生活ができる人も増えてきた。
・例えば、有名人で統合失調症とされる人々を列挙すると、夏目漱石、芥川龍之介、マイケル・ジャクソン、等々。芸能人でもカミングアウトしてハウス加賀谷さんや、ほかにも噂されている人も少なくない。
・夏目漱石や芥川龍之介は100年後の今でも読み継がれている小説家であり、人間性の奥深い分析や洞察力に優れている一面があるのだろう。
・昔のシャーマン(祈祷師)は統合失調症だった可能性が高い。

さてさて、聴講後の印象は・・・
・基礎知識は知識の整理に役立った・
・肝心の看護論では、当たり前の概念的な言葉が羅列されるだけで、具体的にどうすればよいのか、ポイントがわからない
・講師は現場経験があるのだろうか、と疑問を持った

というわけで、残念ながら肩すかしでした。
大学講師ってどうしてこう話がつまらないのでしょう。
もし予備校だったら、生徒が集まらないでしょうね。


<統合失調症の病理と疫学>

□ 患者は100人に1人の割合で発生し、これはどの時代、どの国にかかわらず一定である。

□ 以前は「精神分裂病」と呼ばれていたが、2002年より「統合失調症」と呼称が変わった。

□ 治療は薬物療法と心理社会療法が重要であり、車の両輪と表現される。

□ 抗精神病薬がなかった1950年以前は、発症後数十年の慢性期を経て、「無為自閉」「荒廃状態」に至る進行性の疾患であった。

□ 現在は早期発見・早期介入・早期治療により予後が変わってきた。入院は急性期に限定され、病気を抱えながら社会生活を営む時代に移行しつつある。

□ 「ノーマライゼーション」「リカバリー」がキーワード。

□ 病因;
1.遺伝学的要因
2.生物学的要因
 ①ドパミン仮説
 ②ノルアドレナリン仮説
 ③GABA仮説
 ④セロトニン仮説

・脳の神経細胞数の減少〜灰白質の体積の減少
(原因)
・アポトーシスという「プログラム細胞死」の促進
・脳の肥料に相当する「神経栄養因子」、例えばBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質の減少
・「神経新生」の減少

3.心理社会的及び環境的要因
・家族因子:家族の感情表出EE(expressed emotion)
・心理社会的ストレス
・環境的ストレス

□ ストレスー脆弱性モデル
(厚生労働省「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会報告書」より)
 

 精神疾患の発生については、病気になりやすいかどうかの「脆弱性(もろさ)」と病気の 発症を促す「ストレス」の組合せによって示されるストレス脆弱性モデル(図1)を使用し て説明すると理解しやすい。
 モデルの横軸の「脆弱性」はその人の病気へのなりやすさを示す。これには、その人の生 まれ持った素質(先天的な要素)と学習・訓練などによる生まれてからの能力やストレスへ の対応力(後天的な要素)が関連するといわれている。一般的には脆弱である人は気まじめ でやさしい人が多いという。縦軸はストレスの強さを示す。何をストレスと感じるかは人に よって異なるが、家庭内のことであったり、人間関係であったり、仕事上の関係であったり する。また、戦争、大災害、親族の死など非常に強い外的な要因が発症を促すこともある。 この2つの軸のバランスで精神疾患は発症すると考えられる。
 図1にあるように、同じストレスが加わっても人によって対応力が異なる。同じストレス の強さでも、脆弱性が大きくなる(脆弱性軸で右方に行く)ほど発症しやすくなる。このモ デルの縦軸のストレスを下げるためには、できる限り早期の治療・リハビリ・支援などによ りストレスを避ける工夫、ストレスに強くなる工夫、脆弱性を小さくする工夫(薬を飲むな ど)が役に立つ。


□ 病型分類
破瓜型】思春期(17〜20歳)の発症
 慢性的な経過、欠陥状態、荒廃状態に至ることもあった
緊張型】青年期(20〜25歳)の発症
 当初は精神運動性興奮(不安、恐怖、運動爆発、衝動行為など)、緊張病性昏迷(無動、無言、拒絶症、強硬症、命令自動症、常動症、反響言語など)が多い
妄想型】成人期(30〜35歳)の発症
 体系化された妄想、被害妄想が主

□ 幻覚の種類:「対象なき知覚」
・幻聴
・幻視
・幻触
・幻臭
・幻味など

□ 妄想の種類
(出現様式)
・妄想知覚:知覚したものに対して誤った意味づけをする
・妄想着想:突然誤ったことを思いつく
・妄想気分:不気味な外界の変容を感じる、「世界没落体験」につながることがある
(内容別)
・被害妄想:関係妄想、注察妄想、被毒妄想、追跡妄想、嫉妬妄想、好訴妄想
・微小妄想:貧困妄想、罪業妄想、心気妄想
・誇大妄想:血統妄想、発明妄想

□ 診断基準いろいろ

ブロイラーの4つのA
・思考障害(連合弛緩:disturbance of association)
・感情障害(感情鈍麻:affective flattering)
・自閉(autism)
・両価性(アンビバレンス):ambivalence

シュナイダーの1級症状
・思考化声
・対話性幻聴
・自分の行為に口を出してくる幻聴
・身体への被影響体験
・思考奪取(思考途絶)
・思考吹入(すいにゅう)
・思考伝播(でんぱ)
・妄想知覚
・作為体験(させられ体験)

シュナイダーの2級症状
・その他の幻覚
・錯覚
・妄想着想
・困惑症
・抑うつ性と爽快気分(上機嫌)性気分変調
・感情の貧困化

クロウの2症候群
・陽性症状(I型)「本来はないものが存在する」
 妄想・幻覚・自我障害・緊張病症候群・幻滅思考など
・陰性症状(II型)「本来あるはずのものがない」
 感情鈍麻・感情の平板化・表情の変化の減少・思考貧困・意欲や発動性の低下・快感消失・非社交性・関心の低下・注意障害など

 陽性症状は薬物療法に反応しやすく可逆的
 陰性症状は薬物療法に反応しにくく非可逆的

<治療と看護>
三本柱:薬物療法、精神療法、リハビリテーション
その他:電気けいれん療法(ECT:electric conversion therapy)・・・現在は無痙攣ECTが主流

□ 妄想幻覚への看護
・患者の経験を否定しない
・いかなるSOSを送っているのか、何を意味するのか?
・妄想の内容を積極的に聞き出さない、説得しようとしない
・短時間のコンタクトと具体的で現実的な会話
・安心できる環境と、看護師の誠実で一貫性のある対応
・グループ活動やプログラムへの参加促進
・新しい対処方法の獲得
・前駆症状の振り返りを通じてモニタリング方法、救助行動、感情の表出方法を一緒に考える

□ 不安への看護
・不安レベルのアセスメント
・安心できる環境、安全感の保証
・リラックス方法の指導
・不安の客観的認識、主観的な経験の言語化
・感情表出の促進
・解決法、対処行動、救助行動のとり方の検討

□ 攻撃性への看護
・看護者自身による己の感情分析と制御
・自分自身を守る、他の看護師へのバトンタッチ
・攻撃された患者や看護師へのサポート
・安全の保障、広い身体空間の提供、安定した一貫性のある対人的環境の形成
・意味や仮定の洞察と方略
・感情の言語化と感情発散

□ 包括的暴力防止プログラム(CVPPP)

□ 無力感への看護
・自己決定への支援
・現実的で具体的な、肯定的なフィードバック
・セルフケアの促進
・活動範囲や対人関係の拡大
・自己主張や率直なコミュニケーション技術の習得
・働きかけ続ける事と、看護師自身の無力感の予防

□ 自閉への看護
・セルフケア能力、コミュニケーション能力、ストレス耐性のアセスメント
・時間をかけた信頼関係の構築
・「自分は守られている」と感じられるための枠組みを調整
・肯定的なフィードバックと活動継続への支持
・刺激提供と生活圏の拡大、プログラム整備

□ 強迫性への看護
・治療的な関係・環境・対応(傾聴と共感)
・強迫行為遂行に対する一定の承認
・安全保障
・強迫行為に対する看護者自身の感情モニタリングとコントロール
・現実で具体的な話題の提供、活動参加への促し


家族への支援

□ 発病後の家族の気持ちや態度の変化
(第一段階)家族が罹患したことに衝撃を受け、情緒的な混乱を体験する。同時に、未来に描いていた希望を失って孤立した気持ちになることもある。
(第二段階)病気になる前を振り返って過去を賛美し、病気の前の「元に戻る」期待を強く描く。
(第三段階)患者や社会との関係が損なわれた状態から脱し、関係性を取り戻そうとし始める。
(第4段階)新たな関係を築き、社会に関わっていこうとする。中には、仕方がないとあきらめ、患者とは距離を置きながら歩んでいく場合もある。


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精神疾患の根っこは「外胚葉障害」

2018-08-15 14:36:51 | 精神科医療
 こころの病について調べてきて、ある疑問を持つようになりました。
 それは、同じ薬が違う病名の精神疾患に使われている事実。
 
 例えば、抗精神病薬はもともと統合失調症の治療薬ですが、それがうつ病や双極性障害にも用いられます。てんかんの薬として有名なバルプロ酸は精神安定薬としても用いられます。

 薬物の添付文書から適応疾患名を抜き出すと、

(例)ジプレキサ®(一般名:オランザピン)
 ・統合失調症
 ・双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善
 ・抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)

(例)デパケン®(一般名:バルプロ酸ナトリウム)
 ・各種てんかん及びてんかんに伴う性格行動障害(不機嫌・易怒性等)の治療
 ・躁病および躁うつ病の躁状態の治療
 ・偏頭痛発作の発症抑制

(例)エビリファイ®(一般名:アリピプラゾール)
 ・統合失調症
 ・双極性障害における躁症状の改善
 ・うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)
 ・小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性

 等々。

 さて、医療の現場では「診断的治療」が行われることがあります。
 その疾患を疑われるけど確定診断ができない場合、治療薬への反応を観察することにより診断精度を上げること。

 例えば、乳幼児の気管支喘息。
 乳幼児は感染症でもゼーゼーすることが少なからず経験され、その時の症状は喘息と区別することが困難です。
 そこで喘息治療薬の気管支拡張剤吸入への反応をみることにより、診断に近づく手法がしばしばとられます。
 気管支拡張剤(ベネトリンやメプチン)吸入後にゼーゼーが軽減すれば「この子は喘息の可能性があります」、まったく無効なら「感染症による気管支炎で喘息発作ではありません」と説明できるのです。

 この「治療的診断」という視点から精神疾患を見ると・・・同じ薬が効くなら同じ病気ではないか、病名を区別する必要があるのか?
 という素朴な疑問が生じますね。

 さて、今回読んだ『「精神病」の正体』(大塚明彦著、幻冬舎発行、2017年)は、この疑問に直球で答えてくれる内容でした。



 著者も「同じ薬が効くなら、表現型としての症状の多様性はあるが病気の根っこは同じなのではないか?」という疑問を持ち、それを突き詰めていったら「精神疾患は外胚葉由来生活障害(外胚葉由来のその人固有の特性による生活障害)である」ことがわかった、という内容です。
 特に患者さんの「感覚異常・感覚障害」に注目し、検討を重ねた結果、私たちがこれまで「精神の異常」と考えていたものは、感覚の特異性やADHD・ASDといった発達障害の特性とほぼ置き換えることができ、そしてその多くが抗ADHD薬で治療できるという結論に至ったのです。

 私の現在の精神疾患についてのイメージは次の通りです;

うつ病】投薬と生活環境調整によりコントロール可能で、廃薬も可能。
双極性障害】投薬でコントロール可能であるが、廃薬はできない(一生継続)。
統合失調症】薬でコントロール可能であるが、未治療では進行性に人格破壊に至ることがある。

 治療に難渋するこれらの疾患も、抗ADHD薬を上手に使うことにより、多くの患者さんで症状が改善し平和な日常生活が取り戻せる可能性を著者は例示しています。
 現在多剤併用療法をせざるを得ず、勝つ日常生活に支障を来している患者さん達に、一筋の光が当たったような気がします。
 記載内容が今後の検討で更に確実な科学的事実と証明されれば、上記3種類の精神疾患診療は激変し、患者さんが日常生活・社会生活を支障なく送れるようになるのではないか、という期待が持てました。

 ただし、抗AHDH薬だけでは太刀打ちできない残された課題として以下の病態があるように感じました;
・ASD(自閉症スペクトラム障害)
・社会不安障害
・うつ病、双極性障害のうつ相

 「単一精神病論」(いろんな精神疾患の原因は一つでそれは外胚葉障害)という説を読んで、吉益東洞(1702-1773)の「万病一毒説」を思い出しました。

 著者によるメッセージ;
長くつらい症状に苦しんできた患者さんは、精神病という呪縛から自らを解き放ってほしい。そして平均的な人とは少し違うところがあっても、プラスもマイナスも含めてこれが自分なのだと自信を持って、人生を楽しめるようになってほしい。


<備忘録>

□ 日本の精神病床数は欧米諸国平均(1000人あたり1床)の3倍で、全世界の精神病床数の1/5を占める。
 日本の精神病棟は、精神疾患患者を治療する場所というよりも、精神疾患患者を社会から隔離して、一生をそこで過ごさせる「精神障害者の住処(すみか)」のような機能を果たしてきた。

□ 「精神分裂病」の名前の由来
 1908年にスイスの精神医学者ブロイラー(Blueler. E 1857-1939)が、早発性痴呆を「連想分裂をもった精神障害のグループ(スキゾフレニア)」と命名した。ブロイラーのつけた名称は「連想が分裂する、つまり思考の道筋に通常とは異なる飛躍や乱れがある」という特徴を捉えたものだったが日本ではこれが「精神分裂病(法改正により統合失調症が正規)」という言葉に置き換えられ、一般化した。
 この疾患名が「精神がバラバラになり、ついには人格までが変わってしまう恐ろしい不治の病」というイメージや、社会の偏見をさらに助長することになった。

□ 脳内伝達物質の役割
 現在約60種類が確認されている。

【ドーパミン】喜びや達成感など、快感をもたらす。意欲ややる気、向上心などの源になる。
 不足:物事への意欲や関心が薄れる。
 過剰:不眠や感情の暴走、幻覚などの精神症状につながる

【ノルアドレナリン】交感神経刺激作用があり、意欲ややる気を高める反面、不安や恐怖、緊張などにも深く関わる。

【セロトニン】ドーパミンやノルアドレナリンの暴走を抑え、気分や感情を整える。

□ 脳内伝達物質と精神疾患に用いられる薬物
【クロルプロマジン】(コントミン®)ドーパミン遮断作用

□ 抗精神病薬の歴史
1.第1世代抗精神病薬
・ドーパミンを遮断して統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想など)に有効  → 統合失調症の「ドーパミン過剰説」
・しかし陰性症状(引きこもりや感情の平板化など)にはあまり効果が得られず
(例)クロルプロマジン、ハロペリドール
2.第2世代抗精神病薬
・1990〜2000年代にかけて陰性症状の改善を目的に開発された。

 日本の精神科医療では、諸外国では見られないような、多剤大量処方が行われていることが現在問題視されている。
 多剤併用で最も多いのは第1世代の抗精神病薬と第2世代の抗精神病薬の組み合わせであり、3-4種類を併用する藜芽目立つ。
 統合失調症の陽性症状(幻覚や妄想など)に効果があるのは第1世代であり、この薬を処方すると、今度は陰性症状(自閉など)が目立ってくる。このように症状が変化する度に、それに見合った薬を出しているとおのずと薬の種類が増えてしまう。

□ 抗うつ薬の歴史
 1950年代にノルアドレナリンやセロトニンの濃度を高める薬物に抗うつ作用があることが発見された。
→ うつ病の「モノアミン(※)仮説」(モノアミンが何らかの原因で減少すると抑うつや意欲・関心・喜びの喪失などのうつ症状が起こる)
 そこでモノアミンを増やす抗うつ薬がたくさん開発されて現在に至る。

※ モノアミン:ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンなどの気分に関係する神経伝達物質の総称。

□ SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)の功罪
 製薬会社のキャンペーン(「うつ病はこころの風邪」など)により社会現象を引き起こしうつ病患者が不自然に増えた(過剰診断の可能性)。
 有効率はは約3割で、深刻な副作用(衝動性が高まり、衝動的に自傷や自死、犯罪などの事件をおこす)があるため、欧米では軽度から中等度のうつ病にはSSRIを用いない方針の国が出てきている。

□ DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の歴史
 その基礎は、ドイツの精神科医クレペリン(Kraepelin, E. 1856-1926)が提唱した疾患分類「早発性痴呆(現在の統合失調症)」と「躁うつ病(双極性障害)」の2分類に始まる。
 1952年に発刊以来、現在までに改訂を重ねてきたが、改訂事に精神疾患の分類が細分化・多様化する傾向がある。
 これには、精神疾患の「症状」に着目して薬物療法が開発され、さらに薬の作用から新たな症状がクローズアップされるというwindに、雪だるま式に精神疾患の種類が増えてきた要素もある。
(例)社交不安障害(社会不安障害)は最新のDSM-5(2013年)では、分離不安症・選択的緘黙・限局性恐怖症・社交不安症・パニック症・広場恐怖症など、11種類に分けられている。
 
□ 抗ADHD薬の登場
 抗ADHD薬は、神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンに作用して多動性や衝動性、不注意を抑えることで症状を改善させる。
 仕事をしている成人男性には集中力を高めるコンサータを、女性や年齢が高い人には感覚や集中のバランスが整うストラテラを処方することが多い(著者)。

【アトモキセチン】(ストラテラ®) NRI(ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
 2009年に18臍囲化の子どもに承認され、2012年に18歳以上に承認。
 非中枢神経刺激薬で効果が現れるまでに少し時間がかかるが、1日2回復用で効果を持続させられ、副作用も穏やか。
 著者によると、ストラテラのイメージは「高級赤ワイン」。多動や衝動、過集中が治まり、気分がゆったりして視界が広がり、生活や行動のバランスが取れるようになる。

【メチルフェニデート】(コンサータ®) 中枢神経刺激薬(ドーパミンやノルアドレナリンを増やす作用)
 2007年に18臍囲化のADHD治療薬に認可され、2013年に18歳以上に拡大承認された。
 朝1回の服用で薬効が約12時間持続する徐放剤。
 著者によると、コンサータのイメージは「白ワイン」。視界は狭いがハッキリする。仕事など必要なことにしっかり集中できるようになった、思考がクリアになったという感想を患者さんからよく耳にする。

リタリン®(メチルフェニデート)の功罪
 中枢神経刺激薬で覚醒剤と同様の作用を持ち、一部の医師が誤った処方を続けたことにより、リタリンの乱用・依存症が社会問題になり使用できなくなった(現在はナルコレプシーという睡眠障害の治療にのみ使用される)。
 ひと昔前に「ボーダーライン(境界性人格障害)」と言われていた人たちの中に、安定した生活を送りたいがためにリタリンを自分で購入・服用していた人(「リターラー」)がいて非難の対象になったが、徐放剤(コンサータ®)が登場して再評価されるようになった。

□ ADHDの特徴3つ〜成人の場合〜
 ADHDの中でも多動性・衝動性の目立つタイプもあれば、不注意が中心のタイプもある。
 以下の症状は、おそらくほとんどの人が「自分も当てはまるところがある」と感じる内容となっている。ただ、いくつか当てはまる言動があっても日常生活で特に困ることがなければ、障害とは考えない。

【多動性】落ち着きのない言動
・長時間じっとしているのが苦手
・いつも焦って考え行動する
・順番を待てない
・貧乏ゆすりなど無目的な動きをする
・しゃべりすぎる

【衝動性】感情や言動の抑えが効かず暴走してしまう
・人の話に割り込む
・質問が終わる前に答える
・空気を読まずに思ったことを口にする
・衝動買いをする
・ふとしたことで激しく動揺したりカッとなりやすい

【不注意】全体としてだらしのない人、忘れっぽくて困った人
・仕事などでケアレスミスが多い
・忘れ物、なくし物が多い
・時間管理が苦手で遅刻が多い
・約束や期日を守れない
・外からの刺激で気が散りやすい

 しかし大人のADHDの診断法で臨床に役立つようなモノはほとんど存在しなかったが、DSM-5(2013年)でようやく大人の診断に対しても使用できる表現が改訂された。しかしこれとて実際の臨床現場でうまく機能するとは思えない(著者)。

□ 精神疾患の症状をADHDの症状に“翻訳”する
 私たちがこれまで「精神の異常」と考えていたものは、感覚の特異性や、ADHD、ASDといった発達障害の特性とほぼ置き換えることができる。
(妄想)現実の物事から意識がそれて、無関係な考えに浸るADHDの「不注意」の症状の一つとも捉えることができる。
(おしゃべり、猛烈な速さでしゃべる)「多動」の症状
(躁状態)ほとんど寝ずに動き続けたりしゃべり続けたりする状態は、まさに「多動」そのもの
(依存)ギャンブル依存、買い物依存、食べ過ぎ、飲み過ぎ、タバコの吸いすぎといった過剰な行動は、欲求や衝動を抑えられない「衝動性」や「多動性」の現れ、記憶の能力が低くすぐに忘れてしまう「不注意・物忘れ」のためまた同じ事を繰り返してしまう。  → トピナ®(一般名:トピラマート)、抗ADHD薬が有効。
(強迫性障害)発達障害の「不注意」と「物忘れ」の反動によって起こる  → ストラテラ/コンサータで見事に解消する。
(詐欺の被害)“ひとがいい”ので断れない。計画性のなさは「不注意」で、繰り返すのは「物忘れ」。
(季節性うつ病)気温低下、冷えという刺激によって皮膚感覚が過剰に反応し(感覚過敏)、脳の機能に影響を与えている。
(自傷行為)自分を傷つけたい、死んでしまいたいという「衝動性」  → 抗ADHD薬有効

□ 精神疾患患者の持つ“認知のゆがみ”
 神経伝達物質のバランスの乱れから、多くは認知のゆがみが生じている。
 そのため、「職場の人が全員、自分をダメなヤツだと思っている」というような過度の自己否定に陥ったり、反対に自分のミスや奇異に見える言動を正当化し、責任は周囲の人にあるといった訴えをすることがよくある。
 自分は病気ではないと考える“病気の否認”“病識の欠如”もよくある。

□ うつ病診断のコツ(本質)
 うつ病のポイントは「睡眠障害(特に早朝覚醒)」と「日内変動(体内時計のズレ)」の2つである。

□ 精神科受診患者の7割以上に何らかの感覚過敏があり、9割がADHDを中心とした発達障害(ASDと重なるケースを含む)に該当する。

□ エビリファイ®(一般名:アリピプラゾール)の適応疾患から読み取れること
 ドーパミン・システム・スタビライザーと呼ばれ、脳内のドーパミンが少ないときは補い、多いときには減らす作用機序により、ドーパミンのバランスを適切な状態に整え、精神症状を改善する。
 世界一の売り上げを記録した抗精神病薬であり、適応となる精神疾患がどんどん拡大している。
(2006年)統合失調症の薬として大塚製薬が発売
(2012年)双極性障害の躁状態における改善
(2013年)うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)
(2016年)小児期の自閉症スペクトラム障害に伴う易刺激性

・・・様々な病名が付いた種々の精神疾患が同じ薬で治ると言うことは、同じ一つの病気なのではないか?

□ ASD(自閉症スペクトラム障害)患者は自身が社会・家庭生活で苦しい思いをしている
 今、自分自身がこの世の中でどのような立場、立ち位置にいるのかが理解できない。周りの人たちが何を考えて行動しているのかを感じ取ることができない。
 まわりの人の気持ちや感情が読めないため、人と会話を交わすことも不安になり、常におびえながら生活をしている。精神安定剤や睡眠薬などの大量服用によって不安を抑えながら、かろうじて生活しているため、薬物依存と診断されがちである。
 ASDは薬では治らない。不安だけは和らげることができるが、空気を読むようにできるようにはならない。
 ASDの対人関係の技術を繰り返し伝えても、すぐにADHDの「不注意」のため忘れてしまうのでそこで立ち往生してしまう。

□ ADHDは「陽」、ASDは「陰」
 ASDの人たちの方が、人生を送る上での苦痛は遙かに大きい。

□ 単一精神病論
 統合失調症や双極性障害などの精神疾患の現任は単一であるという説。
 ドイツの精神科医グリージンガーにはじまり、日本でも精神病理学者の千谷(ちたに)七郎を提唱した歴史がある。
 最近では武田雅俊氏のコメント;
「(統合失調症と双極性障害の)両社には共通点も少なくない。例えば、地域を問わず発症率は共に1%、若年成人に初発し、慢性に経過し、50〜70%の遺伝率、性差・地域差がない。」
 東京大学や国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が人工知能(AI)を用いてASDを判別する技術を開発し、この技術により「ASDと統合失調症の脳活動には高い類似性がある」ことがわかってきた。

□ 抗ADHD薬の開発ラッシュ
センタナファジン(大塚製薬)ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリンのすべてに作用する「トリプル再取込阻害」で、最強の抗ADHD薬。
・インチュニブ(塩野義製薬)一般名:グアンファシン。2017年5月に発売された。
・ダソトラリン(大日本住友製薬)

<参考> 「ADHDの治療に効果のある薬のまとめ

□ 感覚異常は才能にもなれば、精神症状にもなる
 人並み以上に鋭い感覚を活かして、様々な分野で活躍している人もたくさんいる。
(視覚)デザインや芸術
(聴覚)音楽
(嗅覚・味覚)料理
(触覚)理容・美容業界

□ 内胚葉・中胚葉・外胚葉
 人は受精後2-3週間で以下の3つの部分に分かれ、そこから人間の体の各機関へと文化していく。
(内胚葉)消化管、膵臓、肝臓、肺・気管支
(中胚葉)筋肉や骨格、皮下組織、心臓・血管、リンパ管、泌尿・生殖器、腎臓・副腎、脾臓
(外胚葉)目・耳・鼻、皮膚の表皮、中枢神経系(脳や脊髄)

□ 外胚葉の発達のアンバランスが精神疾患の原因ではないか?
 聴覚や視覚、触覚などの感覚情報を生み出す感覚器と脳とは、同じ外胚葉から分化する
→ 外胚葉の発達に障害があると、神経細胞で作られるドーパミンをはじめとした神経伝達物質のバランスが崩れたり、脳内や神経の情報伝達回路に独特の偏り・個性が生まれ、それが発達障害の症状や感覚過敏を作る。
→ 発達障害と感覚異常の二つは、別々の症状に見えるけれども、実はいずれも「外胚葉の発達のアンバランス」から来ている状態である、という理論が成り立つ。

□ 外胚葉由来器官の働きはセンサー系、情報処理系、コントロール系に分けられ、その障害は様々な症状とリンクする。
【センサー(感知)系の異常】過剰反応と無反応
 五感の異常が現れる。過敏なときはささいな刺激にも過剰反応が起こる。逆に感覚が鈍麻していると、においがわからない、寒さ・暑さを感じにくいなど、反応が鈍くなることもある。
【情報処理(認知)系】不注意(物忘れ、部屋の片付け、ボーッとしている)、過注意(こだわり)
【コントロール(制御)系】
(脳内)衝動(浪費、ギャンブル、暴力、飲酒・・・カーッとしやすい)、衝動抑制(けち)
(対外)運動系では多動(おしゃべり・・・ソワソワと)、少動(なまけ、無欲)
(体内)体内時計の乱れ(フワフワと)
(体調)体調不良(不眠、過眠、拒食、過食、肩こり、背部痛)

□ 統合失調症の幻覚は、聴覚過敏から生まれる。
 感覚過敏、とくに聴覚の過敏から来るものではないかと考え、抗ADHD薬(ストラテラ/コンサータ)で治療するとピタリと止まる例を経験する。ただし少量だと効果がなく、量が数mg多すぎただけで症状が悪化する。
 著者は現在、幻聴の治療にストラテラ/コンサータを基本に、ロナセン®(非定型抗精神病薬、一般名:ブロナンセリン)を組み合わせて使用し、高い効果を上げている。

□ 慢性疼痛も外胚葉の発達アンバランスによる感覚異常で説明可能。
 慢性疼痛では、痛みを繰り返し感じていると痛みを脳に伝える神経も過剰な興奮が続いてしまい、さらに痛みを強く感じるという悪循環が起こっている。
 抗ADHD薬により、皮膚感覚とそこから伝わる神経の興奮が抑えられることで激しい痛みが消える。
 著者は、ストラテラ/コンサータに加えて、リボトリール®(抗不安薬、一般名:クロナゼパム)をよく処方している。

□ ASD(自閉症スペクトラム障害)とSAD(社交不安障害)
 ASDの特徴として「空気が読めない」ことが挙げられる。
 人の表情などから感情を読み取ることや、相手がどう思うかを想像するのが苦手である。そのため、本人に悪気はないが思った琴をそのままストレートに口に出してしまい、相手を怒らせたり、傷つけたりしてしまう。
 また、言葉を字義通りに受けとるので、周りの人が冗談で言ったことに本気で反論するなど、会話がかみ合わない。
 これはASD患者からすれば、なぜかわからないけど突然人に怒られる、突然人に拒否されるという体験が続くことになる。こうした経験が積み重なると、周りの人がいつ、どういう反応をするのかますますわからなくなり、常に周囲の人に対して不安や恐怖を感じるようになる。
 その結果が、社交不安障害という状態である。

 著者はASDに対してエビリファイとSSRIのパロキセチンを併用して治療しているが、ADHDほど効果的な薬はまだない。

□ 精神疾患のなる樹木の種は外胚葉障害
 ADHD、ASDといった発達障害や感覚過敏は、外胚葉から作られる脳や神経、感覚器官の生まれながらの機能の異常である。
 そして、そこで生じる緊張やストレス、不安、進学・就職・対人関係の挫折などが、ある時を酒井に睡眠障害や食欲不振、気分の異常な効用や抑うつ、不安障害、幻覚・妄想といった様々な症状となって表面化する。
 外胚葉由来の脳や感覚の機能障害を植物の「種」に例えると、その種が芽を出し、成長するにつれてさまざまな困難さという枝が伸びていき、その先に派手な症状という花が咲く。
 その枝葉や花に対して「統合失調症」や「双極性障害」「うつ病」「社会不安障害」「強迫性障害」「依存症」といったさまざまな名前をつけて治療しようとしてきたのが、これまでの精神医療ではなかったか?
 大切なのは、様々な症状の大元にある「種」を治療することである。

□ ASD患者さんはイヌよりもネコを好む
 イヌは人間の感情を読んで反応するが、それがASDの人にとっては不快、気味が悪いと感じられる。その点、ネコならば人間の感情を読まないので一緒にいて快適で安心。
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抗うつ剤の比較検討、効果に最大2倍差

2018-02-23 06:07:11 | 精神科医療
 「うつ病」に対する「抗うつ薬」の効果の比較検討を、Lancet の論文から。
 日本で未認可の薬から、古典的な三環系抗うつ薬の名前も出てきます。
 患者さんの訴えにより、薬剤の特徴を考慮して使い分けるのが基本とは思われますが、大まかなイメージを捉えるには参考になります。

■ 抗うつ剤、効果に最大2倍差 国際チームが21種を比較
2018年02月22日:朝日新聞社
 国内外で使われている抗うつ剤を比較すると、効果に最大2倍の開きがあることが日英などの国際チームの研究で分かった。8種類の薬は特に効果が強く、6種類は副作用が比較的起こりにくいという。治療の際、薬を選びやすくなるという。22日、英医学誌ランセットに発表した。
 京都大の古川壽亮教授(臨床疫学)や英オックスフォード大などの研究グループは、主要な21種類の抗うつ剤について、2016年までに世界で行われた効き目に関する比較臨床試験のうち、科学的信頼度が高いと判断した522試験(非公表を含む)の結果を分析した。不眠や食欲がないといった項目の標準の尺度に照らし、症状が改善した患者数によって効き目を、副作用などで薬の服用を中止した割合に基づいて飲み続けやすさを調べた。
 その結果、効き目が最も高かったのがボルチオキセチン(国内は臨床試験中)で、最も低かった薬に比べて約2倍効果が高かった。この薬は飲み続けやすさも最も高かった。日本で承認販売されている薬でみると、エスシタロプラム、ミルタザピンなどが効果と飲み続けやすさがともに比較的上位で、バランスが良かった。トラゾドンは両方とも低かった。
 ただ、今回の研究で示されたのは平均的な効果や飲みやすさ。患者によって症状や効き方、副作用の出方は異なる。薬によって費用も差がある。古川さんは「どんな症状ならどの薬を飲めばよいか研究を進めたい」と話す。
 厚生労働省の14年の調査では、国内では推計112万人がうつ病などの気分障害で通院・入院している。(西川迅)

■抗うつ剤の効果と飲みやすさの順位■
(1)ボルチオキセチン(1) *日本は臨床試験中
(2)エスシタロプラム(レクサプロ®)(3)
(3)ブプロピオン(9)
(4)ミルタザピン(リフレックス®、レメロン®)(8)
(5)アミトリプチリン(トリプタノール®)(13)
(6)アゴメラチン(2)
(7)パロキセチン(パキシル®)(7)
(8)ベンラファキシン(イフェクサー®)(11)
(9)デュロキセチン(サインバルタ®)(16)
(10)ミルナシプラン(トレドミン®)(10)
(11)セルトラリン(ジェイゾロフト®)(5)
(12)ネファゾドン(12)
(13)シタロプラム(4)
(14)クロミプラミン(アナフラニール®)(17)
(15)フルボキサミン(デプロメール®、ルボックス®)(14)
(16)フルオキセチン(6)
(17)トラゾドン(レスリン®、デジレル®)(15)
(18)レボキセチン(18)

※ 効果などに差が出た18種類。()内は商品名。後ろの数字は飲み続けやすさの順位。京大などの国際チームによる。
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