発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

抗うつ薬投与下での運転、その安全性は

2017-08-20 07:01:24 | 精神科医療


 持病を持っている人の自動車運転の安全性が問われる時代になりました。
 精神疾患患者さんもそのグループの一つ。
 最近発表された抗うつ薬による自動車運転への影響に関するシステマティック・レビューを紹介します。

 概ね、古典的な三環系・四環系抗うつ薬は影響を及ぼしやすく、新規抗うつ薬は影響が少ないという結果です。
 個々の薬剤については、論文内容をご参照ください;
 
■抗うつ薬投与下での運転、その安全性は
ケアネット:2017/08/11
 ドイツ・ルートヴィヒマクシミリアン大学のAlexander Brunnauer氏らは、抗うつ薬の自動車運転パフォーマンスへの影響に関する実験的および臨床的研究をレビューした。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2017年7月17日号の報告。
 PubMedデータベースより、1980~2016年に発表された研究をシステマティックに検索を行った。
 主な結果は以下のとおり。

・本レビューには、28研究が抽出されたが、抗うつ薬投与患者の自動車運転パフォーマンスを調査した研究は5件のみであった。
ミアンセリン(テトラミド®)を除く大部分の三環系、四環系抗うつ薬は、自動車運転パフォーマンスに重大な悪影響を及ぼし、亜慢性期後の使用で減弱した。
・SSRIおよびベンラファキシン(イフェクサー®)やミルナシプラン(トレドミン®)などのSNRIは、自動車運転パフォーマンスに影響を及ぼさなかった。
トラゾドン(デジレル®、レスリン®)は、用量依存的に急性の影響を有すると考えられる。
ミルタザピン(レメロン®、リフレックス®)の急性期使用は、夜間投与を行った場合に影響が認められたが、低用量または反復投与後の場合、健常被験者においては認められなかった。
・アルコールによる付加的効果は、鎮静系の抗うつ薬において最も顕著であった。
多くの患者において、自動車運転技術に対する新規抗うつ薬治療のメリットが認められると考えられる。

 著者らは「自動車運転パフォーマンスに関して、どの抗うつ薬治療が患者にとって最も有用かという課題を解明するためには、より多くの患者による研究が必要である」としている。


<原著論文>
・Brunnauer A, et al. Pharmacopsychiatry. 2017 Jul 17.
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「早期改善が最も期待できる抗うつ薬は」

2017-08-18 06:34:09 | 精神科医療
 抗うつ薬に関する情報を紹介します。

 抗うつ薬の即効性を評価した論文で驚いたのは、薬の効果ではなく「プラセボの効果」です。
 プラセボとは偽薬=ニセ薬のこと。
 つまり「このお薬を飲むと症状がよくなりますよ」とニセ薬を渡しても一定の効果が得られる現象です。
 一般役の治験でも約3割のプラセボ効果があるとされていますが、この論文中では47%と高率。
 一方の抗うつ薬では62%と、その上乗せ効果は15%にとどまります。

 つまり、抗うつ薬としてニセ薬を服用した効果は47%、本物の薬を飲ませた効果は+15%だけということ。
 う〜ん・・・。

■ 早期改善が最も期待できる抗うつ薬は
2017/08/16:ケアネット
 抗うつ薬治療の最初の2週間でうつ症状を早期に改善することは、うつ病患者のその後の良好な治療アウトカムを予測するレジリエンスシグナルであるといわれている。しかし、早期改善の予測値は研究間で異なっており、異なる抗うつ薬の使用が影響している可能性がある。ドイツ・ヨハネス・グーテンベルク大学マインツのStefanie Wagner氏らは、うつ病患者における将来の治療反応や寛解に対する早期改善の予測値を評価し、早期改善の可能性が最も高い抗うつ薬を特定するため検討を行った。Journal of psychiatric research誌オンライン版2017年7月4日号の報告。
 うつ病患者に対する早期改善効果について、抗うつ薬とプラセボまたは他の抗うつ薬との単独療法を比較したランダム化比較試験17件より、成人うつ病患者1万4,779例を抽出した。治療2週間後に20%/25%超の症状改善を早期改善と定義した。
 主な結果は以下のとおり。

・早期改善は、抗うつ薬群で62%(範囲:35~85%)、プラセボ群で47%(範囲:21~69%)であった。
・早期改善は、高感度(85%、95%CI:84.3~85.7)および低~中等度の特異性(54%、95%CI:53.1~54.9)で、治療5~12週間後の治療反応および寛解を予測した。
・早期改善患者は、非改善者と比較し、エンドポイントにおける治療反応率が8.37倍(6.97~10.05)高く、寛解率は6.38倍(5.07~8.02)高かった。
・早期改善率が最も高かった薬剤は、ミルタザピン(レメロン®、リフレックス®)および三環系抗うつ薬であった。

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「見え始めた精神医療の実態」

2017-08-13 07:03:28 | 精神科医療
 NHKの「ドキュメント72時間」という番組が好きです。
 人々が居場所を求めて、温もりを求めて彷徨い、集まる場所をTVカメラが72時間観察する内容。

 居場所がない人たちはたくさんいます。
 精神病患者もそのグループの一つ。

 彼らは戦前は座敷牢に閉じ込められ、戦後は病院に収容されてきた歴史があります。
 日本社会には、精神病者を受け入れて一緒に生活するという意識が乏しい。
 きっと、戦後健常人でさえギリギリの生活を余儀なくされた社会情勢も影響していると思われます。

 しかし経済大国と言われるようになった現在においても、その因習が消えません。
 そんな状況が、東日本大震災をきっかけに明るみに出ました。

 避難区域の精神病院から、患者が全国に散ったのです。
 そして希望者は福島県内の別の病院(矢吹病院)に戻ることになりました。
 そこでの聞き取りでは、数十年間精神病院に入院していた患者さんが多いことが判明しました。
 
 障害者一般を受け入れる寛容さが日本社会にはないことを改めて感じました。
 精神病患者でない、精神発達遅延(いわゆる知恵遅れ)も精神病院長期入院を余儀なくされている実態も。
 先日、被虐待児が居場所がなくて長期入院せざるを得ないという番組を見ました。
 当然、難民に対しても言わずもがな。

 いや、障害者だけではなく、健康な子どもったちが通う保育施設でさえ、町から締め出される傾向があります。

 日本は変われるのでしょうか?

 博愛主義を掲げてきた欧米が、近年本性を現し始めています。
 彼らが栄え、豊かになったのは植民地政策の恩恵です。
 名を残す歴史的文化が花開いた時代には、その陰に必ず奴隷制度がありました(日本にもあったのです)。

 しかし昨今、民族大移動ともいうべき大量の難民がヨーロッパに流れ込み、自分たちの生活が脅かされ始めると、手のひらを返したように難民排斥行動に出ます。

 一体、何が正しいことなのかわからなくなってきました。

 所詮、人間は生き残る最良の術をとる生物であるということ。
 自分や子孫の存在が危うくする事態を極力避けるのは当たり前。
 自己犠牲は生存競争になじまないのかもしれません。


■【バリバラジャーナル】見え始めた精神医療の実態
2017年5月14にち:NHK
 見え始めた精神医療の実態 入院患者の圧倒的な多さと入院期間の長さから「深刻な人権侵害」と称される日本の精神医療。しかしどんな人たちが、なぜ入院を強いられているのか、これまでブラックボックスだった。実はこの実態が東日本大震災によって、明るみに出ている場所がある。それは福島。原発事故で、原発周辺の精神科病院の患者たちが大量に転院。いま、その患者たちを地元に呼び戻し、地域での生活へと移行させようと、県が動き始めているからだ。今回番組では当事者や家族の証言から社会的入院の実態を取材。精神障害者の地域移行について考えていく。

<内容>
 退院を目指して患者がやってくる精神科病院がある。福島県立矢吹病院。そこにやってきた患者達に話を聞くと、精神医療の驚くべき実態が見えてくる。それは入院期間の長さ。ある男性は19歳から入院して45年。またある男性は「よく治せ、よく治せ」と言われ続け、入院期間は50年以上に達していた。実は精神医療のデータを見ていくと、日本は世界中で圧倒的に入院患者が多い。先進国の平均在院日数が18日なのに対し、日本はおよそ280日。さらに入院期間1年以上が8万5千人、5年以上が10万人と長期入院となってしまっている人も圧倒的だ。しかし精神科病院の実態はこれまでなかなか明らかにされてこなかった。

◇原発事故をきっかけに見えてきた精神医療の実態
 今回、精神医療の一端が見え始めたきっかけは、東日本大震災だった。原発事故で、原発の近くにあった精神科病院は一斉に機能を停止、患者たちの多くが県外の病院に転院した。その中で「福島に戻りたい」という患者たちを、県はいったん矢吹病院で受け入れ、病院内に設置した「マッチング室」で地域で暮らすための支援を始めている。これまで関わった患者はおよそ50人。多くが30年以上の長期入院の患者だが、取り組みの中で、驚くべき実態が明らかになってきた。矢吹病院の医師によると、ほとんどの入院患者が「入院治療」の必要がない状態だという。さらに患者の4人に1人はそもそも知的障害だった。

◇精神障害者は生産を阻害!?
 日本は戦後、精神障害者の隔離収容政策を推し進めた。高度経済成長時、厚生省は精神障害者が「生産を阻害する」かつ「治安のためによくない」存在だとして病院を大増設。精神障害者はどんどん入院させられることになった。そういった状況のなか、偏見が強まっていくという状況が作り出されていたのだ。スタジオゲストの高木俊介医師は、「この日本の社会自体がどうやって地域で精神障害の人を受け入れていいのか、わからなくなっている」と指摘する。

◇病院から地域へ
 40年近く病院で過ごして4年前に退院した時男さん。時男さんは16歳で統合失調症を発症。退院を訴え続けたが、家族の理解も得られず、入院生活が続いた。退院した当初は、きっぷの買い方、銀行ATMの使い方など、わからないことだらけで苦労も多かったが、今では老人センターやデイサービスなどに通い、友達とカラオケを楽しむなど、自由な暮らしを満喫している。しかし、ふとした瞬間に、長年ともに過ごした入院仲間のことを思い出すという。退院から4年、時男さんは、かつての仲間を訪ねることにした。
 親友だった山口さんは高齢者住宅で暮らしていた。46年間の入院生活を経て、去年退院。自由な暮らしを手に入れ、「ようやく幸せつかんだ」と笑顔の山口さん。もう1人の友人、紺野さんはグループホームで暮らしながら、自然栽培を行う作業所で働いていた。「明日が見えます。毎日一日一日前が見えるっていうことは、病院ではなかった」と働く喜びをかみしめていた。いつか1人暮らしをしたい、という夢もできたという。時男さんは「もっと患者の身になって考えてほしい。社会に出たらこんなにいいところがあるんだぞっていうのを、患者さんにもわかってもらいたいし、社会の人にも、患者さんが社会に出ればこういういいところがあるんだぞって、いい面をもっとひきだしてほしい」と今の思いを語った。

<玉木幸則のコレだけ言わせて>
「この問題は社会に全部つながってる」
 今回は決して精神科病院だけが悪い、ということではなくて。知的障害などのひとでも地域で受け入れられないから結果的にそこに入院する、と。でも本来は地域で生活できる仕組みや環境を作っていくべきやろ? それがないとこの問題は変わらない。例えば、いまだに知的障害や精神障害のひとのグループホームを作るときに地域の反対があるのは事実やし。この問題は障害のあるひとだけじゃなくて社会に全部つながってる。誰もがいつ認知症になるかわからんやん? みんな自分の身になって考えることが大切やと思う。
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クエチアピン(セロクエル®)の自律神経系への影響

2017-08-04 06:07:12 | 抗精神病薬
 様々な情報が飛び交う抗精神病薬。
 今回は、自律神経系への影響を検討した報告を紹介します。

 以下の4つの抗精神病薬を心拍変動のパワースペクトル分析により自律神経系(ANS)活性を評価;
・リスペリドン(リスパダール®)
・オランザピン(ジプレキサ®)
・アリピプラゾール(エビリファイ®)
・クエチアピン(セロクエル)

この中で、クエチアピンが他の薬剤と比較して有意に活性が低下していたとのこと。

■ 4種類の非定型抗精神病薬、自律神経系への影響を比較:横浜市大
ケアネット:2017/08/04
4種類の非定型抗精神病薬、自律神経系への影響を比較:横浜市大のイメージ
 抗精神病薬は、統合失調症患者の自律神経系(ANS)機能不全に関連するが、各非定型抗精神病薬の影響は明らかになっていない。横浜市立大学の服部 早紀氏らは、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピンの4種類の非定型抗精神病薬が、ANS活性にどのような影響を及ぼすかを調査した。Schizophrenia research誌オンライン版2017年7月12日号の報告。
 対象は、日本人統合失調症患者241例。すべての患者に非定型抗精神病薬単独療法を実施した。内訳は、リスペリドン90例、オランザピン68例、アリピプラゾール52例、クエチアピン31例。心拍変動のパワースペクトル分析によりANS活性を評価した。
 主な結果は以下のとおり。

・クエチアピン群は、リスペリドン群およびアリピプラゾール群と比較し、交感神経と副交感神経活性が有意に低下した。また、クエチアピン群は、オランザピン群と比較し、交感神経活性が有意に低下した。
・重回帰分析では、抗精神病薬の種類が、ANS活性に有意な影響を及ぼすことが示唆された。

 著者らは「今回調査した4種類の抗精神病薬の中で、クエチアピンがANS活性に最も強い影響を及ぼすことが確認された」としている。


<原著論文>
・Hattori S, et al. Schizophr Res. 2017 Jul 12.

<参考>
■ 統合失調症患者への抗精神病薬高用量投与、自律神経系への影響は:横浜市大
2017.1.18:ケアネット
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